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2018年11月25日
売られたヤーグル(十一月廿日)
何気なくテレテキストの記事を読んでいたら、チェコの産んだアイスホッケーのスーパースター、ヤロミール・ヤーグルが、2022年に北京で行なわれる冬季オリンピックのアイスホッケー競技の顔になることが決まったという記事が出てきた。オリンピックのアイスホッケーの顔なんて立場が存在したなんて知らなかった。アイスホッケーがあまり盛んではない中国だから、盛り上げるため、もしくはチーム強化のために必要だという事情があるのかもしれない。そうなると、国外よりは中国国内に向けたアイスホッケーの顔ということになる。
では、どうしてヤーグルだったのだろうか。チェコという枠内であれば、ヤーグルが選ばれるのは何の不思議もない。長野オリンピックの英雄ということで言えば、もう一人ドミニク・ハシェクの名前も挙がるけれども、引退してすでに久しく、そのネームバリューはチェコ以外ではヤーグルと比較できるものではあるまい。ヤーグル自身は、NHLでの契約を終えてチェコに戻って、現在怪我の治療中で、怪我が治れば自らがオーナーを務めるクラドノのチームで出場する予定らしい。中国のためにアイスホッケーの顔を勤めやすい立場にいると言えば言える。
しかし、世界に目を広げてみれば、ヤーグルと同程度に高く評価されているアイスホッケー選手は他にもいるだろう。世界最高のNHLの存在を考えれば、アメリカやカナダの選手、元選手から選んでもいいだろうし、最近のアメリカとの対立を考えれば、政治的、軍事的に接近しつつあるロシアからアイスホッケーの顔を選んでもよかったはずである。こんなことを考え合わせると、ヤーグルが選ばれた裏には、やはり近年のチェコと中国の密接な関係があるのだろう。
これは世界的な傾向だが、中国における人権侵害やら、少数民族の弾圧やらを批判する個人や団体は存在しても、国家としてとなると、経済関係を優先して、そんな問題はなかったことにするか、形式的に批判する振りをするだけに留めることが多い。何かと人権問題にうるさいEUに対しては、それでいいのかといいたくなるのだが、チェコはEUの中でも特にその傾向が強く、この前ダライラマがチェコにやってきたときも、首相を含む何人かの閣僚が中国政府に対して弁解というか、いいわけのコメントを出していたぐらいである。
そんなチェコを中国も組みやすしとみたのか、EU内における中国の重要な投資拠点として位置づけているようである。その結果、中国からチェコへの投資が進み、さまざまなものが中国資本に買収されている。中国以前には日本、韓国からの投資が盛んだったのだが、当時の日本、韓国よりも、中国からの投資ははるかに優遇されているような印象を受ける。これは巨大で今後も成長していくことが期待される中国市場へのチェコ企業の進出を見越してのことだだろうか。ゼマン大統領も就任以来何度もお供を連れて訪中しているようである。
チェコで中国資本に買収されてしまったものというと、真っ先に思い浮かぶのがチェコサッカー第二のチームであるスラビア・プラハとその本拠地のエデンのスタジアムである。イギリス資本に買収され、約束された資金の投入もなく長らく低迷していたスラビアが、やっとチェコ人オーナーの手に戻ってきたと思ったら10年ほどで今度は中国資本に買収されたのである。いかに当時無駄遣いの果ての資金難にあえいでいたとはいえ、スラビアファンとしては歓迎できることだったのだろうか。
個人的には、ビール会社のチェルナー・ホラがロプコビツの傘下に入って、そのまま中国資本に買収されたのがショックだった。中国でチェルナー・ホラのライセンス生産とか始まってしまったら最悪である。このグループのメインのブランドは貴族家の名前を冠したロプコビツだから、ライセンス生産をするならまずそれだと思うけど、グループ内のクラーシュテルというビール会社が韓国に工場を建てたという話もあるし、ないとは言い切れないのである。
スポーツの世界に目を向けると、金に飽かせて有名選手をかき集めている中国のサッカーリーグに渡ったチェコ人選手はあまりいない。名前が売れていないからだろうか。現在アメリカでプレーするドチカルが一時中国の一部リーグのチームにいてほとんど活躍できないまま移籍してしまったぐらいだろうか。しかし、引退した元選手にまで目を向けると、大物がいるのである。
何年か前のゼマン大統領の訪中に、なぜかパベル・ネドビェドが同行していたのだが、そこで中国サッカーのアドバイザーみたいな肩書きをもらっていた。もちろんゼマン大統領だけではなく、中国市場を重視するユベントスの意向もあったのだろうが、ゼマン大統領が中国まで業生に出かけてネドビェドを売りつけて帰ってきたような印象を拭うことができなかった。
そうなのだ。今回のヤーグルの件も、ゼマン大統領が、というよりは、中国資本の力を背景にスラビアのオーナーを務めているトブルディーク氏が中国に売りつけたような印象を持ってしまった。いや売りつけたというよりは、献上して見返りに中国からの更なる投資を求めたと考えると、かつて中国の王朝が属国との間で行なっていた朝貢貿易の再来のような感じさえしてしまう。最近の中国の振る舞いを見ているとそんな印象を受けるのも仕方がなかろう。何せ、ドイツでさえ中国に媚を売っているのだから。
さて、売られたヤーグル、品行方正なイメージのあるネドビェドと違って、結構気難しそうなイメージがあるのだけど、中国やトブルディークが求めるように大人しくアイスホッケーの顔を務めるのだろうか。ヤーグルと中国は相性がいいなんて意外なことになるかもしれないけど。
2018年11月21日9時30分。
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2018年11月24日
チェコ―スロバキア(十一月十九日)
いまいちその開催意義が理解できないサッカーのネイションズ・リーグも最終節を迎え、チェコ代表はプラハでスロバキアと対戦した。チェコとスロバキアが入っているグループでは、すでにウクライナの優勝が決まっており、この試合にかかっているのはどちらが2位、いや3位になって、よくわからないけど下のカテゴリーに降格するかということらしい。それがヨーロッパ選手権の予選にもかかわるというのだが、説明されてもよくわからんかった。
試合前の状況を簡単にまとめておくと、ウクライナ、チェコと二連敗を喫したスロバキア代表は、一部の選手たちの振る舞いに怒った監督が辞任してしまった。その後任に選ばれたのは、今年の夏にスパルタの監督を解任されたばかりのハパルだった。チェコ人監督がスロバキア代表の監督に就任したのである。チェコとスロバキアの関係から言うと、リーグでもチェコ人がスロバキアで、スロバキア人がチェコでというのはよくある話なので、よその国から外国人監督を連れてくるほどの大きな意味はなさそうである。
ハパル自身が、今年の春に、ストラマッチョーニ解任の後を受けて、スパルタに監督として招聘されるまでは、スロバキアのU21代表の監督を務め、チームをヨーロッパ選手権出場に導くなど結果を残していたのだ。もちろん、U21の監督に選ばれたのは、チェコだけでなく、スロバキアのチームでも監督として結果を出して手腕が高く評価されたからである。
