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2024年08月03日
【オリジナル歌詞】『悲しみの居場所』
泣いてもいい場所は
ここにあるから…
「大切な人たちにさえ受け入れられない」と
独り 静かに受け入れた
これ以上傷つかないように 笑顔も泣き顔も
誰かに見せること諦めた
頑なに心閉ざし 逃げ続けた
何も信じられなかったけれど
やっと見つけたんだ 悲しみの居場所
何があっても ここに戻って泣けばいいから
「誰も助けてはくれないんだ」と
いつまで自分にウソついてるの?
不信感という予防線が
愛しさも締め出してしまう
絶望も孤独も 日常と化したのに
今さら怖いものなんてあるの?
見向きもされなくたっていい
独り泣いた夜の 向こう側へ
灰色の空映したような 彩(イロ)のない心で
孤独から眼を背け続けた
誰にも受け入れられない?
今はそうじゃないでしょう?
顔を上げて 眼を開けて
差し伸べられた手を どうか離さないで
諦めてしまった過去も
ひねくれてしまった過去も
すべて道連れにして 生きていく
「誰も助けてはくれないんだ」と
いつまで自分にウソついてるの?
不信感という予防線が
愛しさも締め出してしまう
絶望も孤独も 日常と化したのに
今さら怖いものなんてあるの?
消えゆく命の限り
独り泣いた夜の 向こう側へ
傷ついたって 拒否されたって
いつものこと その程度だって
「創(ハジ)まった日の拒絶」よりも
辛いことなんて もうないから
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品・歌詞
『絶望のトビラ』
『生キテルアカシ』
⇒他作品・小説
『絵空想(エソラオモイ)』(1話完結)
『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』全6話
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2024年07月24日
【短編小説】『絵空想(エソラオモイ)』(1話完結)
<登場人物>
◎久我 琉心愛(くが りしあ)
主人公♀
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【私自身でいられる空へ】
琉心愛
「ふぅ…バトルシーンのアニメーション完成!」
「少し休憩!」
私はそんな独り言をこぼし、
張り付いていたPCから離れた。
ガチガチに凝った肩を回しながら、
コーヒーの準備を進めた。
私の名前は久我 琉心愛(くが りしあ)。
趣味は創作活動。
小説を書いて、
登場キャラクターの3Dモデルを作って、
アニメーション制作ツールを使って
PV動画を作っている。
今は新作のファンタジー小説の
PV動画制作の大詰め。
見せ場は何と言っても
剣と魔法のバトルシーン。
アニメーション作りは大変だけど、
完成した時の達成感は格別。
小説も動画もSNSで公開しているけど、
フォロワーさんはごくわずか。
私の作品は流行に乗るでも、
人気キャラクターの二次創作でもない。
市場のニーズを無視して、
私の内面世界を映しているだけ。
『そんな自己満足じゃ伸びないよ?』
よく言われる。
「伸ばす」「売れる」ためには、
求められるものを作る必要がある。
それでも私は頑なに
「作りたいものを作ること」にこだわる。
私が創作活動をする理由は、
「私自身であるため」
だから。
私の心は自由だ。
誰にも縛られたくない。
私の素直な気持ちは、
たとえ親だろうと制限する権利はない。
ーー
私の両親はたぶん
中〜重度の「発達障害」だ。
彼らの脳には、空気を読んだり
他人の気持ちを推測したりする機能がない。
だからコミュニケーションは一方通行。
父親は説教、
母親はすべきことを指示するばかりで、
子どもの話を聞くことはなかった。
父親はこだわりが強く、
私が「彼の理想」から外れると激昂した。
私が父親に怒られている時、
母親は助けてくれなかった。
私は5歳の時に悟った。
「誰も助けてくれない」
「誰も私の気持ちに興味ないんだ」と。
私の嬉しいや悲しいを
心のままに表現しても、
笑っても、泣いても、怒っても、
誰も受け止めてくれないんだ、と。
たぶん、両親に悪気はなかった。
けれど、結果的に私は
「心に寄り添ってもらう体験」を
知らずに成長した。
私は親を諦め、心を閉ざした。
家では無表情の仮面を着けた。
ーー
そんな私の唯一の逃げ場は
マンガの世界だった。
母の実家には、
母や叔母が学生時代に読んでいた
古い少女マンガやSFマンガがたくさんあった。
私は母の実家に帰省すると、
1日中マンガを読みふけって過ごした。
『子どもは外で元気に遊びなさい』
と言われたら、外に出て遊ぶフリをした。
私は少女マンガの王道ラブストーリーや、
ヒーローの勧善懲悪モノには惹かれなかった。
私が惹かれたのは滅びや別れ、
救いのない結末だった。
この頃から、私には
人生への諦観や破滅への願望があった。
当時の私は
ただ空想の世界へ逃げ込むだけで、
作り手になりたいとは思っていなかった。
けれど、私はマンガへの逃避を繰り返す中で
「空想力の下地」ができていった。
それが幼い頃からの感情の抑圧と結びついて、
「創りたい欲望」が爆発したんだと思う。
ーー
私が創作活動を始めたのは、
大学を卒業した後からだった。
最初はマンガではなく音楽だった。
私は就職して数ヶ月でうつ病になり退職。
その後、半年くらい療養した。
ようやく外出できるようになった頃、
近くに音楽スクールが開校すると知った。
私はさっそく入学し、
そこで歌や作詞作曲の喜びを知った。
紡がれた言葉や音色は、
ずっとフタをしてきた「私の本音」だった。
私は人生で初めて
「自分自身であることの放棄」を
止めることができた。
ーー
それから私は音楽活動に夢中になった。
次々に自作曲を作り、
キーボード1つで路上ライブを繰り返した。
いくつものライブステージに
立つことができた。
一見、順調な音楽活動の中で、
私は自分の特性に気づいてしまった。
「大きな音や、大勢からの視線が苦手」
それは発達障害に
強く見られる特徴の1つだった。
発達障害の両親から生まれた私にも、
同じ特性が受け継がれていた…。
私は人前に立つのが苦しくなり、
演奏活動を辞めてしまった。
それでも自己表現したくて、
1番楽しかった作詞だけは続けた。
やがてブログを開設し、
歌詞や自分の気持ちを書きなぐった。
ーー
私はうつ病と付き合いながら、
何とか一人暮らしをしていた。
そんな私は、両親の目には
「甘え」「社会を舐めている」ように映った。
彼らは、自身の強いこだわりから
逸脱した娘が許せなかった。
両親と私との関係は、
どんどん険悪になっていった。
ある時、私は両親に
リストカットとオーバードーズが
バレたことで大喧嘩になった。
私にも落ち度はたくさんあったけれど、
私は幼少期と同じく絶望した。
1番苦しい時でさえ
「誰も助けてくれないんだ」と。
私は家族と絶縁した。
ーー
孤独になった私は、
毎日を泣いて過ごした。
それは私の人生で初めての
「感情を爆発させる経験」だった。
幼少期から積もりに積もった
怒りや憎しみ、悲しみが、
涙を流すたびに洗い流されていった。
心の浄化に何年か費やしたある日、
私はふと思った。
琉心愛
「私の経験を物語にしたら面白いかも。」
作詞もいいけど、
私の思いを乗せるにはもっと文字数がほしい。
琉心愛
「そうだ、物語を作ろう。」
「自分でキャラクターを作ろう。」
その日から、私は小説を書き始めた。
過去の浄化が終わり、本当の意味で
「私の人生が始まった瞬間」だった。
私は孤独に抗うように
ストーリー作りに夢中になった。
幼い頃は
マンガの世界へ逃げ込むだけだった私が、
いつの間にか世界を作る側になっていた。
作品が増えるにつれて、
私の「創りたい欲望」は肥大化していった。
文字だけの作品も十分楽しい、
けれど、
琉心愛
「アニメーションにできたらもっと楽しいかも。」
IT革命後の時代は、
すでに私の欲望を叶えるツールを
揃えてくれていた。
「動画編集ソフト」
「アニメーション制作ツール」
「オリジナル3Dモデル作成ツール」
どれも無料で使える夢のような時代。
私は両親が望む”イイコ”じゃない。
ガンコで欲張りだ。
シナリオも、アニメーションも、
キャラデザインも、ぜんぶ自分でやるんだ!
