2020年11月14日
とある科学の超電磁砲T 25話・全体感想 精巧なキャラクター視点で描く心理と物語
第25話「私の、大切な友達」
※原作未読の方はコメントオフでの視聴をオススメします。
あらすじ
ドッペルゲンガーの目的は自身とそのデータを載せた飛行船を破壊させることだった。
美琴はドッペルゲンガー自身に頼まれ「彼女」を破壊、飛行船は墜落し全壊する。
現場に現れた所長は繰歯を人質にしてドッペルの引き渡しを要求するが、拳銃の誤射で逃走する。
所長は食蜂に洗脳され、撃たれた繰歯は内臓をドッペルの一部と置換することで一命を取り留める。
後日、繰歯は見舞いに来た美琴に対し、ドッペルゲンガーとの夢での「共生」を告げる。
感想
「待て!射線上に――!」
射線上にドッペルゲンガーがいることを美琴に警告するリーダーだが、リーダー的にはこの時点ではドッペルを破壊しても問題ないはずなので若干違和感のあるセリフ。美琴の規範を察したのだろうか。「もうブラフは効かないわ、あんたはそんなことしない」のセリフはアニオリで、ドッペルゲンガーの目的が破壊活動ではなく自決であることを視聴者に示すためにわかりやすくワンクッション置いた形になる。漫画である原作とはテンポが違ってくるので必要な措置かもしれない。
「この姿で存在し続けることこそが苦痛なのだ」
今の「彼女」はもはや完全にラスボスの風格の「ドッペルゲンガー」というパーソナリティだが、もともとは繰歯涼子の人格を持って生活していたことがここで想起される。機械としては生きていけないという感覚は実感はできなくても想像はできる。この心境を踏まえると22話でリーダーの腕を折ったのも冷徹・無感情な機械の行動ではなく、心理的に傷つけられた報復のように思えて印象的。
「……わかったわよ」
美琴としてはここまで楽しげにすら戦っていたのに急に辛い選択を迫られることになる。ドッペルの複雑な人格はもはや人間と区別がつかないので「壊れた家電を廃棄する」と割り切るのは難しい。ましてや美琴なら人造的人格という点で少なからず「妹達」との共通点を見出すだろうから、妹達は守るがドッペルゲンガーは「殺す」という心理的線引きが必要になるので他の人間よりずっと困難な行為になるだろう。ここは原作・アニメともにドッペルゲンガーと「妹達」の対比表現を明確に「しない」ところが考察の余地と気づいた時の快感を生んでいてお見事である。
「礼を言っておくよ、超電磁砲」
「冗談じゃないわよ!こんな……役回り」
セリフに限らずアニメになったとき原作のイメージ通りの出力だと興奮するものだが、クリエイターはそのイメージを遥かに超えてくることもある。飛行船上〜落下直後の美琴と繰歯の会話は自分の脳内イメージがゆるかったと思えるほどに情感的で、二人のCV佐藤利奈さんと種崎敦美さんの技量を強く感じさせてくれる。「壊れた家電を廃棄する程度のことでしかないさ」は美琴への慰めの言葉だが、機械としては生きられないが「機械として死ぬ」ことはできる「ドッペルゲンガー」の複雑なアイデンティティが感じられる。
所長と一緒に現場にやってくる繰歯。清ヶとナルが所長に引き渡したと推測できる。美琴の「伝えとかなくちゃいけないこと」は繰歯が死んでいないことだが、ドッペルゲンガーの視点を意識しないと分かりづらいかもしれない。悔いなく眠らせたいという美琴の心情が感じられる。所長との悶着によってドッペルから繰歯への殺害動機が消え、逆に自身の一部をもって救けようとするのだが、人間のアイデンティティで「死」を選びながらも最後に医療サイボーグの役割を果たそうとするところが皮肉な苦味と、悔いを残さず眠った救いのようなものを同時に与えてくれる。
原作では清ヶとナルが紙の飛行機で到着して繰歯を運ぶのだが、アニオリ描写で黒子を呼んでいる。何度か書いたがアニメの美琴は原作と比較して周囲を頼るようになっているので、そのことの是非はさておき納得できる改変。髪止めもせずに急いで到着する黒子が健気だがどうやって位置を特定したのだろう、初春を頼ったわけでもないようだが。戦闘音は聞いていたのであらかじめあたりをつけていたのかも知れない。
