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2019年05月19日
チェコ被告に(五月十七日)
チェコと、ハンガリーと、ポーランドの三カ国が被告となった裁判が、EUの司法裁判所で始まったらしい。最初に「チェコが」と聞いたときには、バビシュ首相の「コウノトリの巣」事件をはじめとして、EUの助成金をめぐる不正が頻発していることをとがめられての裁判かと思ったのだが、そんなことはなかった。ちなみにEUの助成金に関しては、この手の助成金にありがちなことに、コンサルタントなんかの助成金ビジネスが横行していて、何でこんなのに金出すんだというプロジェクトも多い。
それはともかく、一緒に被告にされたポーランド、ハンガリーの存在からもわかるように、ことは助成金なんかではなく、ヨーロッパに押し寄せた難民、もしくは不法移民の受け入れに関して、国ごとに受け入れ枠を設定するという政策に反対し、現在でも反対してつづけていることがとがめられたのである。
メルケル首相の失策でとめどなく押し寄せるようになった難民の数に耐えられなくなったドイツが中心となって、半ばごり押しのようにEU委員会で決定されたのが、この難民の国別受け入れ数を割り当てて、無条件で受け入れさせるという政策だった。ごり押しというのは、チェコを含む三カ国以外にも、この制度に反対していた国は旧共産圏を中心にいくつもあったのに、ドイツの圧力に負けて、スロバキアのように最終的にはしぶしぶ賛成に回ったからである。
それに対して、チェコでは、ほぼすべての国政政党がこの政策に関しては、当初から一貫して反対の立場をとっており、ドイツがあれこれ脅迫めいたことを言ってきたときにも、形だけでもいいからと泣き落としにかかったときにも、態度を変えることなく反対し、割り当てに基づく難民の受け入れは、拒否し続けている。それは、ポーランドもハンガリーも同じである。
その結果として、この三国以外での強制割り当て数に基づいた難民の受け入れが始まったかというとそんな様子はなく、どうなっているのだろうと思っていたら、この裁判のニュースで事情が判明した。チェコなどの三カ国が当初から主張していたように、各国に人口などに基づいて受け入れ枠を設定して、難民を割り当てていく制度が、実は絵に描いた餅で、実施不可能だということが判明し、中止になったという。この割り当て制度が機能せず、導入は失敗だったことは、EU内でも合意に達しているらしい。
この割り当て制度の終わりについて情報がほとんど出てこなかったところにもEU委員会に対する不信を感じるのだが、制度が機能しなかった理由は、チェコなどが反対したからでも、制度を拒否したからでもないようである。いや、少し考えれば、不可能だというのはわかると思うんだけどねえ。 そんな、現在では既に存在しない、失敗だったと認められた制度に関して、今更司法裁判所に提訴しても意味はないだろうというのがチェコなど三カ国の反論である。
EU委員会としては、裁判所に、チェコなど三カ国が、委員会の決定を守らなかったという判決を出させたいらしい。そしてその判決をてこに、チェコなど反抗的な加盟国に対する締め付けを強めようとしているのかもしれない。この辺のEUの対応が、旧共産圏の加盟国内で、反EU、もしくは親EUでも改革を主張する勢力が力を延ばしている原因になっている。特にEU委員会の位置づけに関しては、チェコでは簡単に言うと政府でもないのに政府面しているという批判が強く、委員会の決定よりも加盟格国の権限を強めようという主張がなされている。
今回のEU司法裁判所の件が、EU議会の選挙結果に影響を与えるのは当然だと思うが、現在のチェコには完全に今のままのEUの維持を主張している政党はなく、多かれ少なかれ改革が必要だという点では一致しているから、その影響の出方が読みにくい。EU離脱を主張している政党に投票するような人たちは、今回の件がなかろうとEU離脱を支持するだろうし。投票率が高くなれば、どうせANOが勝つのだろうけど、EU議会の選挙の投票率って、これで民主主義が成立するのかと言いたくなるぐらい低いからなあ。不要論がしばしば出てくる上院の選挙より低い投票率(前回が18パーセントほど)で民意を反映しているとかいえるのかねと、他人事ながら心配になってしまう。
2019年5月17日23時45分。
2019年05月18日
文化大臣辞任(五月十六日)
バビシュ内閣の大臣がまた一人辞任することになった。今回はANOの大臣ではなく、社会民主党が文化大臣に就任させていたアントニーン・スタニェク氏が解任、辞任を求める世論の圧力に耐えきれなくなって、党首のハマーチェク氏に、五月末日付での辞任を申し出たらしい。
このスタニェク氏、じつはオロモウツの出身で、パラツキー大学の教育学部の先生から、政界に進出してつい最近までオロモウツ市長を務めていた人物である。だから、主義主張はともかく、応援しなければならないような気がしていたのだが、今回の件で、オロモウツの政治家とは言え、市民民主党のラングル氏と同じカテゴリーに入れることにした。
スタニェク氏が、辞任を求めるデモを起こされるところまで批判されることになった原因は、二つの出来事である。一つはオロモウツの美術館の館長ソウクプ氏を解任したことで、もう一つはプラハの国立美術館の館長ファイト氏を解任したことである。とくに後者に関しては、チェコ国内の芸術関係者からだけでなく、世界中の協力関係にある美術館からも、解任を撤回しなければ協力関係を解消するという抗議を受けていた。
オロモウツの美術館の館長の解任に関しては、詳しい事情はよくわからないのだけど、個人的な復讐だという批判も聞こえてきたから、オロモウツ市長時代にいさかいがあったのかもしれない。もしくは、文化大臣としての仕事を批判されたのが解任の原因だったのだろうか。オロモウツの美術館の前の案内の掲示板には、文化大臣解任を求めるコンサートのポスターが掲示してあった。芸術関係者だけでなく、いわゆる芸能界の人たちの間にも、反スタニェクの動きは広まっているようだ。
