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2018年12月12日

ゼマン大統領問題発言またまた(十二月七日)



 今年の初め、ゼマン大統領が大統領選挙での当選が決まったとき、喜びに沸くゼマン大統領とその周辺の人々の中に、バランドフというテレビ局のオーナがいたという話は書いたと思う。このバランドフテレビも、放送を始めるまでの期待は大きかったのだけど、ふたを開けてみたらチェコの誇る映画製作スタジオの名前を冠するにふさわしいとは思えなかった。
 このバランドフテレビの特徴の一つに、無駄に、あえて無駄にと言いたくなるほど政治番組が多いことがあげられる。毎日のように、政治家を招いてのインタビュー番組や討論番組が放送され、そのインタビュアー、司会を務めているのがオーナーのソウクプ氏である。そして、ミロシュ・ゼマン大統領もソウクプ氏と組んで「大統領の一週間」とでも訳せる番組を一つ持っている。

 その番組ではあれこれ問題発言を連発しているらしいのだが、その一つがイギリスで起こったロシアの元エージェント暗殺に関して、使用された毒物のノビチョクがチェコで生産されたという発言だっただろうか。軍の化学部隊で実験的にごく少量作成したという話だったのだが、軍事機密に当たるような話をテレビでぺらぺら喋ってしまうような大統領で大丈夫なのかと心配してしまった。大統領に提出された情報部の書類に書かれていたことというのは、公開しないことを前提にしてるのではないのか。
 最終的には、チェコで試作されたノビチョクと暗殺に使われたノビチョクとでは番号が違っていて(よくわからないけど)、別物だったということで、ゼマン大統領の発言はロシアのプーチン大統領を支援するためのものだったのではないかと批判されていた。しかし、問題はロシア云々以上に、大統領以下国の指導者しか触れられないはずの情報を、ぽろぽろと垂れ流してしまうところにある。

 そのゼマン大統領が、またまた国の諜報・防諜機関であるBISについて、バランドフテレビの番組で発言してあちこちから批判を浴びている。ゼマン大統領によると、BISは防諜に関してまったく役に立っていないと言うのだ。具体的にはチェコに入りこんでいるはずの他国の諜報組織も、イスラム国につながるイスラム教の過激派についても存在するはずなのに、まったく摘発されていないというようなことを語っていた。
 それに対して、これまで何度かゼマン大統領の批判を受けても形どおりのコメントを出すだけで沈黙を守っていたBIS側が初めて具体的に反論した。BISによれば、これまでに外務省、大使館関係者に扮してチェコに入りこんでスパイ網を築こうとしていたロシアと中国のエージェントを何人か国外追放にしているし、すでに形成されていたスパイ網も破壊することに成功しているという。また、ノビチョクが使われた按察事件に関してロシアの外交官を二人国外退去処分にしたのもBISの活動の成果らしい。

 また、チェコテレビのニュースによれば、チェコを出てイスラム教徒の過激派として活動している人物に関しても、もともとはBISが目をつけて監視体制を取り、また事情聴取を行うなどした結果、チェコ国内ではほとんど活動できないままに、出国することになったのだとか。BIS側から自らの業績を誇るようなコメントが出てきたり、ニュースで報道されたりしているのもなんだか落ち着かない。
 さらに、共産党以外の政党が、バビシュ氏のANOも含めて、ゼマン大統領の発言に対して否定的で、BISの活動を称賛しているのも腑に落ちない。共産党は大統領が不満を評するということは、何か問題があるに違いないと言っているけれども、問題はそこではなくて、やはり、諜報・防諜期間の活動について政治家がメディアであけっぴろげに語ってしまうところにあるのではないか。
 諜報・防諜活動なんて秘密にすることが大切で、情報公開の時代とはいえ、活動内容を公表してしまえば、問題が起こる可能性も高い。公表するにしても何年もたってからというのが普通で、今回のように事件の概要だけだったとはいえ、防諜活動に付いての情報がメディアをにぎわしたこと自体が、問題だと思うのだが違うのだろうか。

 第一期目のゼマン大統領は、あれこれ問題のある発言はしていたけれども、ここまで軽率な発言はしていなかったような気もする。政府が推薦したBISの長官の階級の昇進をゼマン大統領は何度か拒否しているというから、個人的な確執があるのかもしれない。
2018年11月8日23時55分。




 ゼマン大統領のBIS批判は、仕事を全うしていないだけではなく、中国やロシアのスパイを国外追放したという事実に対しても、無駄な警戒じゃないのかと苦言を呈しているようだ。








2018年11月28日

内閣不信任案否決(十一月廿三日)



 かねてよりの予定通り、この日下院においてバビシュ内閣に対する不信任案の審議と議決が行われ、当初の予想通り否決され、野党勢力による倒閣の試みは失敗に終わった。驚くべきは最初からわかりきっていた結果を出すために延々7時間以上も、各党の党首たちをはじめとする議員たちが交代交代演説をしていたということである。そんな無駄なことをする時間があるのなら、もっと大切な審議すべきことがあるだろうという気持ちを禁じえない。
 民主主義というものにおいて、議会での審議が大切なものであることはわかっているから、真偽そのものを無駄だと切り捨てる気はない。無駄なのは事前の交渉で結果が予想できていて、審議をしてもそれがひっくり返る見込みのない議案に関して、延々と同じ話を何度も、手を替え品を替え人を替えながら繰り返すことである。どうせ相手の言うことはろくに聞かずに自分の言いたいことだけ言っておしまいなのだから。

 問題は、そんな言いたいことを言い合うだけで、説得にも妥協にもつながらないものを、議論とか審議という言葉で呼んでいいのだろうかということである。考えてみれば、日本もそうだが近年は、議論にならない議論、相手の話を聞く気のない議論が氾濫している。小学校だったか中学校だったかで、水掛け論ではなく建設的な話し合いをするようになって指導を受けた木がするのだが、政治家たちの話し合いの能力はそれを下回るのである。
 最近、民主主義の危機なんて言葉がしばしば使われるが、民主主義が危機にあるとすれば、それはトランプ大統領が誕生したり、オカムラ氏が大臣になったり、バビシュ氏が首相になったりするところにあるのではない。それは自分の主張が通らなかったことを、支持する政治家が落選したことを、民主主義の危機などという言葉で批判する連中が民主主義を標榜しているところにある。この現象も、本をただせば自分の意見を主張するだけで、相手の話を聞かない態度に終始する議論もどきに端を発する。

 それはともかく、バビシュ内閣は、共産党が反対票を投じ、社会民主党が採決に参加しなかったおかげで、不信任案を可決されず、現在の形で継続することが決まった。市民民主党の党首は、不信任案に反対の票が半数を超えなかったことを理由に、これは内閣が信任されなかったということだと主張しているけれども、賛成も反対も90ちょっとでほぼ同数だったのだから、詭弁としか言いようがない。自分たちの戦略のなさを棚に上げて詭弁を弄しても支持層の拡大にはつながらないと思うけどねえ。
 この日発表された11月の政党別支持率調査の結果では、相変わらずANOが30パーセント近くの支持率でトップだった。回答者の多くは息子誘拐疑惑が勃発する前に回答した結果らしいから、今調査したらまた違った結果が出るかもしれないが、ANOがチェコの有権者の間で一定の支持層を形成しつつあることを物語っているのだろう。バビシュ氏と同族嫌悪のののしりあいをしているカロウセク氏が党首の座を退いたTOP09は、支持率3パーセントで現時点で総選挙が行なわれていたら、当選者を出せていないという結果が出ている。この傾向もまた、社会民主党を除いては、解散総選挙を主張しなかった原因になっているのだろう。