そのスロバキア代表は、チェコ代表と試合をする前に、トルナバでウクライナと対戦している。この試合は、監督交代の効果があったのか、スロバキアが4−1で快勝した。大活躍をしたのが、4点中3点にからんだルスナークなのだけど、この選手の名前は聞いたこともない。恐らく最近増えている若くしてチェコ以外の国外チームに移籍してそこで育った選手の一人なのだろう。こういう10台で国外に買われていった選手がちゃんと育ちつつあるところがスロバキア代表の強さ、選手たちの質の高さにつながっているらしい。チェコは若くしての移籍は失敗ばかりでほとんど戦力になっていない。
この試合の結果、チェコとスロバキアは、勝ち点3で並び、暫定の順位では得失点差で、スロバキアが2位に順位を上げた。ただ最終的に亜順位は得失点差ではなく、直接対決の結果できまるので、チェコは引き分けでも2位が確保でき、スロバキアは2位になるためには勝つしかないというのが、試合前のグループの状況だった。
一方チェコ代表は、シルハビーが監督に就任して、初戦のスロバキアとの試合に勝利し、ウクライナには負けたものの、チェコで行なわれた最初の試合に比べれば内容がはるかに改善されていて、チームがいいほうに回転し始めていた。スロバキア戦の前には、ポーランドと親善試合を行なっているが、この二試合のための代表に、怪我で欠場が続いていたダリダが復帰したのも大きい。怪我で今シーズンは絶望とされるクルメンチークの代役としては、こちらも怪我から復帰したばかりのヤブロネツのドレジャルが召集されている。
ドレジャルは実はオロモウツで育った選手で、活躍が認められて近々代表に呼ばれてもおかしくないといわれ始めた頃にヤブロネツに移籍した。当時の協会会長でヤブロネツのオーナーのペルタ氏から、代表に呼ぶという約束をえたのが移籍の決め手だったんじゃないかという憶測が流れたのも覚えている。とまれ、オロモウツ出身者なので、期待もし応援もしているのだけど、なかなかタイミングが合わず、意外なことにこれが初めての代表召集だという。ヤブロネツに行ってからは、オロモウツでの最後の時期ほどゴールを決められていなかったからなあ。
ポーランドとの試合は、グダンスクで行なわれ、チェコが後半の初めのヤンクトの得点を守って勝利した。キーパーのパブレンカは、ドイツリーグでは必ずレバンドフスキに得点を決められていて、初めてレバンドフスキにゴールされなかったことを喜んでいた。グループステージが敗退したとはいえ、今年のワールドカップ出場国を0点に抑えて勝てたのは、ディフェンスが全く機能していなかったヤロリーム時代と比べると雲泥の差である。
そんなチェコ代表も、スロバキア代表も、監督交代が奏功して状態が上向きの中で迎えた、元連邦対決だったのだが、開始当初はスロバキアが一方的に押し込む展開だった。チェコの選手たちほとんどボールを持たせてもらえず、これは厳しいかなと思っていたのだけど、しっかり守って耐えているうちにスロバキアの選手たちに焦りからかミスが見られるようになり、30分ぐらいだっただろうか、スロバキアのディフェンスのミスをついて、シクが見事なゴールを決めた。
前半のうちにチェコがリードして、スロバキアはグループ2位になるために2点取らなければならなくなったから、攻撃に力を入れて開始早々の時間帯と同じように防戦一方の展開に追い込まれるかと心配していたのだけど、スロバキアの選手たちのミス連発は改善されることなく、チェコが一点を守り切った。チェコの選手たちも、相手のミスに付け込んで、さあカウンターというところでミスを連発して、なかなかチャンスも作れず、追加点は遠かったけど、まあ勝ったからいいや。
チェコと、スロバキアと、ウクライナの3チームの中で、個々の選手の力で見たら、スロバキアが一番上でチェコが一番下だったのではないかと思う。ヤロリーム時代のチェコはチームになっていないと批判されていたけれども、スロバキアのチームにも、監督が代わってからも同じような問題を感じる。控えに回されて最後まで出番のなかったバイスが試合終了前に退席してしまったなんて話もあるし、就任直後の試合には勝ったとはいえハパル監督も前途多難である。
それにしても、シクがうまくなっていてびっくりした。チェコにいたときから長身のわりにうまい選手だとは思っていたけど、イタリアに行って一段も二段も技術的にレベルが上がった感じである。イタリアにいて移籍当初だけ活躍してあとは尻すぼみというチェコの選手が多い中、例外的な成長を見せていて今後が楽しみである。ASローマでは、ジェコの陰に隠れて出番が少ないのだけど、イングランドのチームへの移籍がうさわされているのも納得の出来だった。
来年の春の次の代表の試合でも、今回の出来が継続されることを楽しみにしている。久しぶりにサッカーのチェコ代表に期待ができる時期がやってきたと考えていいのかな。シルハビーってブリュックネル時代はコーチだったというしさ。
2018年11月20日19時25分。
2018年11月23日
人称代名詞の格変化三人称(十一月十八日)
チェコ語の人称代名詞の三人称は、人称と言いながら、人だけではなく、人以外の生き物、それに生きていない物も指すことができる。だから、男性形と女性形の区別だけではなく、中性形も存在するし、男性名詞を受ける場合には、活動体なのか不活動体なのかで、違う部分が多少出てくる。教科書では省スペースのためにまとめて表示されることが多いが、ここは個別に行こう。
まずは男性を示す場合。単数1格は「on」、つまり男性名詞に特徴的な子音で終わる形である。
1 on
2 jeho / ho / jej
3 jemu / mu
4 jeho / ho / jej
5 on
6 něm
7 jím
2格、3格、4格に2つ以上の形が出てくるのは、一人称、二人称の場合と同様。ただし、2格、4格には3つの形が出てくる。また、三人称の人称代名詞は、前置詞に接続する場合には語頭に「n」を追加するので、常に前置詞とともに使われる6格は、「něm」と他の格と違って「n」で始まる形になっている。
まず気づくべきは、原則として形容詞硬変化の格変化に似ているということである。1格、5格を除くと、活用語尾は「-eho」「-emu」「-eho」「-ěm」「-ím」となり、「-ého」「-ému」「-ého」「-ém」「-ým」となる形容詞の語尾を短母音に替えたものとほぼ同じである。一見違っている6格も、「jem」の前に前置詞につくときの「n」がついた形「njem」が「něm」と表記されているだけだから、これも形容詞の語尾を短母音化したものだと考えられる。例外は7格で長母音のままである。「-ým」になっていないのは、チェコ語のルールで「j」の後には「y」が使えないからである。ここも短母音化していれば、覚えるのが楽だったのだけどね。