ファイト氏の解任については、横領の疑いがあってのことらしい。こちらは、刑事告発までしているから、ある程度の根拠、少なくとも刑事事件として告訴して勝訴できそうなレベルの証拠は握っていたのだろう。一度社会民主党内部で事情聴取みたいなことをされたときには、他の議員たちの理解を得られて解任されなかったのも、そのことを裏付ける。
ファイト氏自身は、館長としての勤務時間外にやった、美術館のための仕事について、美術館から謝礼としてもらっただけだと主張しているのだけど、これっていいのか? 管理職の給与には時間外に行う仕事の分も含まれているから、高額になっているんじゃなかったのか。省庁も含めたチェコの役所では、お手盛りのボーナスが多くて人件費をかさ上げしているという批判が毎年なされるのだけれども、さすがに大臣が自分で自分に出したという話は聞かない。
このファイト氏に関しては、以前も金銭関係で問題になった記憶もあるから、いや前任の館長だったかもしれないけど、芸術家的なルーズさが悪いほうに出ていると言ってもよさそうだ。他の美術館の館長や、芸術関係者がファイト氏を支持しているのも、芸術家の世界の常識と一般の世界の常識が乖離していることを示唆しているようにも思われる。ファイト氏の業績とは別にそこは批判されるべきなのだろうが、現時点では罪のないファイト氏を、理由もなく解任したスタニェク氏という構図で批判が広がっている。
オロモウツの美術館に関してはともかく、このファイト氏の件に関しては、どっちもどっちというか、一方的にスタニェク氏が悪いとは言いきれないという印象を持つ。ただ、まともな大臣であれば、この件を違った形で収めることができたのではないかという点では、スタニェク氏は批判されるべきだし、辞任に追い込まれたのも当然だと言える。文化大臣になったときに、子飼いの部下としてかつて金銭問題で市長だったか市会議員だったかを辞めさせられた人物を、次官に据えたことも批判の対象になっているし、目くそ鼻くその争いなのである。
文化関係のことを何もわかっていないとまで酷評されるような人物が、何故に文化大臣に就任したかというと、党内政治の結果である。日本とは違って、議員を何期務めると大臣候補になるとかいう不文律はないが、いろいろな取引の結果、大臣になったり党の主要ポストについたりする例は、旧来の政党の場合にはよく見かけられる。
今回も、恐らく、バビシュ政権に参加するかどうかで社会民主党が割れたときに、政権参加を主張した党首のハマーチェク氏をスタニェク氏が支持したのと引きかえに、大臣の座を提供されたのではないかと見る。その際に、ANOとの取引で社会民主党が担当することになった省のなかでは、最も重要度が低い文化省が割り当てられたのだろう。
社会民主党の文化大臣というと、パベル・ドルタールという長期にわたって文化大臣を務めた名物大臣がいたのだけど、この人がオロモウツ出身だから、オロモウツ出身のスタニェク氏に与えるポストとしてはちょうどいいなんてことを考えたのだろうか。ドスタール氏が、映画、演劇の世界から政治に転身して文化大臣として成功したからか、以後の文化大臣も、その世界の人が就任することが多かった。
いずれにしても、オロモウツ出身であれ、映画、演劇界出身であれ、ドスタール氏ほど成功した文化大臣はいない。何せ、就任以来七年にわたって、首相が交替しても大臣をつとめ続けたのである。亡くなるまで文化大臣であり続けたドスタール氏を越える文化大臣は、今後も出現することはなかろう。オロモウツではその功績をたたえて、かつて活動していた劇場のあった建物にレリーフが設置されている。ちなみに、カレル・クリルのレリーフが設置されたのと同じ軍の建物である。
とまれ、オロモウツの市長時代の業績に関しても、酷評されることの多いスタニェク氏が、世論の圧力を受けて辞任を表明した。これは健全な民主主義の発露と考えてよかろう。ただ、同時にこの辞任が、選挙対策であったことも忘れてはならない。五月末に行われるEU議会の選挙に向けて、支持率を落とさないように、社会民主党の指導部が因果を含めて、辞任を申し出させた可能性は高い。選挙のためには人気取りが必要だからね。もちろん辞任、解任を求めていた政党も選挙を意識していたことは間違いない。
2019年5月17日15時30分。
2019年04月21日
法務大臣も交替(四月十九日)
運輸大臣、産業大臣に続いて法務大臣も交替することになるようだ。これまでの法務大臣はバビシュ党ANOのクニェジーネク氏、新しく大臣になるとうわさされているのがベネショバー氏である。実現すればまたまた国会議員ではない民間大臣の誕生ということになる。ただ、このベネショバー氏が、かつて市民民主党のネチャス氏が、無責任に政権を投げ出したときに、ゼマン大統領がごり押しで任命した暫定内閣の法務大臣を勤めた人物で、大統領に近いと思われていることから、あれこれ批判が巻き起こっている。
曰く、「コウノトリの巣」事件でバビシュ氏が起訴されるのを防ぐために、検察の長官を解任するためじゃないかというのだけど、その論理がいまひとつ理解できない。仮に、検察の長官の任免が、法務大臣の専権事項だというのなら、その解任のためだけに法務大臣を交替させる必要はあるまい。現職はバビシュ党の国会議員なのだから、民間人の新大臣よりも強制しやすいはずである。だから、この大臣の交替に、単なる交替以上の意味があるとすれば、検察の長官の解任以外の目的があると見る。バビシュ氏は起訴されても辞任する気はないと言っているし。
バビシュ首相自身は、現職のクニェジーネク氏は、そもそも暫定的に選出したものだから、適任者が見つかった以上、交替するのは当然だと説明している。これに対しては、特に司法界から、司法の軽視だとして反発の声が上がっているけれども、自らの業界を特別視するような言動はどうかと思う。バビシュ政権では、外務大臣も一時期暫定的にハマーチェク氏が勤めていたわけで、暫定的な任命が、その役職を軽視しているというのは、短絡的にすぎる。