私は小説を書き、
登場キャラクターの3Dモデルを作り、
作品のPV動画を出すことにした。
自分の分身たちが躍動する自作動画を見て、
私は泣いた。
ーー
せっかく作品を作るなら、
できるだけ多くの人に見てもらいたい。
願わくば、多くの高評価がほしい。
私たちはただの人間だ。
そんな承認欲求はあって当然。
次の作品を作るエネルギーになるなら、
承認欲求は全開でいきましょう。
けれど、
創作活動を続ける限り
承認欲求との闘いは続く。
自分では大作だと思って公開しても、
閲覧数が少なければ悩む。
「作りたいもの VS 売れるもの」の
折り合いを付けられずに苦しむ。
「私の作品は誰にも受け入れられない」と
自己嫌悪に陥る。
それでも私は創作活動を続ける。
私の心を救ってくれたから。
心のままに、
自由に表現してもいい場所を
教えてくれたから。
私はこの手や目が動く限り
作品を作り続ける。
世界で唯一、
私の作品を待ってくれている
私自身のために。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』全6話
『ぬくもりを諦める病』全8話
『割れた翠玉の光』(1話完結)
⇒参考書籍
リンク
2024年07月07日
【短編小説】『割れた翠玉の光』(1話完結)
⇒過去作品『どんな家路で見る月も』の前日譚
<登場人物>
・夜野 逢月姫(よの あづき)
主人公
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第1話:ヒビ割れたペンダント】
逢月姫
『私…もうあなたと付き合いたくない。』
駅の駐車場の片隅で、
私は長年付き合っている彼にそう告げた。
彼のことがキライになったわけでも、
ケンカしたわけでもない。
私の気の迷いが、判断を誤らせただけ…。
午後から降り出した雨は、
夕方になっても止む気配がなかった。
薄暗くなった駐車場の屋根に
雨音が響いていた。
私はこの日だけ、
彼からもらった大切なペンダントを
着けていなかった。
いつかの私の誕生日に彼が贈ってくれた、
小さなエメラルドがあしらわれたペンダントを。
彼は今夜から
1週間の出張へ行く予定だった。
私は彼に
「出発前に10分だけ会いたい」と無理を言った。
彼はいつものように
イヤな顔1つせずに承諾してくれた。
私は、
彼がそこまでして作ってくれた時間で、
「彼を試すようなマネ」をしてしまった。
一時の刺激や依存心に負けて、
一生の後悔を背負うことになるのに…。
ーー
彼は私にはもったいないくらい
”いい人”だった。
高身長で、
客観的に見てもかなりかっこいい。
性格は真面目で誠実。
浮気の心配なんてゼロに等しい。
彼は恋愛経験が少ないからか、
奥手なところがあるけど、
一緒にいると安心できた。
彼が私の誕生日に
エメラルドのペンダントを選んだ理由は、
エメラルドの”宝石言葉”だった。
「希望」「幸福」「パートナー愛」
そして2人の幸せが続くよう、
『逢月姫のことを理解する努力を惜しまない』
という彼のメッセージが込められていた。
私は素晴らしいパートナーにめぐり逢えて、
幸せなはずだった。
なのに、
ある時から、私の中の
「レンアイ洗脳悪魔」がささやき始めた。
『刺激がない』
『ドキドキしない』
『キュンとしない』
『ときめきが足りない』
悪魔の声が大きくなるにつれて、
私は彼のことをこう見るようになっていった。
「いい人止まりでつまらない男?」
彼は私がつらい時、
そばにいて支えてくれた。
私の味方でいてくれて、
私の気持ちに寄り添ってくれた。
私は、そんな彼の優しさに甘え過ぎた。
いつしかそれが当たり前だと思い込んだ。
肥大化した私の依存心は、
私を短絡的な考えに走らせた。
ドキドキやときめきをくれない彼は
「私のことを好きじゃないのかな?」
と。
ーー
立ち尽くす私と彼との間に沈黙が流れた。
彼は言葉に詰まっていた。
あまりに唐突な別れ話に、
考えが整理できていないんだろう。
駐車場の屋根をたたく雨音だけが、
時の流れを告げていた。
彼の出発まで、あと5分。
逢月姫
(ねぇ逢月姫、あなた何をしてるの?)
(取り消すなら今だよ…?)
別れたかったわけじゃないの。
あなたは素晴らしい人、何も悪くない。
ただ私が
悪魔のささやきに負けただけなの…。
あと5分の間に伝えられたら、
私たちの幸せは続いていくはず。
のど元まで上がってきた言葉たちは、
どうして私の口から、
一言も出てこないの…?
