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タグ / クロア
記事
クロア篇−6章7 [2019/04/03 06:00]
クロアは自身の仕事部屋へ入った。室内ではレジィがせっせとそろばんを弾いている。その背後には有翼の少女がレジィの動作をたいくつそうにながめていた。
「それは今日の分の仕事?」
クロアは従者がなんの計算をしているのか、質問した。
「あ、えっと……仕事というか、活動費用の確認、です」
レジィは気まずそうに答えた。彼女はなにか気がかりに思うことがあるらしい。
「急な出費があったの?」
「ルッツさんたちにかかるお金……です」
「? なんでうちで計算することになるの」..
クロア篇−6章6 [2019/03/27 06:10]
父の執務室を離れたあと、クロアはレジィに午前の仕事をさきに着手するようたのんだ。もはや始業時刻はかなり過ぎていて、昼休みを意識するような時間帯である。やれる事務作業はすくないのだが、なにもしないよりはいいとクロアは判断した。なにより、クロアに敬重の意を示さない客人に向けて「自分は暇人ではない」と強調する意味もあった。とくにやることのないナーマもレジィに付き添わせ、職務の見学をさせることにした。
クロアはマキシを連れて、自分の部屋にもどった。今朝部屋に置いていった猫は専用..
クロア篇−6章5 [2019/03/26 05:00]
試合のすえ、挑戦者は及第した。ただし快勝とはいかなかった。青年の運動能力は貧弱で、試験官の水球を避けきれないでいた。彼を合格へこぎつかせたのは彼の招獣である。青年のあつかう招獣は招術士に攻撃がいかぬよう、うごきに気を遣っていた。つまるところマキシの招獣は賢く、強力だということがこの試験で証明された。マキシ本人の力量はどうにも不安が残るものの、術士にとって身体の強さはあまり重要ではないので、この結果に高官は口出ししなかった。
晴れて二人の戦士が確保できた。まずは彼らを領主..
クロア篇−6章4 [2019/03/25 04:00]
ルッツは文官に案内を受けて、訓練場までやってきた。クロアの知らない青年も一緒だ。
案内人がカスバンに一礼し、客を残して立ち去った。カスバンは槍を持つ武人を見るや、目礼を交わした。言葉を発さないやり取りにはひっそりとした緊張感があった。その空気の中、ルッツの後ろにいた青年が前へ出てくる。自分の番だ、と言わんばかりだ。カスバンが彼を二十歳前後と形用したが、その顔立ちは十代の後半のようだとクロアは思った。
「それじゃあ僕が試合とやらに挑戦してもいいだろうか?」
若い男性..
クロア篇−6章3 [2019/03/21 02:30]
試合はあっけなくおわった。術の戦いとなるとやはり魔人に分があったようで、ナーマが楽々と勝つ。クロアののぞんだ結果だ。その歓喜に乗じて、勝者がクロアの胸へ飛びこんでくる。
「ねー、アタシがんばったでしょー?」
「ええ! 試合には勝てたわね」
クロアはナーマの翼に生えた羽毛をなでながら、試合に負けた試験官の様子を見た。ユネスはまったく手傷を負っていない。それは両者ともに敵意のない戦いをおこなったからなのだろうが、はたして実戦でも同様の勝敗になるかというと、未知数だ。この..
クロア篇−6章2 [2019/03/16 03:00]
翌朝、クロアはレジィに起こされた。深く眠ってしまったようで、レジィが枕元に立つ気配を感じとれなかった。クロアが起き上がろうと手をついたとき、寝具ではないものに触れた。羽の生えた少女だ。これがどういう人物なのか、クロアは思い出せなかった。
薄着の少女は目をつむったまま、クロアにすり寄ってくる。クロアは反射的にその額を人差し指で押した。少女はそれでもぐいぐい顔を押し付けてくる。だがクロアの力にはかなわず、顔をぼすんっと布団に伏せる。
「もー、クロちゃんの馬鹿力ー」
そ..
