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2017年07月15日

チェコ選手のウィンブルドン(七月十二日)



 昨年末に強盗に利き手の左手を大怪我させられたクビトバーが、何としてでもプレーしたいと復帰の目標に掲げていたのがウィンブルドンである。目標の設定がよかったのか、もちろん本人の血のにじむような努力の結果であろうけれども、クビトバーは予定より早く全仏で復帰を果たし、一回戦を突破して見せた。ウィンブルドンに向けて期待も高まろうというものである。
 いったいに、ウィンブルドンが始まる前のチェコは、特に女子に関しては楽観論にあふれていた。ウィンブルドンの前哨戦となる芝のコートでの大会で、全仏の翌々週はクビトバーが優勝を果たし、その翌週のクビトバーが出場を取りやめた大会では、プリーシュコバーが優勝したのである。そして、ウィンブルドンの組み合わせが発表されて、クビトバーとプリーシュコバーが別々の山に入って、決勝まで対戦しないことがわかると、決勝がチェコ人同士の対決になる可能性が高いなんて、今にして思えば、超希望的観測も流れていた。

 それとは別に、プリーシュコバーについて、世界ランキングで一位になる可能性も取りざたされていたが、上の二人、ケルバーとハレプの二人が準々決勝までに敗退すれば、プリーシュコバーの成績にかかわらず一位になるというのだから、こちらのほうがありえそうな印象だった。去年のウィンブルドンで早期敗退して失うポイントが少ないので、一回戦負けでも一位になる可能性があるらしい。
 ウィンブルドンの前の時点では、女子選手については大いに活躍が期待されていたけれども、男子選手に関しては、長年維持してきたランキングの10位以内から陥落して、なかなか調子と成績の上がらないベルディフを筆頭に、あまり期待されていないようだった。準決勝に進出した去年の再現は難しいと評価されているようだった。他の選手たち、ベセリー、ロソル、パブラーセクは一回戦を勝ち抜ければ御の字である。

 いざ、大会が始まってからも、一回戦は期待通りだった。女子では、少なくとも、クビトバー、プリーシュコバー、シャファージョバーの三人は、危なげなく二回戦に進んだ。他にも何人か二回戦に進んだ選手はいるが、数が多くて全部覚えていられないし、上位進出が期待できるとすればこの三人だから、チェコにとってはこの三人が勝ち進むことが重要なのである。
 男子のほうでは、同じような立場のベルディフが問題なく二回戦に進んだ。以前はランキングが自分より上の選手には滅多に勝てないけど、下の選手はほとんど負けないという良くも悪くも安定した成績を残していたベルディフも、下の選手に負けることが増えてランキングも下降中である。だから、ここにあげた四人のチェコ人選手の中で最初に負けるとすればベルディフだと思っていた。

 それなのに、今年のウィンブルドンの二回戦は、チェコの女子選手たちにとって悪夢のような結果をもたらした。最初はクビトバーが、アメリカのブレングルに負けてしまった。一セット先取されて、二セット目を取って追いついたときには、勝てると思ったのだけど……。これまで二回優勝しているウィンブルドンで優勝して、クビトバーの選手生命を危惧されるような大怪我からの復活の物語がハッピーエンドで終わるという期待は、期待のままに終わった。実現していたらあまりにできすぎで予定調和的なんて言われそうな期待だったけどね。
 続いて、プリーシュコバーもスロバキアのリバリーコバーに逆転負けを喫した。一セットとって、二セット目もリードして、勝利は確実だと思われたところからの敗戦だっただけにショックは大きかった。リバリーコバーって、同じスロバキアのツィブルコバーと違って、安定はしているけれどもどこかの大会で突然爆発的に上位に進出するような印象はなかった。そんな選手に負けた時点で、ウィンブルドン後にプリーシュコバーがランキング一位になる目は消えたと思われた。

 他の二回戦に進出していた選手たち、ストリーツォバーもプリーシュコバーの双子の妹(姉かも)も、アレルトバーも軒並み敗戦し、最後の砦となったのがシャファージョバーだった。しかし、シャファージョバーは試合前からついていなかった。ダブルスのパートナーであるアメリカのマテック=サンズが試合中に芝に足を取られて大怪我をするという悲劇に見舞われたのだ。それが頭に残っていたのか、シャファージョバー本人も試合後に第三セットは試合に集中し切れなかったと語っていたが、アメリカのロジャースに逆転負けしてしまった。同時に優勝の本命だったダブルスでも棄権ということになり、踏んだりけったりである。
 一回戦が終わった時点では、チェコテレビは、ツール・ド・フランスじゃなくて、ウィンブルドンを放送するべきだと思っていたのだが、二回戦が終わってチェコテレビの選択が正しかったことを認めざるを得なかった。

 男子のほうでは、ベルディフが二回戦、三回戦を勝ちあがり、ランキングが上の選手と当たる四回戦では若手のティエムに第五セットまでもつれ込む接戦の末勝利を収め、準々決勝ではジョコビッチにぶつかった。これまで二回しか勝ったことがない相手だというし、善戦はできても勝てはしないだろうと思っていたら、ベルディフが第一セットを取った後の第二セットでジョコビッチが棄権してしまった。ベルディフ本人は長いキャリアでジョコビッチには散々負けてきたんだからたまにはこんな勝利があってもいいだろうなんてコメントを残していた。
 次の相手は、これも対戦成績で圧倒的に負け越しているフェデラーである。これまでベルディフが唯一決勝に進出した2010年の大会では、フェデラーとジョコビッチに連勝したらしいから、今年もその再現を期待してもいいのだろうか。いや期待すべきは放映権を持っているノバが、有料チャンネルのノバスポーツではなく、ノバ本体か、ノバアクションで中継してくれることである。

 それだけではなく、女子のほうでは、ランキング一位のケルバーが四回戦で、二位のハレプが準々決勝で負けた。これで来週の月曜日発表のランキングで、プリーシュコバーがチェコ人としては初の一位になることが決まった。民族的なチェコ人としてはマルティナ・ナブラーティロバーが一位になっているが、アメリカに亡命したナブラーティロバーは、初めて一位になったときにはすでにチェコスロバキアの国籍を喪失していたので、チェコの選手扱いにはならないのである。

 本稿を投稿するころには、ベルディフとフェデラーの試合の結果も出ているはずである。もしベルディフが優勝したりしたら、それをねたに一本書いてみようかねえ。マレーも負けたしフェデラーに勝って決勝に進めば、可能性は高いと思うんだよなあ。いや、期待はするまい。期待しない方がいい結果が出そうである。
7月13日22時。




 期待通り、ノバアクション(旧ファンダ)で中継してくれた。でも、ベルディフ、健闘したんだけどね。フェデラーが強かったとしか言いようがない。7月14日追記。




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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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