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2019年05月24日

覇穹封神演義 23話・全体感想 劣悪なシリーズ構成が他の長所を台無しにした問題作

23話 老いたる象徴と風の分岐

23話配信(Abemaビデオ)
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あらすじ
黄飛虎が封神され、聞仲は紅水陣を破壊、王天君の一体を封神し脱出する。
黒麒麟は紅水陣のダメージで死亡、独りとなった聞仲は太公望と最後の対決をする。
死闘の末、聞仲は人間界を太公望に託し自決、封神される。
崑崙山と金鰲島、仙人界の両拠点が墜落し、仙界大戦は終結する。
その後妲己は女媧を乗っ取り、地球と融合して消滅する。(←?????)
感想
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最終話感想ですがモチベが極限まで低下したせいで半分本気で忘れておりました。しかしながらさすがに終了1周年を迎える前に負債を解消したいと思います。まあなぜそうなったかというとお察しいただけると思いますので、ネガティブな感想を見たくない方はそっとGoogleにでも飛んでいただければ幸いです。ちなみに2月くらいから書きはじめております。

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紅水陣を一喝でぶち破る聞仲。この期に及んでこのパワーがあることが、それでも精神的に脱出できなかったということであり、「彼の心の弱い部分をつく」王天君(と妲己)の戦略が正鵠を射ていたことがわかる。禁鞭の攻撃で王天君は封神。ネタバレするとまだあと1体が残っているのだがこのアニメでは描写されない。CV岡本信彦さんによる死に際の絶叫演技がやはり凄まじい。

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黒麒麟、絶命。忠義深いキャラクターが好きなので連載当時悲しかったことを覚えている。原作では常人より能力の高いものが封神されるという設定があり、黒麒麟は明らかにそれに該当するが魂魄が飛んでおらず、どうやら霊獣は封神されない設定のようだ。飛虎を失った聞仲が完全に孤独になるダメ押しとして機能している点がエグい。原作ではここではじめて聞仲が落涙するのも衝撃的だった。

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「聞仲……最後の戦いだ、禁鞭を取れ!」
「私は以前お前にこう言ったことがあったな。理想を語るには、それに見合う実力が必要だと!」
太公望VS聞仲、最後の一騎討ち。そして序盤の展開のコールバック。実に少年漫画らしさにあふれるアツい、お約束の展開である。戦闘シーンはぐりぐり動いて大変カッコいいのだが、このメインディッシュは第1話冒頭でつまみ食いされてしまっている点が残念。

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どたどたどた、というコミカルな効果音が聞こえてきそうな太公望の走り方。これはひどい。まあもはや戦術も武器もない不格好な殴り合いをするシーンではあるのだが、視覚的に不格好にしなくてもいいだろう。原作にない構図であるせいか残念なことになっている。

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「飛虎が死んだ時、気がついた。私が取り戻したかったのは殷ではなく、飛虎のいるかつての殷だったのだ。失った時が戻ると信じて……。」
聞仲の仮面が彼の誤ちの象徴なら、飛虎は聞仲が求めていたものの象徴と言える。似たようなことを何度か書いてきたが、十二仙の過半数を瞬殺する超人的な肉体の強靭さと、失った過去を死ぬ直前まで引きずり取り戻そうとする、人間的な精神の脆弱さのコントラストが聞仲の魅力だと思う。飛虎との強固な友情は確かに存在したわけだが、それとはまた別の執着が本人も気づかぬ心底にあったというのも印象深い。フジリュー版封神演義が男女ともに人気の作品であることに納得できる、珠玉のブロマンスである。

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「さらばだ太公望!」
聞仲、封神。飛虎が死んだ時点で己の誤ちに気づいたのなら、この最後の戦いも儀式的なものだったと言える。それなら自分自身で決着をつけることは自然な行いだろう。ちなみに太公望は直接封神する機会が原作でも意外と少ないのだが、アニメにいたってはその貴重な封神シーンのある戦いがことごとくカットされたため、なんと全編通して封神数ゼロである。るろうに剣心もびっくりの不殺を達成。

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封神される聞仲の魂魄。美しい……本当に背景は文句の付けようがないクオリティ。着彩といい構図といい素晴らしい。そして仙人界の両拠点が墜落し仙人たちの大戦は終結。アニメでは人間界の革命も同時進行しているのでこのまま行くと……

