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2024年06月22日

【短編小説】『転生の決闘場(デュエルアリーナ)』3

【MMD】Novel Duel Arena SamuneSmall1.png

【MMD】Novel Duel Arena CharacterSmall1.png

【第2話:逃避人生への終止符】からの続き

<登場人物>
アレヴィア
 主人公
 街の組合から依頼を受ける冒険者

ヴァルネラ
 アレヴィアの夢に出てくる少女
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第3話:前世との決戦】



<1ヶ月後の夜、アレヴィアの夢の中>

ヴァルネラ
『こんばんは。』
『今日が楽しみで眠れなかったよ。』


アレヴィア
「…私も、あなたとのデートが待ち遠しかった。」


チャキッ

ヴァルネラ
『それ、剣を構えて言うセリフ?』
『ムードないなぁ(苦笑)』


アレヴィア
「…始めましょう。」


ヴァルネラ
『そうね、茶番はここまで。』


私は目一杯の力を込め、
ヴァルネラに斬りかかった。

ギィン!

ヴァルネラ
『…!!…いきなり本気?』
『そんなに張り切って大丈夫?』


アレヴィア
「敵の心配なんて余裕ね。」


ヴァルネラ
『最後まで体力が持つといいけど。』


アレヴィア
「あなた、前世から私を見てきたんでしょ?」
「隠してもムダってこと。」


ヴァルネラ
『わかってるね。』
『じゃ、いくよ!』




ヴァルネラの剣技は、
太刀筋もクセも私とそっくりだった。

強さは私と同じくらい。
前世の私を名乗るだけあって、
私の技はほぼ完全にコピーされていた。

現実世界で格上の冒険者を
イヤというほど見てきた私にとって、
彼女は大した相手じゃない。

のに、


ヴァルネラ
『どうしたの?』
『受け切れてないよ?』


アレヴィア
「くッ…!」


私の剣は、
少しずつヴァルネラに押され始めた。

チッ!

アレヴィア
「!!…肩をかすめた…。」


ヴァルネラ
『ほら、今度はこっち!』


ビュン!

アレヴィア
「…痛ッ!…今度は腕…!」


私はヴァルネラの連撃を受け切れず、
切っ先が少しずつ私の身体に届き始めた。

アレヴィア
「一旦、距離を取って…!」


浅い切り傷が増え、
血の不足を告げるめまいがした頃、

ヴァルネラ
『強めの一撃いくよ!』


ヴァルネラの大振り。
私は後ろへ大きく跳んで回避した。

アレヴィア
「うぅ…!」


私は一旦、ヴァルネラから離れ、
中級の治癒魔法で応急処置をした。

残念ながら、
今の私では上級魔法は操れなかった。



アレヴィア
(正面からの打ち合いは不利。)
(こんな手が通じるとは思えないけど…。)
(夢の中だし、やるしかない!)


私は切り傷が残る手で剣を握り、
ヴァルネラめがけて突っ込んだ。

【MMD】Novel Duel Arena Episode3 AreviaSmall1.png

ヴァルネラ
『また正面から?いや…奇襲…?!』


私は剣を握る手に込めた魔力を解放した。
雷の矢が束になり、ヴァルネラへ一直線。

前世でいじめっ子に勝ちたくて修得した
中級の雷魔法。

まさか夢の中で
自分自身に向けることになるとはね。


ヴァルネラ
『くッ!』


ヴァルネラは一瞬ひるんだが、
とっさに同じ魔法を打ち返してきた。

バチバチッ!

魔法の威力は互角。
互いの雷の矢がぶつかり合い、
閃光とともに打ち消された。

アレヴィア
「うッ…まぶしい…!」


ビュッ!

アレヴィア
「…雷の矢…?!!」


まだ閃光が残る中、
ヴァルネラは追撃の魔法を放ってきた。


アレヴィア
「あぁ!!」


私は回避し切れずに被弾。

膝から崩れ落ち、
握っていた剣を地面に落としてしまった。

ヴァルネラ
『どうしたの?』
『私の力はきみと同じくらいだよ?』
『現実でもっと強いヤツをたくさん見てるでしょ?』


アレヴィア
(…同じくらい…?)
(…あなた、ずっと”弱いフリ”してるくせに…。)


私はヴァルネラとの実力差に絶望した。

自分の夢の中なのに、
現実以上の屈辱感にまみれた。

なのに、なぜか私の気持ちは
どんどん晴れやかになっていった。

アレヴィア
(あぁ…私、弱いなぁ。)
(けど、負けから逃げてきた私はもっと弱い。)
(恥をかくのが怖くて、闘技場に立つことから逃げてきた。)

(それも今回で終わり。)
(ここまでやられて、今さら何を怖がる必要があるの?)




ヴァルネラ
『…あれ?眼の光が増したね。』
『今までのきみならここで投げ出したのに。』


私は地面に落とした剣を拾い、
再び構えた。

アレヴィア
「(ガクガク…)…そうね…!」


ヴァルネラ
『へぇ、そのケガで立ち上がれるんだ。』
『いいよ、来なよ。』


ギィン!

ヴァルネラ
『…!!…さっきより重い一撃?』
『最初から全力だったはず。』


私の連撃に、
今度はヴァルネラが弾き飛ばされた。


彼女が押されて距離を取ったところへ、
私はすかさず雷魔法で追撃した。

ヴァルネラ
『…これもさっきより速い…?避け…!』


彼女は間一髪で避けるも、
私はその先に2発目を打ち込んだ。

ヴァルネラ
『うッ…!』


直撃は避けたが、彼女の脇腹に当たった。

ヴァルネラ
『連続魔法…上級者だけが使える技…。』
『きみ、1発が限界じゃなかった?』


アレヴィア
「その通り。」
「安心して、今のはマグレだから。」


ヴァルネラ
(何だか…身体が重い…。)
(アレヴィアの夢、あんなに居心地が良かったのに…。)


ビュン
ビュン

ヴァルネラ
『ちょっと!2連発はマグレって言ったじゃないの。』


アレヴィア
「ごめんなさいね、やってみたらできた。」


ヴァルネラ
(避けるので精一杯…。)
(2発どころか3連続で打てるんじゃないの。)


バシッ!

ヴァルネラ
(痛ッ…!…そっか…。)
(私の大好物の卑屈さと劣等感が…。)
(どんどん消えていってる!)




