2018年01月23日
「花粉=悪者」でもない!? 花粉が記憶や学習をつかさどる「海馬」を活性化
花粉の多い季節になると、毎年悩まされる人が続出する花粉症。つらい花粉症を引き起こす花粉なんていいことはない……と思いきや、実は脳の重要な組織によい影響を与えているかもしれないという。
オーストリアのパラケルスス医科大学とザルツブルク大学の共同研究チームがマウスを使用して行った実験で、花粉に接触すると脳の一部にある神経細胞の生産量が増えることが判明したのだ。
□花粉に触れたマウス脳内で神経細胞が増加
2016年8月発表された最新研究によれば、イネ科の植物「チモシー(オオアワガエリ)」の花粉にさらされたマウスはそうでないマウスに比べて、「海馬」と呼ばれる記憶や学習をつかさどる脳部位でより多くのニューロンが作り出されることが分かった。
ニューロンとは、情報伝達のためにクモの糸のように脳内に張り巡らされた神経細胞のこと。海馬では新しい情報を記憶して保存するといった記憶のコントロールが行われている。そして海馬は、生きている間、絶えずニューロンが作られ続ける部位でもある。
□”諸刃(もろは)の剣”ミクログリアが花粉で制御される
また、海馬で変化していたのはニューロンの数だけではなかった。脳内の免疫防御をつかさどる「ミクログリア」の活動が減少していたのだ。
健康な人の脳内では、ミクログリアはニューロンの修復のほか、侵入した細菌や腫瘍細胞の排除などを行うが、ミクログリアの制御が利かなくなると、これらを排除するために分泌する活性酸素などの物質で正常なニューロンまでも殺してしまうことがある。アルツハイマー病やダウン症がこの例だ。
□花粉症=記憶力アップ?
つまり、花粉は私たちの記憶野によい影響を与えるということなのだろうか?
研究チームによると、海馬でニューロンが増加することで花粉が長期的な情報の記憶や保持に影響を与える可能性もあるが、現時点ではまだ仮説にすぎないということだ。詳細な分析方法を用いたさらなる調査が必要だと研究チームは示唆している。
□喘息薬が認知症を治療する可能性も
しかし、パラケルスス医科大学などによって2015年に発表された研究では、興味深い結果が示されている。
アレルギー疾患や喘息の治療薬である「モンテルカスト」を高齢のラットに投与したところ、若いラットと同じくらいの早さで与えられたタスクを学ぶようになった。これはこの薬が、老化による認知能力の低下にも関与する脳の炎症を減らし、海馬のニューロンの生産を増加させるためだとされており、認知症の治療薬となる可能性も期待されている。
花粉との接触でのみ起こる現象なのか、ハウスダストなどアレルゲン全般でも見られる現象なのかは分からないが、記憶野に何らかの影響を与えるのは確かなようだ。「花粉は認知症になりにくくさせる」が常識になる日も近いのかもしれない。