 チェコの歴史では以前もスキャンダルに見舞われた首相は何人かいる。30台半ばという、史上最年少で首相になったグロス氏の場合には、プラハの一等地に購入したマンションの資金の出所があいまいだというのが問題にされた。おじさんにもらったとか苦しい答弁をしながら頑張っていたと思ったら、突然辞任してしまった。現時点で最後の市民民主党出身の首相ネチャス氏も当時愛人、今奥さんが個人的な理由で軍の情報を部を動かしたという疑惑に巻き込まれて、頑張れそうな形勢だったのに、あっさり辞任してしまった。
 どちらも、辞任することでスキャンダルの責任を取ったといえば、聞こえはいいのだが、むしろ無責任に政権を投げ出したような印象を残した。特にネチャス氏の場合には投げ出しぶりが、次の選挙での市民民主党の惨敗につながったといえる。それに対して、現在のバビシュ氏の一年以上も続く足掻きぶりは、みっともないとも、権力にしがみついているとも言えるレベルの物なのだが、逆にそのしぶとさに感心してしまいそうにもなる。恐らくANOの支持者にはそのしぶとさが頼もしく写っているのだろうし、既存の政党からの攻撃に耐えているようにも見えるのだろう。

 そう考えると、既存の政党を指導する政界の日の当たるところで、たいした苦労もせずに活動してきたエリート達には、バビシュ氏に太刀打ちするのは荷が重そうである。グロス氏もネチャス氏もそんな感じだったし、バビシュ氏のANOの勢力拡大にあせって自爆したソボトカ氏も、今の社会民主党の党首のハマーチェク氏にも、市民民主党のフィアラ氏にもそんなひ弱さを感じてしまう。
 今のチェコの現役の政治家で、バビシュ氏のしぶとさ、したたかさに対抗できそうなのは、ゼマン大統領ぐらいしかいない。この二人が盟友的な関係にあり、既存政党に期待できそうもない以上、海賊党の成長に期待するしかないのかなあ。ということで、いつになるかはわからないけれども、バビシュ首相の次の首相は海賊党の党首だと予想しておく。
2018年11月24日22時。


 







2018年11月27日

バビシュ首相が嫌いな人へ(十一月廿二日)



 正確に言うと、嫌いな人というより、支持しない人へというのがいいかもしれない。サマースクールの先生が、授業の教材としてムラダー・フロンタ紙を持ってきたのだが、新聞を買うのは久しぶりだと言っていた。それは、ムラダー・フロンタ紙とリドベー・ノビニ紙を所有する会社のMAFRAがアグロフェルトに買収されて、いわばバビシュ新聞となったときに買うのをやめたからだという。
 そうなのである。反バビシュの人たちはバビシュ氏の会社であるアグロフェルト社傘下の会社の商品をボイコットすればいいのである。会社の業績に悪影響が出るようになれば、バビシュ氏も政界から身を引くかもしれない。サマースクールの先生のように実際に不買運動をしている人たちは、そこまで考えてはおらず、ただ自分の払ったお金が回りまわってバビシュ氏の政治資金になりかねないというのに耐えられないだけという可能性もあるけど。

 とまれ先ず避けるべきは、チェコ二大新聞を所有する出版社のMAFRAの出版物である。ムラダー・フロンタ、リドベー・ノビニの二紙はもちろんだが、無料で配布されている日刊紙メトロもチェコ版を発行しているのはMAFRAであるから、反バビシュの人たち受け取らないほうがいい。他にも週刊誌の「テーマ」や「5プラス2」なんかがこの会社の刊行物である。この会社は出版社なので、新聞社の出版部門のような名称で普通の本の刊行もしている。「mf」という記号の付いた本は買ってはいけないのである。アグロフェルトがMAFRAを買収したのは、2013年というから、VV党崩壊の後である。ということはこの前書いたバビシュ氏の指示でってのは間違いだったかなあ。

 またテレビやラジオにも手を出していて、テレビでは音楽専門局のオーチコを所有している。オーチコは全部で三つのチャンネルを運営しているのかな。たまにゲストを呼んでのトーク番組みたいなものもあるけど、他はどのチャンネルでも延々とビデオクリップを流しているから、よほどの音楽好き以外は見ないと思うんだけど。ラジオで視聴してはいけないのはこれも音楽番組が多いラジオ・インプルスである。

 MAFRAはネット上でムラダー・フロンタリドベー・ノビニのサイトも運営していて、紙の新聞より多くの情報を提供している。アグロフェルト本体では、セズナムに次ぐチェコのポータルサイトのツェントルムとニュースサイトのアクトゥアールニェも所有しているから、ツェントルムの無料メールを利用している人は、別のサービスに乗り換えよう。バビシュメールなんて使えないよな。

 オロモウツから電車でプシェロフに向かい、プシェロフの駅に近づくと進行横行右手に何本かの背の高い煙突が見えてくる。この煙突には確か「PRECHEZA」と書かれているのだが、チェコでも有数の化学工場である。この会社を含め、いくつかの化学工業の会社もアグロフェルトの傘下に入っているらしい。この手の企業の製品は、直接一般市場には出てこず、材料として企業間で取引されているだけだから、一般人には購買も、不買もできそうにない。でも、反バビシュの旗を振っている人たちの中には、この手の企業と取引のある会社で仕事をしている人たちもいるはずだから、取引停止とかできないのかね。

 アグロフェルトは、本来は農業関係の企業らしいが、農産物をいちいちどこの農場で生産されたものか確認してから、買う、買わないを決めるのは大変である。ということで農業の隣の業種である食品加工業に注目しよう。
 残念ながらオロモウツにもあるのである。オロモウツの牛乳などの乳製品を生産するオルマという会社がアグロフェルトの傘下に入っている。以前経営の状態が芳しくないと聞いたことがあるので、それをアグロフェルトが買収したということなのかなあ。うちは以前から南ボヘミアに本拠地を置くマデタの製品を優先しているから、オルマは牛乳もチーズも買ったことがないので、以前と比べて製品の質がどうなのかは知らない。

 もう一つは、食肉加工業の、というかソーセージやサラミなどを生産しているコステレツケー・ウゼニニ社である。以前、腎臓結石の治療のために毎日自宅でピルスナーウルクエルを飲んでいたころは、つまみとしてここの会社のサラミやらハムやらを買っていたのだけど、最近はとんと買ったことがない。アグロフェルトに買収されてからは、効率と利益が最優先になってしまって製品の質、味が落ちて昔の味を知っている人には食べられたものではないという話も聞くから、食べなくていいや。特徴的なロゴのついたトラックが走り回っているのを、以前にもましてよく見かけるから、売り上げは落ちていないのだと思う。ということで酒のつまみも別の会社のものにしよう。

 それから鶏肉にもバビシュ印の鶏肉があるから、それも避けたほうがいい。ボドニャニという地名を冠したブロイラーっぽい鶏肉の会社もアグロフェルト傘下である。ここも以前に比べると……なんて話を聞くから、以前の顧客が離れて新しい安いものを求める消費者が支えているのかもしれない。その消費者が離れれば、バビシュ首相にダメージあるかもよ。