アレヴィア
「…ハァ…ハァ…!」


ヴァルネラ
『きみは1ヶ月間、どこへ行ってたの?』
『組合からの仕事の依頼を全部断って。』


アレヴィア
「ずっと私を見てるなら知ってるでしょ?」


ヴァルネラ
『ちょくちょく目を離しちゃってね。』
『今日が楽しみで。』


アレヴィア
「だから夢に出て来なかったの?」
「おかげでぐっすり眠れたけど。」


ヴァルネラ
『自分探しの旅?』
『行く先々でずっと泣いていたようだけど。』


アレヴィア
「そりゃ泣きたくなるよ。」
「過去に辛さを味わった場所だもの。」
「そんな所で自分と向き合うのはきつかった。」


ヴァルネラ
『イヤな場所に自分から行くなんてね。』
『トラウマの荒療治?』


アレヴィア
「そんなところ。」
「この世界は前世とよく似てる。」
「まるで”前世を模して作られた夢の世界”みたい。」


ヴァルネラ
(…鋭いね、もう気づいたかな?)
『それで、旅行先はどちら?』


アレヴィア
「私を捨てた親の家の近く。」
「孤児院にいた時、よくいじめられていた丘。」
「それから、前世で依頼中にモンスターに負けた森。」
「…なんかとそっくりな場所。」


ヴァルネラ
『そこで何してたの?』


アレヴィア
「何も。ただ当時を思い出して泣いただけ。」


ヴァルネラ
『へぇ…心、強くなったね。』


ゴロゴロゴロ…!

アレヴィア
「…頭上に雷雲…?いつの間に?!」


【MMD】Novel Duel Arena Episode3 VulneraSmall1.png

しまった…!

ヴァルネラは
私の注意を会話に引きつけ、
ひそかに魔力を集中させていた。

ヴァルネラ
『気づいた?』
『けど、さすがに避けられないでしょ?』


私が全力で回避行動を取るより早く、
頭上から落雷が襲ってきた。


ピシャーン!

アレヴィア
「あぁッ!」


……!!!



【第4話:悪夢からの贈り物】へ続く

2024年06月20日

【短編小説】『転生の決闘場(デュエルアリーナ)』2

【MMD】Novel Duel Arena SamuneSmall1.png

【MMD】Novel Duel Arena CharacterSmall1.png

【第1話:底辺人生の延長戦】からの続き

<登場人物>
アレヴィア
 主人公
 街の組合から依頼を受ける冒険者

ヴァルネラ
 アレヴィアの夢に出てくる少女
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第2話:逃避人生への終止符】



<ある夜、アレヴィアの夢の中>


『(クスクス)…。』
『こんばんは、今夜も良い月ね。』


アレヴィア
「…何度も人の夢に出入りして…!」
「名前くらい名乗ってもいいんじゃない?」



『それは失礼、私はヴァルネラ。』


アレヴィア
「よろしくヴァルネラ。ご出身は?」


ヴァルネラ
『あたしは前世のきみ自身だよ。』


アレヴィア
「そう、ご丁寧にどうも。」


ヴァルネラ
『淡泊だなぁ、驚かないの?』


アレヴィア
「転生なんてしちゃったし、今さらよ。」
「それに…。」


ヴァルネラ
『それに?』


アレヴィア
「眠いの!いい加減にしてよ!」
「あなたのせいで寝不足なの!」


ヴァルネラ
『あたしのせいなんて心外。』
『文句はきみ自身に言ってよ。』


アレヴィア
「私自身にって、どういうこと?」


ヴァルネラ
『きみの夢の中は居心地がいいんだよ。』
『大好物の”卑屈さ”と”劣等感”で溢れているから。』


アレヴィア
「そんなの…わかってる…!」
「わざわざ言わないでって言ってるの!」


【MMD】Novel Duel Arena Episode2 AreviaSmall1.png

ヴァルネラ
『へぇ…自分の性格を直視する勇気もないんだ。』


アレヴィア
「…うるさい…!」


ヴァルネラ
『あたしは知ってるよ?』
『前世での、きみの最期の気持ち。』


アレヴィア
「うッ…!」


ヴァルネラ
『逃げたでしょ?』
『きみはわざと目を開けなかった。』
『せっかくみんなが助けてくれたのに。』


アレヴィア
「…逃げて何が悪いの…?」
「生の押し付けは止めてよ!」
「”生きろ”って言葉は暴力にもなるの!」


ヴァルネラ
『生から逃げたことはどうでもいいよ。』
『問題はきみ自身の弱さから逃げたこと。』


アレヴィア
「(ズキッ)…私自身の弱さ…。」


ヴァルネラ
『まさか転生するなんて思ってなかった?』
『ウソだね。』


アレヴィア
「?!…そんなこと…!」


ヴァルネラ
『心のどこかにあったでしょ?』



『”サエない私のまま”無双できる世界へ逃げたいって願望が。』




ギクリ

ヴァルネラ
『きみは確かに前世で奮闘したよ。』
『それもちゃんと知ってる。』


アレヴィア
「…当然よ。」
「強くなりたくて剣や魔法の修練を…。」


ヴァルネラ
『”どうせ私なんて何をやってもムダ”』


アレヴィア
「?!」


ヴァルネラ
『あったでしょ?この言い訳。』
『体よく諦めたフリをして、どこか手抜きして。』


アレヴィア
「うぅ…。」


ヴァルネラ
『だからあたしが教えに来たの。』
『シンデレラコンプレックスまみれのきみに。』

『人生リセット願望?それとも逃避願望?』
『異世界転生すれば何もしなくても成功できると思った?』
『素敵な王子様が現れるとでも思った?』

『何度リセットしてもサエない人生を繰り返すだけよ。』
『本気で変わろうとする姿勢と行動がない限り。』




その瞬間、
私の中で頑なに守っていた何かが、
あっさりと崩れた気がした。

これ以上ない「図星」

もし同じ言葉を他人から言われていたら、
どんなに親しい人でも拒絶しただろう。

なのに、なぜか
私自身から言われたような気がした。

ヴァルネラは、
『あたしは前世のきみ自身』と名乗った。

そんなのデタラメ?いいえ。
それが事実としか考えられないほど、
彼女の言葉は説得力に満ちていた…。



アレヴィア
「…また会える?」


ヴァルネラ
『あたしに?夢の中なら何度でも。』


アレヴィア
「…どうやって私の夢に入ってくるの?」


ヴァルネラ
『素通り。』
『きみの夢の扉はガラ空きだもん。』


アレヴィア
「…どうすれば消えてくれる?」


ヴァルネラ
『きみ自身から逃げるのを止めるか。』
『夢の中であたしを倒すか。』


アレヴィア
「…わかった、1ヶ月待ってくれる?」


ヴァルネラ
『いいけど、何するの?』


チャキッ

アレヴィア
「夢の中で、あなたにデートを申し込むだけよ。」


ヴァルネラ
『…剣を構えといて”デート”かぁ(苦笑)』
『わかったよ、せいぜい鍛えなよ。』


アレヴィア
「…おやすみなさい。」


ヴァルネラ
『…何かの覚悟が決まったのかな?』
『楽しみにしてるよ。』




【第3話:前世との決戦】へ続く

2024年06月17日

【短編小説】『転生の決闘場(デュエルアリーナ)』1

【MMD】Novel Duel Arena SamuneSmall1.png

【MMD】Novel Duel Arena CharacterSmall1.png

<登場人物>
アレヴィア
 主人公
 街の組合から依頼を受ける冒険者

ヴァルネラ
 アレヴィアの夢に出てくる少女
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第1話:底辺人生の延長戦】



<夜、とある民家>


『…逃げた…また逃げたな…?!』


アレヴィア
「やめて!もう出てこないで!」



『第2の人生?異世界転生?』
『何度リセットしようと、きみは…。』


アレヴィア
「やめてってば!消えてよ!」



『あたしから逃げられても…。』
『きみ自身からは決して逃げられないよ!』


アレヴィア
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ガバッ!!