よからぬことを考えた瞬間に食蜂に洗脳される所長。主人公が不殺主義だと公権に委ねられない悪の処遇が難しいことがあるが、その点食蜂がいると洗脳で解決できるので便利。幻生も洗脳されて善良なおじいちゃんにされているのだろうか?ただこの所長らは10話その他で描写されてきた邪悪な科学者たちと比べればかなりマシな部類と思われる。涙を流しているところに彼の本来の善性が表現されているようにも見える。所長CVは田中完さんで凄まじい数の脇役を演じられているベテランである。こういう脇役の演技のクオリティが高いのが個人的にすごく好き。
ここからアニオリが合計3パート描かれる。原作では屍喰部隊と繰歯のその後を描いて終わるのだがアニメは最終回ということで総決算的な描写が追加されている。帆風さんと初春佐天が知り合いだったり、食蜂が黒子にちょっかいをかけたりするのはスピンオフの「アストラル・バディ」の描写を反映したもの。こちらも「一方通行」に続いてアニメ化が期待されるところである。
「退屈しないわねぇ、この街は」「ちょ、食蜂?!」
いつもの〆セリフが奪われてツッコミを入れる美琴、というちょっとメタな描写が面白い。
「スカベンジャーって名前さ……特撮ものみたいじゃん?」
ここは原作通りで屍喰部隊のその後の様子。ナルのドヤ声に笑うしかない。リーダーと薬丸が完全に呆れているのに対して清ヶは特撮ネタに一定の理解を示すところが男の子らしい……のだろうか。「清ヶたんの清ヶたん見せてみろよ!」の演技がノリノリすぎる。楽しそう。「清ヶはブラックよりブルー」は何の隠喩だよと思っていたがアニメで色がついて判明したような気がする。異性装文化は詳しくないのだがTS漫画の金字塔「らんま1/2」いわく、下着までも女物にするのは一段ハードルが高いようなので、清ヶたんのガチ勢ぶりが伺える。
暗部エージェントに対して強気に交渉し、ランク復帰をもぎとるリーダー。「闇」の犯罪組織としてのし上がっていくことが最終回で描かれるべき幸せなことかは大いに疑問だが、こういう普遍的でない価値観を描くことも「とある」シリーズらしい。リーダーがゲコ太通信機に愛着を見せることで美琴への好感=「光」の価値観も描いているところが印象的。ちなみに超電磁砲において暗部エージェントの顔が明らかになるのは初めてのはずだが、「アイテム」を仲介しているエージェントとはCVが違うので別人のようだ。
…………?!?!すごいアニオリぶっこんできたな。美琴は妹達のことを黒子にすら明かしていないので、この秘密は個人的に美琴の「聖域」と見ていたのだがまさか婚后さんに最初に明かされることになるとは。賛否ある描写かもしれないが、個人的には婚后さんの友誼が報われたようでうれしい。ミサカ妹としても普通に友人に紹介されるのは初めてなので大変エモいシーンである。美琴の立場なら婚后さんがあそこまでしてくれた記憶を消すことを躊躇するかもしれない、とは思うが、14話の描写から察するに記憶操作は食蜂の独断で行われたようである。食蜂がこうした理由は推察になるが、美琴と同じ想いを持っていたとすれば、やはり8話の「ガラクタと潰し合ってくれて助かった」という突き放すセリフは本心でなかったことが推察できて大変興味深い。
「み……みっちゃん、と……」
光子かわいすぎんか?「ミサカ10032号」という名前をツッコまず受け入れる婚后さん、やはり人間ができている。しかし口止めしておかないと黒子らに普通に話してしまいそうだが大丈夫なのだろうか。キャラクターの変化をもってストーリーが成立するので、美琴の変化はここで婚后さんに秘密を明かしたことになるだろうか。
最後のアニオリもなかなかサービスの効いたシーン。(これをやるなら21話でドリーをチラ見せしないほうがインパクトが大きかった気はするが。)「教育に悪い」という警策のセリフが完全に親目線で微笑ましい。食蜂は15話で警策に「そのうち自首してもらう」と言っていたがもう心情的に無理なのでは?
