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2020年03月11日
バビシュ首相迷走か(三月八日)
ビソチナ地方のノベー・ムニェスト・ナ・モラビェで行われていたバイアスロンのワールドカップが終わった。大会そのものよりも、政府の突然の決定によって無観客で行われたことの方が話題になっている。疑問なのは、感染の恐れが少ないとされる屋外での競技を無観客で行うことを求めておきながら、アイスホッケーなどの屋内の競技では普通に観客を入れての試合を許可していることである。
今週末は、金曜と土曜日を使って、ブラチスラバで、すっかり魅力をなくしたデビスカップの予選? が行われ、連邦ダービー、つまりチェコとスロバキアが対戦したのだが、観客は意外と少なく、金曜日は5割ほどの入りで、土曜日はさらに少ないように見えた。アナウンサーの話では、入場券は9割以上売れており、コロナウイルスの感染を恐れて来場を控えた人が多かったのかもしれないという。
警戒する人は、禁止されなくても自ら行かないことを選ぶもので、能天気な人は熱があろうと試合を見に出かけるのだろう。バイアスロンの大会だって、立ち入り禁止を示した柵の中に入った観客はいなかったが、柵の外側からレースを見て、遠くから声援を送る人たちはかなりの数存在した。日本だったらそんな観客まで追い払いかねないけど、立ち入り禁止区間外ということで黙認されていた。中継では大会関係者が、そんな熱心な観客に感謝の言葉を述べていた。
土曜日のサッカーのチェコリーグの試合では、ホームで試合をしたプルゼニュがファンに対して、熱などの症状が出ている人は無理して見に来ないでくれと呼びかけていた。対戦相手がチェスケー・ブデヨビツェで観客数八千人ほどというのは、呼びかけの効果があったのかどうかよくわからないけど、屋外で行われるスポーツならこのぐらいの対応でよかったんじゃないかとは思う。
バイアスロンを無観客にして、サッカーを無観客にしなかった理由としては、国際大会であるバイアスロンには、感染者が多発しているイタリアから観客を入国させたくなかったという事情があって、サッカーのほうは、日曜日にスラビア対スパルタのプラハダービーが行われるので無観客にしたら両チームのファンが暴れて収拾がつかなくなるという恐れがあったのかもしれない。コロナウイルスとスパルタ、スラビアファンの暴動、どちらが怖いかと言われたら断然後者である。バイアスロンのほうは、無策を批判されて発作的に決めたようにも思えるけど。
専門家たちにポピュリズムの発露だと批判された北イタリアとプラハを結ぶ飛行機の便を停止した件は、EUでもやりすぎだと批判されたらしい。そして、木曜日には、北イタリアに滞在して土曜日以降にチェコに帰国する人には、無条件で14日間の自宅待機を命じるという対策を決定した。違反した場合は最大300万コルナの罰金が科される。これも厳しすぎるという批判を浴びている。この手の対策は、やってもやらなくても批判されるものだが、突然すぎると批判する人の気持ちはわからなくない。感染者が出たらとか、人数が何人を越えたらという条件付きで事前に発表しておけば混乱は少なかっただろうに。
週明けからはさらに対策を進めて、イタリアから戻ってくる人が使う可能性の高い、オーストリア、ドイツとの国境の通過点で、警察官や税関職員、消防隊員などを動員して検問を設け、入国者のチェックをすることになっている。最初は、入国後どうするべきなのかが書かれたビラを配ると言っていたのだが、最終的には、選ばれた人に対して検温も行うことになっていた。熱が高い人を見つけたらそのまま病院で隔離するのだろうか。ビラの配布は鉄道の国際列車の中でも行われるらしい。ゴミが増えるだけだろうけど。
この14日間の自宅待機の義務は、チェコ国民と外国人で永住許可を持ってチェコに在住している人を対象にしている。だから、旅行者や留学生などは対象とならない。留学生は留学先の学校が何らかの対応をするだろうけど、旅行者どうするんだろう。この状況で北イタリアから旅行に出るというイタリア人はいないと思うけど、イタリアに留学している外国人や旅行客なら、イタリアを逃げ出してよその国にと動いても不思議はない。
イタリアでの休暇から帰ってきた医師がコロナウイルス感染が明らかになり、症状が出る前の二日にわたって、通常通り診察を行っていたというニュースもある。この件に関しては、日本だと大批判になりそうだけど、診察をしていたのは症状が出る前で、症状が出た時点ですぐに診察をやめて、保健所に連絡をして検査を受けているのだから、その行動には何の問題もないという判断が下されている。診察に際しても、念のために患者との距離を取っていたなんて話もある。この辺の対応はさすが専門家である。
実際問題、イタリアから帰ってきた医者を、自動的に全員自宅待機にして診察させなかったら、チェコの医療体制は崩壊しかねない。お金持ちになったチェコの人たちにとって、子供の春休みを利用して、北イタリアなどのアルプスのスキー場に出かけるのは、ごく普通のことになっていて、医療関係者も例外ではない。ということで、医療関係者に関しては、今回の自宅待機命令の例外とされた。他には飛行機のパイロットと長距離トラックの運転手が例外扱いされる。出入りのたびに二週間も自宅待機をしていたのでは、輸送システムが破たんしかねないということなのだろう。
自宅待機命令を決めたのがバビシュ氏なら、例外規定を押し込んだのは厚生省などの医療関係者だと見る。厚生省は事の初めから、チェコ人の感染者を出さないことよりも、チェコ国内での感染をできるだけ出さないことと、医療システムを崩壊させないことを目的として対策を取っているように見える。チェコの感染が発覚した人の中には、病院に入院せずに自宅で隔離されて療養している人たちもいるのである。恐らくは症状が全くないか、きわめて軽く、家族全員が感染したため、家から出なければ感染者を増やす恐れがないと判断された場合だけだろうけど。このまま快癒すれば、医療機関の負担は小さなもので済む。
現時点で感染者31人、重症者0というのは、対策がうまくいっていると言ってよさそうである。あとはバビシュ首相とゼマン大統領が批判に対する条件反射でヒステリックな対策を言い出さないことを祈っておこう。
2020年3月9日17時。
今日、火曜日になって状況が大きく変わった。プラハ市内のタクシー運転手が、恐らくイタリアからチェコに入った人を乗せた際にだろうが、コロナウイルスに感染したことが明らかになったのである。しかも発熱などの症状が出てからも何日か仕事を続け客を運んだという。ということは、チェコ国内で感染の輪が広がる可能性が高いということである。
それで、バビシュ首相は、日本の安倍総理大臣に倣って、いきなり学校の閉鎖を決めた。大学も授業を中止するというから安倍首相よりも上である。ただ、同時に行ける人は仕事に行くように呼びかけているので、子供たちを預ける幼稚園や託児所は閉鎖しないようだ。
現時点では、一律閉鎖じゃなくて、熱があったりして体調が悪い奴は、仕事にも学校にも行かないでうちで寝ていろぐらいの対応でいいと思うんだけどなあ。スロバキアで感染者が出た段階で、すぐに学校閉鎖の命令が出たのに慌てて対応したのかな。