 製粉と製パン業のペナムも忘れてはいけない。小麦粉もパンもこの会社のものは、結構あちこちで見かけるから、気を付けていなかったら買ってしまうかもしれない。パンは、昔買って食べたことがあるかもしれないけど、パンなんてどこの会社のものか気を付けて買うことはないから、何ともいない。最近は買うときは自分の店で焼いているパン屋で買うのでペナムのパンは食べていないと思う。そのパン屋がペナムの小麦粉を使っていないという保証はないけれども。

 探せば他にもバビシュ印のついた企業はたくさんあるはずである。反バビシュを叫ぶ人たちには、みんなで集まって大騒ぎして地域の人々に迷惑をかけるだけの無意味なデモだけでなく、もうすこし実効性の期待できる反バビシュ運動を展開してほしいものである。ゼマン大統領やら、バビシュ首相やら海千山千の面の皮の厚い政治家、実業家には、デモなんて蛙の面にしょんべん程度の効果しかないのは目に見えているのだからさ。
2018年11月23日17時15分。


 うちのの話では、フェイスブックにバビシュ印の商品は買わないぞというグループが存在して活動しているらしい。






2018年11月26日

バビシュ政権の行方(十一月廿一日)



 先週のバビシュ首相の息子の爆弾発言、つまり父親たるバビシュ首相の手によって誘拐されクリミア半島に軟禁されていたというセズナムが公開したインタビューを受けて、野党がバビシュ批判を強め、上院では首相は退陣するべきだという、法的な拘束性のない決議がだされ(以前下院でバビシュ氏は嘘をついたという決議が出されたのと同じようなレベルのものであろう)、金曜日に内閣不信任案の採決が行われることになった。
 この内閣不信任案の提出にかかわっているのは、バビシュ氏の退陣を求めている市民民主党、海賊党、キリスト教民主同盟、TOP09党、市長無所属連合の5党と、バビシュ氏が社会民主党との連立を解消して自党と連立を組むことを求めているオカムラ党である。呉越同舟というには、オカムラ党の議員の数が少ないが、6党合わせての議席数は92で、課員の議席総数は200だから過半数に届いていない。

 ということで、残る2党の動向が注目を集めいていたのだが、共産党は早々に内閣不信任案には賛成しないという姿勢を打ち出していた。つまりは採決に際して反対票を投じるということである。これで追い詰められたのが、ただでさえ出口のない袋小路に入り込んでしまった感のある社会民主党で、ぎりぎりまで党内で議論が続いていた。連立内閣に残るべきだという勢力もあれば、連立を解消するべきだという勢力もあって指導部は対応に苦慮していた。

 そして、不信任案の審議を二日後に控えた今日、水曜日に党首のハマーチェク内務大臣が記者会見を行い、社会民主党の議員は内閣不信任案の採決に参加しないという方針を発表した。審議が終わって採決が始まる前に議場を退出するというのである。この今の社会民主党の迷走を象徴しているとも言える中途半端な決定は各方面から批判されていた。連立与党の一党として政権の一翼を担っているのだから、原則として不信任案には反対するべきだし、不信任案に賛成するのなら、その前に連立を解消して大臣は辞表を提出するべきであろう。このどちらも選べないのが今の社会民主党である。
 ハマーチェク氏は、連立を解消しない理由としては、社会民主党が政権を離脱した場合には、ANOと共産党、オカムラ党の連立政権が成立する可能性が高いことを挙げていた。現在のバビシュ政権が、不信任案の可決で倒れたとしても、ゼマン大統領が再びバビシュ氏を首相に指名することは確実なのだから、今の政権が倒れるとことで、最悪の事態がもたらされる可能性があるというのだ。それは確かにその通りではあるのだけど、ANOやオカムラ党のこれ以上の台頭を防ぐためには、一度この最悪内閣を成立させたほうがいいかもしれないという気もする。できれば避けてほしいけど。
 そして、もう一つ付け加えたのは、現時点で最善の解は、下院を解散して総選挙を行うべきだということだった。これには100パーセント賛成できる。理解できないのは、なぜ解散総選挙を実現する方向に積極的に動かないのかということである。恐らくは現時点で選挙が行なわれれば、社会民主党が議席を獲得できるかすら怪しいところまで有権者の支持を失っているからであろう。

 ここで問題になるのは、不信任案、下院の解散が可決されるために必要な条件である。不信任案のほうは過半数の賛成で可決される。ただし出席議員、採決に参加した議員の過半数ではなく、議員総数の過半数、つまり101票の賛成があって始めて可決されるのである。だから社会民主党が採決に参加しないということは、野党側は可決させるために、ANOか共産党の議員の中から造反者を探さなければならないということである。宗教的なところのある共産党はもちろん、既存の政党のやり口にうんざりした人たちが集まっていると思われるANOからも造反者は出そうもない。

 また議員による議決で下院を解散するためには、議員総数の60パーセント、つまり120票の賛成票が必要らしい。ANOが78議席持っていることを考えると、解散案を可決するためにはANO以外の全ての党が賛成しなければならないと言うことである。ここで共産党を説得し、野党勢力をも取りまとめて下院の解散に成功すれば、社会民主党は大きく株を上げて支持者が戻ってくる可能性もあったのに、野党側が105票以上集めたら社会民主党の議員もそれに加わるという何とも中途半端な発表をした。社会民主党の15票を合わせれば、120を超えて解散が可能になるということなのだろうが、ANOとの関係の悪化を恐れたのか、社会民主党は動きそうにない。解散が実現しなかったとしても、下院の解散に向けて積極的に動く姿勢を見せるだけでも有権者に与える印象は違ったと思うんだけどねえ。
 ということで、採決の二日前水曜日の時点では、社会民主党の議員が採決に参加せず、共産党の議員は反対票を投じることが確定しているので、バビシュ内閣は現在の社会民主党との連立の形で継続することが確実視されている。
2018年11月21日23時35分。











2018年11月20日

衝撃のコウノトリの巣事件、もしくは笑劇の……3(十一月十五日)



 バビシュ首相の息子のインタビューが公開された後、チェコの政界は一部を除いて蜂の巣をつついたような大騒ぎになり、野党側は現在の国会の会期を延長して内閣不信任案を提出するという記者会見を開いた。それ自体には文句はないのだが、国会議員の昇給を20パーセントにしない法案だけは通しておけよと言っておきたい。予算案は通らなくても何とかなるかな。
 その記者会見に臨んだのは、市民民主党、海賊党、キリスト教民主同盟、市長無所属連合、TOP09とオカムラ党の党首だった。どうなのかね。バビシュ氏の息子の証言の信憑性も確認されていない時点で、ここまで鬼の首を取ったような大騒ぎをするのは。日本の野党の批判と同じで尻すぼみに終わらないことを願うのみである。今のチェコの最大の問題は、政権交代があったからといってバビシュ政権よりマシになると言い切れないところなんだけどね。

 閣外支持という形でバビシュ政権を支えている共産党は、この動きには同調せず、バビシュ支持かどうかはともかく、現時点では内閣不信任案の審議をする前に、予算案の審議を進めて、来年度予算を成立させることが最優先だという主張を繰り返している。意外とまともな反応というよりは、ビロード革命以来最も政権に近づいた現在の立ち位置を失いたくないと考えていると言ったほうがいいだろうか。ANO下しに加担しないことで、今回の件でANOを見限る可能性のあるかつての共産党支持者を取り戻そうという考えもあるのかもしれない。共産党も前回の選挙でかなり多くの支持者をANOとオカムラ党に奪われたのだ。

