2016年10月07日
ケヤキと命・・・短編
届かない・・・
助けたいのに手が出ない・・・
差し伸べるものがないどころか、自分の事だけで手一杯だ。
まだ力尽きてはいけない・・・もう少し・・・もう少しだけ踏ん張れ!
グリンがそう叫んだ先には、肌の変色が始まったイエーロが居る。
少し前から黄色っぽくなったと思っていたら
ここ数日で茶色っぽい肌へと変化し始めていた。
それはイエーロの死期が近いことを示していた。
2日前にエメラルダが逝ったばかり・・・
エメラルダは病気に蝕まれていた。
肌の色もまだ正常だったが、病魔に蝕まれて以降
部分的に変色して行った・・・感染症の様だった。
エメラルだはイエーロよりもグリンよりも若かった。
毎日エメラルだを励まし続けたイエーロ、
今では励まされる側となってしまった。
皮肉なものだ・・・グリンはそう思いつつも
イエーロを励まし続けた。
今にも力尽きそうなイエーロ。
しかし・・・今日のイエーロは何かが違う。
イエーロの表情からは必死さが消えていた・・・。
何かを悟ったかのように・・・穏やかな表情だった。
そんなイエーロがそっとささやくようにに語り始めた。
そのか細い声からは、不思議と包み込むような温かささを感じる。
遅かれ早かれ、皆行きつくところは同じ・・・。
私の亡骸もまた、次なる新しい世代の命の源となる。
だから悲しくなんかない・・・ちっとも・・・。
ただ、一つだけ願いが叶うなら・・・もう一度・・・
もう一度だけでいいから、春を迎えたかった・・・。
それがイエーロの最期の言葉となった・・・。
その日の昼過ぎ・・・近づいていた台風の影響で
強めの風が吹き付けた・・・
イエーロは逝ってしまった・・・。
ケヤキの木の下一面に広がった色とりどりの落ち葉は
やがて腐葉土となり、ケヤキの成長に必要な養分となる。
そして来年の春・・・鮮やかな緑の葉を茂らせる・・・。
新しい命と共に。
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