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クロア篇−3章4 [2019/02/05 00:10]
クロアはベニトラの首輪を買い終えた。クロアが商品の詰まったカゴを抱えてくると、路上で待機していたエメリが目を丸くする。
「たくさん購入されましたね」
彼女はクロアが大量に品物を持ってきたことにおどろいた。クロアもはじめは首輪の購入のみが目当てだったので、たしかにこの収穫物の多さは意外だと客観視する。
「あ、このカゴと品物は首輪のおまけでもらったの」
女性御者はクロアの肩につかまるベニトラを見る。
「ではその首輪にけっこうな値がついていたのですか?」
「そう、..
クロア篇−3章3 [2019/02/04 02:00]
「あの、ちょっとおたずねしてよろしい?」
「なんです」
店員はクロアたちの入店時と同様の無愛想さにもどっている。高額な商品を値下げするはめになり、傷心しているらしかった。
「わたくし、首輪の値引きは遠慮しますわ」
「え、なんでそんな奇特なことを?」
店員が目を丸くした。若干うれしそうだが、すぐにしかめ面になる。
「なにか裏がおありのようですね……」
「あなたに言われたくありませんわ」
首輪の最大の欠点を隠そうとした店員は再度うつむき、帳簿に目をやる。あま..
クロア篇−3章2 [2019/02/01 00:10]
店員は招獣用の首輪の棚へクロアたちを案内した。首輪は陳列棚に並ぶものもあれば、鍵付きの透明な戸棚に展示されたものもある。厳重な管理をされた商品のほうは高級な装飾品のごとき待遇だ。その棚を店員が開けた。彼は大粒の淡黄色の宝石がついた帯を取り出す。
「これがおすすめの、伸縮自在の首輪です」
クロアに見せたのち、帯を幼獣形態のベニトラの首に装着する。
「ちゃんと首輪が大きくなるか、こっちで試してみますか」
彼は商品棚同士の間隔が広い場所へ移動した。クロアはベニトラの本..
クロア篇−3章1 [2019/01/30 23:00]
クロアはベニトラをぬいぐるみのように抱きかかえ、招獣の専門店へ入った。店内の戸棚に装飾品や薬などの商品が陳列してある。だが生物の姿は見えない。クロアは招獣の店には招獣もいるものだと想像していた。
「招獣は取りあつかっていないのね」
「あ、売り子さんの後ろにいますよ」
鼬を肩に乗せたレジィが勘定台の奥を指差した。勘定台では帳面になにかを書き付けるヒゲの中年男性がいる。その背後には檻に入った猫や鳥などが並んでいた。
「飛馬はいないのかしら。そういう飛獣は人気があるはず..
クロア篇−2章7 [2019/01/29 22:11]
エメリが操縦する馬車は招獣専門店を目指した。馬車内でクロアとレジィは対面して座る。クロアはレジィとの雑談は後回しにし、窓の外を眺めた。
大通りに面した建物は商いをする店舗が多い。いろんな人が店へ出入りしている。その中に戦えそうな者はいないか、とクロアは捜した。クロアの膝にのったベニトラも窓のふちに前足を置いて、同じ景色を見ていた。
「あのう、クロアさまはロレンツ公と仲がいいんですか?」
レジィが突拍子なく聞いてくる。クロアは視線を変えずに「知り合いではあるわ」と答..
クロア篇−2章6 [2019/01/28 23:00]
アンペレの町は広大である。この町を徒歩で移動していてはたいへん骨が折れる。それゆえクロアは私用の馬車を使うことにした。馬車を牽引する馬は厩舎で飼育している。厩舎には普通の馬のほかにも飛行能力のある魔獣──通称を飛獣──が区分けして管理してあった。
今回使うのは普通の馬だ。利便性では飛獣のほうが移動速度が速いが、町中では飛獣の乱用を禁止している。領主一族も例外ではない。緊急時以外は馬か馬車での移動をする。その際は厩舎にいる者に声をかけ、馬か馬車の用意を頼む。馬車に乗るとき..