アレヴィア
「ハァ…ハァ…!」
「また…あの夢…!」




今、悪夢で飛び起きた私はアレヴィア

街の組合から依頼を受ける冒険者として
生計を立てている。

幼い頃に両親に捨てられた私は
孤児院で育った。

大人のみんなは優しかったけど、
同年代に私をいじめてくるやつらがいた。

そいつらは強くて、
私はケンカにことごとく負けた。

私はそれが悔しくて、
剣術道場や魔法教室に通って修練を積んだ。

結局やつらには勝てなかったけど、
冒険者の組合に入れるくらいの腕前になった。

孤児院を出たら、
冒険者として強くなって
見返してやろうと息巻いた。



けれど、現実は甘くなかった。
剣術も魔法も上には上がいた。

私の冒険者としての実力は、
組合員の中で下から数えた方が早かった…。


高レベルの依頼は受けられず、
主な仕事は薬草の採取や飼い犬探し、
最低レベルのモンスターの退治だった。

わりと安全な街道で、
行商人の護衛ができれば御の字。

当然、報酬が少ないので、
毎日ギリギリの生活をしていた。



私の人生は負け続きだ。

親から愛されず、
いじめてきたやつらにケンカで勝てず、
冒険者としても底辺。

私の感情は、
卑屈さと劣等感に支配されてしまった。

そんな心持ちで
依頼を満足にこなせるはずもなく、
たびたび失敗する悪循環に陥った。

そしてついに、
私は低レベルモンスターの討伐依頼中に
深手を負い、街の病院に運びこまれた。


この世界の発達した治癒魔法のおかげで、
私はたぶん身体的には助かっていた。

あとは私が目覚めるだけ…。



なのに、私は目を開けなかった。
生きようとしないまま殉職を選んだ。


私は最期の瞬間、
心からの安堵に包まれた。

ああ、やっと終わった。
この苦しい人生が。

劣等感にまみれ、
自分の存在自体を呪う日々から解放された、と。

私は今までで1番「心地良い夢」を見ている気分で
旅立った…はずなのに。


ーー


ふと気づいたら、
私は今までとは違う世界にいて、
第2の人生がスタートしていた。


私は絶望した。
もう生きることを望んでいないのに、
どうして?

どこの全知全能ヤローか知らないけど、
惨めな人生をやり直させようとしないで!

そんなマネができるなら、
前世で私が生きるはずだった寿命を、
もっと生きたかった人に分けなさいよ!

私は第2の人生に感謝することもなく、
ふてくされて生きていた。

冒険者としての生き方しか知らないから、
街の組合で依頼を受けることにした。

けれど、実力はやっぱり中の下で、
高レベルの依頼は受けられなかった。

結局、私は
前世と同じような依頼をこなして、
細々と生きるしかなかった。

ふいに異世界転生して無双?成功?
とんでもない。

そこにあったのは、
ただ屈辱的な前世の延長戦。


アレヴィア
「もうイヤ…2回も生きるなんて苦行…!」
「いっそのこと、またモンスターにやられて…。」


私の中から、
再び破滅の願望が持ち上がってきた。



私はその頃から毎晩、
悪夢に悩まされるようになった。

いつも夢に出てくるのは、
私と同じくらいの背格好の女の子。
年齢もたぶん私と近い。


そして、
夢の中で私を責める言葉は決まって、

『逃げたな?きみ自身から』

という意味のもの。

【MMD】Novel Duel Arena Episode1 AreviaSmall1.png

私は寝不足に悩まされ、
組合へ依頼を受けに行っても、

受付
『おはようございま…。』
『アレヴィアさん?!』


アレヴィア
「おはようござ…いま…ス…。」


受付
『大丈夫ですか?!』
『最近目のクマがひどいですよ?』
『夜寝れてます?』


アレヴィア
「だい…じょうぶです…(フラフラ)」


受付
『そんな状態で依頼なんて無理ですよ!』
『今日は帰って休んでください!』


アレヴィア
「ご…めんなさい…。」


私はまともに依頼を受けられなくなり、
生活がどんどん苦しくなった。

アレヴィア
「このままじゃ仕事がなくなる…。」


追いつめられた私は、
夢の中で彼女への抗議を決意した。


アレヴィア
「私、2度目の人生も負け続きだけど…。」
「自分の夢にすら負けるなんてイヤ!」




【第2話:逃避人生への終止符】へ続く

2024年06月16日

【短編小説】『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』6 -最終話-

【MMD】Novel Grudge Match SamuneSmall2.png

【MMD】Novel Grudge Match CharacterSmall2.2.png

【第5話:ただ1人の家族】からの続き

<登場人物>
アシュクリス(主人公)

リヴィーズ(アシュクリスの妹)

トリステス(姉妹の父、軍事大国No.1の戦士)

イレーズ(姉妹の母、軍事大国No.1の魔法使い)
 
ゼレシア(魔族軍トップ)
 
メイレ(魔族軍幹部、ゼレシアの側近)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第6話:訣別を期して】



<とある軍事大国>

ゼレシア
『…これは…すさまじい戦闘の跡だ…。』
『おそらく王国1の戦士と魔法使いの仕業。』
『一体誰と戦っていたのだ?』


メイレ
『ゼレシア様、いつもの率先垂範はご立派です。』
『ですが、あなたは魔族軍のトップです。』
『最前線へ飛び込むのはお控えください。』


ゼレシア
『人間との和平締結までもう少しなのだ。』
『今は多少の無茶をさせてくれ。』


メイレ
『それは心得ています。』
『唯一、和平に反対する軍事大国…。』
『この国から我が国への侵攻さえ止められれば…。』


ゼレシア
『ああ、我らの悲願”世界平和”に近づく。』


メイレ
『それでもあなたに何かあっては困ります。』
『私のクビだって危ないんですからね?』


ゼレシア
『ははは、いつもすまない…ん?』


メイレ
『どうしました?』


ゼレシア
『誰か倒れている…。』




アシュクリス
(…ここは…?私…生きてる…?)
(リヴィーズ…ごめんね…巻き込んで…。)

(身体が動かない…。)
(このまま眼を閉じたら…。)
(…天国へ行けるかな…?)


ゼレシア
『メイレ!来てくれ!』
『2人を見つけた!』


メイレ
『例の声の主ですか?!』


ゼレシア
『…ああ、息はあるが…ひどいケガだ…。』


アシュクリス
(天使さんの声…?)
(もう天国に着いたの…?)