2格の三つのうち、「ho」は、前置詞なしで文の中の二番目の位置に置くときに使う形。「jeho」は強調で語順を変えるときか、前置詞とともに使う場合の形。「jej」は前置詞とともに使うことが多い形で、単独で使うと古さを感じさせる文語的表現である。前置詞とともに使った場合は、それぞれ「něho」「něj」となる。個人的には、二人称の場合と同じで、ここも短い形の「ho」を使うのが苦手で、「jeho」で代用してしまう。「jej」、もしくは「něj」は使ったことがない。
3格の使い分けは、一人称、二人称単数の場合と同じ。「mu」が特に強調の必要もなく、文の二番目の位置で使うときの形で、「jemu」は強調のために語順を変えるとき、前置詞とともに使う場合には「němu」となる。ここは問題なく使い分けられる。
4格で三つの形をすべて使えるのは、男性名詞の活動体を指す場合だけで、その場合の使い分けは、2格と共通である。問題は前置詞と組み合わせた場合に、「něho」にするか、「něj」にするかなのだけど、「něho」を使ってしまうことが多い。
同じ4格でも不活動体には「jeho」は使えず、「ho」と「jej」しかない。前置詞とともに使う場合には「něj」を使うが、強調で語順を変えるときには、「jej」は文語的に過ぎるから「ho」を使うのかなあ。物を指す不活動体を人称代名詞で指すこと自体が苦手なので、どちらもちゃんと使えているとはいいがたい。
6格、7格には特にコメントすべきこともないので、ちょっと特殊な女性は後回しにして、中性をさす場合の格変化を示す。
1 ono
2 jeho / ho / jej
3 jemu / mu
4 je / ho / jej
5 ono
6 něm
7 jím
1格は中性名詞に特徴的な語尾の「o」をつけて「ono」。5格も1格と同じだが、それ以外は男性名詞の不活動体を指すときと同じ格変化だと思っていい。4格に登場する「je」は非常に文語的で覚える必要はないし。男性名詞不活動体と同じで、中性名詞を人称代名詞で示すこと自体が苦手なので、格変化は覚えていてもうまく使えない。中性名詞でも、人間や動物の子供という生きているものを指す言葉もあるから、そういうのに対しては人称代名詞を使えてもいいとは思うのだけど。
ということでちょっと特殊な女性を指すときである。単数一格は「ona」。これも女性名詞に特徴的な語尾である。
1 ona
2 jí
3 jí
4 ji
5 ona
6 ní
7 jí
1格と5格を除けば、形容詞軟変化の女性単数と同じと言いたいのだが、4格が違う。4格だけ語尾が短母音になっている理由はわからない。
続いて三人称複数の変化だが、1格と5格以外は共通である。1格は、男性名詞活動体、不活動体、女性名詞、中性名詞、それぞれをさす場合、順番に「oni」「ony」「ony」「ona」となる。単数の際と同様、名詞の複数1格に特徴的は語尾が採用されている。
2 jich
3 jim
4 je
6 nich
7 jimi
この5つの格は形容詞軟変化の複数形の活用とほぼ同じである。2格、3格、6格は、活用語尾の長母音を短母音に変えただけだし、7格にいたっては長母音のままである。他が短くなっても7格だけは長いままと覚えておくといいだろう。例外は4格で、硬変化の男性不活動体、もしくは女性名詞につくときの語尾を短母音にしたものになる。
だから、全体をまとめると人称代名詞三人称の格変化は、形容詞の格変化の1バリエーションだと理解しておけばいい。ただし、硬変化と軟変化が混ざっている上に、語尾の長母音が短くなったりならなかったりするので、その変わる部分をしっかり覚える必要がある。
また、前置詞をつけると、語頭に「n」がついて、「j」が消え、「ni」や「ně」になるのに気をつけなければならない。同じ「j」で始まるけれども、人称代名詞からできた所有を表す言葉「jeho」「její」などは、前置詞を使っても「n」をつける必要はないから厄介である。慣れればほぼ自動的にできるようになるのだけど、慣れるまでが大変というのは、他のチェコ語の文法事項と同様である。
しばしば、慣れるまでが大変とか、慣れれば簡単とかいう表現を使うけれども、習うより慣れろでとにかく使えと言っているのではない。文法事項は、何度も繰り返し書いて覚えた上で使い、繰り返し使って慣れることが大切である。最初の覚えるという過程を省略すると、自分の間違いに慣れてしまって、いつまでたっても正しい言葉が使えない中途半端な学習者になってしまう。うっ、これは自己批判でもあるなあ。習うより慣れろでいい加減な覚えかたしてろくに使えない言葉、たくさんあるし。とまれ、チェコ語を勉強している方が、これを反面教師にして勉強を進めていってくれると著者としてこれ以上の喜びはない。ちょっと本のあとがきっぽくまとめてみた。
2018年11月19日22時55分。
2018年11月22日
人称代名詞の格変化二人称(十一月十七日)
人称代名詞の二人称単数の形は「ty」で、一人称とは違って格変化させても語頭の音は「t」で変化しない。これは所有を表す形にした場合も同様である。
1 ty
2 tebe / tě
3 tobě / ti
4 tebe / tě
5 ty
6 tobě
7 tebou
一見、一人称単数の格変化とは大きく違うように感じられるかもしれないが、よく見ると共通性は高い。2格と4格、3格と6格が共通であるという点では、男性名詞活動体の格変化を踏襲しているし、7格が「ou」で終わるのも同じである。それから、二つの形のある2格、3格、4格の語尾が、順に「e / ě」「ě / i」「e / ě」となるのも一人称の格変化と共通している。問題は一人称単数と違って、最初の音節が「to」になったり、「te」になったりすることで、慣れるまでは混乱することがある。
2格、3格、4格における2音節の長い形と、1音節の短い形のある短い形の使い分けは、原則として一人称単数の3格と同じなのだが、2格の「tě」はあんまり使わない気がすると書いたら、テレビから、「スター・ダンス」の司会者が「Ptám se tě」と言うのが聞こえてきた。一般的に使われないのではなくて、自分自身が使わない、いや使えないのだった。「Mohl bych se tebe zeptat?」とか、「Bojím se tebe」とか言ってしまうのだけど、間違いなのかなあ。間違いだと指摘されたことはないから、許容範囲内だと思いたい。
日本人学習者が気をつけるべきことは、3格の「ti」の発音だろうか。チェコ語関係者が大声で「ti」の発音は「ティ」ではなく、「チ」だと喧伝しすぎたせいで、完全に「チ」、つまりチェコ語の「či」で発音してしまう人が多い。この言葉の発音が「ティ」ではないのはたしかだが、「チ」もないのだ。長い言葉の一部ならともかく、一音節の言葉なので発音が違うことに気づかれやすい。「ti」の発音が苦手で発音の間違いを指摘されたくない人は、ティカットは避けて、二人称単数に複数形を使う丁寧なビカットを使うしかない。「V」の音も問題ではあるのだけど、「ti」よりは身につけやすい。