同時に100人以上の人が集まるようなイベントの開催も禁止された。多くのスポーツでリーグ戦も佳境に向かうこの時期、無観客でなら開催できるのだろうか。ハンドボールとアイスホッケーの試合は無観客で開催された。とにかくプラハダービーの後でよかったという感想しかない。
これまで、プラハとウースティー・ナド・ラベム地方でしか出ていなかった感染者が、すりーん地方とオロモウツ地方でも新たに確認された。オロモウツ地方の感染者は外資系の会社の社員という話だが、日系企業ではないことを願っておこう。
感染者数の合計は、61人で、今日一日で20人以上増えた。
3月10日追記。
2020年03月10日
チャペクのエッセイなど(三月七日)
コロナウイルス関係の話が続いてしまったけれども、久しぶりに最近続けているシリーズに戻ろう。日本語に翻訳されたチェコ文学の紹介である。今回もまたチャペクの作品。
動物文学とも児童文学とも分類できた『ダーシェンカ』を除けば、カレル・チャペクの戯曲、小説以外の作品で、最初に日本語訳されたのは、『Zahradníkův rok』(1929)である。「Zahradník」は「園芸家」と訳されることが多いが、作家のチャペクの趣味の一つは園芸だったようだ。動物を飼ったり写真を撮ったり、当時の人としては多趣味な、多才な人だったのだろう。
園芸、というよりは庭弄りは、チャペクに限らずチェコの人たちにとっては重要な趣味の一つである。共産党政権化でさえ、都市の住民の懐柔のために、郊外や田舎に別荘地を整備ししていたらしいし、別荘に手が出ない人向けには小屋付きの庭が準備されていたという。週末になると別荘や庭に出かけて畑仕事をしたり庭弄りをしたりというのが、都市部に住むチェコ人にとっては理想の生活だったのだ。
田舎に住んでいる人は大抵大きな庭付きの家に住み、一番奥には鶏を飼い、その手前で野菜を育てたり、果樹を育てたりしている。自宅の庭で取れた、否、庭に落ちた果物を拾い集めて発酵させ、蒸留所に持っていくのがスリボビツェなど自家製の蒸留酒の本来の造り方である。スリボビツェを造るのはモラビアが中心で、ボヘミアの山間部の出身のチャペクが造っていたかどうかは知らないけど。
そんな、庭好きのチェコ人の特性が、第二次世界大戦以前にもさかのぼることを証明するのが、チャペクのこの著作なのだが、実はチェコ人だけではなく、オーストリア、ドイツなどの人々にも同じような傾向がありそうである。チェコ中にチェーン店を持つ園芸用品の専門店は、ドイツ系のものばかりだし、旧神聖ローマ帝国全域に広まる趣味と考えたほうがいいかもしれない。ヨーロッパ全体というのは話の都合上考えないことにする。
日本語訳の刊行は、国会図書館で確認できる限り以下のものがある。
@ 小松太郎訳『園芸家12カ月』(誠文堂新光社、1959)
小松太郎訳としては、『世界少年少女文学全集』(東京創元社、1958)に収録された「ダーシェンカ」に続くものということになる。チェコ語ではなく、英語かドイツ語からの翻訳だったはずである。ドイツ語だったかな。小松太郎ってドイツの児童文学者のケストナーの作品もいくつか訳していたような気もする。
この小松訳は、1975年に中央公論社から再刊され、96年には中公文庫に収録された。その後改版され、現在でも手に入るから息の長い翻訳作品である。この文庫版の刊行と同時期に恒文社から「エッセイ選集」の刊行が始まり、以後続々とエッセイ集が刊行されることになる。その中には日本で翻訳者が収録する作品を選んで編集したものも多い。
A飯島周編訳『園芸家の一年』(カレル・チャペック<エッセイ選集> 4、恒文社、1997)
もともと「エッセイ選集」の一冊として刊行されたこの飯島訳は、2008年には新装版として単独で再刊され、2015年にはチャペクのエッセイを積極的に刊行している平凡社ライブラリーに収められて現在でも手に入る。
B 栗栖茜訳『園芸家の十二ケ月』(東京、海山社、2013)
価格:2,200円 |
1996年から刊行が始まった「カレル・チャペック<エッセイ選集>」(恒文社)には以下の作品が収録された。
1飯島周編訳『チェコスロヴァキアめぐり』(1996)
原題は『Obrázky z domova』でチェコ語版のウィキペディアによれば、チェコスロバキアでの刊行は、1953年。第二次世界大戦後に編集されて刊行されたもののようだ。「小説選集」とは違って「エッセイ選集」は親本はすでに絶版になっているが、2007年に筑摩文庫から「カレル・チャペック旅行記コレクション」の一冊つとして再刊された。こちらも紙の本は手に入らないが、電子書籍版(2010)が今でも購入できる。
2飯島周編訳『イギリスだより』(1996)
原典は1923年に刊行された『Anglické listy』。飯島訳は、雑誌「ユリイカ」(青土社)の1995年12月号に一部紹介されている。これが初出といえば初出。その後筑摩文庫版(2007)とその電子書籍版(2010)が刊行されたのは『チェコスロヴァキアめぐり』と同じ。
また伊藤廣里訳『イギリス便り』が2001年に近代文芸社から刊行されているが、英語訳からの翻訳である。出版社の性質を考えると自費出版に近いものだったのかもしれない。
3飯島周編訳『犬と猫』(1996)
チャペクが亡くなった1939年に刊行された『Měl jsem psa a kočku』の翻訳は、同年に石川達夫訳『チャペックの犬と猫のお話』が河出書房新社から刊行されている。売れ行きも悪くなかったのか98年には文庫化されている。一方飯島訳は再刊されることはなかった。
4飯島周編訳『園芸家の一年』
5飯島周編訳『スペイン旅行記』(1997)
原典は、1930年刊の『Výlet do Španěl』。その後筑摩文庫版(2007)とその電子書籍版(2010)が刊行されたのは『チェコスロヴァキアめぐり』と同じ。
6飯島周編訳『新聞・映画・芝居をつくる』(1997)
原典は『Jak se co dělá』(1938)。「エッセイ選集」6冊の中で、現在新本、電子書籍の形で手に入れることのできない唯一の作品となっている。ただし、他のチャペックのエッセイ選集の中に、一部が収められている可能性はある。
筑摩文庫の「カレル・チャペック旅行記コレクション」には、さらに以下の二冊が収められ、現在では電子書籍で入手可能になっている。
飯島周編訳『オランダ絵図』
飯島周編訳『北欧旅行記』
飯島周編訳のチャペックのエッセイ集は、平凡社ライブラリーに以下の二冊が収められており、どちらも現在では電子書籍版が手に入る。
飯島周編訳『いろいろな人たち : チャペック・エッセイ集』(1995)
飯島周編訳『未来からの手紙: チャペック・エッセイ集』(1996)
田才訳のチャペク作品についてはまた稿を改める。
2020年3月7日24時。
2020年03月09日
言葉のもたらすもの(三月六日)
日本のコロナウイルス関係の報道を見ていて気になることはいくつもあるが、その一つが、保健所(だと思う)が検査を求める人の要求を拒否したことに対する批判である。感染症対策を担う役所には、誰を検査して検査しないかを決める権限が与えられているのではないのか。その権限に基づいて拒否したところで、批判を受けるいわれはないはずである。
