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タグ / クロア
記事
クロア篇−8章6 [2019/04/29 00:00]
クロアとレジィが会議室を出る。廊下にはなぜかタオが立っていた。
「あら、あなたはお部屋を案内されているんじゃ……」
「あとで教えてもらう。いまは公女と話がしたい」
「かまいませんけど……レジィはどう?」
少女はさきほどの会議の記録を官吏に見せる役目を抱えている。
「あのう、書記の仕事がのこってるので……」
「わかったわ、わたしだけで話す。あなたは記録を提出できたら、もう休んでいいわ」
レジィは「わかりました」と言うと、筆記板を大事そうに抱きながら、離れてい..
クロア篇−8章5 [2019/04/28 00:00]
魔界育ちの療術士が申し出た外出は受理された。具体的な行き先と日時は官吏に告げず、クロアの都合のよいときに出かけるということで決定する。クロアは当日のうちにでも出かけてよかったのだが、やむなく延期した。戦士が集まった以上、本格的に征伐の段取りを考えねばならない。即時、会議室に関係者が呼び集められた。列席者はアンペレ当主、武官の長と文官の長、戦力として一時客分に置かれる者たち、そしてクロアとその従者二人。
上席に座るクノードが客将の面々をじっくり見る。
「わが娘に賛同し、..
クロア篇−8章4 [2019/04/27 07:00]
ユネスは私事の話題をやめ、本題に入ろうとした。挑戦者はタオ以外にもいるのだ。
「それで、クロア様が連れてきた男は……魔人か?」
「おうよ、おめえとやり合えばいいのか?」
「あんたはいい。うちのお偉いさんがケチをつけられる格じゃないみたいだ」
「おう、物わかりがいいじゃねえか」
リックが野太い笑い声をあげた。ユネスは次に、リックの後ろに控える女性を観察する。
「そこのご婦人は戦えるのか?」
「あ、わたくしですか。はい、暴力は好きじゃありませんが、護身程度には戦..
クロア篇−8章3 [2019/04/26 23:00]
クロアたちは屋敷到着後、ユネスが試合を行なっていると聞きつけた。現在、ダムトが見つけた人材が腕試しをしているという。それも三名だとか。
(よし、うまくやってくれたわ!)
クロアは嬉々として訓練場へ急行する。そこには観戦する者が三人おり、うちひとりはダムト、ほか二人は知らない小柄な男女だった。
柵の中には二人の人物がいる。勝敗はすでに決したらしく、試験官が地に膝をつけていた。
「ダムト! お強い方を連れてきたのね」
従者はクロアを見て、顔をそむけた。クロアはそ..
クロア篇−8章2 [2019/04/25 23:50]
リックは自身の酒杯に酒を入れた。それを、長い裳を履く女性に出す。
「今日はこれで仕舞いにするぞ。ちょっくら人助けをすることにしたからよ、ここの席のもんに挨拶しとけ」
リックの隣りに座った女性が深々と頭を下げる。クロアたちも会釈を返した。
「わたくし、フィリーネと申します。あるじのリックと共に魔界よりやって参りました」
貴婦人に変身した竜が慇懃な口上を述べる。
「こちらへは大事な息子をさがしに訪れました。あなたたちを害する意思はございません。この身が竜に変じまし..
クロア篇−8章1 [2019/04/23 23:33]
クロアたちは幸か不幸か、強力な魔人たちと出会えた。彼らの助力を得られるよう、これから交渉したい──のだが、クロアはどうも疲れてしまった。剣士の魔人とはうまく調子が合わないのだ。それゆえ、会話の主導権をレジィにゆずった。少女が「単刀直入がいいですか?」と対話の方針をたずねるので、クロアは「好きにやって」と投げやりに答えた。
「えーと、じゃあ……あたしたち、賊をこらしめるために強い人を雇いたくて──」
リックが兜をゆらして「あんたのご主人だけじゃいけねえのか?」と口をはさ..