法務大臣に関して、少し長期的なスパンでながめると、社会民主党のソボトカ氏が首相を務めていた時代も法務大臣はANOに属していた。記憶に間違いがなければ、当時はペリカーン氏が民間人大臣として登用され、その後の総選挙でANOから立候補し、下院議員になったこともあって、来るべきバビシュ内閣でも継続すると考えられていた。それが、内閣を成立させるための交渉の中で、バビシュ氏のやり口に愛想をつかして辞任してしまった。
それでバビシュ氏が起用したのが、女性のマラー氏なのだが、学位をとった論文の盗作疑惑で辞任を余儀なくされた。バビシュ氏に倣って頑張れば特に辞任するほどの疑惑でもなかったような気もするのだけど、ANOのイメージを落とさないようにとか言って辞任してしまった。この人の疑惑でANOを見限るような支持者は、バビシュ氏の疑惑が表に出た時点で見限っているはずだから、大きな影響はなかったと思うのだけどねえ。
とまれ、このマラー氏の辞任という緊急事態に際して、暫定で選ばれたのがクニェジーネク氏だというのである。法務大臣の地位にあって一年ほどなのだが、ほとんど目立つことはなかった。実質的な前任者のペリカーン氏が、司法関係であれこれ問題が起こるたびに、適宜コメントを出したり、テレビ局の取材に応えたりしていたのに対して、クニェジーネク氏はほとんど表に出てこなかった印象がある。だから、暫定的な任命だったといわれると納得してしまいそうになる。
不思議なのは、これまで沈黙をまもることが多かったせいで、批判の対象になることが多かったクニェジーネク氏を高く評価する声が、突然司法の世界から上がり始めたことである。坊主にくけりゃ袈裟まで憎い的に、ありとあらゆることがバビシュ批判のためなら許されるという印象を与える。バビシュ氏がオウムのように、これは政治化された事件だと繰り返すのも見苦しいし、目くそ鼻くその争いにどちらが勝ってもろくなことになるまいという感想しかもてない。
チェコの司法の最大の問題は、誰が大臣になるか云々にはなく、警察、検察という事件捜査に当たる組織も、裁判かんたちも、内部抗争に熱心でライバルを追い落とすためなら政治家やマスコミと組んで恥じないという点にある。もちろん政治家やマスコミの側も、その内部抗争を利用して情報をリークさせたり、事件の鎮静化を図ったりしている。そこを何とかしないと、法務大臣が誰であれ、首相が交代しようがしまいが、チェコの司法界が現状よりよくなることはあるまい。
バビシュ批判は正しい。バビシュ氏が辞任すべきだという意見にも同調する。ただ、バビシュ氏が辞任したからといって、状況がマシになるとはいえないのが、残念なチェコの現状なのである。その点、日本の政情と似ているよなあ。
2019年4月20日18時30分。
2019年04月19日
チェコ政界事情(四月十七日)
かねてから噂のあった内閣改造が行なわれた。バビシュ首相は社会民主党の閣僚に、いかに不満があったとしても、手を出す気はないようだから、改造の対象となったのはANOが推薦した閣僚だけである。閣外に去った大臣の顔ぶれも噂の通りだった。
一人は問題発言と行動を繰り返して立場を悪くしてきたマルタ・ノバーコバー産業大臣で、やはり中国大使の要望に応えて台湾代表を排除したことへの批判が強く、バビシュ氏もかばいきれなくなったようで、解任と言ってよさそうである。繰り返しになるけど、大統領を筆頭に政治家も財界人も中国共産帝国に媚を売りまくっているチェコにおいて、自らの過去を省みた上で、ノバーコバー氏の行動を批判できる政治家はほとんど存在しない。
バビシュ首相自ら先日中国が旧ユーゴスラビアのどこかで開催した会合に出席していた。中国への輸出やチェコ企業の中国進出だけでなく、中国の企業にチェコ国内の高速道路や鉄道などのインフラ整備も任せたいなんてことを言っていたけれども、正気を疑う発言である。ポーランドで2012年のサッカーのヨーロッパ選手権開催に向けて、高速道路の建設を中国企業に任せた結果、人が足りないとかあれこれ問題が発生して契約解除になったとか、チェコでもどこかの町で広場の復旧工事を中国企業に落札されて手抜き工事をやられたなんて事例があるんだから、もうちょっと慎重になったほうがいいじゃないかねえ。ダボハゼみたいに中国が投げる餌にとびついていると足元を見られることになりそうである。
二人目は解任というよりは辞任に近かったようだが、運輸大臣のテョク氏が閣外に去り、同時に下院議員も辞任した。本人の話ではテョク氏が運輸大臣にあるせいで儲けられなくなっている連中の「テョクおろし」に抵抗する気力がなくなったというのだけど、中国企業に高速道路や鉄道の整備を任せたい勢力からの圧力でもあったのかねえ。この運輸大臣は、誰が務めても問題ばかりの役職だから、交代しても劇的な改善は望めないと思う。
辞めた(辞めさせられた)二人の大臣の後任は、どちらも政治家ではなく民間出身の人のようだ。この辺のためらいなく、政治家を無視して民間人を抜擢するところが、政界にしがらみのないANOの強みであり、同時に既存政党に警戒されている、もしくは毛嫌いされている理由の一つになっている。普通は議員になってから大臣になるところを、大臣になってから次の選挙で国会議員になるという逆の順番になっている人が多いのが、政界のエリートとしては許せないのだろう。
そのバビシュ首相なんだけど、例の「コウノトリの巣」事件に関して、警察が一通りの捜査を終え、検察に起訴するように求めたらしい。これは日本の書類送検にあたるのかな。とまれ、バビシュ首相は、相変わらず仕組まれた捜査で、捜査対象になっている当人よりも、マスコミが先に情報を手にしているのがその証拠だとか言っている。
水掛け論というか泥かけ論というか、この事件にはチェコの政界のどうしようもなさが、あらゆる面で反映されているのだけど、EUも余計な口出ししそうだし、解決されることはなさそうな気がする。ぎりぎりまで結論が出ないまま引っ張って、任期終了直前にゼマン大統領がこの事件に関して恩赦を発してすべてに幕を引くなんてシナリオもありそうだ。