メイレ
『すぐに回復魔法をかけます!』


アシュクリス
(私…望まれて生まれたのかな…?)
(幸せだったのかな…?)


ゼレシア
『最大で頼む!』


パァァ

アシュクリス
(お母さんに抱っこされたかったな…。)


ゼレシア
『…目を覚ませ…!』


アシュクリス
(お父さんになでなでしてもらいたかったな…。)


メイレ
『お願い…間に合って…!』


アシュクリス
(今度…生まれ変わったら…。)
(1回くらい、親から愛されてみたい…な…。)



ーー


<2年後、魔族の国>


ゼレシア
『この2年で、ほぼすべての国と和平を結べた。』
『あの悪政で名高い王国を除いてな。』


メイレ
『人間と魔族との垣根もなくなってきました。』
『共存への道は近づいていますが…。』


ゼレシア
『軍事大国からの侵攻が止む気配がないな…。』
『防衛戦線は厳しいか?』


メイレ
『はい…辛うじて持ちこたえていますが…。』
『特に敵方の幹部2人が強過ぎます。』


ゼレシア
『例の戦士と魔法使いか…。』


アシュクリス
「お父さん、私たちが止めるよ。」


リヴィーズ
『お母さん、私たちの出撃の手続きして?』


【MMD】Novel Grudge Match AskrisYamiSmall1.png

メイレ
『私はまだ独身よ。』
『お姉さんって呼んでっていつも言ってるでしょ?』


リヴィーズ
『お姉ちゃん、お願い!』


メイレ
『し、仕方ないね///(照)』


ゼレシア
『待て待て。』
『かわいい娘2人を前線へ出すわけには…。』


アシュクリス
「過保護だなぁ。」
「お父さんは人のこと言えないでしょ?」
「側近を振り切って前線に飛び込んでばっかり(笑)」


リヴィーズ
『それで私たちを拾ってきたんだよね(笑)』


メイレ
『うぅ…また胃痛が(苦笑)』


ゼレシア
『メイレにはすまないと思っている(汗)』
『しかし2人には戦いづらくないか?』
『仮にも生みの親だろう?』


アシュクリス
「大丈夫だよ。」
「私たちには最初から人間の親なんていない。」


リヴィーズ
『みんなを苦しめるヤツらを止めてくるよ。』
『奴らが私たちを”居候”と罵った恨みも晴らさせて?』


ゼレシア
『それはいいが、ケガでもしたら…。』


アシュクリス
「やだなぁ、私はもう元・人間だよ?」
「人間の攻撃なんかでやられたりしないよ。」


リヴィーズ
『2年前は何もできなかったけど…。』
『悔しくて強くなったんだよ!』


ゼレシア
『わかった。』
『それで2人が納得するなら行ってくれ。』


メイレ
『…悔いのないようにね?』


リヴィーズ
『ありがと。』


アシュクリス
「今度こそ、勝って果たしてくるよ。」



「毒親という”哀しきモンスターとの訣別”を。」




ーーーーーENDーーーーー



⇒本作のサイドストーリー
『哀別の贈り物(パートギフト)』全3話


⇒他作品
『転生の決闘場(デュエルアリーナ)』全5話

『500年後の邂逅』全4話

『反出生の青き幸』全4話


⇒この小説のPV


2024年06月13日

【短編小説】『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』5

【MMD】Novel Grudge Match SamuneSmall2.png

【MMD】Novel Grudge Match CharacterSmall2.2.png

【第4話:哀獣との決戦】からの続き

<登場人物>
アシュクリス(主人公)

リヴィーズ(アシュクリスの妹)

トリステス(姉妹の父、軍事大国No.1の戦士)

イレーズ(姉妹の母、軍事大国No.1の魔法使い)
 
ゼレシア(魔族軍トップ)
 
メイレ(魔族軍幹部、ゼレシアの側近)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第5話:ただ1人の家族】



トリステス
『ちッ…!リヴィーズめ…!』
『どうやって檻から抜けた…?』


リヴィーズ
『お姉ちゃん、私が食い止めるから逃げて!』


アシュクリス
「リヴィーズ…危ないよ…。」
「あなたもボロボロじゃないの…。」


リヴィーズ
『大丈夫!私だって強くなったよ!』
『少しはお父さんを止められる!』


アシュクリス
「いいの…これは私の戦いだから…。」




リヴィーズ
『”ここで命が尽きてもいい”なんて思わないで!』


【MMD】Novel Grudge Match LivizSmall1.2.png

アシュクリス
「?!…どうして知って…。」


リヴィーズ
『私は妹で、お姉ちゃんの家族だよ?』
『お姉ちゃんが考えそうなことはわかるよ!』


アシュクリス
「…家族…?」


リヴィーズ
『私、20歳だからもう独り立ちだよ?』
『お姉ちゃんと一緒に旅したい!』
『お姉ちゃんと強くなりたいよ!』


アシュクリス
「…リヴィーズ…ありがと…(涙)」


トリステス
『リヴィーズ…イイコだったお前まで反抗か?』


リヴィーズ
『何がイイコよ?!』
『私を閉じ込めておいて!』


トリステス
『家族のお前が”居候”に同情か?』


リヴィーズ
『お姉ちゃんを居候なんて言うな!』
『私はもうあなたたちに支配されない!』
『お姉ちゃんと生きていく!』


トリステス
『(ピキッ!)…ウチには娘が1人いたはずだが…。』
『”最初から娘がいなかった”ということでいいな?』


リヴィーズ
『構わない。』
『私には”最初から親がいなかった”から!』




チャキッ

トリステス
『では、2人の居候を始末しても問題ないな?』


リヴィーズ
『やってみなさいよ…!』


アシュクリス
「リヴィーズ…私も…戦う…!」


アシュクリスは最後の力を振り絞って
立ち上がりました。

イレーズ
『2人とも邪魔、とどめを。』


トリステス
『フン…”3人とも”の間違いだろう?』


イレーズ
『…アナタは…いずれ消す。』


トリステス
『やってみろ。』
『このドサクサでも構わんぞ?』


イレーズ
『…(ビクッ)…さぁね。』


…………!!!

