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2019年03月11日

鬼のいぬ間に(三月九日)



 バビシュ首相がアメリカを訪問している間に、本国チェコでは、ANO二番目の男、副党首のファルティーネク氏に警察の捜査の手が伸びた。現時点では国会議員であるため逮捕拘束はされていないが、自宅と事務所の家宅捜索を受けたようだ。首相が国にいると禁止の命令がでかねないと見ての、警察の、いや警察の一部の行動であろうか。
 ANOとしては、バビシュ首相だけでなく、ファルティーネク氏も容疑をかけられた例の「コウノトリの巣」事件以来の大きなスキャンダルということになるが、これをただ単に警察よくやったと称賛したのでは、チェコを知るものとしては恥ずかしい。ちょっと大げさに言うと、警察内部に二つの派閥があって、互いに後ろ盾となっている政治家のスキャンダルを狙っているのだ。もちろん、政治家の側からのリークもあるわけで、それがチェコで政治家の汚職が、日本よりも摘発されやすい原因になっている。その意味では、「コウノトリの巣」事件も、バビシュ氏の行為が助成金の詐取であるのは間違いないにしても、政策捜査だというバビシュ氏の批判にも一部の理はあるのである。

 今回問題になったのは、ファルティーネク氏と、公正取引委員会の委員長、それにカプシュという会社のやり取りである。カプシュはチェコ国内の高速道路で高速料金徴収のためのシステムを設置し運用している会社で、本体はオーストリアの会社だっただろうか。この会社とチェコ政府との契約が切れる際に、本来は新たに(見方によっては無駄に)入札を行なって次の業者を選定することになっていたのだが、運輸省内の混乱もあって、一度カプシュとの契約を暫定で延長して、その延長期間が切れるのに合わせられるように、入札が行なわれた。
 入札の結果カプシュは敗れて、別の会社が落札したのだが、これに公正取引委員会がいちゃもんをつけて、決定が引き延ばされた。最終的には公正取引委員会が異議を撤回して、入札の結果が有効になった。この一連の公正取引委員会の介入の裏に、カプシュ社の意を受けたファルティーネク氏の公正取引委員会への働きかけがあったのではないかというのが、今回の疑惑である。

 ファルティーネク氏は、カプシュ社との会合も、公正取引委員会との会合も認めたうえで、法律に違反するようなことは何もしていないと主張し、自分の行動のおかげで、この辺なぜかなのかいまいちよくわからなかったのだけど、政府の支出を削減することができたのだと言っている。もちろんカプシュ社も公正取引委員会も容疑を否認している。政府としては、その任に堪えるかどうかもわからない新しい業者よりも、すでに実績のあるカプシュ社に任せたいという意向もあったんじゃないかとは思うんだけどねえ。
 警察は会合を問題にしているのではなく、盗聴した電話での話しの内容を問題にしているようである。具体的な内容は現時点では明らかになっていないが、一部のマスコミによれば、ファルティーネク氏の発言は、完全にカプシュ社の主張を代弁して、それに従うように公正取引委員会に求めたものだというのだけど、相変わらずゆるゆるの情報管理振りで、意図的な情報のリークを感じさせる。

 今回は、ファルティーネク氏に捜査の手が伸びると同時に、ブルノ市の中央区のANO区会議員も、区の発注する事業に関して賄賂を受け取ったという容疑で、こちらは免逮捕権がないので逮捕拘束されているのかな。全部で9人の政治家、実業家が警察に連行されて、そのうち4人は釈放されたとか何とか。
 政界ではこれでANOへの批判が高まるのだろうけれども、有権者のANO離れは起こるまい。地方政界においてこの手の関係者に便宜を図る汚職はそれこそ日常茶飯事であり、プラハのベーム市長や、南モラビア地方のハシェク知事など疑惑のデパート的な存在が、市民民主党、社会民主党の中心に存在していながら、警察に逮捕されることなくのうのうと政治家を続けている現状を考えると、汚職が発覚したことがANOの支持をやめる理由になるとは思えないのである。
 現在国会に議席を持っている政党で、この手の汚職に、全く手を染めていないと信じられる政党などない。一番信じられそうなのは海賊党だけれども、どこまで信じていいのか。どこまでといえば、日本の政治でもそうだけど、陳情なんてものがあったりすると、どこからが汚職になるのか線引きが難しい問題でもありそうだ。
2019年3月10日22時55分。



















タグ:ANO
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