本作のキャラは特定のシーンに到達するまですべて顔が似顔絵。
それも結構不気味な
ギャルゲーはまず一にも二にも絵なので、その絵で勝負できない状態では、完全にシナリオ勝負ということになる。ここに男気設定がある。
だがシナリオの引っ張りは非常にパワーがあって、こんな絵でも楽しめた
顔の見えない間はフキダシにマークがついて、表情を表現している(顔が見えるようになってからもフキダシがあるので、演出ではなくただの作者の癖かもしれないが…)
でも、前提を語るとコンセプトの「画期的なギャルゲー」「画期的なギャルゲー思いついた」はかなり違和感があって違うかな。
作者は消せない消しゴムくらい画期的なギャルゲーというフレーズを押し出したかったんだろうけど、一般的にいうギャルゲーのフォーマットと本作はかなり差異がある
ギャルゲーと言えば大きく分けてSLGではときメモタイプ、ADVではメモオフや葉鍵のようなノベルタイプがあるんだけど、それらに共通するのは特定のヒロインが複数いて、SLGならパラメーターを上げて、ADVなら正しい選択肢を選んで好感度を上げて、そんなヒロインたちを攻略できるという点。
でも本作はそれらの要素が一切ない上、ヒロインは完全に固定。(寧ろギャルゲーというからには他の女性キャラ攻略させてくれよ)
ギャルゲーは男女比がほとんど女に偏っているが、本作は男女のキャラ比にほとんど差がないので、ギャルゲーというにはかなり無理があった。青春群像劇っぽい。
勿論ギャルゲーといっても攻略要素がないものとか色々あるんだけど、これをギャルゲーといってしまうともうなんでもギャルゲーになっちゃうので、やはり違うかなって感じ。これについては他にもそう思う点があって、後述します
別に、サクラ大戦はギャルゲーじゃない、みたいなことが言いたいわけじゃないんだけどね。サクラ大戦はギャルゲーだし
▼さて本作は話題作だったのでその存在を知ってはいたが、かなりの長編と聞いてたので、例によってスルーしてました。
私は4,5時間と聞いたらかなり躊躇、10時間と聞いたらまずプレイしません。
まずプレイタイムを確保できず積むからです。10時間もあれば1時間のゲームを10本もクリア出来る訳だし
で、これもそんな具合でスルーしてきたタイトルの一つ
▼当時イロモノを攻略するギャルゲー、乙女ゲー、漫画などが流行ってたので(最近でもまた、原始人が恋愛対象の少女漫画とかあるね)、これも似顔絵を攻略するイロモノバカゲーギャルゲーだと思ってたんだけど、結論からいうと全く違った
似顔絵なのはシナリオ上の都合であって、イロモノ設定とはまた別(ニュースサイトではイロモノという扱いだったが、プレイしていないか、スタッフがそういう押し出し方をしてたんだろう。「画期的なギャルゲー」として)
▼この、人の顔が似顔絵に見えるというのがシナリオの最大のキーなんだけど、初めて色葉の顔が見えるシーンの衝撃は大きかった。
何せそのシーンに至るまで数時間、ずっと似顔絵(落書き)だったから
キャラデザが誰かも知らないしどんな画風かもわからないから(例えば有名漫画家ならある程度予想出来てしまうだろう)完全に未知数だったが想像以上に可愛くてびっくり。作画レベル、高すぎ
そして予想してた作風による画風とも違ってた(もっと萌えに寄ってると予想してた。開発中はもっと萌え寄りの絵だったようだが)。
だが色葉を筆頭に、どのキャラも、本当の顔がイメージとあまりにもピッタリでそこに衝撃を受けた
だからこそ、初めて色葉の顔が見えるシーンはゲームならではの衝撃がある。
漫画やアニメではなくて完全に主人公の視点で、主人公に感情移入してプレイするから、なんか本当に自分の霧が晴れたような気分になった
▼シナリオは、非常にシリアスかつハートフルで素晴らしかった。実は過去からすべてが繋がっているというシナリオ構成もいい
キャラクターもいい味出してる。特にヒロインの色葉のぐう聖ぶりは素晴らしい。
主人公が徐々に記憶を取り戻して目の前の似顔絵が剥がれていくシーンがどれも感動的
特に百花の顔が見えるシーンは、似顔絵が溶けたら泣いているというのが実に設定を活かした演出で良かった
ヒロインの色葉でさえ、スチルこそあれ割と普通の顔だったんだが(というか色葉以外の女性キャラは単独スチルすらないんだが…)、百花の場合、似顔絵では分からなかった表情というポイントがクローズアップされてて非常にテーマが引き立つシーンだ
▼ミステリとしては主人公がヒロインの色葉のことまで犯人として疑っているのが意外とドライで驚いた。
金田一少年にしろコナンにしろヒロインは無条件で犯人候補から外れてて疑いもしないんだけど、ヒロインを疑う主人公は珍しい、「裏切りの密室」くらいしか知らない
▼ただ肝心の犯人当てはここまでの展開から、言ってみれば「逃げ」の、凛が犯人と見せかけて晃が真犯人という結果になってしまった
これまで顔の見えた女性キャラを犯人にしてたら作者が真っ向勝負してると感心したんだが、残念ながら非常にベタで、消去法でパターンが読めてしまう内容だった
名探偵コナンで烏丸があの方だったくらいの予定調和
次々に友人たちが何者かに殺されていく過程はゾクゾクしたが、まあヌルいもので全員結局生きているし
実弟晃との対決…路上で柔道はマジヤバイ
▼晃が主人公を恨んでいる理由が母親の事というのも、顔の見えるようになった女性キャラが主人公に恋してない(百花は微妙だが)というのも、前述したようにギャルゲー的ではない理由の一つ
ギャルゲーというからには晃が主人公を恨む理由は、色葉の気持ちが自分に向かないからってのが王道だけど、そういうのは一切無いんだよね。
他の女性キャラも、葵は幼馴染、百花は親戚のお姉さん、凛は主人公に興味すらないし
(そういえば百花が実は親戚だったとわかるシーンで、叔父側の親戚なんで主人公とは当然血は繋がってないのに、主人公が僕と顔が似ているのかなと疑問に思うのが変だった。設定ミス?)