駅の駐車場の片隅で、
私は1人、呆然と立ち尽くしていた。
少し弱まった雨の間から、
彼が乗ったであろう列車が
線路を走り出す音が響いた。
『わかった…逢月姫、今までありがとう…。』
彼の短い返事の中に、
彼の優しさと気遣いが詰まっていた。
彼は決して、私の言葉を
ストレートに受け取ったわけじゃない。
私の葛藤をすべて察した上で、
私を傷つけない返事を選んでくれた。
私たちは、幼い頃から
少女漫画やドラマや映画で
「恋愛洗脳」を受けている。
ドキドキやときめきこそが
すばらしい恋愛である、と。
平凡で安心できるけれど、
ドキドキやときめきがないのは
つまらない恋愛である、と。
私たちは、
恋愛の「ロマンス依存症」に
陥っていることにすら気づかずに、
いい人や誠実な人を無意識に切り捨ててしまう。
「物足りない」「つまらない」と言って…。
気づいたら、
あたりはすっかり暗くなっていた。
放心状態から抜け出した私は、
今日だけ着けなかったエメラルドのペンダントを
バッグから取り出した。
翠玉の反射光が2つに割れていた。
よく見ると”小さなヒビ”が入っていた。
それは、
ロマンス依存症に負けて
彼との幸せを壊した私は、
もう彼の元には戻れないと告げていた。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品『どんな家路で見る月も』へ続く
⇒参考書籍
リンク
2024年07月04日
【短編小説】『反出生と翠玉の血』2 -最終話-
⇒【第1話:鮮紅から翠玉へ】からの続き
<登場人物>
・冷泉 希望来(れいせん みくる)
主人公、とある名家「冷泉家」の末裔
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第2話(最終話):すべて洗い流して】
冷泉家当主
『探したぞ希望来、さぁ帰ろう。』
『こんな雨の中にいたら風邪をひく。』
希望来
「…よりにもよって、寸前で…!」
私はあと少しのところで、
追っ手に見つかってしまった。
希望来
「(ガクガク…)…あと3分もないよ?」
「今さら私を捕まえたって…。」
冷泉家当主
『何もできないと?』
『そうでもないんだよ。』
希望来
「…どういうこと?」
冷泉家当主
『知っての通り、ウチはアンドロイド研究の大口スポンサーだ。』
希望来
「数年前のスキャンダルで発言権を失ったんじゃ…?」
冷泉家当主
『そんなこともあったかな?』
『まぁ、金の力を侮らないことだ。』
希望来
「…もみ消したの?」
冷泉家当主
『さぁな。』
『ところで”もう3分もない”と言ったか?』
希望来
「ええ、もうすぐ私は”子孫を残せない身体”になれるの。」
冷泉家当主
『深緑色の血か…。』
『その色を見るに、ウソではないようだ。』
希望来
「だから私を捕まえてもムダ…。」
冷泉家当主
『だと思うか?』
希望来
「?!」
冷泉家当主
『人間からアンドロイドへの改造。』
『これができるなら”戻に戻せるはず”とは思わないか?』
希望来
「まさか…?」
ニヤリ
冷泉家当主
『あと5分も5年も関係ないんだ。』
『お前が生きてさえいればいい。』
希望来
「そんな…。」
「私は子孫を残す運命から逃げられないの…?」
冷泉家当主
『私にはかわいい姪のお前が必要なんだ。』
『この親心がなぜわからない?』
希望来
「どうしてよ…?!」
「どうしてそこまで家系の存続なんかにこだわるの?!」
「これまで散々、不幸な人を生み出してきて!!」
「未来まで続ける気?!」
冷泉家当主
『何を後ろ向きなことを。』
『生まれさえすれば幸せになれる可能性がある。』
『その芽を摘んでしまう方が不幸だと思わないか?』
希望来
「じゃあ叔父さんは幸せなの…?!」
冷泉家当主
『もちろんだ。』
『名声、力、金…愚民どもを思い通りに動かせる。』
『冷泉家が続くからこその幸せじゃないか。』
希望来
「…権力に取り憑かれたモンスターめ…!!」
冷泉家当主
『お前こそ”反出生主義”にかぶれ過ぎだ。』
『まずはそこから再教育せねば。』
ガシッ!
希望来
「離して!!離してよ!!」
私が叔父の側近2人に腕を掴まれた、
その時、
ドクン
希望来
(…何…?急に心臓が…。)
残り0分。
私の傷口からにじみ出る血が、
完全に青色になった。
私の身体のアンドロイド化が完了したのだ。
私は、叔父の側近たちに
掴まれていた両腕を軽く動かした。
ドサッ
ドサッ
2人の大男が、私の後ろへ吹き飛んだ。
冷泉家当主
『…?!…お前のどこにそんな力が…!』
ドクン
ドクン
叔父のうろたえる声が、
私の耳に入ってきた。
私の心には、
心臓の鼓動だけが聞こえてきた。
カツン
カツン
私は静かに叔父へ歩み寄った。
その時、
今まで鳴りを潜めていた雨が、
ドザァァァァァァァ!!!
………。
ーー
翌朝。
夜半まで降り続いた雨が止み、
雨上がりに特有の空気が漂っていた。
照りつける朝日が、
まだ残る湿気でぼやけて見えた。
アスファルトの地面は
乾き始めていた。
雨はきれいで残酷だ。
何もかも洗い流してしまうんだから。
昨夜、
この場所に傷だらけの少女が
うずくまっていたことも。
「あと5分」を心待ちにしながら、
希望と絶望に翻弄されたことも。
彼女の傷口から滴り落ちた
エメラルドグリーンの血も、青い血も。
その中に、
彼女のものではない”赤い血”が
混じっていたかもしれないことも。
「子孫を残すことは幸せなの?」
「不幸の再生産なの?」
「家系断絶は悪なの?」
「それとも不幸の連鎖の終焉なの?」
雨の残り香は、何も答えてはくれなかった。
ーーーーーENDーーーーー
※本作は過去作品『反出生の青き幸』の後日譚です
⇒参考書籍
リンク
リンク
2024年07月01日
【短編小説】『反出生と翠玉の血』1
⇒過去作品『反出生の青き幸』の後日譚
<登場人物>
・冷泉 希望来(れいせん みくる)
主人公、とある名家「冷泉家」の末裔
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第1話:鮮紅から翠玉へ】
希望来
「ハァ…ハァ…お願い…!」
「あと5分だけ…見つからないで…!」
お昼過ぎから降り始めた雨は、
あたりが暗くなっても静かに降り続いていた。
私・冷泉 希望来は、
叔父が放った追っ手から逃れ、
物陰で震えていた。
身体はびしょ濡れ。
逃げる時に負った傷が痛んだ。
傷口からにじみ出る血の色は、
赤色からエメラルドグリーンに変わり始めた。
希望来
「もう少しだ…!」
「私の血の色が完全な青色になれば…。」
「私は人間からアンドロイドになれる…!」
「”子孫を残せない身体”になれるんだ…!!!」
私は人間だが、
先日アンドロイドへの改造手術を受けていた。
その最終工程「血液入れ替え」が終わるまで、
あと5分。
赤い血が徐々にエメラルドグリーンに、
そして最後にアンドロイド特有の青い血になる。
私を追ってきたのは、
冷泉家の血の存続のために
私に世継ぎを産ませたい者たちだ。
だから、
私のアンドロイド化が完了する前に
私を捕らえようと躍起になっていた。
ーー
私の実家・冷泉家は、
昔はとある地域を統治していた。
名家?貴族の優雅な暮らし?