検査と言ったり書いたりするのは気楽にできるけれども、この手のウイルスの検査には、特に危険視されているウイルスの場合には、手間暇がかかるものであり、検査できる数には限界がある。感染者が多発している地域から帰国したとか、家族から感染者が出たとか明確な感染を疑えるような理由がある場合はともかく、ある漠然とした不安から検査を求める暇人まで検査していたのでは、本当に必要な人の検査ができなくなる恐れがある。
もちろん、拒否されてなお執拗に検査を求める人の気持ちも全く理解できない。以前も書いたが特効薬があるのなら、検査を受ける、それこそ全員が検査を受ける価値はある。しかし、この病気の場合には陽性でも陰性でも風邪薬を飲んで寝ているしかないのである。病気を治すために、そして感染の拡大を防ぐために大切なことは、熱などの症状がでたら仕事や学校を休むことで、行政の仕事は片っ端から検査をすることではなく、病気の人が仕事を休んでも困らない体制作りである。
しかも、チェコでも一度陰性と判定された人が、再検査で陽性になった例も二件あるし、検査で陰性になったからといってそれで無罪放免というわけでもない。隔離された病院から退院する前にも院生の確認が必要になるなど、本当に疑いのある人に関しては複数回の検査が必要になるのだから、無駄な検査をしている余裕はないのである。
こういう検査好きの日本人の振る舞いの中には、医者に行けば何とかなるとか、医者に行けば大丈夫という思い込みがあるのだろうか。その思い込み自体は、日本の医療制度が高いレベルで機能してきたおかげだと思えば、喜ぶべきことなのだろうが、病気について自分で考えずに医者任せにし、マスコミが垂れ流す真よりは偽のほうが多い情報を信じ込んでしまう原因にもなっていそうだ。
ヒステリックなまでのこの病気に対する恐怖を作り出したのが、流行し始めのころの中国武漢の病院の惨状だったのは間違いない。それが、40パーセントの感染者は自覚症状がないとか、80パーセントは軽症で終わるとか、病気の軽さを示す情報が出てきても収まらないのはなぜなのだろう。感染が広まりやすい理由として、症状の軽さを指摘する人がいるのもその一因だろうが、最大の問題は、報道で使われている言葉にあるような気がする。
このウイルスの感染力に関して、よく使われる言葉が「濃厚接触」という漢字を見れば意味は理解できそうな言葉である。人と人の接触だと考えれば、スパイ映画でもない限り、体の一部が触れ合うことであり、それに濃厚という言葉付いているのだから、抱き合ったり、キスしたり、もしくはエイズのように性行為を通して感染するのだろうと理解した。当初の死者が続出しているような情報は、簡単に感染しない病気の徴候を表わしているように見えたし。
それが、全く間違っていたことを知ったときには、開いた口がふさがらなかった。医学の専門家が、正確性を確保するために、専門書で一般の認識とは違う意味で言葉を使うことまで否定する気はない。報道する連中はそれを、どうして一般的なわかりやすい表現に置き換えて伝えないのだろうか。専門家の言葉の垂れ流しにはマスコミなど不要である。専門家に対してわかりやすい言葉を使うよう求めるのも報道の役割ではないのか。恐らくは、非日常的な言葉の使い方をすることで、読者、視聴者に強い印象、具体的には恐怖を与えようとしているのだろう。
最終的に、濃厚接触というのは、患者と同じ部屋の空気を吸うことだと理解したのだが、これって完全にインフルエンザの際に言われることと同じじゃないか。学校の教室にインフルエンザに罹った子供がいた場合に、その子供と同じ教室の空気を吸った子供たちの多くが連鎖的に感染するのも濃厚接触というのだろうか。現象としては同じだと思うのだが、こんな言葉聞いたこともなければ見たこともない。
もう一つ気になったのはクラスターという表現。これも真っ先に思い浮かぶのは、パソコンのハードディスクに関する言葉だし、よくわからないけどクラスター爆弾とかいうものもあった気がする。そんな危険なもの(兵器はみな危険なものである)や、PC用語が病気に使われるというのも、よくわからない。この既知の言葉が違う意味や文脈で使われているというのも、恐れを増幅しているのだろう。
専門家の発言を、わかりやすくかみ砕いて一般の人に伝えるのがマスコミの役割のはずなのに、日本のマスコミは、事件が起こるたびに、どれだけ専門用語をそのまま使うかで競い合っているように見える。それによって劇的な効果を狙っているのだろうが、その役割放棄なやり口が、使い方が間違っていることもままあるし、デマを生み、パニックをもたらしている。
差別に関して、相手を知らないから差別するんだということを言う人がいる。気持ちはわかるが完全には正しくない。相手を全く、存在すら知らなければ差別なんて起こりようはない。問題は、中途半端な、断片的な知識しか持たないところにある。これは恐れに関しても同じで、何も知らなければ恐れることは何もない。中途半端な知識があるから、何となく恐れてしまうのである。
今回のコロナウイルスの騒動も、中途半端な知識しかない非専門家が、専門家でもないのに専門用語をそのまま使って、中途半端な情報をまき散らし続けているところに最大の問題がある。正直、日本のテレビや新聞でのコロナウイルスは恐ろしいという報道を真に受けてしまうのも信じられないのだが、誤った情報でも間断なく絶えず浴び続けているとその人の知性に関係なく信じてしまうものなのかもしれない。ナチスの手法がこれじゃなかったっけ? チェコに住んでいたよかったと思うのはこんなときである。
2020年3月6日24時。
2020年03月08日
ゼマン大統領と側近の愚行(三月五日)
少し前、イタリアで新型のコロナウイルスの感染が爆発的に広がり始め、それがチェコにも到達するのは時間の問題だと言われていたころ、ゼマン大統領の側近二人が中国を訪問した。現在はチェコと中国を結ぶ直行便は停止されているから、政府特別機を出したのではないかと思うのだが、この時期にそこまでしてわざわざ出かける必要があったのか大きな疑問である。
さらにチェコの人たちをいらだたせたのは、感染のリスクが高い地域として指定されている中国から帰ってきたのだから、14日間の自宅待機を命じられたはずなのに、二人のうちの一人が平然としてプラハ市内のレストランで食事をしているところが目撃されたことである。これは最大で50万コルナの罰金を科されてもおかしくないという人もいたようだが、ゼマン大統領の側近にそんなものが科されるはずはない。
中国に行ったから感染したはずだという短絡的な決めつけは危険だが、国全体が感染の侵入と拡大に神経質になっている時期に中国に出かけた上で、国の命令を大統領の側近が無視するというのは、理解できることではない。今回のウイルス感染症が大して危険ではないというのと、自宅待機命令を無視するというのは別の話である。自宅待機が一番強い命令で義務だったのか、軽めの要請だったのかは判然としないのだけど、行き先が中国だったことを考えると命令だったはずである。