一方、先日市民民主党を追放されたバーツラフ・クラウス氏は、国会の教育審議会の委員長(この前は副と書いたかもしれない)を務めているのだが、市民民主党は、予想通りこの役職は市民民主党のものだということで、追放したクラウス氏の解任に出た。審議会内の解任に関する投票では秘密投票だったせいで、造反者が出てクラウス氏の解任は認められなかった。
そこで市民民主党は、秘密投票になる審議会での解任を諦め、公開投票で議決が行なわれる本会議での解任の議決に持ち込んだらしい。この辺の事情がいまいちよくわからないのだけど、結局解任されることにはなったようだ。ただ、市民民主党が後任に推しこもうとしていた人物の就任が認められなかったとかで、現時点ではいまだに委員長ということになるのだとか。よくわからん。
とまれ、大切なのは公開での投票だったにもかかわらず、市民民主党の中から一人とはいえ造反者が出て、提案に反対の票を入れたことだ。その女性議員は課院内の市民民主党会派を脱退する以降もあるらしい。これに対する党首のフィアラ氏の発言がまたなんとも共感の餅国悔いはない話し方でこれでいいのかと思わされた。
眠いので中途半端だけどこれでおしまい。
2019年4月18日24時。
2019年03月22日
オカムラ党でも内紛(三月廿日)
市民民主党がバーツラフ・クラウス氏を除籍したのと同じころ、オカムラ党も三人の下院議員を問うから追放した。三人とも、オストラバを中心とするモラビア・シレジア地方の選挙区で選出された議員で、オカムラ党は、下院の選挙が党に投票する比例代表制であることを理由に(多分)、議員の辞職を求めたが、他の無所属の議員たちと組んで新しい会派を立ち上げたらしい。
比例代表制で獲得した議席は、個々の議員ではなく党に属するものだから、離党する場合には議員も辞職するべきだという考えには一理あるようで、議員の中から離党者が出た場合、党の側からこの手主張が出てくることが多い。多いのだけど、実現は確か一度もしていないはずである。チェコ人が一度手に入れた有利な地位を、自分から手放すわけねえだろというのは我が畏友の発言。だから法律で決めなければ絶対に実現しないと続くのだが、チェコに限らず政治家なんて人種が、みずからを縛るような法律の制定に積極的になるわけもなく、現在まで実現していない。
以前からオカムラ党の中央と、モラビア・シレジア地方支部がもめているというニュースは聞いていた。今年に入ってからだったと思うが、モラビア・シレジア地方支部が、党規に違反し続けているということで、解散させられた。この話を聞いたときの感想は、オカムラ党に党規なんかあったんだという失礼極まりないものだったのだけど、モラビア・シレジア地方支部の中心をなしていたのが今回追放された三人の下院議員たちだったのだ。
支部が解散になった後も、三人はオカムラ党の国会議員であり続けていたようだが、ここで党からの追放という手に出たのがなぜなのかはよくわからない。オカムラ氏は、追放された三人のうちの一人について、生活保護を受けている人たちを食い物にする貧困ビジネスに手を出していて、それをやめるように忠告したが、何度言ってもやめようとしないというのを理由としてあげていた。おいおい、そんな奴だとわかっているなら最初から入党させるなよ。入党させても選挙に出させるなよと、思った人は多いだろうと言いたいけど、チェコの政界って何でもありだからなあ。そのうちにゼマン大統領が恩赦を与えたカイーネクなんかも選挙に出たりするんじゃないだろうか。
追放された三人の議員も大人しく追放はされず、自分たちが党の規律に違反するようなことはしていないことを述べた上で、オカムラ党に対する禁断の批判を放った。それは、オカムラ党の党首のオカムラ氏は、名目上の党首に過ぎず実際に党を動かしているのは別の人物だというもので、つまりオカムラ氏は操り人形に過ぎないという批判だった。
これは、かつての旧オカムラ党と言うべきウースビットの時代からまことしやかにささやかれていた噂で、オカムラ氏が党を追われた理由の一つにもなっていたのではなかったか。頻繁に言うことが変わって、発言の整合性が取れていないことも多い理由として、オカムラ氏の意見と影の黒幕の意見が一致していないのが原因じゃないかなんて憶測もあり、チェコではある程度の信憑性を認められている噂である。
しかし、だからと言って、今回の追放された三人の批判、ウースビットを乗っ取った連中の批判に正当性があるかというと、そんなことは全くない。なぜならオカムラ氏の後ろに黒幕がいると批判するだけで、黒幕の名前を出していないからだ。仮にも当のオカムラ党から選挙に出馬し、地方支部の長など党の要職を任され、国会でも党が獲得した何とか委員会の委員長か副委員長に就いていた人たちなのだから、本当に黒幕が存在するのなら、その黒幕の名前は知っていなければおかしい。そして、オカムラ氏を批判する以上に、オカムラ氏の陰で好き勝手やっている黒幕を批判するべきである。
もちろんこれは、オカムラ氏の行動を正当化するものではないし、いかにオカムラ党の候補者の選択がいい加減だったかという事実を改めて見せつけているに過ぎない。資金さえ十分に提供できればオカムラ党の候補者にはなれるのだ。そういえば去年の地方議会選挙でもオカムラ党の候補者の中にでたらめの経歴を書いたという人が何人もいたなあ。他の党も似たり寄ったりの部分がないとは言わないけれどもさ。
社会民主党も元内務大臣のホバネツ氏が、ANOとの連立を維持しようとする執行部の方針に異を唱えて、こちらは離党はせずに、議員を辞任したし、ANOもファルティーネク氏の問題でもめている。とはいえ、現時点で下院の選挙が行われたらANOが勝つというのは変わらないのだろうなあ。今年は投票率が極端に低くなるEU議会の選挙が行われるけど、これもANOが勝つのか、組織票があったほうが有利だから既存の政党が勝つのか、個人的には意外なまともさを見せている海賊党に勝ってもらって、選挙に勝って浮かれないかどうかを確認しておきたいところである。
