くらしの情報屋

私たちは「一個の人間」に違いない。しかし、実際には人間の体はそうシンプルではない。実のところ、人間は多くの生物の融合体なのである。100%正しい、と信じられがちな遺伝子検査でも、体の中の部位によって、遺伝子がまったく別の個体であったりするケースがまれにあるのだ。


□自分が生んだ子どもなのに遺伝子検査で「別人の子」?
米国では、確かに自分（母親）が生んだ子どもなのに、遺伝子検査でまったく別人の子どもとして結果が出てしまい、誘拐嫌疑をかけられた人がいたという。よくよく調べたら過去、母親の甲状腺にできたデキモノと我が子の遺伝子が一致したが、他のどの部位の細胞サンプルとも一致しない、というにわかには信じがたいことも起こったそうだ。


□自分の中に別人の臓器が育つ?　伝説ではなくなったキマイラ
ライオンの頭、ヤギの胴、ヘビの尾を持つというギリシャ神話の怪物キマイラ。異なる生物が融合してできた生物だが、今やこれは決して神話やSFではなくなっている。

人工的に異なる生物を融合させて一つの生物を作り出すことは、現代遺伝子工学の技術を使えばさほど難しくはない。さらに、動物の体の中で人間の臓器を育てることも可能で、将来的には移植用に実用化されるかもしれない。

しかし、これからするのはもっと現実的かつ日常的な話だ。私たちの体の一部が別の生物から成っていることは誰にでもあり得ることであるし、体の中に別人の血液や臓器がひそかに息づいていることもあるのだ。

□確かに自分の子どもなのに、別人の子?
冒頭で紹介したアメリカでの一件に話を戻そう。

もし、「確かに」その母親が自分で生んだ子どもなのに、遺伝子的には別人の子どもだとしたら、どんなに奇妙なことだろうか。つまり、その母親から生まれてきた子どもとその父親はDNAで親子関係が証明されるのに、その母親と子どものDNAは一致しないのだ。あなた自身が生んだのは紛れもない事実なのに、である。

世の中で明らかになった例としてはまださほど多くはないが、実際に当たり前のごとく起こり得る話なのだ。決してフィクションなどではない。

つまり、あなたの体の中には誰かまったく別人のDNAを持つ個体が存在する可能性が大いにあり、DNA親子鑑定が100％正しいとはいえない理由なのである。

□遺伝子の中の他者 あなたの体は「融合体」
あなたの中の別人の正体を明らかにする前に、一つお伝えしておきたい事実がある。そもそもあなたの体は「融合体」だということだ。

あなたの遺伝子の半分は父親から、そしてもう半分は母親から受け継いでいる。そう考えていくと、あなたの中には祖先全員から脈々と受け継いだ遺伝子があることになる。

それだけではない。ヒトは「進化」の課程でバクテリアを体に取り込み、自らの組織の一部としてきたのだ。細胞内でエネルギーを作り出すミトコンドリアがそれである。

□あなたのその「意志」は本当に「あなた」のもの？
皮膚や腸内には数百兆個ともいわれる細菌が住み着いていて、私たちの健康は彼ら抜きには語れない。私たちは自らの健康を彼らに依存しているともいえる。

さらに、腸内細菌が作り出す物質は脳の神経伝達物質としてはたらき、精神に影響を与える可能性もある。科学者の中には、私たちが食べたいと思うものも、実は腸内細菌が欲している食べ物だと考える者さえいるのだ。

確かに、50−60兆個ほどの細胞で構成されるヒトの体において、腸内細菌は500-1000兆個もいるとされている。私たち“人間”は「少数派」だ。私たちの存在意義は彼らの住処となることだけだと言われても、あながち否定できない。

さらに、自殺のリスクは寄生虫感染が関係しているという報告もある。そうなってくると、私たちの「意思」は本当に私たち自身の「意思」なのか、それすら疑わしくなってくる。

□あなたの中にいるかもしれない別人の正体は何？
では、あなたの体の中にもいるかもしれない別人の正体は誰なのだろうか？ その答えは、あなたがまだ母親のおなかの中にいたころにさかのぼる。

もしかしたら、元々あなたは二卵性双生児の片割れだったかもしれない。それがおなかの中で一つになり、1人の人間として生まれたとする。その場合、本来は双子の兄弟として生まれてくるはずだった相方は、あなたの体内で別人として生き続ける。これこそがキメラ（異なる個体の細胞を合成して作り上げられた生物・キマイラから由来）なのだ。

1人の人間の中に2人の異なる人間が混在するのだ。そして、子宮や卵巣が相方のものであれば、あなたから生まれてきた子どもは、あなたではなくあなたの相方の遺伝子を受け継ぐ子どもとなる。別人の正体は、あなたの中にいる兄弟なのかもしれない。

もしかしたら、あなた自身もキメラかもしれないが、その真相を知る手段は少ない。そして、もしあなたの脳の一部分が相方のものであったなら、あなたの意思は生まれてくるはずだった兄弟にコントロールされているにすぎないのかもしれない。