2023年05月06日
【短編小説】『人形の翼が折れた日』2 -最終話-
⇒【第1話:人間を疎み、人形を愛でる】からの続き
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<登場人物>
・香坂 凜生葉(こうさか りいは)
双子の姉
意志が強く、自分で決めたことを曲げない
過干渉な母と衝突し、遠方へ進学就職、実家と疎遠になる
・香坂 優羽葉(こうさか ゆうは)
双子の妹
姉と正反対で、おとなしく、人との衝突が苦手
過干渉な母に逆らえず、実家では人形のように支配される
・香坂 千映実(こうさか ちえみ)
双子姉妹の母親
自分に従順な優羽葉をかわいがり、
懐かない凜生葉を疎ましく思っている
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【第2話:人形は旅立ち、人間は償う】
ある日、私は久しぶりに浮かれていた。
千映実
「今日はとても良い条件の求人情報が手に入ったわ。」
「これなら気に入って、すぐ働きたいと言うはず!」
「早く愛する優羽葉に見せてあげなきゃ!」
私はうきうきしながら、
優羽葉の部屋のドアをノックした。
返事がない。
千映実
「優羽葉?まだ寝ているの?」
何度ノックしても反応がない。
千映実
「仕方ないお寝坊さんね。」
「机の上にパンフレットを置いておきましょう。」
私が部屋に入ると、
優羽葉は青白い顔で床に倒れていた。
千映実
「優羽葉?!どうしたの?!」
私はすぐに駆け寄り、
優羽葉を抱き起こしたけど、
もう、冷たくなっていた…。
部屋の隅には、
空の小ビンがいくつも転がっていた。
その周りには説明書のような紙切れと、
飲み残しの錠剤が散らばっていた。
私はふと、あの日のことを思い出した。
珍しく、優羽葉宛のWeb注文品が届いた日のことを。
まさかその中身が、大量の睡眠薬だなんて…。
ーー
ほどなくして、優羽葉の遺書が見つかった。
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私はもう飛べません。
お姉ちゃんみたいに強く生きられません。
お母さんの期待に応えられません。
不出来な娘でごめんなさい。
最期にこんなこと言いたくなかったけど、
今生のお別れだから言わせてください。
私は、私の翼を折り続けたお母さんを
許すつもりはありません。
お母さんは、
私を奮い立たせようとしてくれました。
それはわかっていました。
けど、私には重すぎて、
飛び立つことができませんでした。
私は一足先に行きます。
翼がなくても飛べる世界へ。
お待ちしています、オカアサン…。
香坂 優羽葉
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優羽葉の葬儀の日。
遠方から駆けつけた凜生葉は、
私に軽蔑の眼を向けて叫んだ。
凜生葉
『優羽葉を殺したのはお母さんだ!!』
『私はお母さんを一生許さない!』
『私を追い出したのは、支配できなかったからでしょ?!』
『優羽葉を追い詰めたのは、自分の評価が落ちるのが怖かったからでしょ?!』
『ぜんぶ、ぜんぶ、自分のため!!』
『私、知っているんだから!』
『あんたは私も優羽葉も愛していなかった…!』
『あんたにとって、私たちはあんたの人生を慰める人形だったんでしょ?!!』
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凜生葉は大学卒業後、
どうしているのかわからない。
私が連絡をブロックしたから?
いいえ、それはもう解除した。
凜生葉が、私の連絡をブロックしているから…。
優羽葉の葬儀の日、
私は凜生葉に何も言い返せなかった。
千映実
「ええ、その通りよ。」
「私は反抗的な凜生葉のことなんて愛していない。」
「けど優羽葉のことは愛していたの。」
せめてそう言い返したかった。
私自身、そう”思い込んでいた”から。
だけど、
凜生葉は私のそんな気持ちをウソだと見抜いた。
私は、優羽葉のことさえ愛していなかった。
最初から、自分の見栄しか考えていなかった…。
「凜生葉は思い通りにならないから可愛いくない。」
「優羽葉は人形のように従順だから可愛い。」
私はそうやって、
”支配できる誰か”を手元に置きたがっていただけ。
千映実
「娘を殺したのは…この私……。」
我が子を”2人とも”失ってから目が醒めても、
手遅れだった。
私は一生、
娘を愛していなかった事実から逃れられないだろう。
私はこれから一生かけて、
娘の翼を折った罪を償うことになるだろう…。
ーーーーーENDーーーーー
⇒本作の続編
【短編小説】『片翼の人形が救われた日』全4話
⇒参考書籍
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