2019年3月21日15時。
2019年03月21日
市民民主党内紛(三月十九日)
国会の審議の場で、EUからもたらされる命令と、ナチスドイツがユダヤ人を強制労働所に送るために出していた命令を比較して同じようなものじゃないかという問題発言をしたバーツラフ・クラウス氏にかんして、所属の市民民主党は党籍を剥奪して党からも、国会の会派からも追放処分とした。えっと思ったかた、その疑問は多分正しい。このバーツラフ・クラウス氏は、元大統領ではなく、その息子の上院議員である。どこかの学校の校長もやっていたかもしれない。
親の七光りで社会的な地位を得、バーツラフ・クラウスという市民民主党の創設者の名前で入党し、選挙で票を集めて議員になり遂せたこの人物は、以前から、オカムラ氏とその一派ほどではないにしても問題発言を繰り返して、党内外からの批判を浴びていた。党首のフィアラ氏をはじめとする執行部にとっては、その名前で支持者の間にノスタルジーめいたものを呼び、党の得票数を伸ばすのに貢献しているバーツラフ・クラウス氏の存在は、頭が痛いものだったに違いない。
1989年11月に起こったビロード革命を主導して、共産党からの戦いなき権力移譲を実現するのに貢献したのは、市民フィーラムと呼ばれる組織だった。政治勢力というよりは、共産党政権を終わらせることを目的とした人たちが、目的達成のために大同団結したもので、特に一定の主義主張を持つ人たちが集まったということはなかったので、その役割を果たした後は分裂して解体されてしまったのは歴史の必然だったといってもいい。
その解体の第一歩を記したのがバーツラフ・クラウス氏の父親のほうである。恐らくハベル大統領の色の濃い市民フォーラムに留まりハベル大統領の下に置かれることを嫌ったのだろう。支持者を集めて市民フォーラムを飛び出し市民民主党という新しい政党を設立した。この結党の経緯もそうだが、資金源となったのがビロード革命のドサクサにまぎれて、非合法に近い手段で資産を築いた特に地方の実力者だったところも批判の対象となっている。この地方の実力者達は共産主義の時代にもそれなりにうまくやっていた人たちで、市民民主党の影の海の親だということで、クモトル(洗礼のかかわるゴットファーザー)と呼ばれて、現在でも市民民主党の頭痛の種となっている。
クラウス氏の分派行動の後、市民フォーラムはさらに分裂する。反共産等でも左翼的な考えを持つ人たちは、かつて存在した社会民主党を再建し、共産党員でも共産党に入党した言い訳を必要としていた人たちをも受け入れて、一大勢力を築いた。90年代にこの党を主導していたのが、現在の大統領のミロシュ・ゼマン氏である。
話を市民民主党に戻そう。バーツラフ・クラウス氏は、市民民主党の党首として首相を何回か務め、ハベル大統領の二回目の任期の切れる2003年には、市民民主党の推薦で大統領選挙に出馬した。確かこのときだったと思うが、大統領は党派性を有していてはいけないという建前の下に、党首を辞任し党籍も返上した。それに対して、党の側は、長年の貢献に感謝するために名誉党首という肩書きを与えたのだった。
ただ、この時点ですでにクラウス氏と党の関係はギクシャクし始めていた。それは後任の党首を選ぶ党内選挙で、クラウス氏の子飼いで後継者と目されていたネチャス氏が、あまり知られていなかったトポラーネク氏に敗れたことからも明らかである。市民民主党との関係が完全に切れたのは、2008年に二回目の大統領選挙に出馬した際のことだったと記憶する。このとき名誉党首の肩書きを返上し、任期が終わった後の選挙では、市民民主党ではなく別の政党を支持することを表明するまでになっていた。
クラウス氏の二人の息子も、クラウス氏が名誉党首を辞めたのと前後して、市民民主党を離党していたはずである。党会費を払わず党籍を剥奪されたとか言うニュースをみた記憶がある。それが、息子のバーツラフ・クラウス氏は、いつの間にか市民民主党に戻っていて、前回の2017年の下院選挙に立候補していてびっくりした。この時点では、ネチャス内閣が総辞職したあとの下院選挙で歴史的な惨敗を喫した市民民主党が、創立者の子供で名前も同じバーツラフ・クラウス氏を必要としていたということなのだろう。
その立場の強さが、新人議員でありながら、党の指導部の意向に反するような発言を繰り返すことにつながったのだろうし、国会で何とか審議会の副議長という要職を与えられていた理由なのだろう。2017年の選挙で大差をつけられたとはいえ、ANOに次ぐ第二党に入り、その後の世論調査でも海賊党と2位を争っていて、党勢が完全に回復基調にあると判断した執行部は、クラウス氏の切りどころ、切りどきを探していたのだろう。そんなときに冒頭に書いた問題発言が出たから、これを幸いと追放処分にしたというのが真相と見る。
党の功労者であり、同時に悪しき部分を体現していたクラウス氏とその息子と完全に縁を切ったことで、90年代の市民民主党とは違うと主張することになるのだろうが、いまだにビッグブラザーたちの影は見え隠れしている。オロモウツのラングル氏とか、プラハのベーム氏あたりが党員であり続けている以上、そんなに大きく変わったとは思えないのだけど。
問題は、今回の一件で市民民主党の支持率を上げるか、下げるかだが、下げると見る。バーツラフ・クラウスの名前は、市民民主党支持者の間では大きな意味を持ち続けているはずである。
2019年3月20日22時。
2019年03月11日
鬼のいぬ間に(三月九日)
バビシュ首相がアメリカを訪問している間に、本国チェコでは、ANO二番目の男、副党首のファルティーネク氏に警察の捜査の手が伸びた。現時点では国会議員であるため逮捕拘束はされていないが、自宅と事務所の家宅捜索を受けたようだ。首相が国にいると禁止の命令がでかねないと見ての、警察の、いや警察の一部の行動であろうか。