あっ、チェコ人と知り合いになって、ティカットしようと言われたときに、「ty」の格変化を覚えていないからとか、発音が苦手だからと言って断るのも面白いかもしれない。最初に師匠に言われたときにそう言って断っていればよかったのか。ティカットしようと言われてからも、先生だからという意識が強くて、ついついビカットをしてしまっていたのだよなあ。あれも実は、人称代名詞の二人称単数の格変化を覚えきれていなかったのが原因だったのかもしれない。今はもうほぼ問題なく使えるけどね。
変化だけでなく発音も厄介な単数とは違って、二人称複数の格変化は簡単である。ことに普通は一人称を覚えてから二人称を勉強すると考えると、こんなに楽でいいのかと言いたくなるぐらい簡単である。
1 vy
2 vás
3 vám
4 vás
5 vy
6 vás
7 vámi
ご覧の通り、一人称複数の「n」を「v」に変えてやるだけで完成である。だから、二人称単数でも複数を使って丁寧にはなす方が簡単なのである。最近ティカットする相手を増やしていないのは、これも原因のひとつかもしれない。自分からティカットしようねと申し出るやり方がいまいちよくわからないからというのもあるんだけど。
この二人称複数の変化形に関しては、特に丁寧さを表すために単数の代わりに使う場合に覚えておいたほうがいいことが一つある。それは手紙やメールを書く場合に、語頭の「v」を大文字で書くということである。これも敬意を表すための表現だと思うのだけど、所有を表す「váš」とその派生形は、人称代名詞ではないからか適用されない。わざわざ書くのは、何度も間違えたことがあるからに決まっている。
二人称は書くことが少ないからこれでお仕舞い。
2018年11月17日23時55分。
2018年11月21日
人称代名詞の格変化一人称(十一月十六日)
最近調子にのって仮定法の使い方とか書いてしまったけれども、よく考えてみたら、その前に人称代名詞や数詞など片付けておくべきことがいくつもあるのだった。人称代名詞は、これまでほとんど説明もせずに例文なんかに使ってきたし、問題ないのかもしれないが、自分の復習もかねて、まとめておくことにする。いちいち言い訳をしないと始まらないのは、最近のよくない傾向だなあ。
チェコ語の一人称単数の人称代名詞は「já」で、複数は「my」である。単数の格変化を示すと以下のようになる。
1 já
2 mne / mě
3 mně / mi
4 mne / mě
5 já
6 mně
7 mnou
不思議なのは、格変化をさせると語幹に「m」が出てくることで、これは所有を表す「můj」の場合も同様なのだが、「m」は一格が「my」である複数にこそふさわしいのではないかと、ついつい論理的に考えてしまうのだけど、こんなところに意味や論理を求めても意味がないのが語学というものである。「my」を格変化させたり、所有を表す形にするとちょっと、文字が短くなって語頭に「n」が登場する。
「já」の格変化は、一見してわかるように、1格と同じ5格、7格以外では、必ず「mě」「mně」という表記は違うけれども発音は同じという形が出てくるから、書くときはともかくしゃべるときには、とりあえず「ムニェ」と言っておけばほとんど問題はない。いや、ちょっとはあるけど。
2格は「mě」「mne」という二つの形がある。書いてしまえば「mě」のほうが短いけれども、発音する場合の長さは同じである。だから、二格を取る、動詞「zeptat se」「bát se」などと組み合わせる場合にも、前置詞「od」「bez」などと組み合わせる場合でも、どちらを使っても問題ない。ただ、誰かが「mne」を使うのを聞くと、おっと思ってしまうから、一般的には「mě」が使われるといってもよさそうである。個人的には「mne」はちょっと堅苦しい印象を与えると理解しているので、ここぞというときにしか使わないようにしている。
2格に関しては、普通の名詞の2格とは違って、所有を表すことはできないことは覚えておかなければならない。人を表す名詞の多くは、2格で名詞の後ろからかけるという方法と、名詞から所有を表す形容詞的な言葉を作って名詞の前からかけるという二つの方法で、所有を表すことができるのだが、人称代名詞は後者の方法しか使えない。その所有を表す形が「můj」で、形容詞と同様に後にくる名詞の性、数によって格変化させなければならない。
3格は「mi」と「mně」だが、この二つには明確な使い分けがある。本来の三格、動詞と結びついて「私に」という意味で(日本語に訳すと変わってしまうものも多いけど)使う場合には、原則として「mi」を使い、文の中で二番目の位置に置かなければならない。「mně」を使うのは、強調のために文頭に出すような場合だけである。「それちょうだい」は強調前と後で次のように変わる。
Dej mi to. → Mně to dej.
それから前置詞を付ける場合にも、「mně」を使わなければならない。3格をとる前置詞で私と一緒に使いそうなものといえば、「k」「kvůli」などがよく使われる。また三格の「ムニェ」を書くときには、この発音の一般的な表記である「mě」ではなく、「mně」と書くことに注意しなければならない。「mě」では2格か4格になってしまう。
4格は二つの形も、その使い分けの必要がない点でも2格と同じである。つまり、人称代名詞「já」の格変化は、男性名詞活動体の格変化に準ずるのである。かつて、1匹の蚊と100人の女性を合わせて主語にすると動詞は男性複数形になると言ってチェコ語を男尊女卑的な言葉だと主張したアメリカ人のチェコ語学者のことをちょっと紹介したが、この人称代名詞の単数の格変化もチェコ語が男性形を元にした言葉だという証拠になるかもしれない。
5格は、一応1格と同じということになっているけれども、自分で自分に呼びかけるという状況があまり思いつかない。二人称ならありそうだけど、1格と取るか、5格と取るか、微妙な感じもする。
6格は、男性名詞活動体と同様、3格と同じ形になる。ただし常に前置詞とともに使うのが6格なので、「mi」は存在せず、「mně」だけである。話すときよりも書くときに表記に気をつけなければならないのも3格と同じ。
7格は「mnou」で、「ou」という典型的な単数7格の語尾である。女性名詞と男性名詞活動体の一人称単数が「a」で終わるものがこの語尾を取る。
全体を通しての注意点は、前置詞とともに使うときのことで、前置詞ともに使う形はすべて発音上は「mn」と二つの子音が連続する形で始まる。そのため、母音で終わる「kvůli」などの場合には問題ないのだが、子音のみ、もしくは子音で終わる前置詞の場合には、末尾に「e」が追加されることになる。「beze mě」(2格)、「ke mně」(3格)、「přede mě」(4格方向)、「ve mně」(6格)、「se mnou」(7格)といった具合である。
単数と比べると複数の変化は、それぞれの格にひとつの形しかないこともあり簡単である。
1 my
2 nás
3 nám
4 nás
5 my
6 nás
7 námi
3格、7格あたりには女性名詞硬変化の複数変化の影響が見て取れる。それよりも大切なのは、2格、4格、6格が同じ形「nás」になることである。またこれは所有を表す「náš(私たちの)」と似ているので書き間違い、言い間違いに注意しなければならない。「ナース」と「ナーシュ」って意外と言い間違えてしまうんだよなあ。書くときも、しばしばハーチェク落としがちなのである。