………。


ーー


姉妹の故郷から遥か遠くに、
魔族が住む国がありました。

ゼレシア
『?…ただならぬ気配…どこからだ?』


魔族軍のトップ・ゼレシアは、
遠くから強い力を感知しました。

窓の外を見ると、巨大な闘気の渦が
曇り空を突き抜けるのが見えました。


ゼレシア
『何という闘気…!』
『あの方向は、例の軍事大国か。』




コンコン、ガチャ

メイレ
『失礼します。』


ゼレシアの部屋に、
側近のメイレが書類を抱えて入室しました。

ゼレシア
『メイレ、気づいたか?』


メイレ
『もちろんです。』
『こんな闘気の出所は軍事大国くらいでしょう。』
『他国と戦争ですか?内乱でしょうか?』


ゼレシア
『まだわからないが…。』
『もう1発来るぞ…!』


メイレ
『ええ、強力な魔法使いがいますね…。』




次の瞬間、
巨大な魔力の渦が生まれ、
闘気の渦に混ざりました。


それらはドリル状に加速し、
雲を真っ二つに割ってしまいました。

ゼレシア
『あれほどの戦力…。』
『今こちらへ向けられたらひとたまりもない。』


メイレ
『それに、この声は…。』


ゼレシア
『気のせいだといいな…。』
『誰かが助けを呼ぶ声だ。』


メイレ
『この前来たあの子の声に似ていますね。』


ゼレシア
『あの若い冒険者か。』
『良心的な報酬で我が国の問題を解決してくれた。』
『確か名前はアシュクリスといったな。』


メイレ
『助けに行くのですか?』


ゼレシア
『もちろんだ。』
『敵情視察と、間に合えば”2人の”救出に。』


【MMD】Novel Grudge Match MeileSmall2.png

メイレ
『重要書類の決裁は…。』


ゼレシア
『帰ったら目を通す。』


メイレ
『…装備はこちらです。』


ゼレシア
『用意がいいな、想定済みか?』


メイレ
『諦めてますから。』


ゼレシア
『ははは、いつも苦労をかけるな。』
『先に行くぞ。』


バタン

メイレ
『まったく…トップがいつも最前線に…。』
『今日も胃薬を持っていかなくちゃ(苦笑)』


こうして、
魔族軍のトップと側近は人間に変装し、
渦の出所へ向かいました。



【第6話(最終話):訣別を期して】へ続く


⇒この小説のPV

2024年06月10日

【短編小説】『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』4

【MMD】Novel Grudge Match SamuneSmall2.png

【MMD】Novel Grudge Match CharacterSmall1.png

【第3話:消滅した心】からの続き

<登場人物>
アシュクリス(主人公)

リヴィーズ(アシュクリスの妹)

トリステス(姉妹の父、軍事大国No.1の戦士)

イレーズ(姉妹の母、軍事大国No.1の魔法使い)
 
ゼレシア(魔族軍トップ)
 
メイレ(魔族軍幹部、ゼレシアの側近)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第4話:哀獣との決戦】



イレーズの火球魔法が落ちた場所には、
巨大なクレーターができていました。

アシュクリスにはもう
立ち上がる気力が残っていませんでした。

イレーズは
頬の傷から滲んだ血を手で拭い、
娘に冷たい視線を向けました。

イレーズ
『…傷なんて、いつ以来?』
『…魔族軍の幹部との戦闘以来…。』


トリステスは、
イレーズの魔力の高まりに気づいて
彼女を止めました。

イレーズ
『まだ生きてる…とどめを。』


トリステス
『まぁ待て、オレの出番がなくなるだろう?』


夫は妻を小さく威圧しました。

イレーズ
『…(ギリッ!)…!』


トリステス
『アイツに回復魔法を。』


イレーズはトリステスを睨みつけながら、
アシュクリスに最大回復魔法をかけました。


パァァ

アシュクリス
「…同情か…?!」


トリステス
『手負いの相手を倒しても自慢にならん。』


アシュクリスは
もはや元・父親に失望すらしませんでした。

目の前の男は、どこまでも
自身の支配欲と名誉欲にしか興味のない、
哀しきモンスターに見えました。


アシュクリス
(これで最後…。)
(いえ、”最期”になってもいい…!)
(私の中でくすぶる”親から愛されたい”を断ち切る!!)




チャキッ

アシュクリスとトリステスは
剣を構えて睨み合いました。

トリステス
『最初の一撃はくれてやる、来い。』


アシュクリス
「やあぁぁ!」


ギィン!

トリステスは片手持ちの剣で受け止めました。

トリステス
『ほう…4年間で少しは力を付けたか。』
『…?!!』


バチバチッ

トリステス
『くッ!!』


アシュクリスの魔法剣・雷の2連撃。

トリステスは
とっさに剣を両手持ちにして受けました。

【MMD】Novel Grudge Match VSTristesseSmall1.png

トリステス
『イレーズに使えなかった”とっておき”だな。』
『いいのか?最初から手の内を晒して。』


アシュクリス
「ハァ…全力でやらないと勝てないから…!」


トリステス
『(ニヤリ)…次はこっちから行くぞ。』
『魔法剣は解除するなよ?』


ビュッ

ガギッ!

アシュクリス
「うッ!…剣が折れそう…!」


魔法剣で強化したはずの刀身から
鈍い音が響きました。

トリステスはおそらく力の2割程度なのに、
一振りの速さも重さも段違いでした。


トリステス
『少しは楽しめそうだ。』
『いつまで受け切れるかな?』


アシュクリス
「…まいったな…朝日、拝めないかも(苦笑)」




アシュクリスは、
トリステスの一閃一閃を
辛うじて受け続けました。

少しの魔法剣の乱れや、
数センチの剣筋の読み違えが命取りでした。

彼女の手がしびれ、
剣の刃こぼれが目立ってきた頃、
トリステスはわずかに攻撃の手を緩め始めました。


アシュクリス
「油断…?けれど…。」
「こっちは魔法剣の維持で精一杯。」
「いいえ、”あの手”なら通じるかも…。」


アシュクリスは、
トリステスの攻撃が止んだ直後に
斬りかかりました。

ガギィン!

トリステス
『力のない一撃…もう体力切れか?』


アシュクリス
(今だ!)


アシュクリスはすかさず
刀身に込めた魔力を地面へ移動させました。

瞬間的に魔法剣を解除し、
足元からの冷気魔法に変換して
奇襲をかけたのです。


ビキビキ!

トリステスの足元から
巨大な氷柱が生成されました。

アシュクリス
(お願い…当たって!)


トリステスは不意を突かれて
氷漬けにされた…はずでした。



トリステス
『だろうと思ったよ。』




ゴスッ

アシュクリス
「がはッ!!」


トリステスの強烈な蹴りで、
アシュクリスは後方へ吹き飛ばされました。

氷柱に閉じ込められたのは
互いの剣だけでした。

トリステス
『こんな初歩的な誘いに引っかかるとは…。』
『やはり一族の汚点は消すしかないな。』


トリステスは火炎魔法で氷柱を溶かし、
自らの剣を取り出しました。

アシュクリスの剣はボロボロで、
地面に落ちた衝撃で折れてしまいました。

トリステスが、アシュクリスに
とどめの一撃を繰り出そうとした瞬間、



リヴィーズ
『お父さん!もうやめて!』




妹のリヴィーズは、
倒れた姉を庇うように立ちはだかりました。

アシュクリス
「リ…ヴィーズ…!」




【第5話:ただ1人の家族】へ続く

⇒この小説のPV

2024年06月07日

【短編小説】『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』3

【MMD】Novel Grudge Match SamuneSmall2.png

【MMD】Novel Grudge Match CharacterSmall1.png

【第2話:居候のケジメ】からの続き

<登場人物>
アシュクリス(主人公)