ANOとしては、バビシュ首相だけでなく、ファルティーネク氏も容疑をかけられた例の「コウノトリの巣」事件以来の大きなスキャンダルということになるが、これをただ単に警察よくやったと称賛したのでは、チェコを知るものとしては恥ずかしい。ちょっと大げさに言うと、警察内部に二つの派閥があって、互いに後ろ盾となっている政治家のスキャンダルを狙っているのだ。もちろん、政治家の側からのリークもあるわけで、それがチェコで政治家の汚職が、日本よりも摘発されやすい原因になっている。その意味では、「コウノトリの巣」事件も、バビシュ氏の行為が助成金の詐取であるのは間違いないにしても、政策捜査だというバビシュ氏の批判にも一部の理はあるのである。
今回問題になったのは、ファルティーネク氏と、公正取引委員会の委員長、それにカプシュという会社のやり取りである。カプシュはチェコ国内の高速道路で高速料金徴収のためのシステムを設置し運用している会社で、本体はオーストリアの会社だっただろうか。この会社とチェコ政府との契約が切れる際に、本来は新たに(見方によっては無駄に)入札を行なって次の業者を選定することになっていたのだが、運輸省内の混乱もあって、一度カプシュとの契約を暫定で延長して、その延長期間が切れるのに合わせられるように、入札が行なわれた。
入札の結果カプシュは敗れて、別の会社が落札したのだが、これに公正取引委員会がいちゃもんをつけて、決定が引き延ばされた。最終的には公正取引委員会が異議を撤回して、入札の結果が有効になった。この一連の公正取引委員会の介入の裏に、カプシュ社の意を受けたファルティーネク氏の公正取引委員会への働きかけがあったのではないかというのが、今回の疑惑である。
ファルティーネク氏は、カプシュ社との会合も、公正取引委員会との会合も認めたうえで、法律に違反するようなことは何もしていないと主張し、自分の行動のおかげで、この辺なぜかなのかいまいちよくわからなかったのだけど、政府の支出を削減することができたのだと言っている。もちろんカプシュ社も公正取引委員会も容疑を否認している。政府としては、その任に堪えるかどうかもわからない新しい業者よりも、すでに実績のあるカプシュ社に任せたいという意向もあったんじゃないかとは思うんだけどねえ。
警察は会合を問題にしているのではなく、盗聴した電話での話しの内容を問題にしているようである。具体的な内容は現時点では明らかになっていないが、一部のマスコミによれば、ファルティーネク氏の発言は、完全にカプシュ社の主張を代弁して、それに従うように公正取引委員会に求めたものだというのだけど、相変わらずゆるゆるの情報管理振りで、意図的な情報のリークを感じさせる。
今回は、ファルティーネク氏に捜査の手が伸びると同時に、ブルノ市の中央区のANO区会議員も、区の発注する事業に関して賄賂を受け取ったという容疑で、こちらは免逮捕権がないので逮捕拘束されているのかな。全部で9人の政治家、実業家が警察に連行されて、そのうち4人は釈放されたとか何とか。
政界ではこれでANOへの批判が高まるのだろうけれども、有権者のANO離れは起こるまい。地方政界においてこの手の関係者に便宜を図る汚職はそれこそ日常茶飯事であり、プラハのベーム市長や、南モラビア地方のハシェク知事など疑惑のデパート的な存在が、市民民主党、社会民主党の中心に存在していながら、警察に逮捕されることなくのうのうと政治家を続けている現状を考えると、汚職が発覚したことがANOの支持をやめる理由になるとは思えないのである。
現在国会に議席を持っている政党で、この手の汚職に、全く手を染めていないと信じられる政党などない。一番信じられそうなのは海賊党だけれども、どこまで信じていいのか。どこまでといえば、日本の政治でもそうだけど、陳情なんてものがあったりすると、どこからが汚職になるのか線引きが難しい問題でもありそうだ。
2019年3月10日22時55分。
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2019年03月09日
バビシュ首相訪米(三月七日)
サッカーのヨーロッパリーグのスラビアの試合を見ようと思っていたのだが、バビシュ首相が、アメリカのバビシュこと、トランプ大統領にホワイトハウスに招待され、会談直前のバビシュ首相のようすを伝えるニュースを優先してしまった。チェコの首相がホワイトハウスに招待されるのは、1993年のビロード革命以後これが6回目ということで、回数が少ないからどうしてもチェコにとっては大々的な政治的なイベントになってしまう。
実はゼマン大統領もトランプ大統領側にホワイトハウス訪問を持ちかけているけれども、現在のことを実現しておらず、今後も実現しそうにないと言われている。これは、ゼマン大統領がロシアより中国寄りの立場での発言を繰り返しているのが、トランプ大統領の気に染まないのだろうか。今回トランプ大統領がバビシュ氏と会談を持ったのも、近年チェコやポーランド、ハンガリーなどのチェコで言う中欧諸国の間でロシアと中国の影響力が高まりつつあるのを防ぐ目的もあるらしい。
バビシュ氏の前か後にはポーランドの大統領とも会談する予定だし、すでにオーストリアの首相とも会談しているはずである。ハンガリーのオルバン首相はどうだったのかな。反政府活動のすべてはハンガリー系アメリカ人の実業家ショロス氏の陰謀だと主張してしまうオルバン氏をアメリががあえて招待するかと考えると疑問ではある。
バビシュ首相とトランプ大統領の会談、それに続く両国代表団の交渉でどのような話が出され、どのような決定がなされたのかについては、正直あまり関心はない。むしろ、会談が3月7日という日に行われた理由が気になる。この日は、マサリク大統領の誕生日なのだ。つまりこれは、トランプ大統領がチェコの首相にかなりの政治的な配慮を行った結果だと考えていいのだろうか。マサリク大統領もアメリカにわたって、当時のウィルソン大統領との知己を得ることで独立実現に近づいたのだったし。そんなトランプ大統領の配慮に、バビシュ氏がお土産としてチェコから持参したのは、拳銃CZ75のチェコスロバキア独立百周年を記念した特別シリーズのうちの一丁らしい。
