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2018年09月07日
チェコ語の語順(九月六日)
サマースクールで書いた作文の間違いの分析をしていたら、圧倒的に語順を訂正されることが多かった。語順については、これまでも機会があるたびにちょこちょこ触れてはきたけれども、ここで一度簡単にまとめておこうと思う。ということで作文はお休み。
言語学的には、印欧語族に属するチェコ語は、いわゆるSVO型の言語ということになるのだが、実際のチェコ語の文でこの「主語、動詞、目的語」なんて語順になるものはそれほど多くない。主語は、動詞の人称変化でわかるから省略されることが多いし、強調のために語順を入れ替えることも可能である。動詞は比較的二番目にきやすけれども、その結果、文頭に場所や時間を表す言葉を入れると、動詞と主語の語順が入れ替わることも多い。
一般に、チェコ語では、文頭に文のテーマにあたるものが来て、文末に一番重要な新しい情報がくると言われる。二番目に来るのが一番重要ではない情報で、そこから文末に向けて重要度が上がっていくのだとか。どれがどのぐらい重要なのか計算しながら話したり書いたりするなんてことは不可能で、チェコ人が無意識にやっていることを分析した結果そういう傾向が発見されたということなのだろうが、外国人はこれをある程度意識してやらなければならない。
あえて簡単な例を挙げておくと、例えば、普通は「Petr zabil Karla(ペトルはカレルを殺した)」となる文は、語順を入れ替えて、「Karla zabil Petr」「Petr Karla zabil」「Zabil Karla Petr」「Zabil Petr Karla?」なんて文にすることができるわけである。ではどういう基準で語順を決めるのかというと、疑問詞を使った疑問文を想定するのがいいらしい。想定できる疑問文とその一番簡単な答えを示しておく。
Koho zabil Petr? Karla.
Kdo zabil Karla? Petr.
Co dělal Petr? Zabil Karla.
Co Karlovi dělal Petr? Zabil.
チェコ語で語順を考えるときには、文脈の中でどの情報を求められているのかをこの手の疑問文をもとに考え、答えとなっている言葉を文末に持ってくるのがいいらしい。だからペトルがテーマになっている文脈で、ペトルが人殺しだとわかっていて誰を殺したかが重要な場合には、「Petr zabil Karla」となるし、カレルに対して何かしでかしたことがわかっている場合には、「Petr Karla zabil」という語順にするといいのだとか。この辺の語順の自由さは日本語にもつながるところがあるけれども、完全に同じではないので、あれこれ考えながら、どんな時にどんな語順にするのか試していく必要がある。
それに、ここで上げたのは単純な例だから、そんなに難しくはないけれども、副詞だとか、場所、時間を表す表現が追加されると複雑になるし、関係代名詞なんかを使った連体修飾節が加わるとさらにややこしくなる。文の真ん中に長い連体修飾節を入れると、文が分断されてわかりにくくなるから、特に話す時には、連体修飾節のつく名詞は文頭か、文末に持って行く傾向があるような気がする。
ここまで書いたのは、ルールがあるようなないような判然としない語順だが、チェコ語には守らなければならない語順のルールが一つある。それが、本来この記事で取り上げるつもりだった「二番目をめぐる争い」である。チェコ語の言葉の中には、「vrátit se(戻る)」の「se」のように、原則として文中で二番目の位置に来る言葉がいくつか存在している。そして一つの文に二つ以上の二番目に来る言葉が存在する場合には、二番目に来る優先順位に基づいて、優先度の高い言葉から、二番目、三番目、四番目と並べていくことになる。
これらの二番目に来る言葉は、サマースクールの先生の言葉を借りれば、弱いアクセントを持たない言葉で、代名詞の格変化形の中でも、一音節で終わる短形なんかが含まれる。「se」もいわゆる再帰代名詞の4格だしね。優先順位の高いものから順番に並べると、以下のようになる。
➀仮定法、および過去形に使用されるbýtの人称変化形
仮定法の「〜たら、〜だろう」の後者に当たる部分では、一人称単数から順に、「bych / bys / by / bychom / byste / by」という変化形を使用し、過去形では「jsem / jsi / × / jsme / jste/ ×」を使用する。この二つを同時に使用することはないので、どちらかを使用する場合には、必ず二番目の位置に置かなければならない。ちなみに仮定法の「〜だったら」の部分は、上に記した「bych」以下の前に「kdy」をつけた形を使い、これは必ず文頭、もしくは節の最初に来る。
例
・Chtěl bych jet do Japonska.
(日本に行きたいのですが)
・Já bych chtěl jet do Japonska.
・Do Japonska bych chtěl jet.
・Včera jsem jel do Prahy.
(昨日プラハに行きました)
・Já jsem včera jel do Prahy.
語順を変えたり、主語を文頭に追加したりした場合にも、「bych」と「jsem」は二番目の位置から動かないのである。それから、「do Prahy」のような前置詞と名詞、形容詞と名詞などのセットで使われるものに関しては、まとめて一つとして数えて、順番を数えるのも重要である。国語文法の文節、連文節単位で順番を数えると考えると、日本人にはわかりやすいかな。
A再帰代名詞siとse
三格にあたる「si」と四格にあたる「se」を比べると、三格の「si」の方が二番目にくる優先順位が高いのだが、この二つを同時に使うこともありえない。「se」に関しては、「bát se」のように「se」なしでは使えない動詞、「vrátit se」などの「se」が付くことで意味が変わる動詞があり、「se」を使った受身表現も存在するため、使う機会は非常に多い。「si」は「si」なしでは使えない動詞はないはずだが、「si」をつけることで自分のためにという意味を付け加えることができる。「půjčit si」は「自分に貸す」ということろから、「借りる」という意味になったと解釈しておく。
例
・Zítra se vrátím do Olomouce.
(明日オロモウツに戻ります)
・Vrátím se do Olomouce zítra.
・Dám si kávu.
(コーヒーを飲みます)
・Já si dám kávu.
語順を入れ替えても、「si」と「se」が二番目の位置で固定されるのは@の場合と同様である。@とAが同居する場合には、@が二番目、Aが三番目の位置に来る。強調などのために語順を入れ替えても、二番目と三番目は固定される。
例
・Včera jsem se vrátil do Olomouce.
(昨日オロモウツに戻りました)
・Vrátil jsem se včera do Olomouce.
・Chtěl bych si půjčit auto.
(自動車を借りたいんですけど)
・Zítra bych si chtěl půjčit auto.
最初は結構苦労した覚えがあるけれども、今ではこのぐらいまでなら問題なくというか、ほぼ無意識に語順を変えられるようになっている。関係代名詞を使った連体修飾節とか文の構造が複雑になると、今でも間違えることはあるけど。長くなったので続きはまた明日。
2018年9月6日23時55分。