そして、今度は、チェコでコロナウイルス感染者が出始めている中、ゼマン大統領本人が中国を訪問するという。何でも中国政府が、旧共産圏の中欧と呼ばれる地域の国々の代表を集めて会議を開催するらしいのである。ゼマン大統領は、この会議には、中国が約束したほどの投資をチェコにもたらしていないことに抗議する意味を込めて欠席すると言っていたのだが、いつの間にか気が変わって出席することにしたらしい。
実はこの会議の出欠をめぐって交渉するために中国に出向いていたのが、上記の側近二人だというのだが、わざわざ出かける必要があったのか。どうせ、中国からの投資を増やしたければプラハの反中国の動きを押さえろとか、上院議長の台湾訪問を阻止しろとか、ろくでもない条件を押し付けられて帰ってきたに決まっている。ゼマン大統領の仕事は北京でその条件に署名することである。藤氏のためなら内政干渉さえ受け入れるってのがヨーロッパ的民主主義なのかねえ。
いまだに新型ウイルスの病禍が治まらない中、外国から代表団を呼んで国際会議を行うという中国の厚顔無恥な行動にはあきれ果てるしかないが、よく考えれば中華帝国が朝貢国の事情を斟酌するわけはないのだ。朝貢を認める代わりに、倭寇を鎮圧しろと命じられた足利将軍家と同じような立場にゼマン大統領は立たされているわけだ。今の中国にそんな権利があるわけはないのだが、投資と中国に進出した企業を人質にして恫喝してくるのである。
かつての大明帝国は、朝貢でもたらされた物品の価値以上のものを下賜していたから、言われたとおりに倭寇退治をするだけの価値はなくはなかったのだろうが、現在の共産帝国が朝貢国に得た利益以上のものを与えるとも思えない。少なくとも新型ウイルスに感染するリスクを冒してまで足を運ぶ意味はないはずである。ゼマン大統領は、年齢といい、持病といい、感染した場合に重症化するリスクが高いのだし。
側近の行動を見ていると、李下に冠を正さずなんて意識は、大統領には求められそうもないから、中国から帰国しても、14日間の自宅待機なんか無視して、あちこち出歩きそうである。ゼマン大統領は次の選挙には出られないのだから、人気取りのために中国からの投資を増やす必要はないと思うのだけど。下手に中国資本を招き入れると、中国に食い物にされてチェコ経済がぼろぼろになる未来しか見えない。
この日、チェコでは新たに4件の感染が確認され、感染者は全部で12人となった。全員軽症以下で中にはすでに症状が消えた人もいるらしいが、予定どおり最低でも14日間は病院に隔離され続けるようだ。しばらくは増え続けるのだろうなあ。
2020年3月5日24時、
2020年03月07日
チェコのコロナウイルス感染症続報(三月四日)
日曜日に最初の三人の患者が確認された後、月曜日に一人、火曜日に一人、水曜日に三人追加されて現時点では全部で八人の患者が確認され、プラハとウースティー・ナド・ラベムの病院に隔離されている。いずれも軽症で、すでに熱が引いて快癒に向かっているようで、現時点ではチェコでこの病気で亡くなる人は出そうにない。最初から症状が全くないと言う人もいたらしい。
すでに書いた件でも新たに明らかになった事実もあるので追加しておく。新しい情報が出てくるのは、チェコテレビの取材だけではなく、保健所の職員による探偵まがいの調査のおかげでもあるらしい。その調査の結果もあって、感染者と同じバスに乗っていた人など全部で600人以上の人が、自宅待機などの隔離状態に置かれているという。
一件目のプラハの大学の先生は、農大学に勤めているようである。ということはイタリアで参加した学会も農学関係のものであるはずで、これが恐らく月曜日に、ブルノのメンデル農業大学が、今週と来週、二週間の授業をすべて休校にすることを決定した理由であろう。もしかしたら学生か教員が学会に参加していたことが判明したのかもしれない。
二件目のイタリアから来ているアメリカ人学生については、さらにいくつかのことが明らかになった。一つは同行していた二人の留学生も病院に収容されていたようで、そのうちの一人が検査で陽性となりチェコでは五人目の感染者となった。一説によると、最初の検査では陰性だったのが、二日後火曜日の検査で陽性となったのだという。これをチェコで感染したというべきなのかは微妙である。
またこの留学生三人組がブルノ滞在中に市営病院に出向いて検査を求めていたという事実が明らかになった。病院の人の話では、受け付けた人が、その病院では検査が行なわれていないことを説明し、検査が行なわれている6キロほど離れた病院に行くまでの間に感染を広げないようにマスクなどの装備を取りに行っている間に姿を消したのだという。同日のうちにプラハに移動しているから、コロナウイルスの件がなければ病院に行くほどの症状ではなかったのだろう。
三件目のウースティーからプラハに移送された患者だが、この患者とイタリアのスキーリゾートで同じホテルの同じ階に泊まっていた人の中から陽性反応の人が出た。この人は日曜日から病院に収容されていて感染が確認されたのは月曜日で、四人目の患者だということになる。この件に関しては、最初はチェコ国内での感染かなどという憶測も流れていた。その後、イタリア滞在中にベネチアに足を伸ばしていたことも明らかにされていた。別の人だったかもしれんけど。
その四件目の感染者の家族二人が、六人目と七人目の感染者である。一人は発熱などの症状があっての検査だったようだが、もう一人は全く健康で念のために検査をしたら陽性になったというから、自覚症状のない感染者としては、チェコ国内初の事例となる。以上の四人はウースティーの病院で検査を受けたが、デチーンというドイツとの国境の町に住んでいる人たちらしい。
最後の八件目に関して最初に情報が流れ出たのは今朝のことで、前の二人よりも早いのだが、公式に感染が認められたのはついさっきのことなので、八人目ということにする。この感染者に関しては、スタンドプレーが大好きなプラハ市長が、不確かな情報をSNSで拡散したことで、混乱を巻き起こした。公式な発表がある前に、感染者の子供が月曜日と火曜日は小学校に通っていたなんて情報を、しかもSNSで流したのは無責任以外の何物でもない。
八件目の感染者が子供たちと一緒に出かけていたのは北イタリアは北イタリアでも、まだ危険地域に指定されていない地域だったので、特に自宅待機の指示も受けていなかった。ということは子供たちを学校に行かせたのには何の問題もないのである。危険地域ではなかったからか、最初は民間の検査機関で検査を受けて、陽性であることが判明してから病院に向かったようだ。この件に関して、国の検査機関、つまりは国立病院で検査を拒否されたから民間の機関に行ったという話も出ていたが、確認はされていない。
子供ともども病院に入ってから改めて検査され、こちらでも陽性が確認されたことで、公式に感染者として認められた。同時に検査を受けた子供たちは陰性だったようだが、念のために同じ病院に隔離されるようである。子供たちが通っている小学校は木曜日は臨時休校で、以後の対応は未定とのこと。