 与党側の社会民主党は、バビシュ首相に事情の説明を求めると同時に、一部の所属議員や党員たちからは、ANOとの連立を解消して下野すべきだという声も上がっているようである。今回はバビシュ氏に勝ち目はないと見て勝ち馬に乗ろうというのだろうか。この迷走振りが社会民主党の低迷を象徴している。国会で新任された政府が存在しないのは、バビシュ氏を首相にするよりも大きな問題だとして連立に加わることを決めたのだから、最終的にどんな結論を出すのかは知らないが、せめて予算などの来年度の国家運営に必要な法案を通してから解散総選挙ぐらいのことは主張してほしいものである。
 これが社会民主党の政権離脱で、再度バビシュ氏による組閣なんてことでは話にならないし、野党側と手を組んで不信任案への賛成というのでも全く足りない。社会民主党の裏切りがはっきりした時点で、バビシュ氏は、保険として確保してあるオカムラカードを切るに決まっているのだから。オカムラ氏は不信任案を提出すると息巻く野党の党首の一員でありながら、バビシュ氏に呼び出されて、今後の政局について会談したらしいのである。バビシュ政権がどうなるかのカギは、社会民主党が握っていると言ってもいい。ただ、その決定次第では、バビシュ政権だけでなく社会民主党も倒れることになりかねない。

 ゼマン大統領は、この誘拐事件については、メディアによるでっちあげだという立場をとって、バビシュ首相を擁護している。全体的にチェコのマスコミと対立し、その件でつねに野党の批判にさらされているゼマン大統領にしてみれば、当然のコメントなのだろうけど、これが更なる批判を呼んでいるという面もある。今、政権が倒れるのは避けたいということなのか、現時点では盟友というべきバビシュ氏を本気で擁護しているのかはわからない。
 わからないと言えば、不信任案を提出しようとしている政党に所属する議員たちは、バビシュ氏の息子の証言をどこまで信用しているのだろうか。その信憑性などどうでもよく、バビシュ政権を倒すチャンスにとびついただけのようにも見えなくはない。単に不信任案を成立させて内閣総辞職に追い込んだとしても、ゼマン大統領は下院の第一党の党首であるバビシュ氏に再度組閣の命令を出すに決まっている。そうなれば去年の選挙後の混沌とした状態が繰り返すだけである。だから、本気でここでバビシュ政権を倒そうと考えているのなら、不信任案を可決させるだけではなく、下院の解散総選挙に持ち込む必要がある。

 しかし、残念ながら現在の野党勢力の多くは、総選挙に持ち込むための戦略も、勝てるとは限らない選挙を戦うだけの覚悟も持ち合わせているようには見えない。そうなると、社会民主党が政府から離反しバビシュ政権が倒れた場合、悪夢としか言えない事態が発生することになる。それはANOの政権を共産党とオカムラ党が支える体制の誕生である。社会民主党が数ヶ月前にANOと連立を組むことに決めた理由の一番大きなものがこの内閣の成立を阻止するためだったはずである。
 言葉を飾れば右から左まで幅広い勢力を集結した内閣ということになるが、その実態は極右と極左を取り込んだ中道内閣という意味不明な物になる。極右と極左を平均すれば中道になるからちょうどいいなんて冗談を言いたくなるほどである。前回は閣外協力を選んだ共産党も、現時点でバビシュ内閣を支持することを求められれば、連立与党に加わることを求めるだろう。ビロード革命以来、30年のときを経て共産党が政権復帰しかねないのである。

 オカムラ党も、去年の選挙の直後の時点からANOとの連立政権に色気たっぷりだったから、バビシュ政権を支持するとなると、最低でも党首のオカムラ氏の入閣を求めるだろう。副総理とか、内務大臣とかになっちまうのかなあ。細かい事情を知らない日本のマスコミが、売込みを受けてチェコに日系大臣誕生とかで大騒ぎして、くそみたいな提灯記事があふれるのが目に見えて、目の前が真っ暗になってしまう。こういうどうしようもない記事を確実に書くという点では日本のマスコミは信頼を裏切らない。
 社会民主党が、連立内閣を離脱して、第二次バビシュ内閣が倒れ、第三次バビシュ内閣が成立することは、チェコ人以上に、チェコに住む日本人にとっての悪夢なのである。社会民主党には自重を求めたいところである。知人に頼んで息子を外国に連れて行ったというだけなんだから、息子の意志は無視していたかもしれないけど、政治問題じゃなくて家庭の問題として理解できるじゃないか。政治家には自分に嘘をつく能力だって必要だし、今まで散々やってきたことじゃないか。今回も同じようにして、オカムラ大臣の誕生だけは阻止してくれよ。そうしたら、選挙権はないけど、次の選挙では支援するからさ。
2018年11月15日23時40分。








2018年11月19日

衝撃のコウノトリの巣事件、もしくは笑劇の……2(十一月十四日)



 この辺り、チェコ、スロバキアで、政治家の息子が誘拐されたというと、1990年代のスロバキアで起こったコバーチ大統領の息子の事件が真っ先に思い浮かぶ。あの事件は、結局真相は完全には明らかになっていないが、メチアル首相が、対立するコバーチ大統領に圧力をかけるために、軍の情報部を使って誘拐させたというのが定説になっており、実行犯が自供したという話もある。メチアル首相が大統領職を兼任していた時期に、この事件に関しては恩赦の決定が出されているため、真相が解明されて裁判が開かれることはあるまい。
 振り返って、今回のチェコ首相の息子の誘拐事件の何ともスケールの小さいことよ。誘拐担当者はアグロフェルト社の実は運転手に過ぎないと言うし、誘拐されたからと言って命の危険があったわけでもなく、その後自宅でのうのうと過ごしているところを記者に訪問されて、運転手のおっちゃんが怖いと泣きつく35歳の元パイロットのおっさん。うーん絵にならんぜ。メチアル首相のやらかした誘拐事件はアクションフィルムさながらの劇的な物だったというだけに、今回の誘拐事件のしょぼさが際立ってしまう。

 そのしょぼさがバビシュ氏の言う精神を病んだ息子の戯言にふさわしいようにも見えなくはないけど、これまでのバビシュ氏のさまざまな言い訳から感じられるせこさに妙に似合っているように思えるのも否定できない。どちらも単なる素人の印象に過ぎないのだけど、バビシュ首相に軍の情報部や秘密警察を抱き込んで誘拐事件を起すなんてのはまったく似合わない。
 この事件に関して真相が明らかになるかどうかはわからないが、どちらが真相だったとしても、笑いようのないできの悪い喜劇にしかならないところが最悪である。息子を知り合いの運転手に頼んで誘拐してもらう総理大臣と、父親の部下に頼んで旅行に連れて行ってもらいながら誘拐だと主張する総理大臣の息子、どちらがましかと言われても選びようがない。

