国立成育医療研究センターなどのチームが、卵アレルギーを発症しやすいと思われるアトピー性皮膚炎の乳児に、生後6カ月から固ゆで卵を与えたグループは1歳児の鶏卵アレルギーが約8割減少した、という研究を発表しました。(参考)
上記方法はまだ実験段階であり、家庭内で実施するのは危険とされていますが、特に乳児に多いとされる「卵アレルギー」はどのように発症するのでしょうか?
今回は卵アレルギーの原因や症状、気になる検査や治療法などについて医師の松本先生に解説をしていただきました。
乳児で1番多い卵アレルギー
厚生労働科学研究班の2014年発表資料(参考)によると、日本の乳児の約10%に食物アレルギーがあり、そのうち半数以上が卵アレルギーであると考えられています。
学童期までに80〜90%は治まるとされていますが、親としてはとても心配ですよね。
そもそも、なぜ卵アレルギーを発症してしまうのでしょうか。
卵アレルギーの原因
腸の免疫機構が未熟であるか、壊れてしまっていることが卵を含む食物アレルギーの原因です。
腸は本来、細かく消化されたものや、栄養だけしか吸収しません。もし有毒なものが入ってきた場合は、腸内バリアによって排除して排泄されます。
しかし乳児や、腸内バリアを壊すもの(添加物や重金属、小麦、アルコールなど)をよく食べている人は、きちんと消化されていないものや栄養以外の有毒なものも血液中に取り込みやすくなっています。
そのため、消化が不十分な卵のタンパク質も血液中に取り込んでしまうことがあり、そうすると体はこれを外敵と見なし、やっつけよう!という免疫が働きます。
これが卵アレルギーの仕組みです。
卵アレルギーのアレルゲン
卵には色々なタンパク質が含まれており、特に卵白に含まれるオボアルブミンというタンパク質が、もっともアレルゲン(アレルギーの原因)になりやすいと考えられています。
そのため加熱によってオボアルブミンの形が変わると、卵アレルギーを起こしにくくなります。
大人になってから卵アレルギーを発症するケース
卵に限らず、それまで何ともなかったのに、中高生以降頃食物アレルギーを発症することがあります。
原因となる食べ物は乳児と違い、果物や野菜や小麦などが多いのですが、卵や乳製品もあり得ます。
発症の原因は乳児の場合は腸内環境が未熟であることですが、大人の場合は一度できあがった腸内バリアが、様々な質の悪い食べ物や飲み物、運動不足やストレスなどの質の悪い生活で破壊されることです。
乳児の食物アレルギーは腸内バリアが成長に従って完成されて自然に治まることが多いのですが、大人の食物アレルギーは悪い食事と生活を改めない限り改善することはほとんどありません。
ちなみに現代の日本人に多い花粉症や喘息、アトピーなども腸内バリアの破壊が大きな要素を占めます。
卵アレルギーの症状、対処方法
軽度
■症状
・部分的なじんましん、かゆみ
・軽い腹痛
・嘔吐
・下痢
・咳
・くしゃみ
・鼻水
・鼻づまり
■対処方法
必要に応じて抗ヒスタミン剤などを服用します。
中等度
■症状
・じんましんや発赤が全身に出る
・ひどいかゆみ
・顔の腫れ
・喉の痛み
・我慢できるが強い腹痛
・繰り返す嘔吐、下痢
・心臓がドキドキする
・顔色が悪い
・眠気
・頭痛
■対処方法
上記のような症状の場合は、速やかに医療機関を受診し、医師の指示を仰いで下さい。
重度
■症状
・繰り返す嘔吐、下痢
・激しい腹痛
・喉や胸の締め付け
・声のかすれ
・何度も強く咳をする、息がゼーゼーする、息がしにくい
・顔や爪が白くなる
・脈が触れにくいか不規則
・失禁や脱糞
・意識がもうろうとしてグッタリしている
■対処方法
上記のような症状がある場合は誰かに助けを求めると共に、救急車で専門の医療機関に行きましょう。
特にもともと喘息持ちの場合や、過去にアナフィラキシーショックを起こしたことがある場合は注意が必要です。
アナフィラキシーショックは非常に重篤な症状で、食物アレルギーの約10%の患者さんに起こり、急激に状態が悪化することがあります。
その場ですべき対処
吐いたものが喉に詰まらないように顔を横に向かせて仰向けに寝かせ、足を布団などで上げて高くします。息が苦しいときは上半身を少し起こします。
エピペンを持っている場合は、太もも外側に垂直に立てて注射してください。30分以内に投与することが救命につながりますが、いざというときには冷静にはなれませんので、普段から時々使い方を練習しておきましょう。
なお、エピペンを投与しても直ちに必ず医療機関に行ってください。
子どもの場合、症状を起こす要因となること(間違えて食べてしまうなど)は、保育園や幼稚園や学校、友達の家に遊びに行ったときなど親の目の届かないところや、遠足などの非日常的な行事の時に起こりがちです。周りの人にも注意してもらうようにお願いしておきましょう。
ただし、周りの人は専門家ではありませんので、本人と親が誰よりもよく知っておくことが大切です。
卵アレルギーの検査
採血
採血の針は刺すと痛いので、小さな赤ちゃんにはあまりしません。
・一般的血液検査
好酸球が多いかどうか、低タンパクや貧血など栄養状態を診ます。
・血中抗原特異的IgE抗体検査