次は二人称の人称代名詞の格変化である。
2018年11月17日17時45分。
2018年11月20日
衝撃のコウノトリの巣事件、もしくは笑劇の……3(十一月十五日)
バビシュ首相の息子のインタビューが公開された後、チェコの政界は一部を除いて蜂の巣をつついたような大騒ぎになり、野党側は現在の国会の会期を延長して内閣不信任案を提出するという記者会見を開いた。それ自体には文句はないのだが、国会議員の昇給を20パーセントにしない法案だけは通しておけよと言っておきたい。予算案は通らなくても何とかなるかな。
その記者会見に臨んだのは、市民民主党、海賊党、キリスト教民主同盟、市長無所属連合、TOP09とオカムラ党の党首だった。どうなのかね。バビシュ氏の息子の証言の信憑性も確認されていない時点で、ここまで鬼の首を取ったような大騒ぎをするのは。日本の野党の批判と同じで尻すぼみに終わらないことを願うのみである。今のチェコの最大の問題は、政権交代があったからといってバビシュ政権よりマシになると言い切れないところなんだけどね。
閣外支持という形でバビシュ政権を支えている共産党は、この動きには同調せず、バビシュ支持かどうかはともかく、現時点では内閣不信任案の審議をする前に、予算案の審議を進めて、来年度予算を成立させることが最優先だという主張を繰り返している。意外とまともな反応というよりは、ビロード革命以来最も政権に近づいた現在の立ち位置を失いたくないと考えていると言ったほうがいいだろうか。ANO下しに加担しないことで、今回の件でANOを見限る可能性のあるかつての共産党支持者を取り戻そうという考えもあるのかもしれない。共産党も前回の選挙でかなり多くの支持者をANOとオカムラ党に奪われたのだ。
与党側の社会民主党は、バビシュ首相に事情の説明を求めると同時に、一部の所属議員や党員たちからは、ANOとの連立を解消して下野すべきだという声も上がっているようである。今回はバビシュ氏に勝ち目はないと見て勝ち馬に乗ろうというのだろうか。この迷走振りが社会民主党の低迷を象徴している。国会で新任された政府が存在しないのは、バビシュ氏を首相にするよりも大きな問題だとして連立に加わることを決めたのだから、最終的にどんな結論を出すのかは知らないが、せめて予算などの来年度の国家運営に必要な法案を通してから解散総選挙ぐらいのことは主張してほしいものである。
これが社会民主党の政権離脱で、再度バビシュ氏による組閣なんてことでは話にならないし、野党側と手を組んで不信任案への賛成というのでも全く足りない。社会民主党の裏切りがはっきりした時点で、バビシュ氏は、保険として確保してあるオカムラカードを切るに決まっているのだから。オカムラ氏は不信任案を提出すると息巻く野党の党首の一員でありながら、バビシュ氏に呼び出されて、今後の政局について会談したらしいのである。バビシュ政権がどうなるかのカギは、社会民主党が握っていると言ってもいい。ただ、その決定次第では、バビシュ政権だけでなく社会民主党も倒れることになりかねない。
ゼマン大統領は、この誘拐事件については、メディアによるでっちあげだという立場をとって、バビシュ首相を擁護している。全体的にチェコのマスコミと対立し、その件でつねに野党の批判にさらされているゼマン大統領にしてみれば、当然のコメントなのだろうけど、これが更なる批判を呼んでいるという面もある。今、政権が倒れるのは避けたいということなのか、現時点では盟友というべきバビシュ氏を本気で擁護しているのかはわからない。
わからないと言えば、不信任案を提出しようとしている政党に所属する議員たちは、バビシュ氏の息子の証言をどこまで信用しているのだろうか。その信憑性などどうでもよく、バビシュ政権を倒すチャンスにとびついただけのようにも見えなくはない。単に不信任案を成立させて内閣総辞職に追い込んだとしても、ゼマン大統領は下院の第一党の党首であるバビシュ氏に再度組閣の命令を出すに決まっている。そうなれば去年の選挙後の混沌とした状態が繰り返すだけである。だから、本気でここでバビシュ政権を倒そうと考えているのなら、不信任案を可決させるだけではなく、下院の解散総選挙に持ち込む必要がある。
しかし、残念ながら現在の野党勢力の多くは、総選挙に持ち込むための戦略も、勝てるとは限らない選挙を戦うだけの覚悟も持ち合わせているようには見えない。そうなると、社会民主党が政府から離反しバビシュ政権が倒れた場合、悪夢としか言えない事態が発生することになる。それはANOの政権を共産党とオカムラ党が支える体制の誕生である。社会民主党が数ヶ月前にANOと連立を組むことに決めた理由の一番大きなものがこの内閣の成立を阻止するためだったはずである。
言葉を飾れば右から左まで幅広い勢力を集結した内閣ということになるが、その実態は極右と極左を取り込んだ中道内閣という意味不明な物になる。極右と極左を平均すれば中道になるからちょうどいいなんて冗談を言いたくなるほどである。前回は閣外協力を選んだ共産党も、現時点でバビシュ内閣を支持することを求められれば、連立与党に加わることを求めるだろう。ビロード革命以来、30年のときを経て共産党が政権復帰しかねないのである。
オカムラ党も、去年の選挙の直後の時点からANOとの連立政権に色気たっぷりだったから、バビシュ政権を支持するとなると、最低でも党首のオカムラ氏の入閣を求めるだろう。副総理とか、内務大臣とかになっちまうのかなあ。細かい事情を知らない日本のマスコミが、売込みを受けてチェコに日系大臣誕生とかで大騒ぎして、くそみたいな提灯記事があふれるのが目に見えて、目の前が真っ暗になってしまう。こういうどうしようもない記事を確実に書くという点では日本のマスコミは信頼を裏切らない。
社会民主党が、連立内閣を離脱して、第二次バビシュ内閣が倒れ、第三次バビシュ内閣が成立することは、チェコ人以上に、チェコに住む日本人にとっての悪夢なのである。社会民主党には自重を求めたいところである。知人に頼んで息子を外国に連れて行ったというだけなんだから、息子の意志は無視していたかもしれないけど、政治問題じゃなくて家庭の問題として理解できるじゃないか。政治家には自分に嘘をつく能力だって必要だし、今まで散々やってきたことじゃないか。今回も同じようにして、オカムラ大臣の誕生だけは阻止してくれよ。そうしたら、選挙権はないけど、次の選挙では支援するからさ。
2018年11月15日23時40分。
2018年11月19日
衝撃のコウノトリの巣事件、もしくは笑劇の……2(十一月十四日)
この辺り、チェコ、スロバキアで、政治家の息子が誘拐されたというと、1990年代のスロバキアで起こったコバーチ大統領の息子の事件が真っ先に思い浮かぶ。あの事件は、結局真相は完全には明らかになっていないが、メチアル首相が、対立するコバーチ大統領に圧力をかけるために、軍の情報部を使って誘拐させたというのが定説になっており、実行犯が自供したという話もある。メチアル首相が大統領職を兼任していた時期に、この事件に関しては恩赦の決定が出されているため、真相が解明されて裁判が開かれることはあるまい。
