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2020年08月01日

ツィムルマンの夏3(七月廿九日)



承前

7.Vražda v salonním coupé
 これまでの作品の中で、一番ちゃんと最後まで見たのがこの作品。題名は「客室における殺人」とでも訳しておこうか。「coupé」はすでにチェコ語化した外来語で「kupé」と書くことが多いが、鉄道の客車のコンパートメントを指す。「salonní」はサロンの形容詞形なので、恐らくは普通のコンパートメントよりも豪華なものを指すのだと思う。
 冒頭の研究発表の部分では、犯罪とツィムルマンの関係が語られるんだっただろうか。それを受けて、ツィムルマンが書いたとされる探偵小説ならぬ探偵戯曲が演じられる。その劇中劇はクリスティの『オリエント急行殺人事件』のパロディのような作品で、たしか舞台はオリエント急行的なイスタンブール発の国際列車だったと思う。その列車の中で起こったチェコ人殺人事件をチェコ人の警察の捜査官が解決するのだけど、何でこの人が乗っているのかよくわからなかった。トンネルに入ったシーンで、舞台だけでなく劇場全体の照明を落とすとかやっていたような記憶もある。ちゃんと見たはずなのだけど、誰が犯人でどうやって殺したのかなんてのは思い出せない。そもそも本当に誰か死んだのか?

 とまれ、この探偵戯曲、スモリャクとスビェラークが組んで制作した傑作映画「解けて流れ出した者」の原作になっている。両者の記憶が交じり合ってどちらがどちらだったか思い出せないのではなく、映画のほうを何度も繰り返し見たので、そちらに記憶が引きずられるのである。
 舞台では劇場のメンバーしか登場しないが、映画のほうはツィムルマン系の映画には欠かせないヨゼフ・アブルハームやペトル・チェペクに加えて、第二次世界大戦後のチェコの二大名優とも言うべきルドルフ・フルシンスキーとブラディミールブラスティミル・ブロツキーも登場するという豪華な配役になっている。因みにブロツキーの息子も主要な役のひとつである捜査官の助手として出演している。

 こちらもツィムルマン的にややこしい話で、すべてを理解できているわけではないが、警察組織の出鱈目さに負けずに、捜査を続ける捜査官のトラフタ氏のいい意味でとんでもない捜査や犯人逮捕の方法とか、助手として研修を受けている(ように見える)フラバーチェクくん(氏にはしたくない)との掛け合いとか、見所は多い。身代わりを務めさせるための等身大の、一定の動きしかできない人形の扱いなんて、そこまでやるかである。鉄道の駅で逃げる犯人を逮捕するための巨大なトランクなんてのもあったなあ。
 でも、よく考えてみたら、映画のほうでもどうして殺人事件が起こったのか、動機が思い出せない。推理小説ファンはファンでも、ただのファンでしかないので、話が面白ければ細かいことは気にしないのである。


8.AKT
 最古のツィムルマン劇だというこの作品の題名は日本語にすると「裸婦画」とでもなるだろうか。作品が生まれたのは1967年、劇場での公演がテレビ放送用に撮影されたのは1998年で、30年も間が開いている。劇中劇の登場人物には画家とその妻がいるので、画家が描いた妻の裸像が主要なテーマになっているのかな。
 問題はツィムルマン劇場のメンバーは皆男性だというところで、江戸時代の歌舞伎と同様に女性の役も男性が演じるのである。歌舞伎との違いは、この作品の画家の妻だけではないけれども、女性を演じる役者がまともな女装をしない点である。服は女物になり、場合によっては長い髪の鬘をかぶることもあるけど、それ以外は男のまま演じるのである。ひげを生やしている役者もひげはそのまま女性を演じるし、声もあからさまに男が女性の声色を使っていることがわかるものになっている。

 チェコテレビの解説は歌と踊りのある劇というけど、歌は覚えているけど踊るシーンかあったかな? とまれ、この作中劇は、ツィムルマンの残したいくつかの詩篇と、「画家とその妻が、自分たちの人生について語り、どうして画家の作品が完成しなかったのかという質問をするために三人の男を招く」という文から再現されたものだという。
 うーん。さすがツィムルマンというべきか。なければとりあえず作ってしまえとか、別なもので代用してしまえというのは極めて典型的なチェコである。
2020年7月29日24時。













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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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