2024年02月20日
【短編小説】『500年後の邂逅』1
<登場人物>
◎リディアナ
♀主人公、20歳
母親エレから魔法の資質を受け継ぐ
◎エレ
♀リディアナの母親
街で1番の大魔法使い
◎ヴィンラック
♂40歳、とある村の守り人を務める
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第1話:時を超えるヒガンバナ】
ここは科学革命ではなく
「魔法革命」が起きた世界線。
革命以来、人間はわずか数百年で
次々に高度な魔法を発明しました。
ですが人間の凶暴な本性は
私たちの世界と変わりません。
違いは兵器か魔法か、それだけです。
人々の平和への願いもむなしく、
リディアナが住む街にも戦禍がやってきました。
彼女は大魔法使いの母親・エレとともに、
街の守備隊として侵略者へ対抗しました。
が、相手は兵数も魔法力も段違いでした。
リディアナたちは敗走に次ぐ敗走、
生き残った守備隊は散り散り…。
もはや、この街は陥落を待つばかり…?
ーーーーー
<西暦2140年>
エレ
『…ここも直に見つかってしまう…!』
『…守備隊のみんな…どうか無事でいて…!』
リディアナ
「お母さん!私はまだ戦えるよ…?」
「やられっぱなしなんてイヤ!」
「せめて一矢報いたいよ!」
リディアナは気丈に言いましたが、
魔力はほとんど残っていません。
さらに彼女は足首を負傷し、
立っているのもやっとでした。
エレ
『ふふ…強がっちゃって…。』
『さすが私の娘ね…。』
敵兵
『こっちだ!2人いたぞ!街の残党だ!』
ガレキの向こう側から、
侵略者たちの叫び声が聞こえました。
隠れていたリディアナとエレが
ついに敵兵に見つかってしまったのです。
エレ
『…(ニコリ)…ここまでね。』
『リディアナ、あなたを逃がすわ。』
エレは吹っ切れたように笑い、魔法の詠唱を始めました。
巨大な魔力がエレの全身を包んでいきました。
リディアナ
「まさか…その魔法…。」
「お母さん、習得できていたの…?!」
理論上は可能とされながら、
人類が未だに使用できていない魔法の1つが
「タイムスリップ」でした。
仮に習得できても、
人間にとって大き過ぎる魔力の負荷により、
使用者の命はもたないと言われていました…。
リディアナ
「ダメよ!お母さんの命が!」
エレ
『私を誰だと思ってるの?大魔法使い・エレよ?』
『これくらい何でもないわ。』
エレは娘そっくりに強がって見せました。
リディアナ
「お母さん…!痛ッ!」
リディアナは母を止めようとしましたが、
足首の傷がひどくて動けませんでした。
エレ
『あなただけでも…生き延びてちょうだい…。』
リディアナ
「イヤだよ!お別れなんて!」
リディアナは必死に叫びましたが、
魔力の光で何も見えなくなりました。
エレ
『…リディアナ、私の娘に生まれてくれてありがとう。』
(どうか平和な時代で、幸せに……。)
…………。
……。
ーーーーー
<とある村の外れ>
ヴィンラック
『…ん?草むらに誰か…。』
村の周辺を見回っていた青年・ヴィンラックは、
倒れているリディアナを見つけました。
ヴィンラック
『女の子…?ひどいケガだ!』
『息はある…早く村で手当てを!』
翌日。
リディアナ
「…んん…ここは…?」
ヴィンラック
『よかった…目を覚ました!』
リディアナ
「…あなたが手当てしてくれたんですか…?」
「あり、ありがとうございます…。」
ヴィンラック
『お礼は村のみんなに言ってくれ。』
『僕はきみを運ぶことしかできなかった。』
リディアナ
「村の…本当に助かりました…。」
「今すぐお礼に…痛ッ!」
リディアナは疲労と全身の痛みで
立てませんでした。
ヴィンラック
『今は無理しなくていい。』
『僕の名前はヴィンラック。』
『この村の守り人を務めている。きみは?』
リディアナ
「私はリディアナ。ここはどこ?」
ヴィンラック
『ここは…。』
ヴィンラックが口にした村の名前は、
リディアナが住んでいた街の”昔の名前”でした。
彼女が子どもの頃、
街の歴史の授業で習ったことがありました。
そして歴史の教科書の通りなら、村はこの後…。
リディアナ
(まさか私…本当に過去へ?!)