振り返って、今回のチェコ首相の息子の誘拐事件の何ともスケールの小さいことよ。誘拐担当者はアグロフェルト社の実は運転手に過ぎないと言うし、誘拐されたからと言って命の危険があったわけでもなく、その後自宅でのうのうと過ごしているところを記者に訪問されて、運転手のおっちゃんが怖いと泣きつく35歳の元パイロットのおっさん。うーん絵にならんぜ。メチアル首相のやらかした誘拐事件はアクションフィルムさながらの劇的な物だったというだけに、今回の誘拐事件のしょぼさが際立ってしまう。
そのしょぼさがバビシュ氏の言う精神を病んだ息子の戯言にふさわしいようにも見えなくはないけど、これまでのバビシュ氏のさまざまな言い訳から感じられるせこさに妙に似合っているように思えるのも否定できない。どちらも単なる素人の印象に過ぎないのだけど、バビシュ首相に軍の情報部や秘密警察を抱き込んで誘拐事件を起すなんてのはまったく似合わない。
この事件に関して真相が明らかになるかどうかはわからないが、どちらが真相だったとしても、笑いようのないできの悪い喜劇にしかならないところが最悪である。息子を知り合いの運転手に頼んで誘拐してもらう総理大臣と、父親の部下に頼んで旅行に連れて行ってもらいながら誘拐だと主張する総理大臣の息子、どちらがましかと言われても選びようがない。
バビシュ氏の息子について、ボーイング737の操縦免許を有効な状態で所持しているから、精神的な問題があるというのはおかしいと主張する人がいる。パイロットのライセンスを更新する際には、肉体的な健康だけでなく精神的な健康についても検査されるはずだというのだけど、どうなのだろう。スイスの報道でも元パイロットになっているし、どこの航空会社で仕事をしていたという情報も出てきていない。むしろパイロットの資格を取った後、仕事がうまくいかなくて父親になきついてアグロフェルト社関連の仕事でお金をもらっていたというストーリーのほうに整合性を感じてしまう。
そうなのだ。バビシュ氏が最初からそういうストーリーに基づいて話をしていれば、コウノトリの巣事件から受ける印象は大きく変わっていたはずだ。つまり、ごくつぶしの子供たちを自立させるために、コウノトリの巣社を独立させて任せていたのに、精神を病んでしまって経営できなくなったから、親の自分が責任を取ってアグロフェルトに吸収したとか何とか。それを自分とは何の関係もないなどと嘘をつくから、弱みになって苦しい言い逃れを繰り返すことになるのだ。言い訳にすら使われなかったということは、この仮説のストーリーは事実ではないと言いうことなのかもしれないが。
今回のセズナムの報道について、野党はよくやったと大喜びなのだけど、問題はそんなに単純ではない。かつてバールタ氏が率いたVV党が所属議員の内部告発というか、造反にあって解体の憂き目を見たときも、最初はどこかのマスコミの特ダネという形で始まったのではなかったか。バールタ氏のやり口も褒められたものではなかったが、その後の急速な解体の過程には明確な誰かの意思が介在しているように感じられた。
当時バールタ氏追い落としに熱心で最も貢献したのは「ムラダー・フロンタ」だったと記憶する。実際に記事を書いたのは現場の記者であっても、指示を出したのは社主であったバビシュ氏であろう。バビシュ氏が儲けにならないことを指示するわけはないから、市民民主党辺りの既存政党の政治家から要請を受けてのことだったというのが関の山である。ネチャス内閣が崩壊したのも、きっかけは新聞の報道だった。こちらは政界進出を計画していた本人の仕掛だろうか。
バビシュ氏は所有する二つの大手新聞「ムラダー・フロンタ」と「リドベー・ノビニ」に対して、オーナーとして書くべきことについて指示をしたことはないと主張しているが、買収した際には、自分について正しくないことばかり書かれるから、正しいことを書かせるために買収したとか何とか語っていたはすである。ならば、バビシュ氏にとって「正しいこと」を書くように指示を出していたとしても全く不思議はない。だから、今回の件が、バビシュ氏が主張するように、メディアによるデッチ上げだったとしても、自業自得というか、天に唾した結果だとしか言いようがない。
既存政党は、バビシュ氏が新聞社を所有したままであることを批判してきたが、この件に関する最大の問題は新聞社を所有していることではなく、「ムラダー・フロンタ」と「リドベー・ノビニ」というチェコの二大新聞を両方所有していることである。親会社のアグロフェルトは形式上はバビシュ氏の手を離れていることになっているが、実態は変わっていないはずである。
チェコにも公正取引委員会や独占禁止法と同じようなものは存在するから、普通であれば一つの会社が、「ムラダー・フロンタ」と「リドベー・ノビニ」という同業種の二大企業を買収することは禁止されるはずである。それなのに許可が出たのは、その辺の経緯を明らかにしてほしいと思うのだが、政治家が暗躍したからだというのは想像に難くない。バビシュ氏ももともとはチェコの政界にはびこるクライアント主義のクライアントだったのである。バビシュ氏をあれこれ批判する既存政党に同調しきれないのは、この辺の自らの所業を検証も反省もしていないからである。
この問題がチェコの政治にどんな影響をもたらすかについては、また明日。
2018年11月15日9時15分。
2018年11月18日
衝撃のコウノトリの巣事件、もしくは笑劇の……1(十一月十三日)
バビシュ首相のEUの助成金を巡るスキャンダルについてはこれまで何度か書いてきた。中小企業対象の助成金を獲得するために、大企業だったバビシュ氏の所有するアグロフェルト社は使えないので、ダミー企業を設立して助成金を獲得し、その助成金に関する財政的な処理がすべて終わった時点で、アグロフェルト社に合併吸収させるという手口は、それこそどこにでも転がっているもので、バビシュ氏が政界に進出していなかったら、国会議員の誰も問題にすることはなかっただろう。この点ではバビシュ氏は正しい。だからといってバビシュ氏に罪がないと言うことではないのだが、この事件に関して驚くべきニュースが流れた。ただし事実かどうかは、わからない。
最近日本でも既存のマスコミに加えて、ネット発のメディアが誕生して活躍しているようだが、チェコでも、チェコ最大の(多分)ポータルサイトであるセズナムが力を入れ始めており、サイトで独自のニュースやドラマを配信するだけでなく、テレビ放送にまで手を出している。そんなセズナムのニュースサイトに、テレビでの報道もあったのかもしれないが、バビシュ首相の息子のインタビューが登場した。
そのインタビューで息子が語ったのは、去年コウノトリの巣事件が政治問題化して、警察の捜査が進んでいた時期に、バビシュ首相の関係者によってロシアがウクライナから奪還し占領中のクリミア半島に連れ出され、そこで軟禁されていたということだった。同時に関係者が自分を誘拐監禁したことについては、父親のバビシュ首相は知らないかもしれないと付け加えていた。