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というところで雷震子初登場。やると思った。もはや恒例で感覚が麻痺しているがひどいものはひどいと指摘していこう。原作未読の方へ解説すると、姫昌(序盤で死んだおじいちゃん)の息子の一人で雲中子(十二仙の一人)の弟子。序盤は戦力の一角として活躍するのだが中盤以降不遇で仙界大戦では出番なし。アニメ化に際してはカットやむなしと言われていて実際ここまでカットされていたのだが、最後の最後、クライマックスに水を差すかのように唐突に登場。なんなんだ、ファンサービスのつもりなのか?そういうとこだぞ。

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廃人状態の紂王に会釈だけして去っていく聞仲の魂魄。……お〜〜〜〜〜い?!?!未読の方のために解説すると、原作ではここの紂王は妲己の影響が薄れて賢君に戻った状態である。だからこそ憂い少なく封神台に逝けるというシーンなのだが……。人間界で仙界大戦後のストーリーが同時進行しだした18話あたりから、予測してしかるべき場面ではあるのだが、実際目にするとインパクト大である。殷の滅亡はもはや避けられず、魂魄の状態で何ができるわけでもないだろうが、それで「出来うる限りを尽くしたよ」と言える心境になるのだろうか??

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と……ともあれ聞仲を倒し、いろいろあったがラストは無難に「俺たちの戦いはこれからだ」エンドに落ち着くか……と、思いきや。

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……んんん??
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あれーーーーー?!
このフレーズも何度目か知れないが、初見の人にはなにがなんだかわからないだろう。まさかのラスボス戦カットで結果だけ提示。キング・クリムゾンもびっくりである。解説しようにも長くなるのでぜひアニメは忘れて原作をお読みください。このアニメ自体がアプリ「センカイクロニクル」への誘導なのだとしても、よくわからない結果だけを提示するよりは、これからだエンドにしたほうが良かったのではないだろうか……。

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そしてノルマでもあるのかと思いたくなるほどおなじみの、謎のCパート。ストーリーの根源的な部分をろくに描写できなかったからそれっぽいの入れとくわ、以上の意味が見いだせない。原作ファンの逆鱗をさらに撫でるだけで、これも無いほうがマシではないだろうか……。


全体感想

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まず率直な感想として、ここまでシリーズ構成が拙い作品にはお目にかかったことがない。構成以外の部分、作画などにも批判はあろうがそちらは客観的・総合的に見てむしろ平均以上だったと思う。それだけに構成のまずさが際立っている。20年越しの再アニメ化の期待を粉微塵にした要因のほぼ全てが構成の部分に詰まっている。以下に具体的に述べる。
構成・演出・ストーリー
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原作コミックス23巻分全てを2クールで映像化するのは無理難題である。ならば再構成の大鉈をふるう方針として

