2023年05月27日
【短編小説】『孤独の果てに自由あり』2
⇒【第1話:”自由の歴史を見る旅”への出発】からの続き
<登場人物>
・白林 由羽璃(しらばやし ゆうり)
主人公
厳格な両親からの圧力や社会の歯車に疲れ、
自由な人生とは何かを考え始める
・リベルタス
自由を司る女神
ブラック企業で消耗する主人公に声をかけ、
自由の歴史を見る旅を持ちかける
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【第2話:中世ヨーロッパ、”選べない”という安心】
<15世紀ヨーロッパ・とある街>
靴職人の女性
『まいど!いつもありがとね!』
街の婦人
『こちらこそ、あなたの靴、最高よ。』
『また買いにくるわ。』
中世ヨーロッパに来た私は、
とある街で靴職人の女性と仲良くなった。
職人ギルドはほとんど男性だが、
彼女の技量は数少ない女性職人として認められていた。
由羽璃(ゆうり)
「お姉さんの作った靴、また売れましたね。」
「デザインも履き心地も最高ですもんね!」
靴職人の女性
『そうかい、ありがとうよ。』
由羽璃(ゆうり)
「街でも、お姉さんの作った靴を履いてる女性、多いですよね。」
靴職人の女性
『おかげさまでね。』
由羽璃(ゆうり)
「その技量はどこで身に付けたんですか?」
靴職人の女性
『お父さんの見よう見まねだよ。』
由羽璃(ゆうり)
「見よう見まね…?すごい!」
「それで靴職人の仕事を選んだんですね!」
靴職人の女性
『仕事を選ぶ?どういうことだい?』
由羽璃(ゆうり)
「え?」
彼女は心底わからないという表情を見せた。
私にとって当たり前の”仕事を選ぶ”行為に対して。
由羽璃(ゆうり)
「えっと…。」
靴職人の女性
『選ぶも何も、生まれたときから決まってるもんさ。』
『親が農家なら私も農家、靴職人なら私も靴職人だよ。』
由羽璃(ゆうり)
「仕事を選べないんですか?」
「人生の選択は、個人の自由じゃないんですか?」
靴職人の女性
『個人の自由?何だいそれ?』
ーー
私は、なんて狭い”ジョウシキ”の世界で生きていたんだろう。
この時代には”個人の自由”なんて存在しなかった。
生まれたときから、身分も仕事も役割も決まっていた。
身分を変える、転職するなんて概念はない。
由羽璃(ゆうり)
(ここには自由意思なんてないの?)
(自分の人生を選べないなんて窮屈すぎる…。)
孤独で、無力で、不自由な現代。
そこから逃れたくて600年前に来てみても、
やっぱり自由なんてないんだろうか。
だけど…。
不自由で、がんじがらめなはずの彼女は、
とても晴れやかで生き生きとしていた。
由羽璃(ゆうり)
「お姉さんはいつも、すごく嬉しそうですよね。」
靴職人の女性
『あら、突然どうしたの?』
由羽璃(ゆうり)
「何かに縛られてる感じがしないというか…。」
「窮屈な感じがしないんです。」
自由も転職の概念もない時代で、
「自由そうですね」に代わる表現を思いつかなかった。
靴職人の女性
『…あの人たちを見て。』
彼女の視線の先には、道行く婦人たちがいた。
婦人たちが履いている靴は、彼女が作ったもの。
靴職人の女性
『あの人も、あっちの人も、お得意様でね。』
『いつも来てくれて、こう言うんだよ。』
『”良い靴を作ってくれてありがとう”ってね。』
由羽璃(ゆうり)
「そういえば、さっきのお客さんも言ってましたね。」
「デザインも、履き心地も、気に入ったって。」
靴職人の女性
『私はただ、私が良いと思う靴を作ってるだけ。』
『たまにはお客さんの希望で作ることもあるけどね。』
『ほとんど私の思いつき。』
由羽璃(ゆうり)
「で、でも、靴職人から転職はできないんでしょう?」
「あ、転職っていうのは、他の仕事をするっていう意味ですッ!」
靴職人の女性
『そんなことしなくていいんだよ。』
由羽璃(ゆうり)
「え…?」
靴職人の女性
『私の靴は、この街のおしゃれに一役買ってる。』
『そう思うと、何だか力が湧いてくるんだよ。』
『他でもない私自身が必要とされてる感じがしてね。』
私は誤解していた。
確かに職業選択の自由も、人生の選択肢もないに等しい。
けど、彼らは孤独も不自由も感じていなかった。
ーーーーー
<現代>
リベルタス
『おかえりなさい。楽しかった?』
由羽璃(ゆうり)
「…楽しかったです。」
リベルタス
『何だか、すごく意外なことがあったって顔してるわね?聞かせて?』
由羽璃(ゆうり)
「意外というか、驚きました。」
「彼らには”個人の自由”という概念がありませんでした。」
リベルタス
『それはカルチャーショックが大きかったかもね。』
由羽璃(ゆうり)
「ええ、ショックでした。」
「あの時代は、現代よりずっと不自由だと思ってました。」
「けど、真逆でした。」
リベルタス
『真逆?』
由羽璃(ゆうり)
「彼らは生まれながらに、身分も職業も決まってます。」
「けど、それは”どこかに所属できている安心感”になります。」
リベルタス
『確かに、変わらない何かに所属できていれば安心ね。』
由羽璃(ゆうり)
「靴職人のお姉さんは、靴職人以外の仕事に就けません。」
「けど、自分の創意工夫で作った靴で、お客さんを喜ばせてました。」
「彼女は嬉しそうに言ってたんです。」
「”他でもない私自身が必要とされてる感じがする”って。」
リベルタス
『…そうですか。とても、良い学びを得てきましたね。』
由羽璃(ゆうり)
「私、あんなカタチの自由があるなんて知らなかった…。」
「なのに、どうして私たちは、あの自由を捨ててしまったんでしょう?!」
リベルタス
『知りたいですか?』
由羽璃(ゆうり)
「知りたいです!」
リベルタス
『わかりました。』
『では、もう少し先の時代を見てみましょうか。』
由羽璃(ゆうり)
「お願いします…!」
リベルタス
『では、いってらっしゃい。自由が生まれる時代へ。』
⇒【第3話:宗教改革の波、崩れる”絶対的な所属先”】へ続く
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