息子の、というよりはセズナムのレポーターの考えるシナリオによれば、EUの助成金を獲得した時期の農場「コウノトリの巣」はバビシュ首相の子供たちの名義になっていたから、この息子も事件に関係していて、あれこれバビシュ氏のよからぬ行動について知っている。それを警察に証言されると不利になると考えたバビシュ氏、もしくは側近が指示を出して、警察に事情聴取されないようにクリミア半島にまで連れて行って軟禁したということになるのだろう。それに対して、警察は当時バビシュ氏の息子がどこに滞在しているかは把握していたと言っているから、必要があってその気にさえなっていれば、事情聴取は不可能ではなかったようだ。
それにしてもである。なぜにクリミア半島だったのだろうか。そもそも外国人がそんなに簡単に入れるのだろうか。入れるにしても、ヨーロッパからそれほど離れていない、そんな厄介な場所を選ぶ理由はあるのか。その理由になりそうなのが、誘拐したとされる関係者がロシア人らしいという事実である。ただそのロシア系と思しき人物は、バビシュ氏の息子にクリミア半島のことを「ウクライナ」と言っていたようで、ロシア人がそんなこと言うかという疑問も感じなくはない。それに、本気で警察の事情聴取を防ぎたいんだったら、アジアのタイとかインドネシアなんかの人口も多く、距離的にも遠い観光地にもぐりこんだ方がよさそうな気もする。ロシアでもシベリアまで行ってしまったほうがましである。
そのロシア系の人物のチェコ人の奥さんが、精神科医で、バビシュ氏の息子が精神を病んでいるという診断書を出しているらしい。さらにバビシュ氏が財務大臣を務めていた時期には、財務省での仕事にありつき、この前の地方選挙ではプラハの何区かで区会議員にANOから立候補して当選したという。夫のロシア人はバビシュ氏の会社アグロフェルトの関係者だというから、知り合いの知り合いにお願いすれば何でもできる的な人間関係である。これって、市民民主党とか社会民主党などの既存政党がやってきたことと大差ないんだよなあ。既存の政党とは違うところを売りにしていたANOも馬脚を現し始めたというところなのかねえ。
話を戻そう。インタビューでチェコの政界に激震をもたらしたバビシュ氏の息子は、一人目の奥さんとの間の息子で、スイスの国籍を獲得して母親と共にスイスに住んでいるらしい。別れたとはいえお金持ちの御父ちゃんでよかったねというところである。セズナムの記者はそのスイス在住のバビシュ息子を訪問して、取材の意図も告げずにメガネに仕込んだ隠しカメラでインタビューを撮影したのだとかバビシュ首相は批判していた。その手法の良し悪しはともかく、チェコの警察の捜査を避けるために、スイスからクリミア半島に移る必要はあるのかねえ。スイスという国には、よその国に対してあまり協力的ではないというイメージがあるんだけど。
バビシュ首相は、自分の息子について、精神的に病んでいて分裂症の気があるから証言能力はないと主張している。精神の病については母親も認めているらしい。これについてインタビューを見る限り精神を病んでいるようには見えないと主張する人もいるが、心の問題が外見だけで判別がつくのであれば、誰も苦労はしないし、世界は今よりはるかに安全であるはずだ。問題はそこではなく、バビシュ氏の息子を診察して、病気だと診断した医者がバビシュ氏に近いANOの関係者だというところにある。
前妻との間のもう一人の子供である娘についても、精神的な問題で警察の事情聴取には堪えられないという診断書が提出されているらしいが、息子のほうとは違って、こちらは警察の事情聴取は受けたらしい。警察ではバビシュ氏の子供たちに対する精神を病んでいるという診断書の信憑性を疑っているというから、中立だと考えられる医者を選んで、子供たちの診察をさせることになるだろう。今回のインタビューで語られたことの正当性を判断するのは、その結果が出てからでも遅くはない。
バビシュ氏の側も、コウノトリの巣事件に関しては、これまでさんざんメディアが作り出した人工的な事件だとか言ってきたのだから、自らの発言の正当性を証明するためにも、子供たちの専門医による診察には合意するべきであろう。拒否した場合には、誘拐事件がでっちあげではなく、事実だったのだと間接的に認めることになる。
以下次号。
2018年11月14日20時35分。
2018年11月17日
目的を示す「aby」(十一月十二日)
仮定法で使う「kdyby」と「by」と同じような人称変化をする言葉がもう一つあった。それがここで取り上げる「aby」である。人称変化も、動詞の過去形と組み合わせるのも、文頭もしくは節の頭に置かなければならない点も、「kdyby」と同じだが、仮定ではなく目的を表す連体修飾節を作る。日本語の「〜するために」というと同じように使う。気を付けなければいけないのは、日本語の「ために」と完全に使い方が重なるというわけではないことで、原因、理由を示す「ために」には使えず、あくまでも目的としての行為を示すのに使う表現だということである。
復習のために人称変化と動詞「být」の過去形を組み合わせて示しておく。過去形の語尾については以前の過去形のところを参照されたい。
1単 abych byl/byla
2単 abys/abyste byl/byla
3単 aby byl/byla/bylo
1複 abychom byli/byly
2複 abyste byli/byli
3複 aby byli/byly/byla
二人称単数は、丁寧に話す時には複数「abyste」と動詞過去の単数男性形もしくは女性形の組み合わせになる。このことは仮定法のところには書き忘れてしまったけど、普通の過去形で丁寧に表現するときと同じである。三人称複数の「byly」は主語が男性名詞不活動体と女性名詞の場合に使用することも念のために指摘しておく。
ここで、いくつか例を挙げてみよう。
Půjčil jsem si peníze, abych si koupil nové auto.
新しい車を買うためにお金を借りた。
Zastavil jsem se v knihovně, abych vrátil knihu.
本を返すために図書館に寄った。
気を付けなければならないのは、日本語では「ために」ではなく、「ように」を使うような場合にも、チェコ語で「aby」が使われることがあることである。日本語に訳す場合には、日本語の中で自然になるように調整するから問題ないが、日本語からチェコ語に訳すときに、「aby」は「ために」だという思い込みが強すぎると、「ように」が使われている文をどう訳すかで悩むことになりかねない。
以前、日本語ができるチェコ人が、「ように」を使うべき場面で「ために」を連発していて、なぜだろうと不思議に思ったことがあるのだが、それはどちらもチェコ語では「aby」で済ませてしまうからだったのである。これに気づくまでは、日本語の「ために」と「ように」に類似性があるとは全く思っていなかったので、目からうろこが落ちたような気がしたものだ。チェコ語を通して日本語の勉強をしたわけである。まあ、日本人の中にも「ために」と「ように」の使い分けが怪しい人もいるのは確かだけど、チェコ語で問題に気づくまでは、完全に意識の外にあった。
ということで「ように」と訳すべき例文である。
Spěchal jsem, abych nepřišel pozdě.