夢の中でドッペルゲンガーに会う繰歯。電車で出発するところを阻まれるのが「何らかの行為を踏みとどまらせた」ような暗喩を感じる。15話感想でも書いたがこの作品は感傷よりも能力が優越する傾向にあるが、結末の部分にはこういう感傷的な描写が用いられやすい印象。この世界の物理現象では起こり得ない「共生」が起きていることに、ドッペルゲンガーと美琴に対する救いが感じられる結末になっている。CV種崎敦美さんによる二役演じ分けがここでも聴きごたえがある。ドッペルの「ハッハッ、魂もないのに成仏など」と繰歯の「やめてええええ」のところが好き。
原作におけるドリームランカー編は美琴がドッペルゲンガーの自決に協力して終わるビターエンドなので、アニメ過去2作の雰囲気を思うと最終回に相応しくないのでは……という危惧が個人的にあったのだが、爽やかなアニオリを入れることでビターながらもすっきりした結末になったように思う。
全体感想
実に約7年ぶりのアニメ化、しかもストーリー完成度の高い大覇星祭編の映像化ということで個人的にはかつてないほどに期待が高かった。
構成・演出
原作7巻末〜13巻まで、6巻分強の映像化で25話なので1巻につき4話使えることになり、原作付きアニメは全てこれくらいの基準でやってほしいと思えるほどにぴったりの尺だった。大覇星祭のラストを丁寧にやったので他が早回しになった部分も多少あったが、再現度において原作ファンは強く満足できる結果になったのでは。
アニオリ部分は6話で記憶のない状態の黒子が美琴を過剰に意識するシーンや、3話でミサカ妹が倒れるシーンの順番を変えたせいで食蜂のセリフのニュアンスが変わったところは原作の意図を外してしまったように思えるが、他はほとんどが原作をうまく補完することに注力していた印象。4話の4人で花火を見るシーンなどは美琴が友人3人を「失う」フラグとして機能するオリジナル名シーンと言える。
ストーリー
前半の大覇星祭編は一本筋が通ったストーリーで、実質的新キャラの「食蜂操祈」の描写方法がお見事。仲の悪い同級生として登場するも4話で一気に敵対的に牙をむく瞬間の脅威と、それがミスリードであり実は味方、それどころか主人公格ポジションであることが判明したときの腑に落ちる感覚は強いストーリー的快感を与えてくれる。注目が集まり重要キャラでも納得感のある「7人いるレベル5の一人」という、明白なキャラクターの格を活かした描写方法と言える。
またプロットが大小双方のスパンでツイスト(ひねり)が効いていた印象。大きなスパンでは食蜂のミスリードに加えて美琴がラスボスの一人となる点、小さなスパンでは13話の食蜂VS幻生や黒子VS警策など個別バトルがどんでん返しで決着する点など、ストーリーの完成度が非常に高かった。
対して後半の天賦夢路(ドリームランカー)編は実質的に単発エピソードの集合体のようなものだが、正義の味方・白井黒子をストレートに描いた17話やフレンダ・佐天の交流を描いた19・20話など単発でもそれぞれ完成度の高い物語だった。また18話、巨乳御手編のような完全ギャグエピソードも超電磁砲シリーズ(特にアニメ)には欠かせないテイストだろう。
またキャラクターの項でも触れるがこの作品は「キャラクターの視点」を意識した描写が多い。具体的には5〜6話の「食蜂が黒幕でないことを婚后さん(と視聴者)は気づいたが美琴はそれを知らない」などで、美琴は誤解したままストーリーが進んでいくが、それが物語の中にキャラクターが生きているリアルな印象を与えてくれる。「キャラクターの自然な行動」と「練り上げたいストーリー」が矛盾なく成立しているのは出来事の配置が極めて精巧なおかげと言えるだろう。
ストーリーにあえて欠点を挙げるなら本家の物語「とある魔術の禁書目録」を履修していなければわからない・わかりづらい描写が無印やSと比較して多かったことだろうか。とはいえ第三期ともなればスピンオフ作品であることは周知のはずなので欠点にカウントすべきでないかもしれない。
キャラクター
こちらも今期最重要キャラの食蜂の描写がお見事。先程書いた「キャラクター視点」が食蜂の性格描写にも活かされている。能力が通用しない相手はたとえ美琴のような好人物であっても信用しない(できない)性格は「読心能力者ならこう考える」という視点に立って構成された個性と言える。この性格がストーリーに影響を与えているので、最終的に能力なしで警策を協力させる心理の変化に強いカタルシスを感じるように構成されている。
