メンヘラで夢見がちな女の子、
ウソがつけない男の子、
無口で存在感ない男、
の4人で旅をするアドベンチャーゲーム。
「王の試練」で勝つために、
3人の側近を連れて
各地に散らばった「紋章」を集めに行きます。
選択肢や行動で、あなたの「性格」が変わっていきます。
▼オズの魔法使いっぽい一味が主役の四人の王国、攻略しました。シナリオについてはザックリだけど、ネタバレあります
いやあ、長かった。中編とあるけどフリーゲームとしては十分長編。分岐も多少あるしね。
絵は可愛いし(といってもほぼ素材で、イメージビジュアルの画風が全く違ったりおかしな点も多いが)、音楽、演出のレベルは高いし、総じて非常にクオリティが高い。
中でもシナリオは極めて面白かった。ここまで良質なシナリオのRPGは、商業ゲームでも今時ないくらい
▼ストーリーは王子候補たちが王子になるため、王国内で紋章を集めるところからスタート。
王子候補は側近を3人連れて行けることになっているが、精神性の病気で声を出すことができない主人公は、「好きなことで、生きていく」とかyoutuberみたいなことを言って自分のカラに閉じこもってて、側近はおろか友達すら1人もいない。いってみればただのクソニートです
他の王子候補は仲間が何人も名乗り出るのに、1人だけボッチな主人公
だが何かウラのありそうな3名が名乗りをあげて…
という、非常に牽引力のある導入部となっている。
▼まずこの主人公が声を出せない、というRPG特有の無言主人公のキャラづけに一石を投じる設定が斬新。
実際にクリアまで主人公が声を発するシーンはない
序盤はどの選択肢を選んでも「何をいってるかわからない」と返されるだけだが、旅を続けていくと、ジェスチャーなどで、仲間にはちゃんと意思が伝わるようになる。
この喋れないというギミックを使ったシーンがシナリオ上にあったり、ただの設定倒れではないところが素晴らしい
▼散らばった7つの紋章を集めるんだけど、作者の製作時間、スキルの都合上か、実際に奪い合う紋章がたったの3つ、ってのはちょっとガッカリした。
てっきり7個全部に7つのストーリーがあると思ったから
紋章集めのストーリーはシリアスもあるが、基本コミカルでいかにも珍道中といった感じ。おふざけで、コメディRPGっぽい。
ヒロインはクーフィアだがライツの側近リカとも仲良くなり、ラノベみたいに妙にモテる主人公
▼驚いたのがこのゲーム、中世ファンタジー風RPGなのに、敵にモンスターがいないんだよね。モンスターという存在そのものが架空の存在。
エンカウントするのは動物や人間だけ
魔法も無い。超人的に強い人間も存在しない。幾ら強くても剣で斬られたら致命傷を受けるし、魔法やパンチで岩を砕くようなこともできないから爆弾を使う。妙にリアルな設定だ。(1度だけモンスターが出るが、それもこの世のものじゃないバケモノという流れ)
ここも何気に斬新で面白かった
▼そんなこんなで一部は少年少女の珍道中だが、7つの紋章が全て消化されて、冒険は終わります
クーフィアはずっとお姫様になりたいという夢のために主人公についてきたが、主人公がyoutuberみたいな、好きなことで、生きていくというyoutuberみたいな夢ばかり追い求めている事を知ってしまい、強いショックを受け、酷く精神が不安定になる。
メンヘラ設定を見て、なんだ、別に普通じゃん、全然メンヘラじゃないじゃん、って思ってたけど、このあたりをメンヘラと呼んでるのかな。どちらかというとメンヘラというより夢見がちなメルヘン少女って感じ
▼ライツの計略により、紋章を盗んだと濡れ衣を着せられる主人公。本来勝てたはずの主人公は失脚。
王子がライツに決まり、主人公が候補生から敗北してしまってからの怒涛の展開が素晴らしい。
ここでパタリと冒険や戦闘などのRPG要素がなくなり(戦闘は終盤にまたあるが)、主人公は王子候補の肩書きがなくなり、ライツの悪意によってブラック企業の閑職に追い込まれてしまう。他の王子も同様にバイトなど、酷いアリサマ
この、主人公が社会的に徐々に抹殺されていくサマ、なんか怖いね…。作者が社会人経験者かどうかは知らないが、とてもリアルで気持ち悪くなった。
クーフィアは殺人、強盗、レイプなんでもありのスラムへ警官隊として飛ばされ、カシューは殺人犯の濡れ衣を着せられ、人知れず殺されるためにジャンドゥーヤは故郷に飛ばされてしまい、バラバラになってしまう4人。
▼つい1時間前まではキャッキャウフフ、ワイワイやってたので、唐突に作風が変化し驚愕する。
毎日仕事に追われ、早朝から深夜まで仕事をさせられる主人公。上司には怒鳴られ、いいことなんて1つもない
モンスターがいないことなどを妙にリアルだといったけど、これ、もう、リアルというか現実そのものじゃん
主人公は現代の日本人かよ
▼全てはライツの計略だが、肩書きを失った主人公はどうすることもできない。口だけ達者で無能老害な王はライツの本性すら見抜けない(王、まさか本当に無能なまま終わるとは思わなかった)
▼クーフィアからの手紙を受け取る為に奔走し、いざ開くと暗号だとわかる。
解読すると「だいすき たすけて」になったり、この辺りも一部とは作風が違い探偵ゲームもどきなことをさせられる。お使いイベントの連続はちょっとウザかったな
まるでメキシコみたいなスラムでクーフィアを助け、更なる戦いに巻き込まれる主人公達。ライツの暴走に気付いていたダンたちの助けもあり、何とか窮地から脱する。
このあたりの展開、最高にアツイです。緊迫感と熱気の連続。
