この講義を視聴する前に第5回「カントリー音楽の成り立ち」を聴講しておくと理解が深まりそうだが第9回だけでも十分楽しめる内容だ。
ミシシッピ州テュペロの貧しい家庭に生まれたエルヴィスは幼い頃から教会のゴスペル音楽に親しみ11歳の時父からギターを贈られカントリーソングを歌い始めた。高校卒業後トラック運転手として働きながら1953年夏メンフィスでサムが経営するサン・スタジオで一般人のレコード録音サービスを利用した。
その1年後再度録音に臨んだエルヴィスはサムに見つめられて緊張のためセッションメンバーと息が合わない。休憩時にギターを持って当時流行していた黒人音楽を真似して歌ったThat's All Rightがサムの注目を集めレコードとなる。そのレコードが友人DJの務める地元ラジオ局で放送され話題となったのがデビューの切っ掛けだ。
参考: アメリカの芸術と文化(’19)
https://bangumi.ouj.ac.jp/v4/bslife/detail/15550491.html
佐藤良明東京大学名誉教授がエルヴィスはどうやってロックンロールを誕生させたか表を作って説明してくれた。
レコード産業の時代となって縦軸上を米国北部、下を南部とし、横軸右を白人、左を黒人とすると米国音楽4つのジャンルの担い手が十文字で表現出来る。北部白人の「pop」、北部黒人の「jazz」、南部白人の「country」、南部黒人の「blues」だ。
1950年代に入り縦軸上は都会、下は田舎と対立させると都会白人は「pop music」、都会黒人は「rhythm & blues」、田舎白人は「country music」、田舎黒人は「folk blues」の担い手となった。
田舎の白人青年のエルヴィスは「country music」に親しみながらラジオで「rhythm & blues」も聞いていた。その彼が過去の音楽ジャンルのタガを外したことでロックンロールが誕生した。
エルヴィスの文化的な影響は次の表で説明可能と言う。縦軸上を文明/都会、下を自然/田舎とし、横軸右を白人、左を黒人とすると当時米国4つの文化イメージは都会白人「成功者」、都会黒人「反逆者」、田舎白人「愛国者」、田舎黒人「性的アピール」と考えられる。
愛国者の田舎白人であるエルヴィスは反逆者の影響を受けた音楽を歌い、性的アピールを強調したパフォーマンスで"キング・オブ・ロックンロール"と呼ばれ成功者となった。4つの文化を初めて結びつけたのが彼だった、という解説だ。
第二次世界大戦終戦の1946年から1964年までのベビーブームはベビーブーマーと呼ばれる世代を築いた。若者の柔軟な感性と人口増がエルヴィスを支持し新たな音楽市場を動かし始めた、という説明は興味深い。
「女の子を泣き喚かせれば世界が変わる」「大人たちが眉をしかめる」者が世界を革命する、という例えが面白い講義だった。
経済的成長、オーディオ技術の進歩、人口増加が新しい音楽を生み革命をもたらす。1950年から1960年代の熱気は若者人口の厚みが起こしたのかと分かると少子化はホモサピエンスの文明低迷を引き起こす恐れがありそうに思える。
若者人口に厚みがあれば才能を持つ人間が登場する確率は高まるし、相互作用で影響を与え合って新しい文化が生み出される可能性も高まる。やはり数は力なのだと思う講義だ。
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