▼事件解決までのストーリーはどれも伏線が綺麗に消化されてて面白かったが、シナリオの起承転結の結で終わるかと思いきや、この後の種明かし編が長すぎてダレてしまった。
結末と種明かしを同時に行うような構成にして欲しかった
そしてグダグダ長い割に、どうにも「書き忘れた」ことが多い。
色葉は、自分が主人公の母親を殺したとずっと思い込んでいて、気に病んで主人公の告白まで断っていたのに、いざそれが冤罪で、真犯人が晃だと分かったのだから、そこにもっと葛藤の描写を入れて欲しい。
事件解決後はなんか本当にただあの時は何何だった〜、実は何何だった〜と長々と解説するだけなんだもん
行間を読むとどうも晃は全くの悪人ではないんだが、そこに触れられなかったことが残念だ。例えば女にチャライ紺野を本気で怒ってたり、女性にも思い遣りがあるのは間違いないんだが、それも何故か主人公たちは気づかない
哀れ晃
イケメンチビの主人公…なんか笑ってしまう(笑)
叔父叔母と本当の親子になるくだりは泣ける話だ。叔父がゴリラ過ぎて笑っちゃったけど
叔母さんは美化されてない妙にリアルな中年女性で意外だった。
▼全てを終え7カ月後、ラストの強引な水着シーンがギャルゲーっぽくって笑ってしまった。
葵だけ隠れてて水着姿が見えない(悲報)。しかし、海なのにヘアバンドって…
まさかこれがラストシーンだとは思わなかった(笑)。最後の台詞がヒロインのものじゃないってのもね。
全てを終えタイトルに戻るとシルエットのキャラの姿が見えるように…最後の最後で小粋な演出だ
作り込み的に勿体ないのは、これだけ絵に拘ったゲームなのになぜか背景だけがほぼすべて素材であること。
他でよく見る背景はやはり安っぽい
さっきまで夕方だったのに次のシーンで昼になってたり、おかしな部分も多い。
これだけ力を費やしたならもう全部お手製で頑張って欲しかった。
目パチするキャラも色葉だけなので、これは全員分実装して欲しかった
絵のセンスも優れているが、血がピンク色だったりダンガンロンパにでも影響受けたのかな?ってシーンが多くて折角の緊迫の場面もイマイチ緊張感に欠けた
▼さて、総評するとシナリオ、自作絵、ともに素晴らしいクオリティの良作でした。特にキャラグラは美麗過ぎ。
10時間はキツかったし終盤ダレたけど、やっぱり長いゲームは充実感、達成感もありますね
同人ゲーム離れしたハイクオリティと、同人ゲームらしい低クオリティが混在した一風変わった作品
評価A+
80点
配信サイトは複数あるけど、そのどこでも受賞してないっておかしいでしょ、ふりーむの審査員はモグリだな。
とか思ったら、なんとこれだけの作品が、コンテストには参加すらしていない模様。シナリオもグラフィックも斬新さもあるので、出せばまず何か取れる。もったいなかったね
フリーゲーム・オブ・ザ・イヤー2014(DLランキング)で76位と、クオリティからすれば前評判の割に隠れた名作になってしまった。この出来ならベスト3に入ってもなんらおかしくはないのだが、やはりこの絵なんで、奇を衒ったゲームだと話題にこそなっても、DLしてまで遊ぶ人が少なかったんだろうな。
ギャルゲーといいながらも顔が落書きのままだから、やはりユーザーの目は引けないしね。
ギャルゲーでユーザーが真っ先に見るのは絵・キャラで、その気に入ったキャラを攻略したいというのがプレイ動機だからね(でもカオパスはヒロイン攻略要素すらない…)
まぁこういう性質のゲームだから仕方ないけどね。
製作サークルもツイッターをまるで更新してないのを見ると一斉失踪したんだろうか。また何か作って欲しいが、これももったいないね。
スタッフロールが2chのコテハンだらけなんで、ここであ、そういえばこれVIPのゲームだったなって思い出したよ
ここまでVIPネタがないVIPゲーも珍しい
「限りなく閉ざされたこの世界で」なんて、主人公とヒロインがVIPPERだったからね(笑)
本作の場合VIPネタやパロディがないこともよかったかと
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