卵白、卵黄、オボムコイド(卵アレルギーを起こす成分の1つ)などのアレルゲンに対しての抗体を調べます。
抗体によって0〜6のクラスに分けられますが、陽性だからと言って必ず症状が出るとは限りませんし、陰性(クラス0)だからと言って症状が出ないとも言えません。
数字はあくまでも目安で、大切なのは実際にどのくらい症状が出るかです。
なお、オボムコイドは加熱した後も強いアレルゲンで、これに対しての抗体がクラス4以上の場合、加熱した卵でもかなりの確率で症状が出ることが知られています。
皮膚テスト
主に二種類ありほとんど痛くありません。
・プリックテスト
皮膚に細い針で浅く傷を付け、そこに卵白や卵黄のアレルゲンのエキスを1滴落とし(順序は逆のこともあります)、約20分後に皮膚がどうなったかを判定する検査です。ほとんど痛くはありません。
・パッチテスト
アレルゲンの液を垂らした小さな紙を皮膚に貼って、赤くなるかを確認する検査です。
どちらも、IgE抗体検査と同じく、アレルギーがあってもテストで陰性である場合(偽陰性)や、逆にアレルギーがないのにテストで陽性にでる場合(偽陽性)もあり、目安に過ぎません。
除去テスト
上記の検査で卵アレルギーの反応が見られたら、1〜2週間食べさせず、症状が改善するかどうかを確認します。
母乳中の場合はお母さんの食事からも排除します。マヨネーズ、クッキーなど、卵の入っている食品全てを止めて様子をみます。
負荷テスト
完熟のゆで卵の卵黄などを1g程度の極少量から始めて、どの程度まで食べても大丈夫かを確認します。
症状が現れる量や症状の強さもわかります。危険な症状が出てくる可能性があるので、専門の医師のもとで行い、入院して行う場合もよくあります。
余談ですが、最近はインターネットなどで遅延型アレルギーの検査としてIgG抗体の検査も出来るようになりましたが、必ずしもIgG抗体が陽性の食べ物で症状を起こすとも限らず、欧米や日本アレルギー学会ではIgG抗体検査を根拠に除去食にすることは奨励していません。
卵アレルギーの治療
卵除去
原則として検査の数値を参考にするのではなく、食べて症状が出た場合だけ除去します。原因となっていても、症状が出ない範囲までは食べてかまいません。その上で、完全除去と不完全除去の2通りがあります。
・完全除去
卵の成分を含むものを一切与えない方法で、半年程度排除します。
この場合、プリン、菓子パン、ケーキ、マヨネーズなど、卵を使った食べ物を全て中止します。
・不完全除去
1週間に1〜2回ほど、完全に加熱した卵を少量食べさせてみる方法です。
薬による治療
あくまで対症療法であり、症状が安定したら中止します。
・抗ヒスタミン薬
皮膚の症状を軽くするため、間違えて食べて症状が出てしまった時に使います。 30〜60分程度で効果が出ます。
余談ですが、市販の風邪薬、鼻炎の薬、目薬や漢方薬などを含め、薬剤の中には卵の成分を使ったものが色々あります。
こうした薬剤は乳幼児にはあまり使われませんが、別の病気で薬を出してもらう場合も、必ず卵アレルギーがあることを医療機関や薬局では話しましょう。
経口免疫療法
卵を微量ずつ食べさせ、徐々に卵に対して反応しなくなるようにする治療法です。
まだ長期的な安全性・有効性に対して情報が少ない方法であるため、専門医とよく相談し、危険性や合併症について理解し、それに対応することが出来る場合にのみ行います。
卵アレルギーの場合に注意すべき食べ物
パン類 クロワッサン、ロールパン、食パンなど
洋菓子 クッキー、ドーナツ、ケーキ、パイなど
和菓子 おせんべいなどの卵を塗ったものなど
生菓子 アイスクリーム、ミルクセーキ、ババロアなど
麺類 ラーメン、うどんなどのつなぎとして卵を使用
加工食肉類 ウインナー、ベーコン、ハムなど
魚肉練り製品 ちくわ、はんぺんなど
揚げ物類 天ぷら、フライ、コロッケの衣など
卵主体の食品 茶碗蒸し、プリン、卵焼きなど
調味料 マヨネーズ、ドレッシング、ふりかけなど
他にもシュウマイ、春巻きなどにも注意が必要です。
卵アレルギーだと予防接種を受けられない?
インフルエンザ、麻疹、風疹のワクチンには卵の成分が極微量に含まれていますが、 一般的にはひどい卵アレルギーでなければ接種は可能ですので担当の先生と相談してください。
鶏卵の完全除去中や、アナフィラキシーを起こしたことがあるなどひどい卵アレルギーの場合は、インフルエンザワクチンで注意が必要ですので、アレルギーの専門施設で相談しましょう。
近年、老若男女を問わず、アレルギー疾患はものすごい勢いで増えています。
一言で言えば、アレルギーは自分以外のものに過剰に反応する状態です。特に自分以外のものに接する機会が多い腸は免疫の約70%が集中しており、ここのバリアが壊れることで全てのアレルギーに繋がっていきます。
腸内バリアをつくる因子は様々あり、遺伝的素因も含まれるため変えられない部分もありますが、日々を「人の遺伝子に沿った食事と生活」に変えていくことで、確実に腸内バリアは改善することが出来ます。
人の遺伝子に沿った正しいものを食べ、体を動かしよく眠り、過剰なストレスを適切に管理し、すでに発症したアレルギーを改善し、将来の病気も賢く予防しましょうね!