とんでもない。
この血が一代つながるたびに、
不幸な人を生み続けてきた。
ある世代のお姫さまたちは、
世継ぎの男子を産めなかったことで
処刑されたり幽閉されたりした。
ある世代では
近親者での交配を繰り返した結果、
人生の幸せをほとんど知らずに
世を去る人が続出した。
冷泉家はどんどん先細り、
ついに健康体は私の両親だけになった。
けれど、私の母が産んだのは
女である私…。
母は世継ぎの男子を産めなかったことで
親戚から弾圧された。
父は母を守ろうと奮闘するも、
無理がたたって早逝。
その母も、私が成人する頃に逝去。
こんな家庭を見てきた私は、
たとえ何をされようと子孫を残したくないと誓った。
希望来
「もし私が子孫を残したら…。」
「また不幸な人を増やすことになるよね。」
私の両親や、ご先祖さまがそうだったように。
希望来
「ならこんな家系は断絶した方がいいよね。」
「生まれなければ不幸にならないもの。」
「でも、どうやって?」
この時代、
完全自立型アンドロイドたちが
すでに人間社会で共に暮らしていた。
ただ1つ、人間を再現できないのは生殖機能。
アンドロイドは生殖能力のない一代生物だ。
ならば、私自身を
「生殖能力のない一代生物=アンドロイド」に
改造してもらえばいいという結論に至った。
今の私は、
それを阻止したい冷泉家との
「雨中の逃避行」のクライマックスにいた。
希望来
「傷が痛いけど…あと3分。」
エメラルドグリーンだった私の血が
深緑色に変わった。
私の身体の完全なアンドロイド化、
青色の血まであと少し。
希望来
「やっと逃げ切れる…!」
「叔父さんからも、子孫を残す不幸からも。」
冷泉家当主
『誰から逃げ切れるんだ?』
希望来
「?!…叔父、さん…?」
⇒【第2話(最終話):すべて洗い流して】へ続く
2024年06月29日
【短編小説】『哀別の贈り物(パートギフト)』3 -最終話-
⇒【第2話:黒緋の魔法戦】からの続き
<登場人物>
・メイレ
主人公
類まれな美貌と戦闘センスを持って生まれた
・イーラ
メイレの母親
・ゼレシア
魔族軍の幹部
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第3話:憎しみの克服】
ゼレシア
『メイレ!止めろ!!』
ガシッ!
メイレの炎がイーラに届く寸前で、
軍服の男がメイレの腕を掴みました。
メイレ
『……お兄さん…?どうしてここに?』
ゼレシア
『こうなる予感がしていた。』
『母親への贈り物の話を聞いた時からな。』
メイレ
『お兄さん、手を離してよ!』
『コイツは私の人生を狂わせたの!』
『私の手で…!』
ゼレシア
『早まった行動は抑えると言っただろう?』
メイレ
『言ったけど…!』
ゼレシア
『…母親の赤黒い炎は怖かったか?』
メイレ
『怖かった…。』
ゼレシア
『今、自分がまとっている炎は何色だ?』
メイレ
『何色って、私が操れるのは青白い炎だけ…。』
『?!!…あ…赤黒い……。』
ゼレシア
『…母親の炎から伝わった感情は?』
メイレ
『怒り、憎しみ、嫉妬…。』
ゼレシア
『ああなりたいか?』
メイレ
『なりたくない…。』
ゼレシア
『憎しみに任せて母親を討ち取ったら…。』
『メイレも母親と同じになるぞ?』
メイレ
『私も…お母さまと…同じ…?』
ガクッ
メイレは膝から崩れ落ちました。
ゼレシアはメイレを支えながら、
イーラにこう言いました。
ゼレシア
『母上どの。』
『あなたに娘の幸せを願う気持ちが少しでもあるなら…。』
『どうかこの子に関わらないでやってほしい。』
イーラはメイレに討たれる恐怖で
腰が抜けていました。
イーラ
『(ガクガク…)…わかり…ました…。』
ゼレシア
『ここで拾った命を大切に、今後を生きてくれ。』
『では失礼する。』
ゼレシアは、
茫然自失となったメイレを連れて立ち去りました。
戦場には、まだ少し煙が残っていました。
1人残されたイーラは、
激しい自責の念に襲われました。
醜い嫉妬心、安いプライド。
他人と比べることでしか
自分の価値を確認できないほどの
自己肯定感の低さ。
心の過剰防衛の果てに娘を捨て、
娘に見捨てられ、独りぼっちに…。
イーラ
『あ…あぁぁ…ああああああぁぁ!!』
怒りとも悲しみとも似つかない悲鳴が、
まだ残る煙を切り裂きました。
ーー
<数年後、魔族軍本部>
メイレ
『ゼレシア様、また1人で敵情視察ですか?』
『前線部隊へ一報も入れずに。』
ゼレシア
『敵の偵察部隊の動きを察知したのでな。』
『全員へ伝達していては遅いと踏んだ。』
メイレ
『それはありがたいですが…。』
ゼレシア
『何だ?煮え切らないな。』
メイレ
『毎度、私の仕事を増やさないでください。』
『前線部隊から苦情が来てるんです。』
ゼレシア
『苦情?』
メイレ
『”側近の管理はどうなってるんだ?”』
『”しっかりあの人の手綱を引いてくれ”って。』
ゼレシア
『ははは、すまない。』
『それにしてもスピード出世だな。』
『入隊から数年で側近まで昇進するとは。』
メイレ
『ゼレシア様こそ、幹部からトップになったでしょう?』
ゼレシア
『私はただのお飾りだ。』
『メイレこそ実力だろう?』
メイレ
『…私がここにいられるのは…。』
『あの時拾われた”運の良さ”ですね。』
ゼレシア
『それは嬉しいな(笑)』
『優秀で助かっているが、内勤は性に合わないか?』
『元の部隊へ戻すよう、人事部へ掛け合うぞ?』
メイレ
『いえ、私は戦いが好きではないので。』
『”胃痛”と戦う方がまだ楽ですわ。』
ゼレシア
『耳が痛いな(苦笑)』
『今後のスケジュールは?』
メイレ
『3日後に人間族の国との会合です。』
『うまくいけば和平締結できるでしょう。』
ゼレシア
『これで残すは例の軍事大国だけか。』
『皆で手を取り合って仲良く、とは難しいものだな…。』
人間族の世界で
有数の力を持つ軍事大国がありました。
その国は唯一、
魔族の国との和平締結を拒否し、
同国への侵攻を繰り返していました…。
メイレ
『ねぇ、”お兄さん”?』
ゼレシア
『ん?』
メイレ
『もし人間族のすべての国と和平を結んでも…。』
『親子のいさかいはなくならないのかな…?』
ゼレシア
『…そうだな…。』
『それは魔族も人間族も関係なく起きるだろう…。』
メイレ
『じゃあ…意味があるのかな?』
『私たちが目指していることに。』
『私みたいな思いをする子はいなくならないの?』
ゼレシア
『悲しいが、そうだろうな。』
『だが平和に暮らせれば心に余裕が生まれる。』
『そうすれば他者に愛情を持って接する者が増えるだろう。』
メイレ
『…私、1人でも減らしたい。』
『お母さまに捨てられる子も。』
『人生を嫉妬に支配される子も。』
ゼレシア
『私もあんな争いの仲裁はこりごりだ。』
メイレ
『お兄さん…その、ありがとね。』
『あの時も、今も。』
ゼレシア
『私がおせっかいなだけだ。』
『気にしなくていい。』
メイレ
『せっかく救ってもらったんだもん。』
『私にできることをするよ。』
『もう…見たくないんだ。』
『母親に「お別れの品(パートギフト)」を贈る子の涙なんてね。』
⇒他作品『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』へ続く
ーーーーーENDーーーーー
⇒この小説のPV
⇒参考書籍
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2024年06月28日
【短編小説】『哀別の贈り物(パートギフト)』2
⇒【第1話:救済の傘】からの続き
<登場人物>
・メイレ
主人公
類まれな美貌と戦闘センスを持って生まれた
・イーラ
メイレの母親
・ゼレシア
魔族軍の幹部
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第2話:黒緋の魔法戦】
ある日、イーラのもとへ
メイレからの贈り物が届きました。
中身は、魔族の国では
稀少な素材を使った化粧品と、
メイレからのメッセージカードでした。
メッセージの内容は、
-----
お母さま、お元気ですか?