クロア篇−7章7 [2019/04/22 00:40]
「俺はお前の召使いじゃないんだぞ」
長身の男剣士が愚痴りながら料理をもってきた。続く女剣士も、さきほど座っていた席にあった葡萄酒と酒杯を卓上に置いた。女剣士は一言も発さず、むすっとした表情でいる。こちらは無口なようだ。
剣士の二人組は椅子に座らず、クロアたちの顔ぶれを確認する。
「冒険者仲間、にしては気品があるように見えるな」
クロアは育ちの良さを見抜かれ、いたく満足する。
「ふふん、魔界育ちの魔人にも人を見る目がおありなのね」
「どこの神官の娘だ?」
「..
クロア篇−7章5 [2019/04/18 00:00]
昼食時の執務室が講義室へと変わる。部屋の在りようを変えた者は、秀才を自負する青年だ。
「魔族というものは大きく分けると二種類になる。人型の魔人と、獣型の魔獣だ。この二つのちがいは知っているかな」
マキシは一拍おいて、だれも答えないのを見るや、即座に話をつづける。
「どちらにも高い魔力と知能をそなえた個体がいる。おまけに、人に変化する魔獣だっている。魔獣が人に化けてしまえば魔人と区別がつかないと思わないかい?」
いつもならクロアとレジィは会話を交わしながら食事をと..
クロア篇−7章4 [2019/04/16 04:00]
レジィが食器のならんだ盆を運ぶ。その盆をまずクロアの机上に置いた。移動配膳台にのこった盆はひとつ。それをレジィは彼女自身の席へもっていき、着席した。
クロアは出された食事に手をつけず、他国からきた青年を見る。彼はすでに昼食の汁物をすすっていた。クロアは数日前、彼に見せられた卒業証書を思い出しながら、
「あなた、学都の学校を卒業なさったのよね?」
とたずねた。問われた青年は口元に寄せていたサジを食器にもどす。
「ああ、高等部をね。それがどうした?」
「卒業してか..
クロア篇−7章3 [2019/04/14 04:00]
クロアは男性従者不在の朝を二度むかえた。彼が事前に「数日かかる」と宣言したように、やはり手間取っているようだ。ひょっとすると数日ではすまないかもしれない。
(おそくなるときはダムトが連絡をよこすでしょ)
彼の良識を信じ、クロアはみずからがすべきことに集中して、職務にあたった。
自身の職務室にて、午前の仕事を仕上げる。その成果をレジィに託したあと、仕事机に突っ伏す。
「ああ……あと三人、はやく見つけなきゃ……」
そう焦る原因が、クロアの仕事机のまえへやって..
クロア篇−7章2 [2019/04/10 06:30]
クロアは茶杯を空けた。従者はすぐに片付けに取りかかる。その作業をクロアが見守っていく中、ひとつの疑問が湧く。
「そうそう、あなたが連れてくる方は何人ぐらいいるの? あと三人はほしいのだけど」
「三人……集まるかもしれません。ただ確約はしかねます」
「わかったわ。それじゃ、こっちでも強い人をさがしておくわね」
目下の活動計画が決まった。下男役に従事する従者は廊下へ出る。クロアはなにもない円卓を見て、以前はそこにあったカゴを連想する。
(やっぱり無いほうがラクね……..
クロア篇−7章1 [2019/04/08 03:45]
クロアは四日目の戦士探しを終え、夜の外出からもどってきた。初日以来、ルッツのような戦士を発見できない日々が続く。初日に人材を次々と得られたのは運がよかった。その運はそう続くものではないのだと、クロアは一日を経るごとに感じてくる。
「この町じゃもう、いい戦士は見つからないのかしら」
クロアは自室の円卓でそうぼやいた。同じ席にダムトがおり、彼は茶をクロアに出しながら「そうかもしれません」と同調する。
「もとよりこの町は出稼ぎする戦士の中継地点です。長期の滞在をする人はあ..