「ねぇ!今は西暦何年?」
ヴィンラック
『1640年だよ。』
『急に慌ててどうしたの?』
リディアナ
(ウソ…魔法革命が起きる100年も前…。)
リディアナは母親・エレのタイムスリップ魔法で、
500年前に来てしまったのです。
彼女はそれを悟った時、頭に母親の姿が浮かびました。
リディアナ
「そうだ…お母さんは…?」
ヴィンラック
『?お母さんと一緒にいたの?』
リディアナ
「ええ、倒れていたのは…私1人…?」
ヴィンラック
『そうだけど、よかったら事情を話してくれないかい?』
『どうしてこんな大ケガを?』
リディアナはヴィンラックに事情を説明しました。
彼女の故郷の街が侵略を受けたこと。
母親とともに戦い、敗れたこと。
母親は決死のタイムスリップ魔法で娘を逃がしたこと。
ヴィンラック
『そうか……辛かったね…。』
リディアナ
「信じてくれるの?」
ヴィンラック
『もちろん。』
リディアナ
「どうして?こんなの”おとぎ話”でしょう?!」
ヴィンラック
『そうかもしれない。』
リディアナ
「だったら、なぜ…?」
ヴィンラック
『経緯はどうあれ、今きみは傷ついてる。』
『それに、その涙はウソをついてるようには見えない。』
リディアナ
「涙…?」
ポロ、ポロ、
気づかないうちに、
リディアナの瞳から大粒の涙があふれていました。
リディアナ
「うぅ…お母さん…みんな…!」
「うわああああああああん!!」
リディアナはヴィンラックの胸で
ひとしきり泣きました。
ヴィンラックは何も言わず、
リディアナに寄り添いました。
ーー
数日後。
村長
『おーい、ヴィンラック。あの子は無事か?』
ヴィンラック
『村長、この通り無事ですよ。』
村長
『きみか、助かってよかったな。』
リディアナ
「助けてくれて本当にありがとうございます。」
「あの…失礼なことを聞きますが…。」
村長
『何だい?』
リディアナ
「村の皆さんはどうして私を疑わないんですか?」
「私がどこから来たのかとか、敵のスパイじゃないか、とか。」
リディアナの事情は、
ヴィンラックから村の人たちへ伝えられていました。
彼女が魔法を使えることも、
500年後の戦禍を逃れてきたことも。
村長
『きみは魔法が使えるのかい?すごいな。』
『そんな人はここらじゃヴィンラックぐらいだよ。』
魔法革命より以前、
魔法は誰でも使えるものではありませんでした。
一部の研究者や軍役に就く者が、
現代では初歩とされる魔法を身につける程度でした。
村長
『大変だったな…。』
『しかしタイムスリップとはおもしろい。』
『本当にできるなら体験してみたいものだ。』
リディアナ
「信じられません…よね…?」
村長
『確かに突飛な話だが、きみの眼を見ればわかる。』
リディアナ
「眼…?」
村長
『ウソをついていない眼だ。』
『少なくとも、誰も騙そうとしていない。』
こうして、
リディアナは寛大な村長の厚意もあり、
村の人たちと打ち解けました。
リディアナは自分を信じてくれたことを喜びつつも、
腑に落ちないことがありました。
彼女がこんなにあっさり受け入れられたのは、
村の人たちにとって”初めての経験ではない”から?
たとえば、以前にも誰かが
同じように村へやってきたことがあったら…?
なんてね、そんなわけないですよね。
タイムスリップ魔法を使える人間なんて、
500年後も”いない”ことになっているんですから。
⇒【第2話:娘に贈るペンダント】へ続く
⇒この小説のPV
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