ダンは悪役として登場したけど徐々に主人公と力を認め合ったり、このゲームのライバルサイドで唯一親友キャラっぽいポジション
▼何気に恋愛模様も上手い。クーフィアとリカはお互いを大嫌いなライバルだけど、2人とも主人公を好きになってしまう…でも主人公は結果としてそんな2人を騙していた…
なんとも切ない。
マップがY字になっていて露骨に二者択一を迫られるけど、先にどちらを追うかでセリフが変わるのも細かくて面白い
▼ラストは星空の下で再度クーフィアとリカ、どちらを選ぶかを迫られ、クーフィアを選ぶとグッドエンドとなるが、この物語、結局主人公にとって何が正しかったか?これでよかったか?という結論が描かれないのが深い
結局ライツは裁かれないし、世界観は単純な勧善懲悪でもなければ、ライツも理想を追って暴走しただけで、悪事こそ働いたが悪人というわけじゃない
普通のRPGならここで他の王子達と組んでライツから王子の座を取り戻すまでを描くけど、このゲームはなんとここで終わり。4人で逃避行して、「四人の王国」というタイトル回収で終わり
世界を支配しようとする魔法がいるわけでも、ラスボスがいるわけでもありません
作者の伝えたかったメッセージ性やテーマは、結局のところ冒頭で主人公が子供のようにいってた好きなことで、生きていくなのかも。
または「好きな人と、生きていく」
▼シナリオと演出は一級品でした。ライツの末路などは気になるけど、本編の四人の王国エンドでは語られません。それを含めてかなり変わったシナリオだが、グイグイ引き込む展開や会話劇、ギャグは素晴らしいクオリティ
演出は、一切動かないただのドット絵とは思えない臨場感。音楽との合せ方も上手く、恋愛シーンなどはまるで映画を見ているようだった
評価
S+ 90点
素晴らしいゲームでした。
ただ一つ欠点をあげると、プレイヤーの選択肢が主人公=プレイヤーを作る、という肝心のシステムが微妙に機能してなくて、ロールプレイングゲームとしての要素は薄かった。
例えば特定の性格になった時のみ選べる選択肢があるとか、進めるシナリオがあるとか、様々な分岐があればよかった(メインシナリオは1本道でもいいが)
▼余談だけどそんな名作シナリオも、最後の選択肢でリカを選ぶと、これまでの展開ブチ壊しなクソゲーシナリオになります
なんとクソゲス主人公、これまで生死をともにした仲間達をリカと一緒に裏切り(リカもなかなかのクソゲス)、バックレ逃亡
まさかの逃避行!
工工工エエエェェェ(゚Д゚;)ェェェエエエ工工工
さっきまでの流れはなんだったの?!仲間達との信頼は?!リカを差し置いてクーフィアをスラムまで助けに行ったのは!?なんだったんだ!?
こんなん絶対仲間たちは一生もんのトラウマやろ…
主人公がいないとカシューたちも捕まって殺されるだろうし…
リカとのディープキスを無言で見つめるクーフィアも、シュールで怖い
最後もめちゃくちゃセックスして終わるという、ギャグなのか?という
スタッフロールにも、歌なし
しかしこのゲーム、ちゅーとかセックスとか、語彙の無さはなんとも…シリアスシーンでもこれだものなあ
何かを得る為には何かを犠牲にしなければいけない、ってのはいいとしても、これは余りにもクソゲスすぎる。
主人公とリカだけが幸せになって、結局何も解決していないってのが怖い。サトミも何かいってやれよと
エンディングは全部で9個、ちゃんとしたリカエンドもあるらしいんで、まだまだプレイしようかな(これはいってみればリカバッドエンドか)。
▼このゲーム、シナリオがとにかく優れてるんだけど、より具体的にいうとセリフに深みがあって面白い。
思わず考えさせられたり、肯定したくなるセリフが多くて、モブですらキャラ立ちしてる。名言と思ったその一部をご紹介
「自由になりたい、といったか。綺麗な言葉だ。だが本質は「頑張りたくない」、だろう」
…ライツに騙され、有能だった主人公にブチギレて無能呼ばわり。ライツが王子になった後もクーデターを企ててる事に気付かない。良いセリフを言う割に明らかに一番無能な王
教師とかもこのパターンの無能が多いしリアルといえばリアルだ
「昔の話をするって、その、思い出の価値を決めるってことだと思います」
過去、想い出に纏わるセリフ。過去の栄光に縋って生きてる人間には来る言葉だろう。しかし結局カシューの過去話は語られることもなく終わってしまった
「人を従える人間が規則にうるさいのもわかるわね。あんたみたいな無能でも見張り番としては役に立つもの」
マニュアル人間は使えない
「自分のために動くというのは、自分勝手という意味ではなく、自分がある、という意味で素晴らしい」
遠回りが近道になっていたとか、地道が近道になっていたとか、結果が後からついてきたってのは現実にもある
「気をまぎらわしてしまったら、つらいのが減って、死ねなくなる」
躁鬱を繰り返す自殺志願者のようで妙にリアルだ
「お金がなくても目標に辿り付く方法はいくらでもある。好きなことだけして生きていくなんて絶対批判される、色んなものを捨てないといけない」
犠牲は必要
「自分がどんなに凄いと思うものを作っても他人が欲しがらないと富にはならない。なぜならお金は人と人を繋ぐツールだから」
お金に対する2つの考え方。大それたことをするには犠牲が必ずあるし、物事を客観視する目は常に必要。
深い(KONAMI感)
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