ホラー好きのフライマン

　海や川、湖の釣りを問わず、釣人は人のあまり行かない隠れや的な、自分なりのポイントを持っている。特に渓流ではそれが顕著だ。私もひとつやふたつ、そうしたポイントを持っている。自分だけが、その場所に行っているわけではないだろうが、ほとんどの確率で狙った釣果を獲ることができる。こうした場所は、人の立ち入らない分だけ釣果が約束されるが、それに勝るリスクも伴っている。立ち入らないのは、それだけの訳がある。例えば、余りに山深く、熊の棲息域となっていることや、そこに行くまでの過程が危険だ、など。河川や沢で、増水に巻き込まれたり、がけ崩れで事故にあった、あるいは亡くなったなどの新聞記事をよく目にするのはそうした場所が多い。

　先週末に自分なりの隠れやに行った。そこは幹線脇から林道に入り、2キロの直線距離に対して高低差が300メートルという、勾配が15度に及ぶ急激な坂を谷底めがけて降りていく。直線距離では２キロだが、実際の走行距離はその５倍ちかく、林道からは下りで３０分ほどかかる。途中には崖から崩れ落ちた瓦礫の山や、谷側の路肩がくずれて道路が半分ほどになった箇所がいくつもある、オフロードのバイクでも二の足を踏むような難コースだ。このブログで一度掲載した「冬でもドライフライ」
（https://fanblogs.jp/bukki/archive/6/0?1405461433）で前輪がバーストしたのはこの道路。
　
　この幹線脇の林道のほかに、目的のポイントに行けないことはない。下流側から7キロ、上流からは5キロほどの距離を林道に沿って歩くと現地に着く。しかし車では、上下流の林道のゲートが空いていたとしても、途中で大きな土嚢が道を塞ぎ、それから先も3年前の台風で道路が川と一体化して機能していない。車で行くにはただひとつのこの幹線脇の林道も、ここに書くことはできないが、簡単に通り抜けることはできない。
















　　　さて、幹線脇からいつも以上に慎重な運転に徹して、４０分かけて現地に着いた。そこは完全な谷底で、周りは全て高い山に囲まれている。挨拶代りに20連発の爆竹を鳴らす。さらに川の上下流に向けてロケット花火を発射、当然熊鈴を身に着ける。川岸には、釣人の最近の足跡は見つけられない。1投目のテストフライとして、＃１２のメイフライを投じると、ザラ瀬の流れの中から10センチほどの岩魚が飛びついた。しかし、下流域の落ち込み、流れ込みでは全く反応はない。そこから３００メートルほどの支流の流れこむ上流のポイントを目指した。ここでは以前に、尺岩魚を連続して3匹釣り上げたことがある。瀬にメイフライを打ち込むと、勢いよく魚が飛びつくが針がかりしない。ビーズヘッドニンフに替えて流し込むと、岩魚ではなく20センチほどの虹鱒が食いついた。

　さらに上流を目指して遡行。落ち込みや流れ込みでは、虹鱒が確実にヒットするが、岩魚は極端に少なくまた10センチほどと小さい。出発地点から300メートルほど上がった落ち込みで、25センチほどのアメマスがようやくヒットしたのもつかの間、それから上流も虹鱒が多数を占めた。ところどころの深い落ち込みやたまりを、防水機能のデジカメで水中を撮影すると、群れている虹鱒の姿が確認できた。
　
　入渓からかれこれ４時間が経過。遡行距離は1キロメートルほどと短いが、あまりにも魅力的なポイントが多くて、ひとつひとつ時間をかけた。今回はここで打ち切った。次回は何時になるのかは分からないが、いつまでもこの姿が残っていて欲しいと願っている。
　
（写真左上）崖からの落石で瓦礫の散乱する林道。谷側の路肩は半分に削られている（同右）山岳渓流の様相を見せるＸ川上流。熊の気配が漂っている（下左）支流との合流地点で釣れた虹鱒（同右）浅い荒瀬の脇から飛び出したアメマス

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