あなたの美しさがより際立つと思い、
贈らせていただきました。
お気に召してもらえたら嬉しいです。
メイレ
-----
イーラ
『…あの子、意外と気が利くじゃないの。』
(さすがにやりすぎたかも…。)
気を良くしたイーラは、
いそいそと化粧品のビンに手を伸ばしました。
すると、
ガシャン、ガシャン!
イーラ
『…何?!この鎖?!』
化粧品のビンに込められた拘束魔法が発動し、
魔力の鎖がイーラの自由を奪いました。
イーラも優秀な魔法使いですが、
娘の”厚意”に油断していました。
メイレ
『…お母さま、気に入ってくれましたか?』
イーラ
『?!…メイレ…帰って来たのね。』
メイレ
『ええ、”あなた自身の恥”が帰りました。』
『見るに耐えないですか?』
イーラ
『(ギリッ…!)…こんなことして、何のつもり?』
『早くこの鎖をほどきなさい。』
メイレ
『私にした仕打ちを詫びてくれるのなら。』
イーラ
『…仕打ちって何のことよ?』
メイレ
『私を捨てたことをお忘れですか?』
『美しくない、無能だと言って。』
イーラ
『(ゾクッ…)…ふん、事実じゃないの。』
イーラは鎖に縛られながらも
体内で魔力を練り上げ、一気に解放しました。
すると、
パキン!
イーラを拘束していた魔力の鎖が
バラバラに吹き飛びました。
イーラ
(…私に全力近くの魔力を出させるなんて…!)
(この子、やっぱり気に食わない!)
『あなた、ちょっと名を上げたようだけど。』
『この程度の魔法で私をどうこうできるとでも?』
メイレ
『…容易く破られた…!』
イーラ
『私に謝ってほしい?』
『生意気は私に勝ってから言いなさい!』
『それとも怖気づいちゃった?』
メイレ
『(ガクガク…)…いいえ…覚悟していました。』
イーラ
『…良い心がけね。』
『思い上がった娘にわからせてやる!』
ゴゴゴゴゴゴゴ…!!
イーラは全身に赤黒い炎をまといました。
彼女は火炎系の魔法が得意ですが、
その威力は今までとは段違いでした。
黒く燃え上がるのはもちろん、
「娘の才能と未来」への嫉妬の炎でした…。
メイレ
『…すごい威圧感…!』
『私の半端な冷気魔法じゃ、とても…。』
ゴォォォォォォ!!
何十発もの赤黒い火球が
メイレに襲いかかりました。
メイレ
『れ、冷気のバリア…!』
『ダメ…!防ぎ切れない!』
メイレは魔法の才能こそ高いものの、
ほぼ独学で身につけていました。
そんな彼女の魔法では、
イーラの熟練の腕に嫉妬や憤怒が
折り重なった炎に敵うはずがありませんでした。
メイレ
『熱ッ…!1発かすった…!』
『お母さま…一体どれだけの魔力を…!』
イーラ
『…あんな未熟な冷気魔法で…!』
『私の炎が何発も逸らされてる!』
『いい加減、諦めなさいよ!』
メイレ
『…また炎が強くなった…!』
『…大きいのが来る?!』
ゴゴゴゴゴゴゴ…!!
メイレ
『お母さま…本気で撃つの…?!』
『私、やっぱり愛してもらえないの…?』
メイレの悲しみは、
怒りで我を忘れた母親には届きませんでした。
イーラ
『消えなさい!!』
ゴォォォ!
メイレ
『もうダメ!』
………。
メイレ
『……あれ……?時間がゆっくりに…?』
絶体絶命のメイレの頭に、
ゼレシアと会った雨の日が蘇りました。
治癒魔法の応用と言って
メイレの小屋を直してくれた魔法と一緒に。
メイレ
(無機物の修繕…。)
(あの魔法術式を逆にしたら…。)
(魔法の解体もできるんじゃ…?)
次いで、イーラが
魔力の鎖を壊した魔法を思い出しました。
メイレ
(あれにも魔法解体の術式が入っていた。)
(組み合わせれば火球を消せるかも…。)
(私にできるかな?1回見ただけで。)
赤黒い火球が
メイレの眼前に迫った瞬間、
メイレ
『やッ!』
メイレはとっさに
手のひらを火球へ向けました。
パッ!
巨大な火球が一瞬で霧散しました。
メイレ
『ハァ…ハァ…できた…!』
イーラ
『…そんな…一体何をしたの…?!』
メイレ
『…魔法の解体…。』
『建物の修繕魔法を応用したんです。』
イーラ
『そんな魔法、どこで…。』
メイレ
『…ただのマグレです。』
イーラ
(この子、どれだけのセンスを持ってるの…?)
(さっきの私の鎖解体まで取り入れたんでしょ…?!)
