2023年04月28日
【短編小説】『彩、凜として空、彩(かざ)る』3
⇒PART2からの続き
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<登場人物>
・水月 彩凜空(みなづき ありあ)
主人公
大企業の社長令嬢
会社の跡継ぎとして厳しく教育されるが
親友の影響でモデルになる夢を抱く
・姫川 理愛(ひめかわ りあん)
主人公の幼なじみで親友
両親に内緒でモデルを目指す主人公を支える、唯一の理解者
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【第3話. ファッションショーへの道】
それから私たちは二人三脚で、夢だったモデル活動を本格化。
地道なレッスンや、SNSでのPR活動を重ね、
1年後にはファッション雑誌の一面を飾ることができた。
小学生のとき、理愛(りあん)が見せてくれた、あの雑誌の。
理愛(りあん)
『おめでとう彩凜空(ありあ)!!』
初めての掲載が決まったとき、
彼女は自分のことのように喜んでくれた。
彩凜空(ありあ)
「本当に、ありがとう。」
「理愛(りあん)のおかげでここまで来れた。」
理愛(りあん)
『私は何もしてないよ!彩凜空(ありあ)が頑張ったから!』
『あ、ちょっと写真とか動画とか撮った(笑)』
彩凜空(ありあ)
「寒い日も、雨の日も撮ってくれたよね。それに…。」
「あの頃、私のために無理してファッション雑誌を買ってくれてたんでしょ?」
理愛(りあん)
『さぁねぇ〜、何のことやら。』
彼女はとぼけて見せたが、目は「バレたか」と言っていた。
理愛(りあん)
『私は好きなもの買ってただけ。』
『強いて言えば、あんたのキラキラした目が見たかったから!』
私は彼女の優しさに、涙を抑えられなくなった。
理愛(りあん)
『わッ!ちょっと!』
『こんなシーン、一部の読者しか望んでないってば(照)』
ふいに、私に抱きつかれた理愛(りあん)は困惑した。
彩凜空(ありあ)
「ありがと…!ありがと!!あのときも、これからも!」
理愛(りあん)
『…ま、今日くらいはいいよ。』
彼女は、ひと回り背の高い私を包み込んだ。
私が初めて掲載された雑誌は、
今も2人の部屋に、額縁に入れて飾ってある。
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私は夢を1つ叶えた。
けど、まだあるんだ。
小学生の頃、親の目を盗んで観に行った
ファッションショーに出る夢が。
私はマネージャーの理愛(りあん)や、
事務所のサポートを受け、さらに精進を重ねた。
そして1年後。
20歳になった私に、
ついにファッションショー出演の声がかかった。
オーディション当日、
ガチガチに緊張する私に社長が声をかけた。
社長
『審査員はジャガイモだと思える?』
彩凜空(ありあ)
「…思えないです…(震)」
社長
『ならヤマイモ。』
彩凜空(ありあ)
「食材変えただけじゃないですかぁ(泣)」
社長
『わりと強心臓なきみが、こんなに緊張するとは…。』
彩凜空(ありあ)
「私、ゾウリムシの心臓ですよぉ〜(泣)」
社長
『ゾウリムシには心臓ないから(苦笑)』
『…それなら…。』
彩凜空(ありあ)
「も、もうイモ類はいいです…。」
社長
『ここは学校近くの河川敷。』
『目の前にいるのは、カメラを構えた理愛(りあん)さん。どう?』
…全身の震えが、スーッと消えた。
そうだ、ここは…。
学生時代、ずっと2人で練習してきた河川敷。
やることは変わらない。
落ちたら、また河川敷からやり直せばいいだけ。
社長
『やれやれ。やっぱりこれが特効薬か。』
彩凜空(ありあ)
「えへへ、私、単純なんです。」
社長
『よくわかった(笑)』
『大丈夫な顔になったな。自信持って、行って来い!』
彩凜空(ありあ)
「はい!」
私はその勢いのまま、オーディションを突破した。
ーーーーー
ファッションショー当日。
控え室から、準備を終えたモデルさんたちが出ていった。
残りは私と、マネージャーの理愛(りあん)の2人になった。
理愛(りあん)
『私は先に行くね。』
『存分に、感慨にふけってから来なよ。』
彩凜空(ありあ)
「もう…どうしてあなたには何でもお見通しなの?(苦笑)」
理愛(りあん)
『デキるマネージャーですから!ドヤ!(笑)』
彩凜空(ありあ)
「あはは、なにそれ(笑)」
理愛(りあん)
『なーんてね。彩凜空(ありあ)は昔からわかりやすいもん。』
『…夢、叶うんだよ。かみしめて来なよ。あと、遅れないように!』
彩凜空(ありあ)
「…ありがと。遅れないよ!」
1人になった私は、あの頃に思いを巡らせた。
(私、あのモデルさんみたいになれてるかな?)
登場するだけで場の空気を一変させる、圧倒的な存在感。
すべての所作に華があり、目を奪って離さない引力。
(少しでも、あの人に近づけてるかな…?)
コンコン
控え室のドアを叩く音で、私は我に返った。
姿を見せない私を、スタッフさんが呼びにきた。
彩凜空(ありあ)
「あ…遅れてごめんなさい。いま行きます。」
慌てて集合場所へ向かった私を、
理愛(りあん)は「やっぱり」という顔で迎えた。
ーー
ランウェイでは、満員の観客から、憧れを一身に浴びた。
その憧れは、
「きれい」「美しい」「理想のスタイル」
なんて言葉では、とても言い表せない感情。
ここへたどり着いたモデルさん1人1人が重ねてきた、
血のにじむような努力が作り上げた感情。
きっと、人はそれを「オーラ」と呼ぶのだろう。
私は緊張で何も見えなくなるのが不安だった。
けど、いざ舞台へ立つと、
観客1人1人の表情が見えるくらいに落ち着いていた。
客席の隅の方に、1人の少女がいた。
目を輝かせ、頬を赤らめながら舞台を見つめていた。
(8年前の私も、あの子と同じ席から見てたっけ。)
事務所の社長は、
このときの私に一目惚れしてスカウトしてくれた。
私は舞台から客席を見て、その理由がわかった。
小学生くらいのお客さんはいないわけじゃないが、目立つ。
私はその頃から背が高かったから、目に留まりやすかったんだ。
(このショーを見たことが、あの子の人生を変えるきっかけになるのかな?)
(いずれ、あの子も、この舞台に立つのかな?)
そう思うと、何だか嬉しかった。
ーー
夢の舞台を終えて、
袖へ引っ込んだ私を理愛(りあん)が出迎えた。
今まで見たこともないくらい、目を潤ませて。
彩凜空(ありあ)
「こんなシーン、一部の読者しか望んでないけど、いいよ。」
理愛(りあん)
『あはは(笑)』
『それ、彩凜空(ありあ)が初めて雑誌に載ったときのセリフ(涙)』
彩凜空(ありあ)
「覚えてたんだ(苦笑)」
「今度は私が、受け止める方になるから。」
理愛(りあん)は私に抱きついて、泣いた。
私は、ひと回り背の低い彼女を包み込んだ。
⇒PART4へ続く
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