リヴィーズ(アシュクリスの妹)

トリステス(姉妹の父、軍事大国No.1の戦士)

イレーズ(姉妹の母、軍事大国No.1の魔法使い)
 
ゼレシア(魔族軍トップ)
 
メイレ(魔族軍幹部、ゼレシアの側近)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第3話:消滅した心】



<1週間後、決闘の日>

トリステス
『まずはイレーズと1対1で戦え。』
『その後、生きていたらオレが戦ってやる。』
『イレーズ、それでいいな?』


イレーズ
『…(コクリ)…。』


トリステス
『…フン…。』


アシュクリス
「2人がかりで私を倒せばいいだろう?」


トリステス
『一瞬で終わってはつまらん。』
『弱い者イジメは性に合わんしな。』


アシュクリス
「…後悔させてやる…!」




ザッ



アシュクリスは
自身の魔法の師である母親と対峙しました。

母親の虚ろな眼は、娘ではなく
自らの興味関心だけに向けられていました。

アシュクリス
(お母さんは詠唱なしで魔法を撃ってくる。)
(訓練では1度も勝てなかった…。)


アシュクリスの頭に、母親の連撃で
なぶられた悪夢がよみがえりました。

アシュクリス
(けど、撃つ瞬間のクセは知ってる!)
(それさえ見逃さなければ…!)




ヒュン



?!!

ガン!

アシュクリスの目の前で、
一瞬何かが光りました。

次の瞬間、
彼女は全身への強い衝撃とともに、
仰向けに倒れていました。

アシュクリス
「…痛…高速の魔弾…?」
「…しかもノーモーション…?!」


以前はわずかにあったイレーズのクセが
なくなっていました。


アシュクリス
(魔法防御をまとっていて助かった…。)
(なかったら今の一撃で終わったかも…。)




ヒュン
ヒュン
ヒュン

さっき直撃した魔弾が
連続で飛んできました。

アシュクリスはとっさに横っ飛び。
地面を転がりながら紙一重で避けました。

魔法使いとの戦闘では、
接近戦に持ち込むのが定石ですが、

アシュクリス
(避けるので精一杯…。)
(魔法を放つ準備もできない。)
(ここは一旦、距離を取って…!)


アシュクリスとの間合いが離れても、
イレーズは無表情で魔弾を撃ち続けました。

アシュクリス
(この距離なら魔弾を避けられる。)
(その間に魔力を練り上げて…。)


グニャリ

視界の歪みと、
足元へ吸い込まれる感覚の直後、



ドォォォォン!!



アシュクリス
「あぁッ!!」


アシュクリスは爆発をまともに受け、
数十メートル後方へ吹き飛ばされました。

正体はイレーズの重力魔法でした。

彼女は魔弾を連発しながら、
重力を歪ませる離れ業をやってのけたのです。

アシュクリス
「うぅ…(ガクガク)…。」


辛うじて立ち上がったアシュクリスは、
イレーズの拘束魔法で締め上げられました。

アシュクリス
「…お母…さん…どうして…?」


イレーズ
『…邪魔なの。』


アシュクリス
「…え…?」


イレーズ
『アンタさえいなければ…。』
『私はもっと魔法の研究に没頭できたのに…!』


アシュクリス
「…邪…魔…?!」


イレーズ
『夫さえいなければ…!』
『アイツにあんなことをされなければ…!』
『アンタが生まれることもなかった…!』


アシュクリスは、無表情な母親が
激昂する姿を初めて見ました。

イレーズ
『私の人生にはアンタたちが邪魔なの!』
『だからここで消す。』




プツン



アシュクリスの心を支配してきた
”親への執着の糸”が切れました。

アシュクリス
「お母さん…1つ忘れてるよ…?」


イレーズ
『?』


アシュクリス
「私はお母さんから魔法を習ったんだよ?」


イレーズ
『それが何…?!』


ヒュン

チッ!

さっきまで
アシュクリスを襲った魔弾が、
今度はイレーズの頬をかすめました。

【MMD】Novel Grudge Match VSEraseSmall1.png

イレーズ
『ノーモーションで魔法を放つ…。』
『あの一瞬で盗んだのね。』
『私の拘束魔法を解除しながら。』


アシュクリス
「えへへ…お母さんのおかげだよ…?」
「もっと褒めて?」


イレーズ
『…さすがね、忌々しい”実の娘”!』




激しい魔法の撃ち合いが始まりました。

イレーズの強固な魔法防御の前に、
アシュクリスの魔法はすべて弾かれました。

アシュクリスは
母親の連撃を必死で避けながら、
「魔法剣」での逆転を狙っていました。


刀身に魔法を宿らせ、
斬撃が届く間合いから
一気にカタを付ける算段でした。

そして彼女の剣に
十分な魔力が乗った頃、

アシュクリス
「…?!…足元に不自然な重さ…!」


バッ

アシュクリスは
とっさに後ろへ飛びのきました。

ドォォォン!!

さっきはまともに受けた
重力魔法の爆発でした。

イレーズ
『…さすがに学習したか。』


アシュクリス
『危なかった…。』
『不意打ちに気をつければ戦える…!』


アシュクリスがそう確信した瞬間、
彼女の頭上から巨大な火球が落ちてきました。


アシュクリス
「……え……?!」


イレーズ
『同時に撃てる魔法は2つまで…。』
『なんて1度も言ってないわ。』


………!!

……。



【第4話:哀獣との決戦】へ続く


⇒この小説のPV

2024年06月04日

【短編小説】『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』2

【MMD】Novel Grudge Match SamuneSmall2.png

【MMD】Novel Grudge Match CharacterSmall1.png

【第1話:偏愛される姉妹】からの続き

<登場人物>
アシュクリス(主人公)

リヴィーズ(アシュクリスの妹)

トリステス(姉妹の父、軍事大国No.1の戦士)

イレーズ(姉妹の母、軍事大国No.1の魔法使い)
 
ゼレシア(魔族軍トップ)
 
メイレ(魔族軍幹部、ゼレシアの側近)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第2話:居候のケジメ】