メイレ
『…今度は私の番です。』
メイレは全身に青白い炎をまとい、
小さな火球をイーラめがけて放ちました。
イーラ
『この程度、避けるまでもないわ。』
『簡単に解体…できない…?!』
メイレはイーラが魔法解体で応戦すると踏んで、
魔法解体をガードする術式を混ぜていました。
イーラの腕前なら、それを悟った瞬間に
避けることもできたはずですが…。
イーラ
(あーあ…悔しいな…。)
(私、やっぱり娘に敵わないんだ…。)
小さな火球は、
棒立ちのイーラへまっすぐ向かっていきました。
ーー
「炎の魔法戦」の幕が降ろされました。
舞台には震えながら立っている娘と、
うずくまる母親がいました。
メイレ
『私の勝ちでいいですか?』
『まだやるならもう1発…。』
イーラ
『こ、降参よ!』
『謝るから…命だけは助けて…?』
メイレ
『…わかりました。』
イーラ
『メイレ、ごめんなさい。』
『あなたが美しくないなんてウソ。』
『あなたの美貌と才能に嫉妬していたの…。』
メイレ
『…では、どうして私を捨てたのですか?』
イーラ
『私が1番でいられなくなるのが怖かったの…。』
『私の存在そのものが否定される気がして…。』
メイレ
『…それは…お母さまの本心ですか?』
イーラ
『ほ、本心よ!信じて…?』
メイレ
『………。』
(私はこんな薄っぺらい言葉のために…。)
(今まで苦しんできたの…?)
メイレの心は、
母親への失望でいっぱいになりました。
母親の言葉はどこまでも自己保身で、
娘の気持ちが無視されていたからです。
次いで、メイレの心に
母親への憎しみが湧き上がってきました。
メイレは母親にムリヤリ謝罪させても、
悲しみは癒えないと理解していました。
それでも、
いざその瞬間が来ると抑え切れずに…。
メイレ
『うぅぅぅ……!』
ゴゴゴゴゴゴゴ…!!
メイレがまとう青白い炎が、
みるみるうちに”赤黒く”染まりました。
イーラ
『ちょっと…!』
『謝ったじゃないの…!』
我を見失ったメイレは、
イーラへとどめを刺そうと突っ込みました。
メイレ
『うぅ…うぁぁぁぁぁ!!!』
イーラ
『きゃあぁぁ!!』
⇒【第3話(最終話):憎しみの克服】へ続く
⇒この小説のPV
2024年06月27日
【短編小説】『哀別の贈り物(パートギフト)』1
⇒過去作品『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』のサイドストーリー
<登場人物>
・メイレ
主人公
類まれな美貌と戦闘センスを持って生まれた
・イーラ
メイレの母親
・ゼレシア
魔族軍の幹部
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第1話:救済の傘】
とある世界に
魔族たちが住む国がありました。
魔族の国は、
ほとんどの人間族の国との
和平締結に成功していました。
魔族と人間族との垣根も
なくなりつつありました。
そんな穏やかな魔族ですが、
誰もが慈愛に満ちた善人ではありませんでした。
人間族と同じように、
他者や家族との確執はそこかしこで起きていました。
魔族の少女・メイレはとても美しく、
武芸や魔法の才能にも恵まれていました。
ところが、
メイレの母親・イーラは娘への嫉妬心から、
彼女を「美しくない」「無能」と罵りました。
イーラはメイレにキツく当たり続け、
ついに彼女を捨ててしまいました…。
メイレは深い悲しみと、
自己否定に苦しみました。
まだ幼かった彼女は、
母親の罵声が嫉妬心の裏返しだと気づかず、
真に受けてしまったのです。
自分が母親から愛されなかったのは、
美しくないから?武芸も魔法も弱いから?
ならば有能さ証明できれば、
母親は自分を愛してくれるかもしれないと
考えました。
メイレは魔族の国の各地を回り、
子どもながら多くの剣術大会や魔法大会で
好成績を収めました。
そんなメイレの噂は、
当時は魔族軍の幹部の1人だった
ゼレシアの耳にも届きました。
行動派のゼレシアは、
この逸材を魔族軍へスカウトするため、
自ら彼女へ会いに行きました。
ところが、
軽い気持ちでメイレを訪ねたゼレシアは、
彼女の現状に心を痛めることになりました…。
ある雨の日、
ザァァァー
スッ
メイレ
『……何?』
ゼレシア
『…傘。風邪ひくぞ?』
メイレ
『…ありがと。お兄さん誰?』
ゼレシア
『私はゼレシア、魔族軍で働いている。』
メイレ
『…軍人さん?私に何か用?』
ゼレシア
『やたら強い子がいると聞いてな。』
『ぜひ会いたいと思って来た。』
メイレ
『…そう。』
ゼレシア
『もうすぐ暗くなる。』
『家に帰らないのか?』
メイレ
『…家なんてない。』
ゼレシア
『?…夜はどこで…。』
メイレ
『…最近はあそこで寝てる。』
メイレは近くの大きな木を指差しました。
太い枝の上に、即席の小屋が見えました。
ゼレシア
『…1人か?』
メイレ
『…うん、お母さまに追い出されたの。』
ゼレシア
『…事情を聞いても?』
メイレ
『…少しなら。』
メイレは母親に追い出されてから、
その日暮らしを続けていました。
時には野宿、
時には木の上に作った小屋で
雨風をしのぎました。
各地の武芸大会への出場は、
母親に認められたいだけでなく、
賞金を生活の糧にするためでもあったのです。
ゼレシア
(何ということだ…。)
(子どもがこんな境遇に1人で耐えていたのか…?)
メイレの生い立ちを知ったゼレシアは悩みました。
彼女のスカウトは、あくまで職務。
そう割り切れないほど、1個人として
彼女を助けたい気持ちが膨らんでいました。
しばらく沈黙が流れた後、
ゼレシア
『メイレ、よければウチへ入らないか?』
メイレ
『…誘拐?私の身代金なんか出ないよ?』
ゼレシア
『…すまん、誤解させた。魔族軍への勧誘だ。』
『宿舎もあるから、ひとまず雨風はしのげる。』
メイレ
『…同情なら要らないよ?』
ゼレシア
『今は1スカウトとして話しているつもりだ。』
メイレ
『…私、お兄さんの役に立てるの?』
ゼレシア
『もちろん。』
メイレ
『…私が弱かったら、お兄さんは勧誘に来てた?』
ゼレシア
『来ないな。』
メイレ
『私、お母さまから”無能”って言われてきたの。』
ゼレシア
『らしいな。』
メイレ
『…だから私…期待されるほど伸びないかもよ?』
ゼレシア
『その時はその時だ。』
『身の振り方は自分で決めてくれ。』
メイレ
(よかった…正直に答えてくれた。)
(この人なら信用できるかな…?)