  1. 初見の人が理解できる物語にするため、展開を大幅に変えて再構成する
  2. 原作ファンの満足のために仙界大戦だけを忠実に映像化する

という、【ターゲットをどの層にするか】を軸にした二択が考えられる。この基本的かつ重要な選択が完全にどっちつかずであったことが最悪の結果を招いたように思う。
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1話の時点で相当おかしかったのだが(そこは当時の記事を見ていただくとして)、元始天尊から使命を受け、妲己に挑むが失敗する、という展開を描いた時点で1の方針(初見向け)を採ったように見えたので、そのまま最後まで進めていたならまだ最低限の評価はできた。しかしながらその最低限を下にぶちやぶったのが9話である。
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天化の腹の傷が唐突に出現し、描写していない「趙公明編」を起きたこととして進行させたのである。これでは初見の人が理解できるはずもなく、1の方針を完全に放棄している。かと思えば原作にあった蝉玉や天祥の描写を消したりと2の方針を採ったわけでもなく、どっちつかず、というよりはもはや何も考えていないのでは?という疑念さえ湧いてくる。視聴者のほうを全く向いていない。
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この、原作を「展開を整えて再構成」ではなく「尺に収まるよう切り抜いただけ」、かといって原作への忠実さもないという現象が、全体構成のみならず各23話中のあらゆるところで起きており、努めて公正・客観的に見たとしても最低レベルの構成と言わざるを得ない。今日に備えて罵倒のボキャブラリーを増やしておくべきだった、と思ったのは生まれて初めてである。
キャラクター
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原作の魅力を損ねず伝えられたか、という視点で評価するが、多人数のわりに尺がないので全員十分に描写するのはそもそも難しいだろう。評価に耐える規定打席数に到達したのは太公望・聞仲・楊ゼン・普賢・玉鼎・王天君あたり。(飛虎もそうであってほしかったが、原作での活躍機会が仙界大戦以外の部分なので難しいか。)
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太公望は第1話の圧縮改変のせいでとても頭脳派に見えず、聞仲は最終話のやつれた紂王をスルーする改変がかなりイメージを損なったが、そこ以外は概ね良かった。普賢真人玉鼎真人はほぼ原作通り。
楊ゼンは序盤から精神的弱みをほのめかすオリジナル描写が批判を呼んだものの、仙界大戦メインという構成であれば原作中盤までの強キャラ感を披露する機会がないので、最初から精神的に穴のあるキャラとして描いたのは英断のように思う。ということで楊ゼン・普賢・玉鼎については高めに評価したい。
王天君はもうネタバレのタイミングが謎すぎてなまじ原作ファンである自分には評価不能。アニメ初見の人で彼がどういうキャラか理解できた人がいたのか聞いてみたい。
作画・動画
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上でも書いたが背景は文句なしのクオリティ。全編通して美しかった。キャラクターの作画も良く、動きは少なめだったが迫力を出す工夫はなされていたので特に不満は感じなかった。原作にない構図の際は違和感を覚えたりもしたが、これは原作ファンならではの感覚かもしれないので、個人的には許容範囲。
主題歌・CV
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OPを担当するFear, and Loathing in Las Vegasはポスト・ハードコアというジャンルらしく、その激しさに驚かされた。しかしながら歌詞は日本語訳すると太公望と聞仲の関係を表現したものであり大変好印象。OPを動とするならやなぎなぎさんのEDは極めて静で好対照。仙界大戦終結後を表現したと思われる、「兵どもが夢の跡」という情緒にあふれ、落ち着いた良曲。
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CVは概ねイメージ通りだった。狂気的な王天君に岡本信彦さんをキャスティングするのは安直な気もするが実際ぴったりだったので文句のつけようがない。作中で2回死ぬという特殊なキャラで、2回とも死に際の絶叫演技を堪能できたのはよかった。楊ゼン役の中村悠一さんも最初は違和感があったが、楊ゼンのイメージが「優雅で不敵な優男」から外れる仙界大戦のパートからは、重さを備えた色気のある声がばっちりハマっているように感じた。他は聞仲役の前野智昭さん、妲己役の日笠陽子さんが特に最初から最後までイメージどおりだった。
批判の矛先は
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構成に関しては脚本家の問題ではなく企画の時点でアウトだったという評価をよく見る。実際、前述したように23巻2クールの映像化は無理難題であり、それは否定できない。しかしこのブログで同時期に紹介した「グランクレスト戦記」は小説10巻を24話という、尺的には封神演義ほどに難しい映像化をちゃんと話が成立するように仕上げてきている。シリーズ構成が完全に原作を理解した2人(原作者:水野良氏&原作TRPGデザイナー:矢野俊策氏)だったことが奏功しているように思う。
よって覇穹封神演義に関しては、原作:藤崎竜氏の高い構成力に、アニメの脚本家たちがついていけなかった、という見方も否定できないだろう。(このアニメに際して原作のストーリーに改めて向き合ってみたが、伏線や前振りの配置など、各章をまたぐ連続性が非常に巧みに実現されており20年越しに感嘆させられた。)
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3人の脚本家のうち、池田臨太郎氏は再構築で発生する穴を抜け目なく塞いでいた印象だが、残り2人の大草芳樹氏と高橋ナツコ氏は二人の変更の間で矛盾が生じるなど、連携がとれておらずひどいものだった。特にシリーズ構成の高橋氏は世間の悪評を無視し、努めてフラットに評価したとしても実力不足のそしりを免れないだろう。
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そもそも大まかな話の流れは脚本家より上のレベルで決定されている、という反論も業界の方からされていたし、まあ我々素人の憶測よりそちらの話のほうが正しいのだろう。ただそれならシリーズ構成のクレジットは実態に沿ったものにするべきではないだろうか。外部からは伺い知れないことである以上、自分としてはクレジットに沿って脚本家(と監督:相澤伽月氏)を批判させていただく。
おわりに
以上です。原作の面白さを再認識させてくれたことと、物語構成の基本を考えさせてくれたことには皮肉抜きで感謝しつつ、筆を置きたいと思います。




posted by ぺーた at 10:45 | Comment(0) | TrackBack(0) | アニメ
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