現実にはチェコ側からこの日の会談を要望したと考えるのが正しいか。バビシュ首相はアメリカとチェコの関係を新たに作り直すなんてことを言っているから、自らをマサリクになぞらえているのかもしれない。そんなバビシュ首相とトランプ大統領の関係がどうなるかはわからないけど、ニュースでアメリカの雑誌によればバビシュ首相の資産の方が大きいらしいから、それがトランプ大統領の気に入らないなんてことはありそうな気もする。
ちなみに、バビシュ首相は、トランプ大統領がホワイトハウスに招待した最初のチェコ人というわけではない。バビシュ首相以前に少なくとも一人のチェコ人がホワイトハウスを訪れ、例の暖炉の前の黄色い椅子に座って二人で握手をしている。それはチェコスロバキアのゴットバルドフ(現ズリーン)出身だった最初の奥さんのお母さんである。
トランプ大統領はこの最初の奥さんの家族を大事にしていたようで90年代の初めには、父親か祖父の葬式にわざわざチェコまでやってきて、ズリーンで葬式に出た後、近くのスルショビツェにあった山荘に宿泊したらしい。その山荘はすでに営業をやめて取り壊されているという落ちは付くのだけど、このときの縁をつなぎ続けているようだ。ちょっと意外なトランプ大統領の一面である。
さて、これまでホワイトハウスに招待されてアメリカの大統領と会談を持ったチェコの首相は、90年代のクラウス首相とゼマン首相、2000年代に入ってシュピドラ首相とトポラーネク首相、そして前回2011年にオバマ大統領と会談したネチャス首相ということになる。これまでの5人がいずれも市民民主党か、社会民主党の出身で、バビシュ氏はこの2党以外で初めてアメリカの大統領と会談した首相であると書いて、首相自体が、暫定政権を除けば、この二党以外から出るのが初めてだったことを思い出した。
逆にアメリカの大統領がチェコを訪問したのは、90年代のクリントン大統領と、オバマ大統領の二人だけだろうか。ハベル大統領と仲がよかったらしいクリントン大統領は、招待されたプラハの飲み屋でジャズの演奏をするなど大はしゃぎで大きな印象を残したし、オバマ大統領もプラハでの美しい演説で世の人の感動を呼んだ。ただ特にオバマ大統領は、言葉の使い方は上手だったし、発言はきれいで非の打ちどころはなかったけれども、実際の行動には疑問符がつくことも多かったし、それがトランプ大統領を生み出す一因となったと言ってもいい。
そうなると気になるのは、今回のバビシュ首相のホワイトハウス訪問の返礼としてトランプ大統領のチェコ訪問が実現するかどうかである。プラハすっ飛ばして元の奥さんの縁者が住んでいるズリーン直行したりしたら、ちょっと高く評価してしまいそうである。
2019年3月8日22時35分。
2019年02月22日
左翼政権の行方(二月廿日)
チェコの首相はいわずと知れたバビシュ氏で、バビシュ氏の所属政党は自ら結成したANOである。政党としてのANOは、一部の党員が左翼政党だと主張することはあるが、バビシュ氏自身は作用句政党であることを否定して、左翼でも右翼でもない、つまりは全方位的な政党だと主張している。しばしば「みんなのための党」という形容を使うことがあって、日本を代表する珍名政党の一つ「みんなの党」を思い出して笑ってしまう。
市民民主党などの中道から右よりの政党は、しばしばANOに左翼政党のレッテルを貼りつけようとしているが、これは左翼だと批判することによって、2013年の下院選挙でANOに奪われた右よりの有権者の支持を取り戻すための努力の一環としての主張にしか聞こえないので、あまり説得力はない。むしろANOを批判するなら、右翼と左翼の主張のいいとこ取りで、言い方は悪いけれどもぬえのような存在になっているところであろう。
ANOやバビシュ氏のことをポピュリズムの権化だと批判しているのだから、右と左の政党の主張の有権者に聞こえのいい部分だけを集めて自らの主張にしていることを、ポピュリズムの証拠として提示すれば面白いのに、そんなことはしない。それは恐らくANOに取り込まれた自党の主張が実はポピュリズムの発露でしかないことを、無自覚かもしれないが理解しているからであろう。ANOの主張の具体的な部分をポピュリズムだと批判することは天に唾する好意なのである。
ANO自体は。いやバビシュ氏自身は、政治的なプログラムを策定しているから、党が右翼政党だとか左翼政党だとかいうのはどうでもいいことだと主張している。同じようなことはオカムラ氏も言っていたかな。政党を右と左に分けるのは、今の時代にはそぐわないとか何とか。個人的には、皆で本家本元争いをしてわけがわからないことになっている自由とか民主主義的なんて言葉を規準に、政党を分類するよりは、便宜的であっても左右に分けたほうがいいと思うんだけどね。
バビシュ氏の言葉を信じてANOは全面政党だということにしても、バビシュ政権が左翼政党であることは否定できない。連立与党を組んでいるのは社会民主党だし、連立与党ではたりない下院の表を確保するために共産党と協力関係にあるのである。共産党とはANOが閣外協力に関する協定みたいなものを結んでいるのかな。そして現在その左翼政権が揺れているのである。
権力の掌握のためには汚い手を使うことも辞さない、場合によっては暴力革命も辞さない共産党が、この政局のキャスティングボードを握った状況でおとなしくしているわけがなく、どの大臣が気に入らないとか、この大臣は無能だとか、批判し、首相に対しては解任を求める発言をして、政権に揺さぶりをかけている。バビシュ政権への影響力を高めるための駆け引きにしか見えず、相変わらずの共産党である。
共産党が批判しているのは、一人は運輸大臣のテョク氏で、これはプラハとブルノを結ぶ高速道路の改修工事が予定通りに進まず、連日第渋滞を引き起こしていたことによるもの。テョク氏の首をもとめているのは共産党だけではないのだけど。それはともかく、運輸大臣って、誰が就任しても問題連発のポストになってしまっているから、大臣の首を挿げ替えても大差はないと思うのだけどね。