『…嬉しいけど、少し考えさせて。』
ゼレシア
『わかった、また来る。』
メイレ
『…また?』
ゼレシア
『おっと、帰る前に…。』
ゼレシアは木の上の小屋に向けて、
建物の修繕魔法を放ちました。
ボロボロだった小屋が、
見違えるほどきれいになりました。
ゼレシア
『これなら安心して寝られるだろう。』
メイレ
『…ありがと。』
『あの魔法、どこで習えるの?』
ゼレシア
『軍の魔法教習所。』
メイレ
『難しい?』
ゼレシア
『簡単だ、治癒魔法の対象を無機物まで広げるだけ。』
『見習いでも1週間あれば覚えられる。』
メイレ
『…そっか…。』
ゼレシア
『風邪ひかないようにな。』
メイレ
『…あ…。』
ゼレシアは去っていきました。
メイレ
『魔族軍…か。』
『私、どうしたら…?』
ーー
その後もゼレシアは
たびたびメイレを訪ねてきました。
初めは警戒していたメイレですが、
徐々に心を開いていきました。
何より、メイレは
ゼレシアの不思議な優しさに
居心地のよさを感じました。
彼は強引に勧誘するでも、
過度に干渉するでもなく、
ほどよい距離感で対等に接してくれました。
メイレの中に、
ゼレシアへの信頼が募っていったある日、
メイレ
『ねぇ、お兄さん。』
ゼレシア
『ん?』
メイレ
『どうして何度も私のところに来るの?』
『私より強いやつはいくらでもいるでしょ?』
ゼレシア
『かもな。』
メイレ
『即戦力の人を勧誘した方がいいんじゃない?』
ゼレシア
『だろうな。』
メイレ
『…なら、どうして?』
ゼレシア
『伸びしろのある逸材を見逃す手はない。』
メイレ
『…それは軍人としての意見?』
ゼレシア
『ああ。』
メイレ
『お兄さん個人としては?』
ゼレシア
『私はおせっかいなんだ。』
『困っている者は助けないと気が済まない。』
メイレ
『私みたいな子を片っ端から助けるの?』
『…キリがないよ?』
ゼレシア
『そうだな。』
『私たちは慈善団体じゃない。』
メイレ
『なのに、どうして…?』
ゼレシア
『私はおせっかいだと言っただろう?』
『目に入ったからには助けないと気が済まない。』
『それだけだ。』
メイレ
『…?!…(涙)』
ゼレシア
『メイレの人生だ。』
『入隊するかしないかは任せる。』
『が、今後も”友として”語り合える仲でいたい。』
メイレ
『…1つ、私が壁を乗り越えたら…。』
『その時に志願してもいい?』
ゼレシア
『…母親との確執か。』
メイレ
『うん、私がお母さまのことを諦められたら。』
ゼレシア
『何か策があるのか?』
メイレ
『とっておきの”贈り物”があるの。』
ゼレシア
『…武運を祈る。』
『”早まった行動”だけは抑えてくれ。』
メイレ
『…うん、それだけは抑えてみせる。』
『私の人生は、嫉妬なんかに支配させないよ。』
⇒【第2話:黒緋の魔法戦】へ続く
⇒この小説のPV
2024年06月26日
【短編小説】『転生の決闘場(デュエルアリーナ)』5 -最終話-
⇒【第4話:悪夢からの贈り物】からの続き
<登場人物>
◎アレヴィア
主人公
街の組合から依頼を受ける冒険者
◎ヴァルネラ
アレヴィアの夢に出てきた少女
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第5話:人生という決闘場】
看護師
『アレヴィアさん!』
『よかった…目を覚ました!』
アレヴィア
「…?…ここは…?」
私が目を覚ました場所は、
私が前世でモンスターにやられて
運ばれた病院だった。
あれ?私はその時に殉職したはず。
その後、なぜか異世界に転生して、
第2の人生でも苦労したはず。
看護師
『どうしたんですか?ボーっとして。』
アレヴィア
「…今は何年ですか?何月何日?」
看護師
『??●年、●月●日ですよ。』
日付は私が殉職した2日後だった。
アレヴィア
「ここの地名は?病院の名前は…?」
看護師
『●地方、●病院ですよ。』
『どうしたんですか?』
『たまに顔を合わせているというのに。』
前世の私は今よりずっと弱かった。
冒険者の依頼のたびにケガして、
この病院のお世話になっていた。
私は転生先の地名について、
看護師さんに尋ねてみた。
アレヴィア
「▲地方の▲病院は…。」
看護師
『…??それ、どこですか?』
アレヴィア
「こことそっくりな場所で…。」
看護師
『ごめんなさい、他国の地名には疎くて。』
『アレヴィアさん、やっぱりまだお身体が…。』
看護師さんは、
まるで心当たりがないという口ぶりで言った。
私はダメ元でヴァルネラのことを尋ねてみた。
アレヴィア
「ヴァルネラって子を知りませんか?」
「背格好は私と同じくらいで…。」
看護師
『この街では聞かないお名前ですね。』
アレヴィア
「冒険者組合で見かけたりしませんか?」
「かなりの使い手です。」
看護師
『聞かないですね。』
『アレヴィアさんの同年代ならすぐわかりそう。』
そりゃそうだよね。
ヴァルネラは現実の存在じゃない。
私の夢の中に出てきた”私自身”だから。
ということは…。
私が転生先で苦労した数年間も、
夢の中でのヴァルネラとの戦いも、
すべて夢?
アレヴィア
「あ、あはは…あはははははは!!」
ヴァルネラのやつ、
どれだけ複雑なことするの?
夢の中で夢を見せるなんて二重?三重?
看護師
『ア、アレヴィアさん?どこか痛いですか?』
『もう1度、治癒魔法を…(汗)』
アレヴィア
「…騒がしくしてごめんなさい。」
「大丈夫です、可笑しくてつい。」
看護師
『???』
ヴァルネラが見せた複雑な夢のおかげで、
私はようやくわかった。
私の人生が上手くいかなかったのは、
ずっと他人軸で”自分がなかった”から。
私を捨てた両親への憎しみや、
いじめっ子への復讐心で
剣と魔法を修得した。
けれど、そこには
「私がそれをやりたいから」
という動機がなかった。
それは”誰かにやらされていること”だ。
何事も私自身の強い動機があって
初めて上達していくもの。
そのために必要なのは
平凡で、弱くて、劣等感を持った
不完全な自分を受け入れること。
それに気づかせてくれたアイツは、
私のお礼も聞かずに去って行った。
まったくもう…。
お人好しなのはどっちよ?
アレヴィア
「退院したら何しようかな?」
「新しい剣技?新しい魔法?楽しみ!」
「冒険者もいいけど、他のこともやってみようかな?」
ヴァルネラ、ありがとね。
あなたにもらった”第2の人生”、
もう卑屈さや劣等感にまみれさせたりしないよ。
この先の人生、
負けや失敗、恥をかくことが怖くて、
尻込みすることはたくさんあると思う。
けれど、私はそこで
「何もしない」だけは選ばないようにするよ。
負けても、失敗しても、恥をかいても、
人生という決闘場に立ち続けるよ。
あなたの分まで
最高に楽しい人生にするからね!