遅れないように急いで行った。
Půjčil jsem si peníze, abych si mohl koupit nové auto.
新しい車が買えるように借金した。
Řekl jsem mu, aby přišel včas.
時間通りに来るようにあの人に言った。
Psali mi rodiče mail, abych se vrátil domů.
両親からうちに帰ってくるようにというメールが来た。
日本語の「ために」と「ように」の使い分けについては、ここで説明する必要はないだろうが、チェコ語の「aby」には、もう一つ重要な用法がある。それは、動詞の「chtít」と結びついた用法で、「〜してほしい」「〜してもらいたい」という相手、もしくは第三者に対して行動を望むときに使う表現である。「chtít」の主語は一人称とは限らないので、二人称、三人称の場合には、必要に応じて日本語の訳を工夫しなければならない。
Chci, abyste mi půjčil peníze.
お金を貸してほしいんですが。
Chcete, abych zavřel okno?
窓を開けましょうか。
Pavel chce, abychom s ním šli na pivo,
パベルが、私たちに一緒にお酒を飲みに行ってほしいってよ。
まあ、「chtít」を「ほしい」ではなく、「望む」「願う」なんて言葉で訳したら、二つの動詞の主語が異なっているから「aby」は「ように」、もしくは「ことを」を使って訳せなくはないけど、不自然な日本語になってしまう。「お金を貸してくださるように望みます」とか、「私が窓を開けることを望みますか」、「パベルは、私たちが一緒にビールを飲みに行くように願っているようだ」なんて、誰がどこで使うんだというお話である。丁寧な婉曲表現の「by」と組み合わせて。「Chtěl bych, abyste mi půjčil peníze.」としてもかまわない。
こうでなければならないと組み合わせが完全に決まっているわけではないので、仮定法や婉曲表現なども含めていろいろな組み合わせを試してみるのもいいだろう。チェコ人の先生が変な顔をしたやりすぎだと判断すればいいのだしさ。語学というものは、教科書に書かれている基礎的な事項を演繹して、あれこれ実際に使ってみて、その結果を帰納して自分なりの使い方、ルールを見出すのが醍醐味なのだから。
2018年11月13日23時55分。
2018年11月16日
フェドカップ決勝(十一月十一日)
今週末のフェドカップ決勝では、チェコがアメリカを3−0で破り優勝を遂げた。これはチェコスロバキア時代を含めれば11回目の優勝で、チェコ単独では、2011年の初優勝から数えて6回目の優勝ということになる。何よりも凄いのは、ここ8年で6回決勝に進出し、一度も負けていないことである。今回の対戦相手のアメリカには昨年準決勝で負けており、フェドカップではチェコ独立以来一度も勝ったことがないということで心配する声もあったのだが、ふたを開けてみたら3−0と決勝では初めての全勝で優勝を決めてしまった。
2012年と2014年の決勝では、それぞれセルビア、ドイツが相手だったのだが、実はこの二回もチェコが三連勝で優勝を決めている。ただ当時はルールでどちらかのチームの勝利が決定してもダブルスの試合は行なわれることになっており、優勝を決めた後の試合で負けて最終的なスコアは3−1になっている。それが今年から決勝のルールが変更され優勝が決定した時点で、以後の試合は行なわれず、表彰式が始まるという形に変更されたらしい。決勝の結果が決まった後、消化試合を挟んで表彰式というのは興ざめなところがあるから、この変更は悪くなさそうである。
フェドカップには国別のランキングが存在しており、チェコは2014年以来ずっと1位の座をキープし続けている。その間2位はフランスやスペインなどが何度も入れ替わり、現在は昨年優勝したアメリカだが、決勝前の時点で5000ポイントほどの差が付いていて、決勝後はその差が10000ポイントほどになっているから、来年チェコが優勝できなかったとしても1位の座は安泰である。
チェコのフェドカップのチームがこれだけの好成績を挙げ続けられている理由を考えると、チェコ人全体がこのチームスポーツが好きで、選手たちも怪我などの特別な事情がない限りは出場を辞退しないという事実が挙げられる。その選手たちの出場を辞退しない状況をうまく作り出しているのが、初優勝以来ずっと監督を務め続けているパーラの存在である。
よその国は、女子スポーツの監督は女性にという大義名分の下に、フェドカップの監督を女性が努めていることが増えているが、チェコはそんな見かけの正しさにごまかされることなく、最もいい結果を残せる監督、つまり男性のパーラを起用し続けている。チェコにもテニスの女性の指導者がいないわけではないが、これまでの業績を考えると、今後も本人が辞任すると言い出さない限りは監督の交代はなさそうだ。チェコ語で「試合に出ないキャプテン」と呼ばれる監督に求められる資質は、一般の指導者とは異なるものだろうし、やっと見つけた適任者を交代させるのはもったいないことである。
男子のデビスカップのナブラーティルもシュテパーネクとベルディフを活用して、デビスカップを二度制した優秀な監督だが、選手の扱いのうまさ、選手たちとの関係のよさという観点からいうとパーラの方が上を行く。今回体調に問題のあったクビトバーに無理をさせずに、試合に出さなかったのもそうだし、引退を発表したシャファージョバーが登録メンバーに入っていなかったのに、登録選手たちと行動を共にしていたのもパーラの配慮だろう。
そんなパーラのもとだからこそ、ベテランのストリーツォバーだけでなく、若手でフェドカップの経験がほとんどなかったシニアコバーも、活躍することができたのだろう。チームのナンバー1に指名されたシニアコバーは、土曜日、日曜日と2連勝を飾り、決勝に関しては最大の貢献者となったのである。ダブルスが行なわれなかったことでクレイチーコバーとのペアのプレーは見ることができなかったが、代表を引退するストリーツォバーの代役を十分以上に務められそうな期待は感じさせてくれた。問題はクビトバー以上に不安定なプレー振りだろうか。そのせいで特に日曜日のチェコの勝利を決めた試合では、延々と終わらないゲームが続き、最初ははらはら、とちゅうからいらいらしながら見ることになってしまった。3セットとも7−5のスコアのゲームで、3時間45分もかかったらしい。
そのシニアコバーだが、サーブのときの腕の振りがなんとも独特だった。試合の終盤では、疲れからかサーブを大きく外すことが増えていたから、もともとサーブが苦手で、何とかコントロールをつけるために探し出したのが今のフォームということなのかもしれない。それだけじゃなくインタビューのときに聞いた声も、非常に独特なもので、以前も聞いたことがあるはずなのにびっくりしてしまった。
来年のフェドカップの一回戦は、2月にルーマニアを相手にオストラバで行われることが決まっている。その会場に「TORAY」のロゴが掲げられることを期待しておこう。
2018年11月12日23時10分。
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