クロア篇−6章1 [2019/03/14 04:00]
クロアはダムトからもらった飴のおかげで元気が多少もどってきた。彼の付き添いは地下牢までにしておき、クロアは体を洗いに向かう。すぐにでもねたいくらいだったが、今日はいろんなところへ出かけたので、体についた汗や埃は落としておきたいと思った。
移動の間、少女と化したナーマは低空飛行し、クロアの背後に付きまとった。ナーマの下乳がクロアの肩甲骨に当たり続ける。クロアは居心地がわるかった。が、どうせ入浴の際に離れてもらおうと思い、抵抗しなかった。
風呂場の脱衣場に入るとき、クロ..
クロア篇−5章7 [2019/03/10 01:00]
地下牢には収監した者を監視する官吏のほか、牢屋が持ち場でない女性官吏がいた。牢の前でかがむ女性の髪は桃色。やや幼い顔立ちといい、場違いな明るい雰囲気をかもした。
「ああ、クロアさまたちもおいでになったんだね」
「プルケが、どうしてここに?」
「厄介な術を使う夢魔の取り調べときちゃ、なみの尉官じゃ荷が重いでしょー」
プルケは武官の中でも術を得意とする術官。罪人の捕獲や取り調べを担う尉官ではない。しかし手強い術士や魔人、魔獣の関わる案件になるとしばしば駆り出されること..
クロア篇−5章6 [2019/03/06 00:50]
物腰の柔らかい戦士が退室した。ダムトはルッツが使用した茶器を片付ける。クロアは自身に配られた茶を飲みながら、雑務中の従者の顔色をうかがう。
「ルッツさんはどんなお方だと予想したの?」
クロアは従者が純粋なお茶出し目的で同席したのではないと察しがついていた。
「大官ではなく小官でもない、聖都の元武官でしょう」
「傭兵かもしれないじゃない」
「クロア様をしのぐ気品を有した傭兵なぞおりましょうか」
ダムトはなに食わぬ顔でクロアの杯に茶を注ぎ足す。クロアはわずかに眉..
クロア篇−5章5 [2019/03/05 03:00]
クロアは白髪の戦士に礼がしたいと申し出た。彼は「それがしは療術を少々お掛けしたまで」と辞退しそうな雰囲気を出したが、クロアから視線をはずしたのちに承諾した。みなそれぞれの飛獣に乗り、姿を消して移動する。その道中で互いの素性を明かした。
戦士はルッツと名乗った。彼が騎乗するベイレとともに旅をしているという。長年聖都で勤め、現在は辞職した。以後は旅行を楽しんでいるそうだ。聖都で具体的になにをしていたかを聞くとはぐらかされ、それ以降ルッツがクロアたちへの質問攻めをした。
..
クロア篇−5章4 [2019/03/04 23:30]
クロアはトンボの案内にしたがい、人通りがすくない小道まで来た。地上には水色の頭が見える。クロアはダムトと合流するまえに、騒がしい鳥を解放した。鳥は捕獲者に立ち向かってくるかと思ったが、来た道を引き返した。白髪の男性のもとへ帰ったのだろう。
「よーし、これで降りられるわ」
慎重に高度を下げる。よくよく見るとダムトは女性に絡まれていた。この女性が住民をたぶらかす魔人。顔を見てやろうとクロアが近付くや、女性の背中から翼が生えた。
「やぁだ、撒き餌に引っかかったってわけ?」..
クロア篇−5章3 [2019/03/03 22:00]
クロアはベニトラに騎乗したまま町の上空をぶらついた。足の下には夜景が広がる。普段は見られない景色だ。希少価値のあるものを観覧するうちに、高揚感に満ちあふれた。
「町の上を飛ぶの、結構いいわね。いつもはできないことよ」
「……はい」
無口なソルフが返答した。クロアと二人きりになったいま、受け答えをせねばならぬという自覚がソルフにできあがったらしい。本当はベニトラも会話に加われるのだが、こちらの獣もおしゃべりをこのまない気質のようで、会話は弾まない。彼らがそういう性格だ..