幸いにこれまで重症化した患者は一人も出ていないが、これは運がいいからだけではなく、重症化しやすいとされる高齢者や持病のある人が、北イタリアにあまり出かけていないおかげでもあろう。老人ホームや病院の入院病棟では外部からの訪問を全面禁止するという対策も取っているが、これは特別なことではなく、毎年インフルエンザの流行する時期には適用されている対策だという。高齢者や病人を感染させるのが危険だというのはインフルエンザも今回のコロナウイルスも変わらないのである。
2020年3月4日25時。
2020年03月06日
チェコテレビのコロナウイルス関係の報道(三月三日)
民放のノバやプリマが今回のコロナウイルスをめぐる騒ぎに対してどんな報道をしているのかは、特に興味もないから知らないが、チェコテレビでは極めて正確な報道がなされている。2011年の福島原子力発電所の爆発の際もそうだったけれども、日本とは違って、アナウンサーや、テレビ局の自称専門家、タレント上がりのコメンテーターなんかが好き勝手に自分の見解を垂れ流したり、不正確な情報をもとに政府を批判したりすることはなく、政治家を除けば、常に専門家、しかも理論家ではなく現場で働く専門家にしか見解を語らせていない。
ニュースでは、中国の病院の様子や、チェコで感染者が出たときの対応などを報道するので、どうしても劇的な印象を与えることになってしまう。それで、不安を感じる人もいそうである。ただ、意見を求められた専門家が、病気を過剰に大きく評価して恐怖をあおるような発言をするのは聞いたことがない。当初は情報が不足しているので、はっきりしたことは言えないという答えが多く、現時点では学校の閉鎖などの全国的な対策が必要なレベルの病気でないという答えをよく聞く。
ニュースだけでは細かい情報が伝わらないからか、チェコテレビのニュースチャンネルでは、4人の専門家を呼んで、視聴者のさまざま質問に答える形式の番組を放送していた。質問者の中には、病気を恐れる人、逆に恐れない人など様々な人がいたが、アナウンサーは感情的に質問者の気持ちを代弁することはなく、専門家に質問を割り振りする司会の役に徹していた。
呼ばれた専門家は、二人は医療関係で、保健所で防疫対策にあたっている伝染病の専門家と、ウイルス性の感染症の専門家。こちらがどこで仕事をしているかは確認しなかった。三人目は旅行業界の代表者でイタリアへの旅行のキャンセル云々について答えるために呼ばれていた。四人目は労使関係を専門とする弁護士で、職場でのコロナウイルス感染症関係で起こりうる問題について答えていた。重要なのは、自分の専門分野以外のことに嘴を挟む人がいなかったことである。
病気そのものに関しては、医療関係の専門家二人が口をそろえて、そんなに大騒ぎするほどの病気ではないと語っていた。アナウンサーがちょっと死亡率の高いインフルエンザのようなものかと尋ねると、それはそうだけど、その死亡率も、WHOが出した3.4パーセントという数字がどこまで正しいかわからないと言って説明を続けた。
それによると、現時点でも感染者の約40パーセントは、症状が出ない感染者だと言われている。その場合、せいぜい朝起きたときに何かだるいなと思う程度で済んでしまう。そんな人が医者に行くわけもなく、自覚症状のない感染者が実際にどのぐらいいるかはわからないから、3.4パーセントという数字は最大に見積もったときのもので、実際にはずっと低い可能性もあるというのである。
これは毎年流行するインフルエンザも同様で、ただ、インフルエンザの場合には毎年のデータの蓄積があるから、ある程度実際の感染者数を推測することができるけど、今回のコロナウイルスは新しい病気のために過去のデータがないので推定も難しいらしい。ということはこちらが求める比較も難しいということか、残念。
新しい病気だということは、免疫を持つ人が皆無だということである。これが、毎年流行を起こして免疫を持つ人の多いインフルエンザよりも感染者数が増えやすく、広がるスピードが高い理由だという。だから、ある程度特別な対策が必要なんだと、普通のインフルエンザと同じ扱いでいいんじゃないのという視聴者からの質問に、答えていた。感染が急速に広がるのを防ぐのも大切だけど、次に発生したときのために情報を集めることも大事なんだと理解するべきか。
日本だとこういう番組に対して、政府の圧力が云々と言いだす人が出るのだろうが、それはありえない。番組の初めの方で、政府のこれまでの対策について聞かれたときに、他に移動手段のない中国、韓国への飛行機の便を停止したのはともかく、陸続きのプラハと北イタリアの空港を結ぶ便を停止にしたのは、何の意味もないと切って捨てていた。そして、四人とも異口同音に、ポピュリズムの発露だと強く批判していたのだ。チェコで行われるバイアスロンのワールドカップも無観客で行うことになったしなあ。政府としても何もしないというわけにはいかないのだろうけど、無駄なことをである。
この番組を通して、インフルエンザに毛が生えたようなものというこちらの理解が正しいことが確認できたのがありがたい。実はチェコで患者が出たというニュースにちょっと不安を感じたのだけど、きれいさっぱり消え去った。後は手洗いうがいを徹底して健康的な生活をするだけである。大事なのは夜更かしを避けることだな。軽い高血圧ぐらいなら持病にはならないだろうしさ。
2020年3月4日19時。
そう言えば、医療関係者二人が、WHOが発表した、アルコールと塩素ではウイルスは殺せないという情報に驚いたと言っていたのが印象的だった。口ぶりからは、あんまり信じていなさそうな様子が読み取れた。この手の国際機関は、国連もそうだしIOCもそうだけど、設立当初の存在意義を失って腐りはていているからなあ。
特別な病気ではなく、今後とも付き合っていかなければならない、普通のウイルス性感染症だと理解する必要があると言っていたのも覚えている。
3月5日追記。
2020年03月05日
スロバキア国会議員選挙(三月二日)
新型コロナウイルスの感染者が出たというニュースの陰に隠れてしまったが、本来この週末のニュースの中心になるはずだったのは、スロバキアの国会議員の選挙である。スロバキアは一院制のため、この選挙で勝った政党から首相が輩出されることになる。長期にわたって首相を務めてきたスメル党のフィツォ氏が、ジャーナリスト暗殺事件の影響で退陣を余儀なくされて初めての、そして、スロバキアで初の女性大統領が誕生して初めての選挙だっただけに大きな注目を集めていた。
選挙前に何度かチェコテレビのニュースで紹介された世論調査の結果から、スメル党が第一党の座を失うことが予想され、極右とされるコトレバ氏の政党われらがスロバキア党が大躍進する可能性もあると危惧されていた。意外と低調だったのは、昨年大統領の任期を終えたキスカ氏が、本格的な政界進出のために設立した人々のために党である。
スロバキアの選挙については詳しいことは知らないのだが、チェコ同様に比例代表制で行なわれる。選挙日は日曜だったと思う。いや、土曜日かもしれない。この辺すらあいまいなのはニュース番組がコロナウイルス感染者のニュースに席巻されたからである。当選者を出すために必要なのは、5パーセントというのはチェコと同じだが、二つの政党が合併するのではなく、共同で候補者を立てて名簿を作成する場合には、倍の10パーセントではなく、7パーセントの得票率で議席を獲得することができる。ここはチェコよりも規定が緩くなっている。