 バビシュ氏の息子について、ボーイング737の操縦免許を有効な状態で所持しているから、精神的な問題があるというのはおかしいと主張する人がいる。パイロットのライセンスを更新する際には、肉体的な健康だけでなく精神的な健康についても検査されるはずだというのだけど、どうなのだろう。スイスの報道でも元パイロットになっているし、どこの航空会社で仕事をしていたという情報も出てきていない。むしろパイロットの資格を取った後、仕事がうまくいかなくて父親になきついてアグロフェルト社関連の仕事でお金をもらっていたというストーリーのほうに整合性を感じてしまう。
 そうなのだ。バビシュ氏が最初からそういうストーリーに基づいて話をしていれば、コウノトリの巣事件から受ける印象は大きく変わっていたはずだ。つまり、ごくつぶしの子供たちを自立させるために、コウノトリの巣社を独立させて任せていたのに、精神を病んでしまって経営できなくなったから、親の自分が責任を取ってアグロフェルトに吸収したとか何とか。それを自分とは何の関係もないなどと嘘をつくから、弱みになって苦しい言い逃れを繰り返すことになるのだ。言い訳にすら使われなかったということは、この仮説のストーリーは事実ではないと言いうことなのかもしれないが。

 今回のセズナムの報道について、野党はよくやったと大喜びなのだけど、問題はそんなに単純ではない。かつてバールタ氏が率いたVV党が所属議員の内部告発というか、造反にあって解体の憂き目を見たときも、最初はどこかのマスコミの特ダネという形で始まったのではなかったか。バールタ氏のやり口も褒められたものではなかったが、その後の急速な解体の過程には明確な誰かの意思が介在しているように感じられた。
 当時バールタ氏追い落としに熱心で最も貢献したのは「ムラダー・フロンタ」だったと記憶する。実際に記事を書いたのは現場の記者であっても、指示を出したのは社主であったバビシュ氏であろう。バビシュ氏が儲けにならないことを指示するわけはないから、市民民主党辺りの既存政党の政治家から要請を受けてのことだったというのが関の山である。ネチャス内閣が崩壊したのも、きっかけは新聞の報道だった。こちらは政界進出を計画していた本人の仕掛だろうか。
 バビシュ氏は所有する二つの大手新聞「ムラダー・フロンタ」と「リドベー・ノビニ」に対して、オーナーとして書くべきことについて指示をしたことはないと主張しているが、買収した際には、自分について正しくないことばかり書かれるから、正しいことを書かせるために買収したとか何とか語っていたはすである。ならば、バビシュ氏にとって「正しいこと」を書くように指示を出していたとしても全く不思議はない。だから、今回の件が、バビシュ氏が主張するように、メディアによるデッチ上げだったとしても、自業自得というか、天に唾した結果だとしか言いようがない。

 既存政党は、バビシュ氏が新聞社を所有したままであることを批判してきたが、この件に関する最大の問題は新聞社を所有していることではなく、「ムラダー・フロンタ」と「リドベー・ノビニ」というチェコの二大新聞を両方所有していることである。親会社のアグロフェルトは形式上はバビシュ氏の手を離れていることになっているが、実態は変わっていないはずである。
 チェコにも公正取引委員会や独占禁止法と同じようなものは存在するから、普通であれば一つの会社が、「ムラダー・フロンタ」と「リドベー・ノビニ」という同業種の二大企業を買収することは禁止されるはずである。それなのに許可が出たのは、その辺の経緯を明らかにしてほしいと思うのだが、政治家が暗躍したからだというのは想像に難くない。バビシュ氏ももともとはチェコの政界にはびこるクライアント主義のクライアントだったのである。バビシュ氏をあれこれ批判する既存政党に同調しきれないのは、この辺の自らの所業を検証も反省もしていないからである。

 この問題がチェコの政治にどんな影響をもたらすかについては、また明日。
2018年11月15日9時15分。








2018年11月18日

衝撃のコウノトリの巣事件、もしくは笑劇の……1(十一月十三日)



 バビシュ首相のEUの助成金を巡るスキャンダルについてはこれまで何度か書いてきた。中小企業対象の助成金を獲得するために、大企業だったバビシュ氏の所有するアグロフェルト社は使えないので、ダミー企業を設立して助成金を獲得し、その助成金に関する財政的な処理がすべて終わった時点で、アグロフェルト社に合併吸収させるという手口は、それこそどこにでも転がっているもので、バビシュ氏が政界に進出していなかったら、国会議員の誰も問題にすることはなかっただろう。この点ではバビシュ氏は正しい。だからといってバビシュ氏に罪がないと言うことではないのだが、この事件に関して驚くべきニュースが流れた。ただし事実かどうかは、わからない。
 最近日本でも既存のマスコミに加えて、ネット発のメディアが誕生して活躍しているようだが、チェコでも、チェコ最大の(多分)ポータルサイトであるセズナムが力を入れ始めており、サイトで独自のニュースやドラマを配信するだけでなく、テレビ放送にまで手を出している。そんなセズナムのニュースサイトに、テレビでの報道もあったのかもしれないが、バビシュ首相の息子のインタビューが登場した。

 そのインタビューで息子が語ったのは、去年コウノトリの巣事件が政治問題化して、警察の捜査が進んでいた時期に、バビシュ首相の関係者によってロシアがウクライナから奪還し占領中のクリミア半島に連れ出され、そこで軟禁されていたということだった。同時に関係者が自分を誘拐監禁したことについては、父親のバビシュ首相は知らないかもしれないと付け加えていた。
 息子の、というよりはセズナムのレポーターの考えるシナリオによれば、EUの助成金を獲得した時期の農場「コウノトリの巣」はバビシュ首相の子供たちの名義になっていたから、この息子も事件に関係していて、あれこれバビシュ氏のよからぬ行動について知っている。それを警察に証言されると不利になると考えたバビシュ氏、もしくは側近が指示を出して、警察に事情聴取されないようにクリミア半島にまで連れて行って軟禁したということになるのだろう。それに対して、警察は当時バビシュ氏の息子がどこに滞在しているかは把握していたと言っているから、必要があってその気にさえなっていれば、事情聴取は不可能ではなかったようだ。

 それにしてもである。なぜにクリミア半島だったのだろうか。そもそも外国人がそんなに簡単に入れるのだろうか。入れるにしても、ヨーロッパからそれほど離れていない、そんな厄介な場所を選ぶ理由はあるのか。その理由になりそうなのが、誘拐したとされる関係者がロシア人らしいという事実である。ただそのロシア系と思しき人物は、バビシュ氏の息子にクリミア半島のことを「ウクライナ」と言っていたようで、ロシア人がそんなこと言うかという疑問も感じなくはない。それに、本気で警察の事情聴取を防ぎたいんだったら、アジアのタイとかインドネシアなんかの人口も多く、距離的にも遠い観光地にもぐりこんだ方がよさそうな気もする。ロシアでもシベリアまで行ってしまったほうがましである。
 そのロシア系の人物のチェコ人の奥さんが、精神科医で、バビシュ氏の息子が精神を病んでいるという診断書を出しているらしい。さらにバビシュ氏が財務大臣を務めていた時期には、財務省での仕事にありつき、この前の地方選挙ではプラハの何区かで区会議員にANOから立候補して当選したという。夫のロシア人はバビシュ氏の会社アグロフェルトの関係者だというから、知り合いの知り合いにお願いすれば何でもできる的な人間関係である。これって、市民民主党とか社会民主党などの既存政党がやってきたことと大差ないんだよなあ。既存の政党とは違うところを売りにしていたANOも馬脚を現し始めたというところなのかねえ。