婚后さんチームの活躍も印象的。原作では湾内泡浮ペアは完全にちょい役、婚后さんは登場すらしていなかったがアニメ無印の活躍を受けて出番が設けられたと思われ、その部分がさらにアニメになったのは感慨深い。湾内泡浮ペアVS馬場は脇役対決ながら能力者バトルの魅力に溢れていて超電磁砲ベストバトルの一つだと個人的に思う。婚后さんはその引き立て役となったもののそれまでの性格描写が素晴らしい。都合上映像化されなかったが婚后父との「桃李成蹊」エピソードと美琴と初めて交流するシーンは彼女のパーソナリティや今期の行動の源泉を語る上で外せないので全宇宙にあまねし光子ファンはぜひ原作を読んでほしい。
前半のボス木原幻生のキャラクターも面白かった。無印から登場している巨悪ということで超電磁砲シリーズの集大成的な盛り上がりに貢献した。他の研究者たちが倫理より生産性を重視することで悪を表現する中、幻生は生産性をも度外視することでさらに狂気を表現したところが印象的。また警策を使役する上での関係性が美琴と婚后さんのような「信頼」や、食蜂のような「強制」でもない、「目的の一致」であるところに対比が見え、オルタナティブな価値観とラスボスとしての格のようなものを感じた。コミカルな一面もあり魅力的な悪役として描かれていた。
後半は絹旗、フレンダ、屍喰部隊の登場により「学生の日常」と「暗部組織の非日常」の対比が描かれていた。日常と非日常、敵と味方、光と闇がぐちゃぐちゃに混ざり合いグレーの価値観を形成するところがとあるシリーズの特徴と言えるだろう。さらに、だからこそその中で純白の正義を描く黒子と美山少年のエピソードが異彩を放っていたように思う。
作画・動画
作画は一切崩れることがなかった印象。全編通して良かった。当初の予定より3ヶ月伸びたことで結果的に余裕が生まれたのだろうか。視線誘導の概念がある漫画原作の構図をそのまま使うのではなく、映像作品に適した構図に変更されたシーンも多かったように感じた。7話で黒子に見せた美琴の笑顔や、17話の美山への黒子の照れ顔など破壊力の高い表情の原作再現度も非常に高かった。一方で瞳の描き方が一定で、警策の「燠火のような目」などを表現しきれてなかったようにも思う。
作画において好きなエピソードは湾内泡浮ペアVS馬場の6話、雷神美琴VS当麻&軍覇戦の13話、怪獣大決戦の24話など。2話・3話の競技シーンなども原作から想像できる動きを完璧に表現していて今期に対する期待感を膨らませてくれた。
主題歌・CV
OPは2種ともおなじみfripSideで超電磁砲といえばこのアーティスト。前期の「final phase」は大覇星祭編のストーリーにふさわしい疾走感があり、後期の「dual existence」は最終盤のドッペルゲンガーと美琴のやり取りをなぞるような情感に溢れている印象。「final phase」の歌詞は食蜂とドリーに描いたようにも美琴と妹達を描いたようにも受け取れて解釈の幅があって面白い。
前期EDの岸田教団&THE明星ロケッツの「nameless story」は歌詞が完全に食蜂のパーソナリティを掌握して書かれていた点が話題になった。曲のイントロが印象的で10話では本編にかぶる演出がクライマックスを非常に盛り上げてくれた。sajou no hanaによる後期ED「青嵐のあとで」と15話挿入歌「ここにいたい」はどちらも情感を揺さぶるメロディーが印象的。特に「ここにいたい」は、何度も読んだ既知のストーリーなのに音楽の力で泣かされるとは思わなかった。
CVに関しては黒子役の新井里美さんの変態演技が今回も聴き応えがあったのだが、馬場役の林大地さん、猟虎役の鈴代紗弓さん、繰歯&ドッペルゲンガー役の種崎敦美さんなどのゲスト声優の演技も非常に印象に残った。馬場・猟虎はモノローグが多く担当回では多様な演技が聞けて心地よかった。繰歯とドッペルゲンガーは演じ分けがお見事で、最終盤の美琴とのやり取りは真に迫るものを感じた。
おわりに
以上です。非常に満足度が高かっただけに書くのに慎重になりすぎてかなり遅くなってしまいました。「原作ファンの期待に応えたアニメ」というカテゴリで見たら個人的に昨年のジョジョ5部と並んでトップだと感じています。7年待った甲斐がありました。世相がウイルス騒ぎで大変な中、3ヶ月伸びはしたものの素晴らしいクオリティを保って製作してくれたことが大変嬉しく、関わった全てのスタッフさんに最大の感謝を贈りたいと思います。ありがとうございました。
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