総議席数は150で、今回の選挙には、全部で25の団体が候補者を立てたようだ。スロバキアの政党は以前も紹介したが、よくわからない名前のものが非常に多く、略称としていくつかの言葉の頭文字を並べたものを使っているので、リストを見ても正直どんな政党かわからない。半分以上は議席を獲得する可能性はまったくない泡沫政党なのだろうけど。
今回は注目を集めた選挙だったからか、投票率も高めで、過去最高とはならなかったが、前回2016年の選挙よりも高く65.8パーセント。ほぼ有権者の3分の2が投票に向かったことになる。得票率5パーセントの壁を越えて議席を獲得した政党が6、5パーセントは越えたけど合同名簿だったために獲得できなかった政党連合が1、議席は獲得できなかったけど得票率が2パーセントを越えたのが6つという結果になった。
第一党になったのは、略称OĽANO党。これなんだっけと過去の記事を確認したら、正式名称は「OBYČAJNÍ ĽUDIA a nezávislé osobnosti」党。強いて訳せば、「一般人と独立した個人」党。25パーセント強の得票率で、53議席を獲得した。前回より34議席増えている。ここの党首のイゴル・マトビッチ氏が大統領から組閣の指示を受けるものと予想されている。
第二党は、18.3パーセントの得票で38議席を獲得したこれまでの与党のスメル党。負けたとはいえ、議席の減少を11議席におさえ、第二党の座は獲得したのだから、惨敗とまでは言えないか。実は社会民主党だというこの党の存在は、左派でリベラルを自称しているからといって汚職や権力の私物化と無縁だとは限らないとい
う実例になっている。日本では左派の汚職は、マスコミによってないことにされることが多いようだけどさ。
第三党は、6議席増やして17議席となった「SME RODINA」党である。ポピュリズムの政党とみなされているらしい。政治の世界でのことなので、目くそ鼻くそを笑うの域を出ないお互いのレッテルの貼りあいの結果だろうけど。得票率は8.24パーセント。
0.3パーセントほどの差で四位になったのが「ĽSNS」。正式名称は「Ľudová strana Naše Slovensko」で、いわゆるコトレバ党である。議席数はここも17。実は、もうちょっと上に行くかなと思っていたのだが、投票率が高かったのが、この極左の政党には悪いほうに出たと考えておく。それでも議席数を3つ増やしているのだから、支持者は徐々に増えていると言えよう。
五番手は、これまで野党第一党だった「SAS」こと、「Sloboda a Solidarita」党で日本語に訳すと「自由と連帯」。6.2パーセントの得票率で13議席。8つも議席を減らして野党第一党の座から陥落した。
最後の議席を獲得した政党はキスカ党とも言うべき「ZA ĽUDI」。5.7パーセントで12の議席を獲得した。新政党であることを考えると大健闘だとも言えるが、大統領時代のキスカ氏の任期を考えると意外と苦戦したという印象である。チャプトバー氏が大統領に選出されたことで、役目が終わったと思われたのかもしれない。フィツォ氏の対抗馬という役割はすでに必要ないといえば言えるのか。
このほかに、PS党とSPOLU党の連合が、 6,96の得票率で、わずか0.04パーセント足りずに議席を逃した。
小政党の乱立で国会が混乱するのを防ぐために、議席獲得のための最低得票率という規定があること自体は悪いことではないと思うのだが、5パーセントというのはちょっと高すぎる壁じゃないかと思う。二党連合で7パーセントで済むスロバキアは10パーセントが要求されるチェコよりはマシだし、連合ではなく別の候補者の立て方をしていれば議席を獲得できていたのだから見通しが甘かったというしかない。
首相選出が予想されるOĽANO党のマトビッチ氏は、「SME RODINA」党、「SAS」党、「ZA ĽUDI」党という三党と連立の交渉をすると見られている。四党あわせて95議席となる。ただ「ZA ĽUDI」党のキスカ氏は、ポピュリスト政党とされることの多い「SME RODINA」党を連立からはずすことを主張しているようである。交渉が決裂した場合、数から言えば「SME RODINA」党を残したほうがいいのだろうが、元大統領のキスカ氏の影響力を考えると「ZA ĽUDI」党を切り捨てるのも難しいという、マトビッチ氏にとっては厄介な状況になっている。
それはともかく、長期的に政権をになってきたスメル党が野党に転落するのは確実で、それ自体は悪いことではないのだけど、新たに政権与党となる政党がどこまで実務能力を持っているかが問題になる。
2020年3月3日25時。
2020年03月04日
チェコでも新型ウイルス感染者(三月一日)
ついに、というか予想通りというか、チェコでも新型コロナウイルスの感染者がでた。ただし一度に三例というのは、こちらの予想を上回っていた。三人とも感染したのは来たイタリアで、現在はプラハの病院の感染症病棟に隔離されており、入院はしているものの命にかかわるような重態にはなっていないという。
一つ目のケースはチェコの感染対策がほぼ完璧にうまく行った。この人はイタリアのウーディネの大学で行なわれた学会に出席して帰国して、しばらくしてから発熱などの症状が出て、さらにイタリアから出席した学会参加者の中から感染者が出たという知らせを受けて、医者だったか保健所だったかにコンタクトを取ったらしい。
その結果、救急車が派遣され、そのまま受け入れ態勢の整っている病院に運び込まれて隔離され、検査の結果陽性が確認できたということのようだ。イタリアからウィーンの空港を経てプラハに戻ったという話もあって、その帰りの経路ではともかく、帰国して以後は他者との接触はほぼなかったようなので、感染の拡大は最小限に収まりそうだ。
二つ目もプラハなのだが、こちらは外国人の旅行者という厄介なケースだった。イタリアのミラノの大学に留学しているアメリカ人の学生が、旅行に来たプラハで具合が悪くなって、病院に行ったら、検査で陽性の反応が出たというのである。幸いなのは外国人なので、普通の開業医ではなく、外国人に英語で対応できる大きな病院に行ったことだった。一つ目のケースで患者が救急車で運び込まれた病院だったかもしれない。
保健所の人の話では、最初から自分はイタリアから来た人間だということを病院の関係者に告げていたため、普通の待合室には入れられず、すぐに特別な対応が取られて隔離入院することになったという。留学先の大学がこの件で閉鎖になったので旅行に出たとかだったらたちが悪いけど、現時点ではそんな情報はない。もしかしたらこちらがウィーン経由でチェコに入ったという話だったかもしれない。
三つ目はウースティー・ナド・ラベムのケースなのだが、こちらは対策があまりうまくいかなかった例になる。北イタリアのスキー場で滞在中に感染したようなのだが、どういう経緯で入院に至ったのかはよくわからなかった。問題は病院に付き添ったという人の情報によると、ウースティーの病院では何人かの他の患者と同じ病室に入れられていたらしいこと。この病院で感染が広がっていなければいいのだけど。その後、このウースティーで陽性が確認された患者も、プラハの他の二人が入院している病院に移送されて隔離されている。