 話を戻そう。インタビューでチェコの政界に激震をもたらしたバビシュ氏の息子は、一人目の奥さんとの間の息子で、スイスの国籍を獲得して母親と共にスイスに住んでいるらしい。別れたとはいえお金持ちの御父ちゃんでよかったねというところである。セズナムの記者はそのスイス在住のバビシュ息子を訪問して、取材の意図も告げずにメガネに仕込んだ隠しカメラでインタビューを撮影したのだとかバビシュ首相は批判していた。その手法の良し悪しはともかく、チェコの警察の捜査を避けるために、スイスからクリミア半島に移る必要はあるのかねえ。スイスという国には、よその国に対してあまり協力的ではないというイメージがあるんだけど。
 バビシュ首相は、自分の息子について、精神的に病んでいて分裂症の気があるから証言能力はないと主張している。精神の病については母親も認めているらしい。これについてインタビューを見る限り精神を病んでいるようには見えないと主張する人もいるが、心の問題が外見だけで判別がつくのであれば、誰も苦労はしないし、世界は今よりはるかに安全であるはずだ。問題はそこではなく、バビシュ氏の息子を診察して、病気だと診断した医者がバビシュ氏に近いANOの関係者だというところにある。

 前妻との間のもう一人の子供である娘についても、精神的な問題で警察の事情聴取には堪えられないという診断書が提出されているらしいが、息子のほうとは違って、こちらは警察の事情聴取は受けたらしい。警察ではバビシュ氏の子供たちに対する精神を病んでいるという診断書の信憑性を疑っているというから、中立だと考えられる医者を選んで、子供たちの診察をさせることになるだろう。今回のインタビューで語られたことの正当性を判断するのは、その結果が出てからでも遅くはない。
 バビシュ氏の側も、コウノトリの巣事件に関しては、これまでさんざんメディアが作り出した人工的な事件だとか言ってきたのだから、自らの発言の正当性を証明するためにも、子供たちの専門医による診察には合意するべきであろう。拒否した場合には、誘拐事件がでっちあげではなく、事実だったのだと間接的に認めることになる。
 以下次号。
2018年11月14日20時35分。
 




チェコおすわり人形 コウノトリと赤ちゃんバネ付人形









2018年11月07日

政治家と金(十一月三日)



 政治家というものは金に汚いものだというのは日本もチェコも大差ない。チェコではビロード革命以来の既存政党は、共産党を除けば、クライアント主義といわれる汚職まがいの便宜供与を繰り返してきた。もちろんキックバックを受けているのは当然のことで、そのうち目に余るものは摘発されてきたが、全体的に見れば、一部の金持ち、影響力を持つ連中のための政治が行われていたと言っていい。それが、バビシュ首相にEUの助成金詐取の疑いがかかってもANOの支持率が落ちない原因の一つになっている。
 既存の政党がANOをポピュリストだとして強く批判するのは、自分たちのクライアントだった連中が政治の世界に入ってきて、政治家=クライアントという図式が出来上がった結果、受け取れていた謝礼がなくなったからでもあろう。逆に言えば、政治家とクライアントが完全に別々だった時期と比べれば、クライアントから政治家に渡る金が減った分、国庫から抜き取られる金が減ったと言ってもいいのかもしれない。これもANOへの支持が不思議と減らない理由であろう。クライアント主義の権化だった市民民主党あたりが、汚職ぎりぎりの行為でANOを批判しても、お前らが言うなである。
 また、ロビイストとかいう政治家に影響力を持つとされる連中とつるんであれこれよからぬことをやらかしていたのもANOではなく、既存政党の政治家たちである。一番ひどかったのは国政ではなく、市民民主党のベーム市長時代のプラハで、あるロビイストとプラハ市政を牛耳る政治家、役人たちの結託で、公共交通機関の乗車券一枚当たり確か17ハレーシュ(0.17コルナ)がカリブ海のどこかの国にあるペーパーカンパニーの口座に入るようになっていたなんて事件も起こしている。総額で50億コルナほどが横領されたらしいが、ロビイストとプラハ交通局のボスが起訴されて裁判になっているだけで、裏にいたはずの政治家までは捜査が届いていない。ロビイストたちが証拠不十分で無罪になる確率も高そうだし。

 さて、現在チェコでは既存政党の政治家の銭ゲバ振りを象徴するような事態が進行している。政権与党のANOが国会に提出した国会議員の報酬を来年から9パーセント上げようという法案が、まともに審議もされないまま、国会の会期が終わろうとしているのである。9パーセントもあげようというANOの国会議員が金に汚いのではない。この法案が可決されなかった場合には議員報酬が自動的に20パーセントも上がるというのだから、積極的に法案に反対して国民の反感は買いたくないけれどもなし崩し的に廃案に追い込んで、報酬を一気に増やそうという魂胆が見え見えの既存政党の議員たちが金に汚いのである。
 一方でこの法案を廃案にしてはいけないと主張して、会期の延長を求めて議員の間で署名を集め始めたのが、新興政党の海賊党と、何かと批判されることの多いオカムラ党だという事実は重要である。議員報酬の伸びを積極的に抑制しようとしているのが、ANO、海賊党、オカムラ党という三つの新興政党だけで、既存政党がその中には一つも入っていないのである。

 平均給与がそこまで上がらない中、自分たちの報酬だけを20パーセントも上げるというのは、さすがにばつが悪いのか、既存政党の中でも積極的に給料を上げようと主張しているのは市民民主党だけである。市民民主党の議員によれば、国会議員報酬は、例のリーマンショックの影響がチェコに何年か遅れで到達してチェコの景気が低迷した時期から昇給が凍結されてきたのだから、その上がらなかった時期の分も含めて20パーセント上がるのは当然だという。裁判官や検察官などの賃金も上昇している中、国会議員の昇給が今後もなかったら、議員報酬の方が裁判官の給料より下になるじゃないかとも言っていたのだけど、議員報酬が裁判官の給料より高くなければならない理由については何も言わなかった。
 それでも、ANOの議案や、海賊党とオカムラ党の提案に、賛成するようなコメントを残しながら、その実何もせず、審議ができないまま会期が終わって仕方なく議員報酬が増額されたとというシナリオに沿って動いているとしか思えない他の既存政党に比べれば、本音を語っている分だけましなのだ。考えてみれば、議員報酬の昇給を凍結する法律を制定して国民に対していい格好をして見せておきながら、その法律の末尾に何年か後には一度に20パーセント上げるというのをもぐりこませるという姑息なことをしたのが既存の政党の政治家たちなのだから、今回もなし崩し的に昇級に持ち込むという姑息な手を取るのも当然なのだろう。

 最悪なのは、野党側が来年度予算について予定の赤字額が多すぎるから、支出を減らすべきだと強硬に主張していることである。国家予算の支出を減らす上でまず削減すべきは人件費であろう。そう考えると先ず隗より始めよで、議員総数を減らしたり議員報酬を減らしたりするところから始めるべきなんじゃないのか。これではますます既存政党の凋落が進むだけだと思うのだが、この件に関してはオカムラ党よりも下に落ちてしまったことに気づいていないのだろうか。
 チェコでは議員報酬は毎年自動的に上がるようになっているようで、それを停止したり抑制したりする場合にはわざわざ法律を制定する必要があるようだ。どうして変わらないのが原則で、昇級する場合には国会で審議が必要という形にしなかったのだろうか。そうすれば有権者をはばかって、ひんぱんな昇給も、大幅な昇給もしにくくなると思うのだけど……。そういえば昔議員報酬は法定最低賃金の何倍という形で規定しておけばいいと主張している人がいたなあ。そんな声は、金のことしか考えない政治家には届かないのだろう。
2018年11月5日22時30分。








