2018年11月20日
衝撃のコウノトリの巣事件、もしくは笑劇の……3(十一月十五日)
バビシュ首相の息子のインタビューが公開された後、チェコの政界は一部を除いて蜂の巣をつついたような大騒ぎになり、野党側は現在の国会の会期を延長して内閣不信任案を提出するという記者会見を開いた。それ自体には文句はないのだが、国会議員の昇給を20パーセントにしない法案だけは通しておけよと言っておきたい。予算案は通らなくても何とかなるかな。
その記者会見に臨んだのは、市民民主党、海賊党、キリスト教民主同盟、市長無所属連合、TOP09とオカムラ党の党首だった。どうなのかね。バビシュ氏の息子の証言の信憑性も確認されていない時点で、ここまで鬼の首を取ったような大騒ぎをするのは。日本の野党の批判と同じで尻すぼみに終わらないことを願うのみである。今のチェコの最大の問題は、政権交代があったからといってバビシュ政権よりマシになると言い切れないところなんだけどね。
閣外支持という形でバビシュ政権を支えている共産党は、この動きには同調せず、バビシュ支持かどうかはともかく、現時点では内閣不信任案の審議をする前に、予算案の審議を進めて、来年度予算を成立させることが最優先だという主張を繰り返している。意外とまともな反応というよりは、ビロード革命以来最も政権に近づいた現在の立ち位置を失いたくないと考えていると言ったほうがいいだろうか。ANO下しに加担しないことで、今回の件でANOを見限る可能性のあるかつての共産党支持者を取り戻そうという考えもあるのかもしれない。共産党も前回の選挙でかなり多くの支持者をANOとオカムラ党に奪われたのだ。
与党側の社会民主党は、バビシュ首相に事情の説明を求めると同時に、一部の所属議員や党員たちからは、ANOとの連立を解消して下野すべきだという声も上がっているようである。今回はバビシュ氏に勝ち目はないと見て勝ち馬に乗ろうというのだろうか。この迷走振りが社会民主党の低迷を象徴している。国会で新任された政府が存在しないのは、バビシュ氏を首相にするよりも大きな問題だとして連立に加わることを決めたのだから、最終的にどんな結論を出すのかは知らないが、せめて予算などの来年度の国家運営に必要な法案を通してから解散総選挙ぐらいのことは主張してほしいものである。
これが社会民主党の政権離脱で、再度バビシュ氏による組閣なんてことでは話にならないし、野党側と手を組んで不信任案への賛成というのでも全く足りない。社会民主党の裏切りがはっきりした時点で、バビシュ氏は、保険として確保してあるオカムラカードを切るに決まっているのだから。オカムラ氏は不信任案を提出すると息巻く野党の党首の一員でありながら、バビシュ氏に呼び出されて、今後の政局について会談したらしいのである。バビシュ政権がどうなるかのカギは、社会民主党が握っていると言ってもいい。ただ、その決定次第では、バビシュ政権だけでなく社会民主党も倒れることになりかねない。
ゼマン大統領は、この誘拐事件については、メディアによるでっちあげだという立場をとって、バビシュ首相を擁護している。全体的にチェコのマスコミと対立し、その件でつねに野党の批判にさらされているゼマン大統領にしてみれば、当然のコメントなのだろうけど、これが更なる批判を呼んでいるという面もある。今、政権が倒れるのは避けたいということなのか、現時点では盟友というべきバビシュ氏を本気で擁護しているのかはわからない。
わからないと言えば、不信任案を提出しようとしている政党に所属する議員たちは、バビシュ氏の息子の証言をどこまで信用しているのだろうか。その信憑性などどうでもよく、バビシュ政権を倒すチャンスにとびついただけのようにも見えなくはない。単に不信任案を成立させて内閣総辞職に追い込んだとしても、ゼマン大統領は下院の第一党の党首であるバビシュ氏に再度組閣の命令を出すに決まっている。そうなれば去年の選挙後の混沌とした状態が繰り返すだけである。だから、本気でここでバビシュ政権を倒そうと考えているのなら、不信任案を可決させるだけではなく、下院の解散総選挙に持ち込む必要がある。
しかし、残念ながら現在の野党勢力の多くは、総選挙に持ち込むための戦略も、勝てるとは限らない選挙を戦うだけの覚悟も持ち合わせているようには見えない。そうなると、社会民主党が政府から離反しバビシュ政権が倒れた場合、悪夢としか言えない事態が発生することになる。それはANOの政権を共産党とオカムラ党が支える体制の誕生である。社会民主党が数ヶ月前にANOと連立を組むことに決めた理由の一番大きなものがこの内閣の成立を阻止するためだったはずである。
言葉を飾れば右から左まで幅広い勢力を集結した内閣ということになるが、その実態は極右と極左を取り込んだ中道内閣という意味不明な物になる。極右と極左を平均すれば中道になるからちょうどいいなんて冗談を言いたくなるほどである。前回は閣外協力を選んだ共産党も、現時点でバビシュ内閣を支持することを求められれば、連立与党に加わることを求めるだろう。ビロード革命以来、30年のときを経て共産党が政権復帰しかねないのである。
オカムラ党も、去年の選挙の直後の時点からANOとの連立政権に色気たっぷりだったから、バビシュ政権を支持するとなると、最低でも党首のオカムラ氏の入閣を求めるだろう。副総理とか、内務大臣とかになっちまうのかなあ。細かい事情を知らない日本のマスコミが、売込みを受けてチェコに日系大臣誕生とかで大騒ぎして、くそみたいな提灯記事があふれるのが目に見えて、目の前が真っ暗になってしまう。こういうどうしようもない記事を確実に書くという点では日本のマスコミは信頼を裏切らない。
社会民主党が、連立内閣を離脱して、第二次バビシュ内閣が倒れ、第三次バビシュ内閣が成立することは、チェコ人以上に、チェコに住む日本人にとっての悪夢なのである。社会民主党には自重を求めたいところである。知人に頼んで息子を外国に連れて行ったというだけなんだから、息子の意志は無視していたかもしれないけど、政治問題じゃなくて家庭の問題として理解できるじゃないか。政治家には自分に嘘をつく能力だって必要だし、今まで散々やってきたことじゃないか。今回も同じようにして、オカムラ大臣の誕生だけは阻止してくれよ。そうしたら、選挙権はないけど、次の選挙では支援するからさ。
2018年11月15日23時40分。
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