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拓馬篇前記−新人7 [2017/11/27 23:59]
男は電話口で、自分が才穎高校の教員に相成ることを知った。また校長の厚意により、校長所有の宿舎に居を移すと決める。この決定は当初の未来予想になかったことだ。男は渡りに船の提案だと思った。高校の隣県にある繁沢の住宅から通うよりもずっと目的が果たしやすくなる。いまの居住地はとある厄介な人物に知られてしまい、いつ鉢合わせになるかと気が気でなかった。もちろん個人的に部屋を借りても良かったのだが、その人物の調査能力の前では時間稼ぎにもなるかどうか。その点、校長の管理する住宅は不動産屋で..
拓馬篇前記−新人6 [2017/11/21 23:00]
男は大力会長の審査を経た。無事に才穎高校の採用試験にこぎつける。すでに大力のほうから大体の男の希望を学校へ伝えてあり、了解を得たという。なにからなにまで順調にいっていると男は感じた。だが油断はできない。男を試験の場へ案内する熟年の女教師は、男を怪訝なまなざしで出迎えてきた。彼女は教頭だという。
教頭は短すぎる勤務期間を要求してきた男をあまり歓迎していない。開口一番で「裏に大力会長がいるからといって甘くは見ませんよ」と宣戦布告した。その言葉自体は男に異論がなかった。無能な..
拓馬篇前記−新人5 [2017/11/19 23:59]
イオという娘は教師を目指しているのだと大力が説明した。彼女はまだ高校生。いずれ教師業に就く際の参考として、妹の圭緒が二人の会話に同席することになった。──というのは建前だ。圭緒は父親がいたく心待ちにした人物が気になり、女中の仕事を代わりに引き受けてきたのだという。
「お父さまが心なしかはしゃいでいたんです。ひょっとして熊みたいにいかついお方かと思ったのですけど、案外スレンダーでいらっしゃるのですね」
初対面の感想を述べた圭緒は敷物なしで横座りした。男が「座布団を使いま..
拓馬篇前記−新人4 [2017/11/18 23:50]
「して、貴公はまことに繁沢のもとを離れるのだな?」
繁沢とは男の上司の姓だ。上司とその一家はながらく男とともに過ごしてきた。家族にも近しい存在──とは上司の一家が思っていることだ。
「はい。もう、シゲさんたちに危険はないと思いますから」
「無いとは言い切れんぞ。ヤクザの足抜けというのは、成功例ができると困る連中がおるでな。いまだに寝首をかこうと企んでおるかもしれん」
繁沢一家は所属元の組員とそこに敵対する同業の者に恨まれ、危険にさらされる過去があった。おりしも男が..
拓馬篇前記−新人3 [2017/11/17 18:00]
目前の敵は二人。一人は天井裏に潜んでいた者、一人は廊下にいた者──こちらは一メートル足らずの棍棒を手にしている。
徒手で挑む者はさきほど不発だったハイキックを繰り出した。男は身を屈め、一気に相手のふところに潜る。がら空きの腹に掌底を当てる。黒装束は軽く吹き飛ぶ。また一人、倒せた。
仲間の犠牲を囮あつかいするかのごとく、棍棒使いが急襲する。横薙ぎの攻撃が続いたかと思うと突きへ、突きの連続攻撃を避けると今度は棍棒が二つに分かれた。二本の棒は鎖で繋がっている。いわゆるヌン..
拓馬篇前記−新人2 [2017/11/16 22:20]
男は座布団の上に正座する。ふかふかした座布団だ。座った感触はよいのだが、男は奇妙な感覚を覚える。
(下に……だれか、いる?)
気配は畳の下、つまりは床下にある。何者かがいるであろう位置は座布団のすぐ前方。男はためしに目の前の畳を手でぐいぐい押してみた。畳が深く沈まないことから、床が抜けていないとわかる。だからといって侵入口ではないと断言できない。
(ここから人が出てくる……?)
床板を外したのちに襲撃される可能性もある──と、いつもの警戒のクセが出た男は自制する..