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』全6話
『500年後の邂逅』全4話
『月の慈愛に護られて』全2話
⇒参考書籍
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2024年06月24日
【短編小説】『転生の決闘場(デュエルアリーナ)』4
⇒【第3話:前世との決戦】からの続き
<登場人物>
◎アレヴィア
主人公
街の組合から依頼を受ける冒険者
◎ヴァルネラ
アレヴィアの夢に出てくる少女
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第4話:悪夢からの贈り物】
<ある夜、アレヴィアの夢の中>
ヴァルネラの魔力で作り出された雷雲が、
静かに消えていった。
ヴァルネラ
『…完璧な不意打ちだと思ったけど。』
『…まさか避けるとはね。』
アレヴィア
「ハァ…ハァ…危なかった…!」
ヴァルネラ
『…これで決めるつもりだったのになぁ。』
アレヴィア
「…珍しいね?そんなに息を切らして。」
「あなたの実力なら、魔力を消費した内に入らないでしょ?」
ヴァルネラ
『…あはは、いつもならね。』
『…ハァ…けっこう消耗しちゃった…。』
アレヴィア
「…急にどうしたの?」
ヴァルネラ
『きみの夢、急に居心地が悪くなってさ…。』
アレヴィア
「…とんだクレーマーね。」
ヴァルネラ
『そう無下にしないでよ(苦笑)…何かした?』
アレヴィア
「何も。お生憎さまとしか言えない。」
ヴァルネラ
『せっかくのデートなのに、冷たいなぁ。』
アレヴィア
「私の安眠がかかってるの。」
「今度はこっちから行くよ!」
私は中級の雷魔法で弾幕を張りながら、
再びヴァルネラの懐へ突撃。
ありったけの力を込めた剣で、
彼女の剣をすり抜け、
バシッ!
ヴァルネラ
『うぅ…!』
私の峰打ちがヒット。
ヴァルネラはその場にうずくまった。
ヴァルネラ
『…どうして斬らなかったの…?』
アレヴィア
「…自分を斬りたい人なんて珍しいでしょ?」
ヴァルネラ
『まいったよ…。』
『ねぇ、1つ聞いてもいい?』
アレヴィア
「どうぞ。」
ヴァルネラ
『きみは1ヶ月間、剣と魔法の修練してないよね?』
アレヴィア
「ええ、一切してない。」
ヴァルネラ
『なのに、なぜこんなにレベルアップしたの?』
アレヴィア
「わからない。」
「ただ、抑圧してきた感情を吐き出しただけ。」
ヴァルネラ
『何かに吹っ切れたようだけど?』
アレヴィア
「ええ、吹っ切れた。」
「負け続きなのに、平凡を受け入れられなかった自分に。」
ヴァルネラ
『深いね、それはどういう意味?』
アレヴィア
「”こんなはずじゃなかった”」
「”本当はもっと強くて特別なはず”」
「私はそんなプライドや理想ばかり肥大化していた。」
「本当の私は平凡で、弱くて、劣等感の塊なのに。」
「そこから目を逸らして、他の何かのせいにしてきた。」
ヴァルネラ
『…で、そんな自分を直視しに行ってきた、と?」
アレヴィア
「ええ、そしてようやく受け入れられた。」
「”負け続きでも弱くても、そこに優劣なんかない”」
「”弱い自分でも生きていいんだ”って。」
ヴァルネラ
『…よく辿り着けたね。』
アレヴィア
「あなたがあれだけヒントをくれたからね。」
ヴァルネラ
『ヒント?』
アレヴィア
「私にさんざん言ってくれたじゃないの。」
「”自分自身から逃げたな?”って。」
「だから私、1ヶ月間向き合ってきた。」
「弱くて、他責思考で、劣等感から逃げてきた自分に。」
ヴァルネラ
『へぇ…やれば…できるじゃない…。』
ガクッ
ヴァルネラは力尽き、その場に倒れ込んだ。
私は彼女へ駆け寄り、抱きかかえた。
ヴァルネラ
『勝ったのに、敵の心配?』
アレヴィア
「何言ってるの、あなたは私自身なんでしょ?」
「放置なんてできない。」
ヴァルネラ
『あは…お人好しなんだから。』
アレヴィア
「ねぇヴァルネラ。」
「どうして手加減してくれたの?」
ヴァルネラ
『…気づいたの?』
アレヴィア
「そりゃ私だって冒険者の端くれだから。」
ヴァルネラ
『そっか…(…強くなったね…。)』
『決してきみを侮ったんじゃないよ?』
アレヴィア
「大丈夫、それも察してるから。」
ヴァルネラ
『あはは、お気遣いありがと。』
『きみには自力で成長してほしかったんだ。』
『あとは、きみの”伸びしろ”を伝えたかった。』
アレヴィア
「あなたは私のお母さん役?」
ヴァルネラ
『それもあるかなぁ。』
『あたしも前世には心残りがいっぱいあったから。』
アレヴィア
「ってことは、あなたは地縛霊か何か?」
ヴァルネラ
『東洋風に言うとね。』
アレヴィア
「伸びしろって…。」
「私、まだあんなに強くなれるの?」
ヴァルネラ
『そうだよ。』
『きみが自分にブレーキをかけているだけ。』
『逃避癖と卑屈さと、強い劣等感でね。』
アレヴィア
「…やっぱりね、今ならわかる。」
「”自分を縛るのは誰でもない自分自身の思考”ってこと。」
ヴァルネラ
『そういうこと!何事も捉え方次第よ!』
『あーあ…あたしも前世で気づけばよかったなぁ。』
アレヴィア
「後悔?」
ヴァルネラ
『そりゃね。』
『きみとはもう分離しちゃったけどさ。』
『こうしてあたし自身を苦しめることになったから。』
アレヴィア
「…1番痛かったのは寝不足よ。」
「目のクマ治すの大変だったんだからね(苦笑)」
ヴァルネラ
『ごめんって!』
『大丈夫、明日からぐっすり寝られるから。』
アレヴィア
「え…?それってどういう…。」
ヴァルネラ
『きみはもう大丈夫ってこと。』
『自分の力で人生を好転させていける。』
『そんな門出に悪夢は似合わないでしょ?』
アレヴィア
「悪夢…?いいえ、あなた本当は優しくて…!」
ヴァルネラ
『(ニコリ)…ホラ、きみを呼ぶ声がするよ。』
『そろそろ起きてあげなよ。』
アレヴィア
「待って!まだお礼が…!」
………!!
……。
⇒【第5話(最終話):人生という決闘場】へ続く