クロア篇−2章5 [2019/01/27 02:20]
クロアは昼食をレジィと一緒にとった。こたびは女子二人の食事だ。ダムトに気兼ねしない、自由な雑談を交わす。
「わたしに事務方の側近ができたら、レジィも助かるんじゃないかしら?」
「あたしは、いまのままでも平気ですけど……」
レジィは日々、前任者の女性が達していた域に自分を高めようとしている。それゆえ、外部からの助力を得ようとは思わないらしい。
健気な少女は「あ」と声をあげる。
「政務を補佐してくれる男性をお婿さんにしたらどうです?」
クロアは今朝、父に告げた..
クロア篇−2章4 [2019/01/26 01:10]
クロアが苦手とする老爺は去った。クロアはあらためて食卓に気持ちを向ける。すると家長が困ったかのように視線を机上に落としている。
「あまりカスバンを悪く思わないでくれ」
クノードは老爺の対応を弁護する。これはクロアの予想できていた父の反応だ。
「彼もクロアに大事があってはいけないと心配しているんだ」
「いいえ、その表現は正しくありません」
クロアはあの高官がそんな人情家ではないという自信がある。
「あの者が案じるのはアンペレの将来だけ。領地をとりまとめる旗頭(..
クロア篇−2章3 [2019/01/25 01:00]
クロアは猫に擬態したベニトラとともに居室へ入った。室内にはすでに家族が着席している。父と母、そして母方の祖母。父たちが笑顔で「おはよう」と挨拶してくる。クロアもそつなく返事をした。
クロアの家族はこの三人以外にもいる。妹と、弟。妹たちは聖都の学生寮で寝泊まりするので、この場に集まることは最近とんとない。現在、アンペレに在住する公子公女はクロアだけだ。
クロアの後ろを追いかけてきた猫は食卓の下にもぐりこんだ。一家の視界外にてくつろぎはじめる。この獣は人間の邪魔にならぬ..
クロア篇−2章2 [2019/01/24 01:00]
朝の支度の最中、クロアは異変に気付いた。いつもの寝覚めのお茶が用意されていない。お茶出しの担当者はダムト。彼の姿が見えないのだ。不審に思ったクロアはレジィに彼の所在を尋ねた。レジィはクロアに耳打ちする。
「手始めに賊のねぐらをさがす、と言って出かけました」
クロアは己の眉が上がるさまを鏡で見てとれた。
「今日の夕方にはもどるそうです」
「お父さまが反対なさったのに?」
「はい。クロアさまはきっと引き下がらないだろうから、と……」
「ふふん、よくわかってるわね」..
クロア篇−2章1 [2019/01/23 19:00]
クロアは自室の寝台で朝を迎えた。寝返りをうつと、手にあたたかいものが当たる。ほわほわした毛皮だ。毛皮をもちいた衣類や小物なぞ持っていただろうか、と不思議に思ったクロアは目を開ける。枕のそばに、朱色で縞柄の毛玉が置いてある。毛玉には長い尾と丸みを帯びた耳がついていた。
(ネコ……?)
クロアはこのような獣を飼っている認識がなかった。
(どこから入ってきたのかしら……)
どうしてこの動物が自室にいるのか、クロアは思い出そうとした。とりあえず猫に触れて、体にきざんだ記..
クロア篇−1章7 [2019/01/22 01:20]
居室に二人の女性が現れた。レジィと貴婦人。この婦人がアンペレ公夫人のフュリヤだ。外見年齢はクロアのすこし上といったところ。母は父に嫁いだときから容貌が変わらないそうだ。その若々しさの原因は彼女が受け継ぐ魔障の血にある。フュリヤは父親が人でない者だった。そんな片親と人間の親をもつ子は半魔とよばれ、その多くは不老長寿だという。
フュリヤはいつも顔以外の肌を一切見せぬ衣装を纏っている。外出の際は顔さえも薄絹で覆い隠した。過剰なまでに露出を抑えるには理由がある。夫以外の異性を色..