<さらに2年後>

アシュクリスは22歳になりました。

腕を上げた彼女は、
他の冒険者や街の人々からの
尊敬を集めるようになりました。

そんな折、彼女は冒険者の情報網から、
リヴィーズが魔法学校の卒業資格試験に
合格したと知りました。

アシュクリスはもう1度、
妹を迎えに行く決心をしました。

アシュクリス
「今度こそ2人で旅したいな。」
「それに、私だって少しは強くなった。」
「お父さんとお母さん、少しは認めてくれるかな…?」


アシュクリスは、
自分が親から愛されていないことに
薄々気づいていました。

それでも、世界で唯一の父親と母親に
認めてほしい気持ちは消せませんでした。


一方「自分だけが追い出されたのでは?」
という不安を拭い切れませんでした…。

2年ぶりに実家を訪れた彼女は、
おそるおそるドアを叩きました。



コンコン、ガチャ、



トリステス
『またお前か、何の用だ?』


アシュクリス
「…リヴィーズを旅へ誘いに来たの。」
「魔法学校の卒業資格を取れたって聞いて。」
「今度こそ独り立ちでしょ?」


トリステス
『お前は”かわいい妹”を危険な旅へ晒すのか?』


アシュクリス
「そりゃ旅は危険だけど…。」
「”18歳になったら独り立ち”なんでしょ?」


トリステス
『家族水入らずの邪魔をしないでくれ。』
『かわいい娘は”この家に居たい”そうだ。』


アシュクリス
「そんな…!」
「お父さん、あれほど言ったじゃない?!」
「”18歳を超えたら家に置かない”って!」


トリステス
『だからお前は独り立ちさせただろ?』


アシュクリス
「どうして私だけ……まさか……?!」



「…私だけ追い出したの?!!」




トリステス
『…(ニヤリ)…。』


アシュクリス
「どうして…?!」


トリステス
『…その眼だ…!お前が小さい頃から…。』
『その反抗的な眼つきが不愉快なんだよ。』


アシュクリス
「?!!…妹は…。」


トリステス
『リヴィーズは”イイコ”じゃないか。』
『親の言うことを素直に聞く。』


アシュクリス
「…従順だからかわいいってこと…?」


トリステス
『何が不思議だ?』
『反抗的で懐かない娘がかわいいか?』
『そんなヤツはせいぜい”居候”だ。』


アシュクリス
「…じゃあ私はずっと……。」


トリステス
『今さら気づいたか?』
『お前を家族として認めたことはない。』



『18年間ウチに”居候”させただけだ。』
『むしろ感謝されて然るべきだろう?』




アシュクリス
「………居……候………。」




ガクッ

アシュクリスは、
ショックでヒザから崩れ落ちました。

トリステスは、長女の絶望した姿を
満足げに眺めながら言いました。

トリステス
『お前が今からでも”イイコ”になるなら…。』
『特別に家族に”昇格”させてやってもいいぞ?』
『18歳を超えたからには家に置かないが。』


トリステスの歪んだ優越感が、
アシュクリスの心に突き刺さりました。

彼女の心は灰色に褪せ、
無数のヒビで覆われていきました。

そしてついに…。



パキン



アシュクリスの中で、
何かが壊れる音がしました。

彼女はスッと立ち上がり、
懐から1通の手紙を取り出し、
元・父親へ突き付けました。

トリステス
『…今どき”果たし状”か。』
『受けてやるが、こんな勝負は不毛だと思わんか?』


アシュクリス
「ええ…不毛よ…!」


トリステス
『では何を望む?』


アシュクリス
「…私なりの”訣別”…!」


トリステス
『ケジメか、まぁいい。』
『親に刃を向けるなら覚悟はできているな?』
『お前は居候のままだ、”家族”へ昇格できんぞ?』


アシュクリス
「そんなもの要らない!」
「あなたたちはただの悪魔だ!」
「私には親なんかいない!」


トリステス
『…いい機会だ。』
『冒険者からお前の噂を聞くたびに不愉快だった。』
『不出来な居候を始末するのも親の責任だ。』


アシュクリス
「私が勝ったらリヴィーズと話をさせてもらう。」


トリステス
『好きにしろ。』
『アイツがお前に付いて行くとは思わんがな。』


アシュクリス
「…勝負は1週間後に。」




アシュクリスは2年前から
親との訣別を覚悟していました。

今の彼女には勝ち目がないことも、
勝ったところで虚しいだけなことも
理解していました。


それでも彼女は、
自分を縛る毒親の鎖を
断ち切る道を選びました。

たとえ、
ここで命が尽きる結果になろうとも。



【第3話:消滅した心】へ続く


⇒この小説のPV

2024年06月01日

【短編小説】『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』1

【MMD】Novel Grudge Match SamuneSmall2.png

【MMD】Novel Grudge Match CharacterSmall1.png

⇒本作のサイドストーリー
 『哀別の贈り物(パートギフト)』からの続き

<登場人物>
アシュクリス(主人公)

リヴィーズ(アシュクリスの妹)

トリステス(姉妹の父、軍事大国No.1の戦士)

イレーズ(姉妹の母、軍事大国No.1の魔法使い)
 
ゼレシア(魔族軍トップ)
 
メイレ(魔族軍幹部、ゼレシアの側近)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第1話:偏愛される姉妹】