もう一つの問題にされているポストは、外務大臣である。社会民主党が最初にノミネートしたEU議会議員のポヘ氏は、あまりにヨーロッパべったりだとしてゼマン大統領にまで忌避されて任命されることはなかったのだが、現在の外相も、共産党の主張によれば全体主義的なウクライナを支持してロシアを一方的に悪者にするという誤った外交上の立場を取っているらしい。親EU過ぎることも批判していたかな。
ということで、特に二人目の外務大臣を交替しなければ、閣外協力の協定を破棄するといって、どこまで本気かは知らんけど、脅しをかけている。大統領や首相と直接話をして交渉したいなんてことを共産党の書記長が主張していたかな。今のところバビシュ氏は静観して、社会民主党と共産党の交渉に任せるみたいだけど。その結果次第で倒閣から内閣不在になりかねないのは楽しい状況といえるのだけど、単に倒閣に終わらず課員の解散総選挙につなげてほしいのだけど、なあなあでバビシュ政権が続くのだろうなあ。
問題は、共産党も社会民主党も、市民民主党も世論調査の結果を恐れて、政府批判、バビシュ批判はしても解散総選挙は求めないところである。個人的には、だから、ANOに奪われた支持者を取り戻せないんだよと言いたいところである。最低あと二年は、バビシュ=ゼマン体制が続くことになるのか。うーんだなあ。
2019年2月21日24時。
2019年02月13日
ブラスティミール・ムリナーシュ氏(二月十一日)
ゼマン大統領の右腕とも言うべき大統領府の長を務めているのが、このムリナーシュ氏である。ハベル大統領にも、クラウス大統領にもこの大統領府の事務方を管轄する役職の人物はいたはずだが、ほとんど表に出てくることはなく、後に別の役職につくときに、以前こんな仕事をしていたという形で紹介されて知ることが多い。どんな仕事をしているのかすらはっきりとイメージしにくいのである。大統領の執務を影から支える黒子のような役割だといってもよさそうである。
それなのに、このゼマン大統領の右腕は、就任当初から目立っていた。それもあまりよくない意味でである。最初に大きな問題になったのはゼマン大統領がNATOのサミットに出席したときのことだった。本来なら大統領府の事務方の長として常に大統領と行動を共にするはずなのだだが、資格がないとして会合の会場に入れなかったのだ。
NATOは軍事同盟である。軍事同盟である以上首脳会談では軍事機密が取り扱われる可能性もあるため、同席するのに何か資格がいるらしいのだ。その軍事機密にかかわるための資格は各国の防諜機関が認定しているもので、いくつかのカテゴリーに分かれている。大統領と行動を共にするムリナーシュ氏には、当然最高の機密にまで触れられる一番上のカテゴリーが求められていたのだが、そのサミットの時点では申請はしたものの許可が降りていないという状態だった。一つ下の二番目の資格は持っていたのかな。
普通ならそれほど時間がかからないらしいこの資格認定がなかなか降りない時点で問題があるのは明白だったのだが、ゼマン大統領はムリナーシュ氏の仕事には満足しているしそのうち資格を取ってくれれば問題はないと弁護していた。ところが、その資格はいつまでたっても降りることはなく、最終的には防諜機関に拒否された。その後何度か手を変え品を変え申請しなおしたようだが、防諜期間が決定を変えることはなかった。
ことは国家の軍事機密にかかわる話なので、拒否された理由は明らかにされていないが、大統領を支えるべき人物が、防諜に関して完璧には信頼できないと評価されていることは、特に反ゼマン派の政治家から強く批判され、ムリナーシュ氏の解任を求められたのだが、ゼマン大統領は現在まで拒否し続けている。今後もこれを理由に解任することはないだろう。
さらに、反ゼマン派のアナーキスト芸術家団体が、プラハ城の国旗を取り外して、大きなトランクスを形容するという事件が起こったときに、地元の町の人たちをプラハ城の大統領官邸に招いて見学ツアーを行っていたとか、プラハの一等地に豪邸を購入した資金の出所が怪しいとか、あれこれ話題を提供し続けている。同じく大統領府の広報官オフチャーチェク氏と同様に、そして違った形でゼマン大統領の足を引っ張っているような気がする。
このムリナーシュ氏、そもそも何でゼマン大統領の右腕ポジションに納まったんだろう。社会民主党時代のゼマン派の人物ってわけでもなさそうだし。そんなことを考えていたらチェコテレビのルポルタージュ番組で、オフチャーチェク氏が地元の町で経営している企業に関して不正の疑惑があることを取り上げていた。ということは小さいながらも実業家として資産を築いて政界に進出したということなのだろうか。そこから社会民主党のゼマン派が分離して作ったSPO党(別名ゼマン党)とつながって、ゼマン氏の腹心にまでなりおおせたということのようだ。地方議会の議員にまではなったけど、国会議員の選挙で当選したことはない。SPO党自体が国政選挙ではほとんど議席を確保することはできていないし。
ムリナーシュ氏がゼマン大統領の大統領府の長になって以来、出身の町には政治家だけでなくさまざまな有名人、はてはカトリックのプラハ枢機卿まで訪れるようになったというし、あれこれ助成金が出てスポーツ施設を建設したり改装したりもしたようだから、町の人々にとってはムリナーシュさまさまでアンタッチャブルな存在になっていたのかもしれない。すべては大統領の威光である。
ちなみに、チェコテレビで今回報じられたムリナーシュ氏の疑惑は、地元の町に建築許可を取らないまま人口の池を建設したことと、その水の利用の許可を取らないまま、経営するスキー場のゲレンデの人口降雪機に使用したことらしい。この問題が大きくなっても、事件化して逮捕でもされない限りゼマン大統領がムリナーシュ氏を解任することはなさそうである。オフチャーチェク氏もそうだけど、ゼマン大統領にとっては、かけがえのない部下ということになるのだろう。あの大統領にして、この部下ありというところか。
2019年2月12日23時。
タグ:大統領