2018年11月01日

チェコスロバキア独立100年(十月廿八日)



 十月廿八日は建国記念日として祝日になっている。ただし、チェコには日本のような振り替え休日の制度がないので、土日に祝日が重なると一日休日を損することになる。その上、十月最後の日曜ということで、夏時間から冬時間への切り替えとも重なっている。冬時間に向かうほうは、一時間長く寝られるわけだから、比較的楽なのだけど、体内時計、特にお腹のすき具合で測る腹時計が狂うので全く問題なしとはいかない。来年からはこのまま時間が固定されることを願おう。

 さて、建国百周年ということで、年初から大々的な盛り上がりをするのかと思っていたら、そんなこともなく、近づくにつれて第一共和国百年に関する報道が増えて、すこしずつ盛り上がってきたのだけど、正直期待したほどでもなかった。当日の軍や警察、消防隊などのパレードも例年のものを拡大したもののように見えたし、チェコテレビの中継はゲストをたくさん呼んで例年以上に気合は入っていたかな。ただ、こういうイベントで軍のパレードが儀式の中心に据えられているあたりが、日本とヨーロッパの国の軍隊に対する認識の違いを物語っているようでなかなか興味深い。
 この建国100周年のイベントがそれほど盛り上がらない理由を考えてみると、一つには、100年前に誕生したチェコスロバキアという国がすでに存在しないことがあるだろうスロバキアでもこの日が国家の祝日になっていて、共同で式典をやるということになっていれば、話はまた違ったのだろうが、1990年代に分離独立したスロバキアでは、第一共和国をチェコ人がハンガリー人に代わってスロバキア人を支配したものという解釈が優勢だったために、この日は祝日から外されてしまっているのだ。スロバキアでも式典は行われているようだけれども、チェコほど力は入っていない。

 今年の式典の一部は、すでに土曜日から始まり、フランスのマクロン大統領と、ドイツのメルケル首相がプラハを訪問し式典に参加していた。第一共和国の誕生に協力的だったフランスもミュンヘン協定でチェコスロバ期を裏切ったわけだし、ドイツは第一共和国の解体に直接関与した国である。いかにEUの有力刻とはいえ、独立100周年の式典に招待するにふさわしい国だったのかねえ。むしろ民族自決主義を掲げてチェコスロバキアの独立に最大の貢献をしたウィルソン大統領を讃えて、アメリカの大統領を招待するべきではなかったのか。現職がトランプという問題はあるにしてもである。
 オロモウツでは、当日具体的にどんな式典が行われたのかは知らないが、一週間ぐらい前からホルニー広場にパネル展示が設置されていた。8月にも1968年のプラハの春を蹂躙したワルシャワ条約機構軍の侵攻についての展示が行なわれていたが、今回は独立前後の出来事についての展示で、当時の市長などの写真、新聞、オロモウツの地図などが展示されていた。古い地図を見ると現在と通りの名前が違ったり、今はない川が流れたりしていてなかなかに興味深かった。

 夜は、例年同様に、プラハ城で大統領による勲章の授与式が行なわれる。叙勲者は国会議員による推薦などいくつかの方法で選出されるのだが、最終的な決定権は大統領が握っている。その人選に関しては、ハベル大統領でさえ批判にさらされたことがあるのだが、ゼマン大統領は2年前にダライラマ問題で文化大臣のおじの叙勲を取り消したことで、国民の半分を敵に回した前科がある。個人的には、いかにホロコーストを生き延び、その体験を語り続けている人とはいえ、政治家の縁者に勲章を与えるのにもお手盛りの感じがして好感は持てないのだけど、チェコの良識派を自任する人たちは文化大臣の側に立った。毎年何人かいる大統領の恣意で何でこんなのがってのに比べれば、ちゃんとした理由があるから支持はしやすいんだけどね。

 今年も事前に何人かの叙勲者の名前が漏れてきている。チェコ人ならぬ身でも知っている人物となると、スポーツ界の人ということになる。事前に判明しているのは先日引退試合を挙行したばかりのテニスのラデク・シュテパーネクと、今年の冬季オリンピックで、スキーとスノーボードの二種目で金メダルを獲得して世界を驚かせたエステル・レデツカーの二人。他にもスポーツ新聞の情報では、二年前の選手生命にかかわる大怪我から復活して、今年ランキングのトップ10に復帰したペトラ・クビトバーの名前も挙がっている。ゼマン大統領は、クビトバーが節税のためにモナコに住民登録していることを国に対する裏切り者だ敵なことばで非難していたと思うのだけど、どういう心境の変化なのだろうか。
 ふたを開けてみたら、スポーツ界からはこの三人に加えて、サッカーのペトル・チェフ、テニスのヘレナ・スコバーの二人も勲章をもらっていた。引退したシュテパーネクとスコバーはともかく、まだ現役で頑張っているチェフとクビトバーを叙勲するってのはどうなんだろう。去年引退したロシツキーとかもうもらっているのかな。

 それからスポーツ新聞では叙勲式に関して、もう一人、格闘家のベーモラという人の名前も挙がっていたのだけど、これは勲章をもらうというのではなく、授与式に招待されたということのようだ。MMAだかUFCだかいう団体でアメリカで試合をしたときに、トランクスのチェコの国旗の代わりにスポンサー名を入れることを求められたのを拒否したのが愛国心の発露だとして、大統領のお気に召したのだとか。ゼマン大統領とチェコの国旗、トランクスというのは因縁があるからなあ。ゼマン批判勢力に対するあてつけの意味もあるのだろう。

 うちのが、何でこいつが叙勲されるのだとお冠だったのが、歌手のミハル・ダビットという人物。80年代に一つか二つヒットを飛ばしたらしいけど、その歌の内容はしょうもないものだったのだとか。たしか一つは「ポウパタ(つぼみ)」という歌で、スパルタキアーダ(共産党政権時代の集団体操)の体操の一つのテーマ曲として選ばれたことで頻繁に流れたから、一定以上の年齢の人は知っているはずだという。今はナにやってるのかねえ。ゼマン党(SPO)から国会議員に立候補したのがこの人だったかな。それは何とか・リンゴ・チェフだったかもしれない。ゼマン大統領支持者の歌手とか俳優とかってみんな印象が似通っているから区別がつきにくいんだよなあ。

 チェコ在住で例外的にチェコに堪能なアメリカ人の新聞記者エリック・ベストが勲章をもらっているのも意外だった。うちのの話では、アメリカ人でありながらロシア親派で、ロシア寄りすぎて問題含みの記事を垂れ流しているらしい。以前はチェコテレビのニュースや解説番組にしばしば登場していたのだが、最近見かけないと思っていたら、中立ではなくロシアよりの発言をするのが嫌われたのか。ゼマン大統領にはそこが気に入られたのだろうけどさ。

 そういえば、最近の報道で、以前ポーランド軍が攻め込んできてと書いたチェシーン地方をめぐる戦いは、最初に仕掛けたのはチェコスロバキア軍であったことを知った。調停案どおりの国境線だと鉄道など重要なインフラがポーランド側に行くことになっていたのが問題だったようだ。それから、実行はされなかったが、ボヘミア北部のドイツとの国境を山脈の稜線から北に押し出して、山脈の山すそまでチェコスロバキア領にしようという計画もあったらしい。誕生したばかりのチェコスロバキア第一共和国もなかなか野心的な国家だったのである。ちょっとイメージの修正が必要である。
 