<10年前、とある軍事大国>

トリステス
『お前たちは18歳で独り立ちしろ。』
『それ以降は家に置かないからな。』


アシュクリス
「はい、お父さん…。」


リヴィーズ
『はい…。』


トリステス
『訓練を再開する。早く立ち上がれ。』


リヴィーズ
『うぅ…痛い…。』


アシュクリス
「お父さん…。」
「リヴィーズだけでも休ませて…?」


トリステス
『甘えるなリヴィーズ!』
『そんなことで戦場で生き残れるか!』


アシュクリス
「お父さん…待ってよ…。」


トリステス
『アシュクリス!』
『妹を休ませたいならお前が守りながら戦え。』
『お前はそれすらできないほど弱いのか?』


リヴィーズ
『お姉ちゃん…私のことはいいよ?』


アシュクリス
「…わかった、やるよ。」


トリステス
『(ニヤリ)…それでいい。』
『王国1の戦士の娘が弱くては格好がつかん。』
『オレの顔にドロを塗るようなマネは許さんぞ。』


アシュクリス
「(ギリッ)………!!」


リヴィーズ
『………(涙)』




とある軍事大国に、
アシュクリスとリヴィーズという
かわいらしい姉妹がいました。

2人の父親・トリステスは
国で1番腕の立つ戦士として、

母親・イレーズは
国で1番の魔法使いとして、
他国までその名をとどろかせていました。

姉妹は幼い頃より、
両親から戦闘や魔法の訓練を受けました。

父親のトリステスは
『娘が18歳になったら家に置かない』と
口癖のように言っていました。


彼は娘たちを決して褒めず、
一切の甘えも妥協も許しませんでした。

母親のイレーズは無口で、
魔法のこと以外には無関心でした。

彼女は父親に代わって娘を守ることなく、
魔法の研究に没頭していました。


ーー


10年が経ち、
姉のアシュクリスは18歳になりました。

トリステスは宣言通り、
アシュクリスを家から追い出しました。

トリステス
『戦闘の技術は叩き込んだ。』
『冒険者なり傭兵なり、自分で稼いで生きろ。』


アシュクリスは
故郷を離れることにしました。

アシュクリス
「悲しいけど、あの人たちとの生活はまっぴら。」
「やっと抑圧から解放されたと思えば…(涙)」


彼女は隣町への街道を歩きながら、
厳しい訓練の日々を思い出しました。

アシュクリス
「本当は戦闘も魔法もイヤだった…。」
「けど、それなりに力を付けた。」
「これからは自由に生きよう…。」




彼女の気がかりは
2歳下の妹・リヴィーズでした。

アシュクリス
「リヴィーズ…大丈夫かな…?」
「また泣きながら訓練場に連れて行かれて…。」


姉妹は戦闘も魔法も優秀でしたが、
性格は対照的でした。

姉のアシュクリスは負けん気が強く、
両親に打ちのめされても立ち向かいました。

妹のリヴィーズは気弱で、
厳しい訓練にへこたれがちでした。

リヴィーズが1日の訓練ノルマを果たせず、
それに怒った父親が彼女を訓練場へ
引っ張って行くことがよくありました。


アシュクリス
「2年後に国へ戻ってみよう。」
「リヴィーズが18歳になったら2人で旅したい。」


アシュクリスはそんな夢を描きながら、
旅先で仕事を受ける冒険者として
生計を立てました。


ーー


<2年後>

アシュクリスは20歳、
リヴィーズは18歳になりました。

アシュクリスは2年間で
多くの街の困りごとを解決しました。

戦闘も魔法もレベルアップした彼女は、
襲いかかってくるモンスターを退けながら
故郷の軍事大国を目指しました。

アシュクリス
「リヴィーズ…私が旅に誘ったら迷惑かな?」
「”1人で旅したい”って言われたら諦めるけど…。」

「…って、何考えてるの私?」
「これじゃ”気になる男の子へのアプローチ”でしょ///(照)」


彼女はそんな1人突っ込みを入れながら、
実家のある地区へ向かいました。

実家が近づくにつれて、
彼女の気が重くなりました。

アシュクリス
「(ガクガク)…親の顔なんか見たくない…。」
「…勇気を出して…!」




コンコン、ガチャ



トリステス
『…何の用だ?』


アシュクリス
「…リヴィーズに会いに来たの。」


トリステス
『会ってどうするつもりだ?』


アシュクリス
「…リヴィーズも今年で独り立ち…でしょ?」


トリステス
『フン…アイツはまだ出さん。』


アシュクリス
「…どうして?!」


トリステス
『アイツが魔法学校を中退したからだ。』
『卒業資格試験に合格するまでは出さん。』
『リヴィーズめ…恥ずかしいマネを…!』


アシュクリス
「…!!…そっか…。」
「リヴィーズは居る?」
「せめて一目会いたくて…。」


トリステス
『リヴィーズは魔法の訓練で忙しい。』
『お前に会っているヒマはない。』


アシュクリス
「そんな…!!」


トリステス
『目障りだ、去れ。』




バタン!



アシュクリス
「…(グス…)……。」


アシュクリスは失意の内に
故郷の軍事大国を後にしました。

彼女はさらに2年間、
冒険者として孤独な戦いに身を投じました。



【第2話:居候のケジメ】へ続く


⇒この小説のPV

2024年05月30日

【短編小説】『ぬくもりを諦める病』8 -最終話-

【MMD】Novel AichakuSyogai SamuneSmall2.png

【MMD】Novel AichakuSyogai CharacterSmall1.png

【第7話:かわいい姪と、叔父と兄】からの続き

【登場人物】
深山 愛祈琉(みやま あいる)
 23歳、深山 元香の一人娘

<西田家4姉弟>
 ◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
  西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親

 ◎西田 伸貴(にしだ しんき)
  西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意

 ◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
  西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる

 ◎西田 智里(にしだ ちさと)
  西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第8話:私で最後にするからね】



修児くんのお見送りは滞りなく終わったよ。

修児くんの出棺のとき、
私は初めてお母さんが涙する姿を見たよ。

お母さんは無表情で、私に無関心だけど、
きっと修児くんや伸貴くんと一緒。

親からのぬくもりを諦めて、
心を閉ざしてしまっただけ…。




愛祈琉
『ねぇお母さん?』


元香
『…何?』


愛祈琉
『修児くんの部屋、片付けに行ってたんでしょ?』
『”私は仕事で行けない”って言いながら。』


元香
『…見てたの?』


愛祈琉
『見てないけど、きっとそうかなって。』
『邪魔しちゃ悪いなって思ったの。』


元香
『…アイツが散らかすから、仕方なくよ…。』


愛祈琉
『お母さん、修児くんの部屋で”相変わらずね”って言ってた。』


元香
『…よく覚えてるね。』


愛祈琉
『覚えてるよ。』
『あれは修児くんがズボラって意味じゃなくて…。』



『相変わらず”ヤセ我慢して”って意味でしょ?』




元香
『…どうしてわかったの…?』


愛祈琉
『寂しそうだもん。』
『修児くんも、お母さんも…。』


元香
『…私は修児に付き合ってただけよ。』
『…愛祈琉も知ってるでしょ?』
『…あーいうヤツなの。』


愛祈琉
『知ってる。』
『お母さんが”あーいうヤツの姉”ってことも。』


元香
『…詮索はそこまでよ。』


愛祈琉
『えー?私、お母さんともっと話したい。』


元香
『…いーから…。』


愛祈琉
『あと5分だけ!』


元香
『…あと5分だけよ?』


この時、お母さんの口元が
少しだけ緩んだように見えたよ。



ーー


私、これからは
お母さんにウザがられても絡んでいくよ。

ずっとずっと寂しかったけど、
たった1人のお母さんだもん。

そうやって、
傷ついたままの”子どもの私”を癒して、
傷ついたままの”子どものお母さん”も癒すよ。


いつの日か、お母さんが
少しでも心を開いてくれたら嬉しいな。



それとね、
私、愛着障害の連鎖を断ち切りたいんだ。

きっとお母さんも、おばあちゃんも、
親からの愛情、ぬくもり、スキンシップを
渇望して諦めてきたんだよ。

それは親のせいでもあるけど、
当の親だって十分もらえずに成長したんだよ。

親自身の喉が渇いているのに、
強制的に”与える立場”になるのはキツイよ。

きっと先祖代々、
あまりの寂しさで破裂しそうになっても、
ひたすら我慢するしか知らない人たちだよ。

こんな思いをするのは、私で最後にするよ。


私が末代になるか、私の子孫に託すか、
どういう形になるかわからないけど、
私は最後まで闘うよ。



修児くん、今ごろ天国で
お母さんにいっぱい抱っこされているかな?

いっぱい甘えられているかな?
”ぬくもりを諦める病”は治っているかな?

私は忘れないよ。
修児くんと、愛着障害との闘いを。


修児くん、私を見ていてね?

私が、西田家が苦しんできた
”親の愛情不足”という呪いを解く姿を。



修児くん、私のことを
かわいい姪って言ってくれてありがと。

おつかれさまでした。

天国ではぬくもりに包まれて、
幸せに過ごしてね。



ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
『モノクローム保育園』全5話

『スマホさん、ママをよろしくね。』全4話

『ママ、桜咲いたよ。』1話完結


⇒参考書籍



















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理琉(ワタル)さんの画像
理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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