2024年06月24日
【短編小説】『転生の決闘場(デュエルアリーナ)』4
⇒【第3話:前世との決戦】からの続き
<登場人物>
◎アレヴィア
主人公
街の組合から依頼を受ける冒険者
◎ヴァルネラ
アレヴィアの夢に出てくる少女
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【第4話:悪夢からの贈り物】
<ある夜、アレヴィアの夢の中>
ヴァルネラの魔力で作り出された雷雲が、
静かに消えていった。
ヴァルネラ
『…完璧な不意打ちだと思ったけど。』
『…まさか避けるとはね。』
アレヴィア
「ハァ…ハァ…危なかった…!」
ヴァルネラ
『…これで決めるつもりだったのになぁ。』
アレヴィア
「…珍しいね?そんなに息を切らして。」
「あなたの実力なら、魔力を消費した内に入らないでしょ?」
ヴァルネラ
『…あはは、いつもならね。』
『…ハァ…けっこう消耗しちゃった…。』
アレヴィア
「…急にどうしたの?」
ヴァルネラ
『きみの夢、急に居心地が悪くなってさ…。』
アレヴィア
「…とんだクレーマーね。」
ヴァルネラ
『そう無下にしないでよ(苦笑)…何かした?』
アレヴィア
「何も。お生憎さまとしか言えない。」
ヴァルネラ
『せっかくのデートなのに、冷たいなぁ。』
アレヴィア
「私の安眠がかかってるの。」
「今度はこっちから行くよ!」
私は中級の雷魔法で弾幕を張りながら、
再びヴァルネラの懐へ突撃。
ありったけの力を込めた剣で、
彼女の剣をすり抜け、
バシッ!
ヴァルネラ
『うぅ…!』
私の峰打ちがヒット。
ヴァルネラはその場にうずくまった。
ヴァルネラ
『…どうして斬らなかったの…?』
アレヴィア
「…自分を斬りたい人なんて珍しいでしょ?」
ヴァルネラ
『まいったよ…。』
『ねぇ、1つ聞いてもいい?』
アレヴィア
「どうぞ。」
ヴァルネラ
『きみは1ヶ月間、剣と魔法の修練してないよね?』
アレヴィア
「ええ、一切してない。」
ヴァルネラ
『なのに、なぜこんなにレベルアップしたの?』
アレヴィア
「わからない。」
「ただ、抑圧してきた感情を吐き出しただけ。」
ヴァルネラ
『何かに吹っ切れたようだけど?』
アレヴィア
「ええ、吹っ切れた。」
「負け続きなのに、平凡を受け入れられなかった自分に。」
ヴァルネラ
『深いね、それはどういう意味?』
アレヴィア
「”こんなはずじゃなかった”」
「”本当はもっと強くて特別なはず”」
「私はそんなプライドや理想ばかり肥大化していた。」
「本当の私は平凡で、弱くて、劣等感の塊なのに。」
「そこから目を逸らして、他の何かのせいにしてきた。」
ヴァルネラ
『…で、そんな自分を直視しに行ってきた、と?」
アレヴィア
「ええ、そしてようやく受け入れられた。」
「”負け続きでも弱くても、そこに優劣なんかない”」
「”弱い自分でも生きていいんだ”って。」
ヴァルネラ
『…よく辿り着けたね。』
アレヴィア
「あなたがあれだけヒントをくれたからね。」
ヴァルネラ
『ヒント?』
アレヴィア
「私にさんざん言ってくれたじゃないの。」
「”自分自身から逃げたな?”って。」
「だから私、1ヶ月間向き合ってきた。」
「弱くて、他責思考で、劣等感から逃げてきた自分に。」
ヴァルネラ
『へぇ…やれば…できるじゃない…。』
ガクッ
ヴァルネラは力尽き、その場に倒れ込んだ。
私は彼女へ駆け寄り、抱きかかえた。
ヴァルネラ
『勝ったのに、敵の心配?』
アレヴィア
「何言ってるの、あなたは私自身なんでしょ?」
「放置なんてできない。」
ヴァルネラ
『あは…お人好しなんだから。』
アレヴィア
「ねぇヴァルネラ。」
「どうして手加減してくれたの?」
ヴァルネラ
『…気づいたの?』
アレヴィア
「そりゃ私だって冒険者の端くれだから。」
ヴァルネラ
『そっか…(…強くなったね…。)』
『決してきみを侮ったんじゃないよ?』
アレヴィア
「大丈夫、それも察してるから。」
ヴァルネラ
『あはは、お気遣いありがと。』
『きみには自力で成長してほしかったんだ。』
『あとは、きみの”伸びしろ”を伝えたかった。』
アレヴィア
「あなたは私のお母さん役?」
ヴァルネラ
『それもあるかなぁ。』
『あたしも前世には心残りがいっぱいあったから。』
アレヴィア
「ってことは、あなたは地縛霊か何か?」
ヴァルネラ
『東洋風に言うとね。』
アレヴィア
「伸びしろって…。」
「私、まだあんなに強くなれるの?」
ヴァルネラ
『そうだよ。』
『きみが自分にブレーキをかけているだけ。』
『逃避癖と卑屈さと、強い劣等感でね。』
アレヴィア
「…やっぱりね、今ならわかる。」
「”自分を縛るのは誰でもない自分自身の思考”ってこと。」
ヴァルネラ
『そういうこと!何事も捉え方次第よ!』
『あーあ…あたしも前世で気づけばよかったなぁ。』
アレヴィア
「後悔?」
ヴァルネラ
『そりゃね。』
『きみとはもう分離しちゃったけどさ。』
『こうしてあたし自身を苦しめることになったから。』
アレヴィア
「…1番痛かったのは寝不足よ。」
「目のクマ治すの大変だったんだからね(苦笑)」
ヴァルネラ
『ごめんって!』
『大丈夫、明日からぐっすり寝られるから。』
アレヴィア
「え…?それってどういう…。」
ヴァルネラ
『きみはもう大丈夫ってこと。』
『自分の力で人生を好転させていける。』
『そんな門出に悪夢は似合わないでしょ?』
アレヴィア
「悪夢…?いいえ、あなた本当は優しくて…!」
ヴァルネラ
『(ニコリ)…ホラ、きみを呼ぶ声がするよ。』
『そろそろ起きてあげなよ。』
アレヴィア
「待って!まだお礼が…!」
………!!
……。
⇒【第5話(最終話):人生という決闘場】へ続く
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