2018年10月29日22時。





 


2018年10月18日

上院議員選挙2018其の2(十月十四日)



 今回の上院議員選挙の二回目の投票で、全国的にもっとも注目を集めたのは、ボヘミアの北東の端、ポーランドとの国境に位置するナーホット選挙区だろう。ここでは、キリスト教民主同盟の党首で、来年の党大会で党首選に再度出馬するかどうかが注目されているビェロブラーデク氏が、市民民主党の候補で元警察の高官のチェルビーチェク氏と対戦した。
 第一回目の投票では、わずか58表の差でビェロブラーデク氏が勝っているのだが、二回目ではチェルビーチェク氏が逆転して2000票以上の差をつけて当選した。ビェロブラーデク氏が一回目の投票から得票を大きく減らしたのに対して、チェルビーチェク氏は投票率が大きく下がったにもかかわらず票を伸ばしている。これについてビェロブラーデク氏は、天気がよかったから一回目で投票してくれた人が、選挙よりも家族で遊びに行くことを選んだ結果だろうと負け惜しみを残していた。
 ビェロブラーデク氏は、開票作業が始まる前に次の党大会では党首選には出馬しないことを表明しているが、これは今回の選挙の結果で出馬する、しないを決めたのではないことをはっきりさせるためだと語っていた。同時に投票前に表明しなかったのは、この決断が選挙の結果に影響を与えないようにという意図があるのだという。そして、落選が決まった後は、今後は党首ではなく一下院議員として政治活動を続けていくと宣言していた。

 そこで首をひねった方、その疑問は正しい。チェコでは現職の下院議員が、辞職することなく上院議員の選挙に立候補することが認められているのだ。落選した場合にはそのまま下院議員を務め、当選した場合には、下院議員と上院議員のどちらかを選ぶことになる。下院議員を選ぶと上院の選挙をやり直すことになるから、原則として上院議員を選ぶことになるとは思うけど。落ちても議員ではあり続けるというのも、ビェロブラーデク氏の支持者が投票に向かわなかった理由の一つになっているはずである。
 去年の下院の選挙では逆の事例が発生していた。ANOの上院議員が下院の選挙に立候補し当選したのである。下院の場合には比例代表制で名簿の次の人が繰り上がるだけだから、辞職というか当選を辞退しても何の問題もないはずなのだが、この人は上院議員を辞任して下院議員に就任した。それで終わればよかったのだけど、やっぱりと考えを変えて、下院議員をすぐに辞任して、自分が辞任した結果行なわれることになった上院の補欠選挙に立候補して落選するという落ちが付いた。

 次の注目の選挙区は、ダライラマの扱いを巡ってゼマン大統領ともめた、キリスト教民主同盟の元文化大臣ヘルマン氏が、市民民主党の党員で市長連合などの推薦も得たテツル氏と対戦した東ボヘミアのフルディム選挙区である。ここも一回目の投票では僅差で150票ほどの差でテツル氏が一位で二回戦に進出している。二回戦では、一回目から票を伸ばせなかったヘルマン氏に対して、落選が決まった候補の票を集めることに成功したテツル氏が倍近くまで票を伸ばして圧勝した。
 ゼマン大統領ともめたから落選したというつもりはないが、文化大臣の時代にダライラマの処遇も含めて宗教との、より具体的にはカトリックとの密接なつながりを強調していたのが、フス派の末裔たるチェコの有権者に嫌われたのではないかと想像したいところである。チェコ人、基本的には宗教には無関心だけど、カトリックの強欲さには辟易しているところがあるからなあ。共産党時代の損害のカトリック教会に対する補償とか、やりすぎという印象を与えたし。

 もう一つの注目は、上院の選挙の結果よりは、その後の進退なのだけど、テプリツェ選挙区である。ここでは市民民主党の所属で上院の副議長を務めるクベラ氏が危なげなく当選を決めたのだが、この人1994年から24年以上にわたってテプリツェの市長も務めているのである。長きにわたって二足のわらじを履き続けてきたクベラ氏が、同時に行なわれたテプリツェ市議会の選挙でも当選しているが、今回は市長にはならないと宣言した。
 長きの兼職に罪悪感を感じたとかそんな殊勝な話ではなく、今回市民民主党が上院で最大の会派になる可能性がかなり高く、その場合の議長職を狙ってのことのようだ。これが自分にとって最後の選挙だから、名誉極まりない議長に就任できるならなんだってやるみたいなことを言っていたかな。議長と市長の兼職は批判されかねないということだろうか。

 去年の下院の選挙ではANOが圧倒し、最近の世論調査でもANOの支持率が圧倒的に高いのに上院の選挙でANOが、惨敗したのを不思議がったり、ANOの支持にかげりが出たと喜ぶ向きもあるけれども、それは早計というものである。投票率、特に平均でも16パーセントほどに過ぎない二回目の投票率を考えると、回答者が1000人以下ということもある各種世論調査よりも、有権者の全体的な動向を探る指標としては当てにならない。アンケートは、数は少なくとも、対象が社会の一部の層に偏らないように配慮しているのに対して、上院の二回目の選挙に赴くのは、政治意識の高い一部の人々に限られているのだから。

 では今回、世論調査の結果とは裏腹にANOが勝てなかった理由を考えてみると、一つにはANOへの支持が、積極的な、ANOでなければというものではなく、他と比べればまだましだという消極的なものの場合が多いのではないかということが考えられる。消極的な支持の人が、わざわざ週末をつぶしてANOの候補を勝たせるために上院の選挙に足を運ぶとは思えない。またANOの支持者の多くが上院を軽視しているという可能性も考えられるか。
 政党よりも個々の候補者の人気が重要になる上院の選挙では、ANOのバビシュ氏とその他という感じの組織の構造が不利に働いている面もあろう。オカムラ党も同じ問題を抱えていて、上院の選挙で当選できそうなのは党首のオカムラ氏本人しかいない。ANOの場合にはもう少し人材に恵まれているけれども、多くはすでに下院議員になっているから、候補者として立てにくかったのだろう。
 もう一つは、現在の政治、政府に不満がない人よりも、不満がある人の方が、上院の選挙に足を運ぶことが多いという事情が考えられる。ANOの当選者が少なくなればバビシュ政権が好き勝手で切る余地が減るわけだから、反バビシュの人たちがANOの候補者の当選を防ぐというのをモチベーションに投票に向かったというのは納得のいく考えである。以前も上院の選挙では野党が勝つという傾向が見られたし。

 ところで、今回の市町村議会選挙と上院議員の選挙を通じて、社会民主党の凋落が止まらないことが明らかになった。責任をとって執行部の交代ということにでもなれば、ANOとの連立にも影響を与えるはずである。すでに任命されたかどうか覚えていないけど、ゼマン大統領が拒否したポヘ氏に代わる外務大臣も決まったというのに、前途多難である。見ている分には、時に理解不能なことが起こるのを除けば、楽しいのだけど、チェコ国民にとっては嬉しいことではあるまい。
 長々と書いてしまった選挙の話はここでひとまずお仕舞い。
2018年10月14日23時55分。









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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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