見事に三者三様に分かれたわけだが、感染の拡大が一番心配されるのは、二番目の旅行者のケースだろうか。観光旅行ということで、あちこち巡り歩いているだろうし、レストランや飲み屋などの人が集まる場所にも足を向けたに違いない。プラハだけでなく他の町に立ち寄っている可能性もあるし、今後調査が行われるのだろう。
三つ目のウースティーのケースは、患者が医者か保健所に連絡をして、その指示で病院に向かったのなら問題はないのだが、付き添いの人と一緒にいきなり病院に行ったのであれば、大きな問題である。あれだけ医者に行く前に相談をしろと繰り返しているのに、それを聞き入れない人がいるということになる。新型ウイルスだとは思わなかったという言い訳はできそうだけど、問題になっている北イタリアのスキー場から帰ってきたのに、軽率だという批判は免れ得まい。
チェコでは、子供たちは感染率も、発症率も高くないことから、学校の閉鎖は考えていないようである。ただ、最初のケースで学会参加者から患者が出たことで、大学が独自の判断で大学の閉鎖を行う可能性はある。大学関係者の中に他にも同じ学会に参加した人がいる可能性は高く、それが明らかになり、その中から感染者が出た場合には確実に閉鎖されるだろう。
これからはチェコでも患者の数が増えていくのだろうけど、毎年のインフルエンザのデータがほしい。年ごとにどのくらいの数の人が感染して、どのぐらいの割合で重症化したり肺炎を起こしたりしたのかという数値がないと、今回のウイルスをどのぐらい恐れるのがいいのか判断できない。今はとにかく恐ろしいが先に立ってしまっている。
2020年3月2日11時。
その後、月曜日の夜までに判明したことを追加しておく。三つ目のウースティーのケースを中心に、いくつか誤解があったが、上の記述はそのままにする。昨日の夜のニュースでは、上に書いたように理解できるような報道だったのである。
一つ目のケースの感染者は、大学の先生で、帰国後も自宅待機の指示がなかったので、普通に大学に出勤していたらしい。その後具合が悪くなって先週の水曜日からは医者とコンタクトをとっており、週末に救急車で運ばれたということのようだ。その結果、勤務先の大学が、確か所属する学部の休校を決めた。
二つ目のケースの旅行者は、イタリアから留学生4人組で旅行に出、先ず飛行機でウィーンに行き、そこからバスでハンガリーのブタペストに向かった。1人はブダペストに残ることを選び、3人でブルノにバスで移動。ブルノでいくつかのレストランや飲み屋に行ったことが明らかになっており、ブルノの人たちはちょっとしたパニックになっているようだ。その後、またバスでプラハに移動し、宿を取ってすぐに夕食に出かけ、出かけた先で感染者となった1人が具合が悪くなったために、タクシーを呼んで全員でモトルの病院に向かったらしい。これは現在収容されているのとは違う病院である。
よくわからないのが、同行者2人が病院に収容されて隔離されているかどうかということである。一応、出国しないようにという指示は出されており、病院の管理下にあるような報道だったのだけど、感染者と同じところには隔離できないだろうから、どうなっているのかねえ。症状が出ていなかったら、そのまま収容はされなかいだろうし、検査ぐらいはしたと考えておこう。
三つ目のケースでは、すでに帰国の途中で体調の不良が現れており、保健所と連絡を取った上で、病院に向かったようだ。その後よくわからない理由でプラハに移送されている。上に書いた他の患者と同室だったというのは、ウースティーの病院ではなく、プラハの初日のことのようで、隔離するための病棟の準備が終わっていなかったために、一部屋に入れられていたが、現在ではそれぞれが個室を与えられ、すでに回復して熱すらない状態になっているのだとか。
3月2日追記。
2020年03月03日
チェコのコロナウィルス対策(二月廿九日)
日本の対応にあれこれいちゃもんをつけてばかりではあれなので、チェコの対応を簡単にまとめておこう。新型ウイルス騒動の勃発以来チェコがとった最大の対策は、中国とプラハを結ぶ直行便の停止を決めたことである。あとは感染者が多発している中国やイタリア北部を筆頭に、国外への移動が緊急不可避なものか十分に検討するようになんて指示が出ていたけれども、これは対策と言えるのかな。
フランス政府の特別機で武漢から帰国した人は、直接病院に隔離され感染の有無を確認するための検査を受けたが、それ以外の中国から帰国した人については、疑わしい症状が出た人しか検査は行なわれていない。これはイタリアで患者が大量発生した後も変わっておらず、飛行機で入国した人に関しては空港で症状が出ている人は検査を受けることになっているようだが、それ以外はそのまま帰宅が許されている。
ただ、北イタリアの患者が大領に発生している地方から帰国した人に関しては、地方の保健所が、潜伏期間とされる14日間の自宅待機を命令することがある。そして、厚生省の関係者も、開業医の代表も、自宅待機中に疑わしい症状がでてもかかりつけの医者に行かないようにということを、口を揃えて強調している。まず、電話で医者、もしくは保健所に相談をしろというのである。
これにはいくつか理由があって、一つは発熱などの疑わしい症状がでてもそれが軽症で済んでいる時点では、ウイルス感染の検査が陽性であれ陰性であれ医者にできることには大差がないことである。相談を受けた医者や保健所が必要性を認めた時点で、特別な救急車を出して、万全の対策をとった上で受け入れの準備のできている病院に運び込むことで、更なる感染の可能性を最小限に抑えようと考えているようである。これが100パーセントうまく行くとは限らないけど。
もう一つは、チェコの開業医の特殊事情である。チェコの医療業界では、主に待遇の差の問題で、若手の人材のドイツ、オーストリアへの流出が進んだ結果、開業医の大半が定年退職寸前という状態になっている。感染した場合に重症化する確率の高い高齢者たちが、医療の現場を支えているわけで、そんなところに感染者に大挙して来られたのでは、医者の感染と重症化が多発して、医療システムの崩壊を招きかねないのである。
さらに、旧共産国の福祉大国であるチェコでは、医者の診察料は原則として必要ない。その結果、退職してすることのない高齢者たちが、ささいなことで医者に出向く傾向があり、開業医の待合室にはお年寄りが集まっていることが多い。そんなところに感染者が混ざったら、最悪の事態を想定しなければならなくなる。
以上のようなリスクを考えた上で、チェコでは何が何でも検査をして陽性の感染者をあぶりだそうとは考えていないのだろう。ウイルスに感染して発症したとしても、軽症ですんで、人に移す前に快癒してくれるのが一番いいわけである。軽症で済む人を病院に呼んで検査をして陽性の確認ができても、現時点では統計上の数字が一つ増える以上の意味を持たない。
渡航手段の限られている中国だけでなく、陸続きのイタリアでも患者が大量に発生した以上、チェコでも感染者が出るのは時間の問題である。これで感染者がゼロであり続けたら検査の正当性を疑う必要が出てくる。大切なのは、チェコ国内で感染者を出さないことではなく、感染者が出ても重症化する患者をできるだけ出さないようにすることである。考えてみれば、チェコ政府、いや厚生省は騒動が中国で収まっていた時点で、すでにこのことを見通していたようにも見える。
