2017年04月29日
脳死患者の意識回復も夢ではない? 脳の覚醒スイッチが見つかった
連日連夜の試験勉強やついウトウトしてしまう会議、そんな困った眠気を一瞬で冷ます特効薬も夢ではない。
スイス・ベルンの研究者が、脳を覚醒させる神経回路を発見したのだ。この神経回路を刺激すると、睡眠中や麻酔中の動物は目を覚まし意識を取り戻し、逆に、この神経回路を抑制すると眠りにつくという。
この発見により、不眠症の治療のみならず、脳死患者の意識回復も実現できる可能性がある。
□いま最もホットなテクノロジー 光で脳をコントロール
最先端のテクノロジーでは、光によって細胞活動をコントロールすることができる。
これは、「オプトジェネティクス(光遺伝学)」と呼ばれ、ある特定周波数の光に当たると活動する細胞を作り出すことができる。
この技術を脳細胞で応用すると、光によって、ある特定の脳部位だけを活動させたり、逆に活動を抑えたりすることが容易にできるのだ。
言ってみれば、脳スイッチのオン・オフを光でコントロールできる技術で、ノーベル賞候補にもなっているなど、いま最もホットなテクノロジーの一つである。
□睡眠・覚醒のスイッチはどこにある?
ベルンの研究者は、オプトジェネティクスの技術を使って、マウスの脳にある視床と視床下部をつなぐ神経回路活性化に成功した。
研究では、視床と視床下部をつなぐ神経回路を活動させると睡眠中や麻酔中のマウスが意識を取り戻したという。逆に、この神経回路の活動を抑えたときマウスは眠りについたというから、まさにこの神経回路こそ睡眠と覚醒の脳スイッチだと言っていいだろう。
脳の多くの情報は視床を通過する。そして、視床から視床下部に指令が送られ、全身の臓器をコントロールするさまざまなホルモンが分泌される。つまり、今回発見された睡眠と覚醒の脳スイッチは脳と体をつなぐ「中継地点」にあったのだ。
□睡眠・覚醒のスイッチを刺激することで脳死患者がよみがえる!?
視床と視床下部をつなぐ神経回路が、なぜ脳の覚醒状態を保つのに重要かは分からない。しかし、その部位が発見された意味は大きい。
例えば、不眠症の人はこのスイッチが常にオンの状態になっていることも考えられ、このスイッチを切ってあげることで、良質な睡眠が得られるようになるかもしれない。
また、もしかすると、脳死状態の人に対してこのスイッチをオンにした場合、意識を取り戻すことも可能になるかもしれない。そうなれば、今までの医学の定説が覆ることにもなるだろう。もちろん、これらはまだまだ現実的な話ではないが、可能性はゼロではない。
睡眠障害はさまざま病気の引き金になるため、睡眠治療のターゲットとなり得る神経回路が発見されたことの意義はとても大きい。また、今回の研究結果は「意識とは何か?」という脳科学最大の謎を解き明かすヒントにもなるだろう。