2018年11月18日
衝撃のコウノトリの巣事件、もしくは笑劇の……1(十一月十三日)
バビシュ首相のEUの助成金を巡るスキャンダルについてはこれまで何度か書いてきた。中小企業対象の助成金を獲得するために、大企業だったバビシュ氏の所有するアグロフェルト社は使えないので、ダミー企業を設立して助成金を獲得し、その助成金に関する財政的な処理がすべて終わった時点で、アグロフェルト社に合併吸収させるという手口は、それこそどこにでも転がっているもので、バビシュ氏が政界に進出していなかったら、国会議員の誰も問題にすることはなかっただろう。この点ではバビシュ氏は正しい。だからといってバビシュ氏に罪がないと言うことではないのだが、この事件に関して驚くべきニュースが流れた。ただし事実かどうかは、わからない。
最近日本でも既存のマスコミに加えて、ネット発のメディアが誕生して活躍しているようだが、チェコでも、チェコ最大の(多分)ポータルサイトであるセズナムが力を入れ始めており、サイトで独自のニュースやドラマを配信するだけでなく、テレビ放送にまで手を出している。そんなセズナムのニュースサイトに、テレビでの報道もあったのかもしれないが、バビシュ首相の息子のインタビューが登場した。
そのインタビューで息子が語ったのは、去年コウノトリの巣事件が政治問題化して、警察の捜査が進んでいた時期に、バビシュ首相の関係者によってロシアがウクライナから奪還し占領中のクリミア半島に連れ出され、そこで軟禁されていたということだった。同時に関係者が自分を誘拐監禁したことについては、父親のバビシュ首相は知らないかもしれないと付け加えていた。
息子の、というよりはセズナムのレポーターの考えるシナリオによれば、EUの助成金を獲得した時期の農場「コウノトリの巣」はバビシュ首相の子供たちの名義になっていたから、この息子も事件に関係していて、あれこれバビシュ氏のよからぬ行動について知っている。それを警察に証言されると不利になると考えたバビシュ氏、もしくは側近が指示を出して、警察に事情聴取されないようにクリミア半島にまで連れて行って軟禁したということになるのだろう。それに対して、警察は当時バビシュ氏の息子がどこに滞在しているかは把握していたと言っているから、必要があってその気にさえなっていれば、事情聴取は不可能ではなかったようだ。
それにしてもである。なぜにクリミア半島だったのだろうか。そもそも外国人がそんなに簡単に入れるのだろうか。入れるにしても、ヨーロッパからそれほど離れていない、そんな厄介な場所を選ぶ理由はあるのか。その理由になりそうなのが、誘拐したとされる関係者がロシア人らしいという事実である。ただそのロシア系と思しき人物は、バビシュ氏の息子にクリミア半島のことを「ウクライナ」と言っていたようで、ロシア人がそんなこと言うかという疑問も感じなくはない。それに、本気で警察の事情聴取を防ぎたいんだったら、アジアのタイとかインドネシアなんかの人口も多く、距離的にも遠い観光地にもぐりこんだ方がよさそうな気もする。ロシアでもシベリアまで行ってしまったほうがましである。
そのロシア系の人物のチェコ人の奥さんが、精神科医で、バビシュ氏の息子が精神を病んでいるという診断書を出しているらしい。さらにバビシュ氏が財務大臣を務めていた時期には、財務省での仕事にありつき、この前の地方選挙ではプラハの何区かで区会議員にANOから立候補して当選したという。夫のロシア人はバビシュ氏の会社アグロフェルトの関係者だというから、知り合いの知り合いにお願いすれば何でもできる的な人間関係である。これって、市民民主党とか社会民主党などの既存政党がやってきたことと大差ないんだよなあ。既存の政党とは違うところを売りにしていたANOも馬脚を現し始めたというところなのかねえ。
話を戻そう。インタビューでチェコの政界に激震をもたらしたバビシュ氏の息子は、一人目の奥さんとの間の息子で、スイスの国籍を獲得して母親と共にスイスに住んでいるらしい。別れたとはいえお金持ちの御父ちゃんでよかったねというところである。セズナムの記者はそのスイス在住のバビシュ息子を訪問して、取材の意図も告げずにメガネに仕込んだ隠しカメラでインタビューを撮影したのだとかバビシュ首相は批判していた。その手法の良し悪しはともかく、チェコの警察の捜査を避けるために、スイスからクリミア半島に移る必要はあるのかねえ。スイスという国には、よその国に対してあまり協力的ではないというイメージがあるんだけど。
バビシュ首相は、自分の息子について、精神的に病んでいて分裂症の気があるから証言能力はないと主張している。精神の病については母親も認めているらしい。これについてインタビューを見る限り精神を病んでいるようには見えないと主張する人もいるが、心の問題が外見だけで判別がつくのであれば、誰も苦労はしないし、世界は今よりはるかに安全であるはずだ。問題はそこではなく、バビシュ氏の息子を診察して、病気だと診断した医者がバビシュ氏に近いANOの関係者だというところにある。
前妻との間のもう一人の子供である娘についても、精神的な問題で警察の事情聴取には堪えられないという診断書が提出されているらしいが、息子のほうとは違って、こちらは警察の事情聴取は受けたらしい。警察ではバビシュ氏の子供たちに対する精神を病んでいるという診断書の信憑性を疑っているというから、中立だと考えられる医者を選んで、子供たちの診察をさせることになるだろう。今回のインタビューで語られたことの正当性を判断するのは、その結果が出てからでも遅くはない。
バビシュ氏の側も、コウノトリの巣事件に関しては、これまでさんざんメディアが作り出した人工的な事件だとか言ってきたのだから、自らの発言の正当性を証明するためにも、子供たちの専門医による診察には合意するべきであろう。拒否した場合には、誘拐事件がでっちあげではなく、事実だったのだと間接的に認めることになる。
以下次号。
2018年11月14日20時35分。
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