問題は、厚生大臣が、時に無表情にも思われるレベルで冷静な発言を繰り返している脇で、バビシュ首相がヒステリックに聞こえる発言をし始めたことだろうか。安倍首相と同じように突然思いつきの政策を打ち出して、社会を混乱に陥れるのではないかとちょっと不安である。国民を不安に陥れてストレスを感じさせないためにも、首相は落ち着いた言動をするべきだと思うのだけどなあ。
ところで、3月に日本に行くことになっている知り合いがいるのだが、日本の受け入れ先から、コロナウイルスの問題で日本に来るのが不安なら、延期してもかまわないという連絡をもらったらしい。その人は、自分の体の抵抗力を信じているから不安は全く感じないと言い、仮に日本で病気になったとしてもそれはそれいい経験になると言って予定通り出発するという。これぐらいの気持ちでいた方が、精神の健康にはいいし、精神が健康であれば、病気になる確率も下がるはずである。
2020年3月1日23時。
日曜日に三件、月曜日に一件の感染者が確認され発表された。
3月2日追記。
2020年03月02日
安倍首相のヒステリー発動2(二月廿八日)
日本では、今回の新型ウイルス騒動に関して、それっぽい症状が出ている人を病院で全員検査することを主張している人もいるようだが、個人的には正気を疑う。仮に自分が今日本にいたとして、感染を疑えなくはない症状がでた場合に、医者に行くかというと、断じて否である。仕事には無理して行ってしまうかな。
医者に行かない理由は、簡単に言えば、風邪で熱が出たぐらいで医者に行くかよと言う話なのだけど、そこには一応自分なりのリスク計算がある。風邪にしても今回の新型ウィルスのもたらす病気にしても飲めば治るという特効薬はないわけである。せいぜい市販のものよりは効果の高い症状を抑える薬の処方箋をもらって薬局で買えるようになるだけで、それ以外は医者に行かなかった場合と差はない。
体調が悪い中医者まで出向く行き帰りの体力的な負担を考えると、予約なしでいった場合には待ち時間も長くなるわけだし、家にある市販の薬を飲んで寝てしまった方がましである。医者の診察を受けたからこれで安心と思える人なら話は違うのだろうし、医者に行かなければどうしようもないところまで行けば、タクシー呼んででも行くだろうけどさ。いやその場合は救急車か。
もう一つの問題は、医者、病院というところは、病気の人が集まる場所だということである。言い換えれば、現在チェコでも日本でも避けるように言われている、人がたくさん集まる場所以上に病気をうつされる可能性が高い場所だということになる。たかだか風邪で病院に出かけて待合室で別の病気をもらって帰ってきたなんてことになりかねない。風邪で体が弱っていると他の病気にもかかりやすくなるわけだし。
今回の病気で言えば、仮に一般の患者と、新型ウイルスの感染者の待合室、診察室が別々になっているとしても、新型ウイルスの検査に集まる人が全員感染者というわけではないし、中には病気だと思い込んでいるだけの人さえいる可能性があるのである。そんなところにのこのこと出かけた場合、自分が感染していたら、他の人にうつすことになるし、感染していなかったらうつされることになる。そんな恐ろしいこと、できないと考えるのが普通じゃないのか。
感染を恐れるということであれば、今回首相が休校を要請した学校や、自粛ブームになりつつあるイベントよりも病院にいくことのほうが恐ろしい。学校やイベントの場合は、健康な人が大半なのに対して、病院は健康な人は医療関係者を除けば、ほとんどいないのである。
中国の武漢であんな恐ろしい事態が発生したのも、パニックになった人たちが、本当の感染者も、疑いがあるだけの人もこぞって病院に押し寄せたことが原因ではないのか。その数が病院で対応できる数を大きく超えた結果、大半は待合室どころか廊下にまで放置され、体力と病気に対する抵抗力を失ったことで、重症化し亡くなる人が増えたということのように思われる。犠牲者の中には病院に来たときには感染していなかった人も大いに違いない。
そして、医者など病院関係者に関しては、不眠不休に近い体制での対応を強いられ、体力的にも精神的にも追い詰められたのが、犠牲者を出した原因であろう。過労の状態だと風邪をひきやすく、ひくと症状が重くなりがちで、治るのに時間がかかるというのは、われわれ一般の人間でも実感できるところである。ただでさえ過労の人が多いという医者に過度の負担をかけて医療体制を崩壊させないためにも、風邪ぐらいでは病院には行かないほうがいいのである。
だから、安倍首相はこれまでどおり、マスコミや野党に何を批判されても無視して手をこまねいていればよかったのだ。それをマスコミのヒステリックな批判に引きづられて自分もヒステリーを起して、意味不明の対策を打ち出してしまった。こんなんで日本大丈夫かね。
マスコミのクソ報道や安部首相の突然発的な対策とやらを見るに付け、今の日本で病気を正しい知識を元に、正しいレベルで恐れるというのは不可能に近いということを思い知らされる。安部首相がやるべきだったことは、学校の休校ではなく、自ら旗を振った「働き方改革」とやらの一環として、風邪を引いて熱が出たり、体調が悪くなったりした場合には、仕事を休める環境を作り出すことだろう。子供が学校を病欠する場合には親も休み、親が病欠の場合には子供も休めればなおさらいい。
そうすれば、職場でも学校でも、通勤途中の電車の中でも、感染者の割合を大きく下げることができるし、仮にいたとしても周りが健康な人ばかりであれば、大きな問題は発生しないはずである。学校なんて、先生も生徒も風邪などで体調が悪い人は休むということさえ徹底すれば、不特定多数と接触することがないのだから、感染のリスクは限りなく低くなるはずだ。休校だからといって子供たちが家でおとなしくしているとも思えないし、塾や予備校なんかは休みにできないだろうし、学校が休みになってもあんまり意味はありそうにない。
学校で集団感染が起こりやすいのは、風邪などで具合が悪くても休まないことを美徳とする日本的なメンタリティのせいである。以前チェコの日系企業の人から、日本から来ている社員に対して、熱を出したら出社禁止というルールを制定しなければならなかったという話を聞いたことがある。日本人は風邪であれインフルエンザであれ、高熱がでても頑張って出社してしまう。その結果、社内に感染が広まってしまうのである。
一方チェコ人は体調不良で休むことをためらわないので、一人の日本人が一日無理して頑張った結果、チェコ人社員に欠勤者続出で大変なことになったらしい。しかも病院で病欠の証明書をもらうと最低でも一週間は出勤を禁止されるから、問題は一日二日では終わらないのである。日本ならうつされた人も頑張って出社するから大きな問題にはならないんだろうけど。
自粛が要請されている人を集めるイベントに関しては、大金出してチケットを買った人に、熱があるなら来るなと強制するのは無理だろうし、イベント業者に返金させることも難しいだろうから、中止や延期が続出しているのも仕方がないのだろうなあ。
2020年2月29日25時。