2024年07月04日
【短編小説】『反出生と翠玉の血』2 -最終話-
⇒【第1話:鮮紅から翠玉へ】からの続き
<登場人物>
・冷泉 希望来(れいせん みくる)
主人公、とある名家「冷泉家」の末裔
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【第2話(最終話):すべて洗い流して】
冷泉家当主
『探したぞ希望来、さぁ帰ろう。』
『こんな雨の中にいたら風邪をひく。』
希望来
「…よりにもよって、寸前で…!」
私はあと少しのところで、
追っ手に見つかってしまった。
希望来
「(ガクガク…)…あと3分もないよ?」
「今さら私を捕まえたって…。」
冷泉家当主
『何もできないと?』
『そうでもないんだよ。』
希望来
「…どういうこと?」
冷泉家当主
『知っての通り、ウチはアンドロイド研究の大口スポンサーだ。』
希望来
「数年前のスキャンダルで発言権を失ったんじゃ…?」
冷泉家当主
『そんなこともあったかな?』
『まぁ、金の力を侮らないことだ。』
希望来
「…もみ消したの?」
冷泉家当主
『さぁな。』
『ところで”もう3分もない”と言ったか?』
希望来
「ええ、もうすぐ私は”子孫を残せない身体”になれるの。」
冷泉家当主
『深緑色の血か…。』
『その色を見るに、ウソではないようだ。』
希望来
「だから私を捕まえてもムダ…。」
冷泉家当主
『だと思うか?』
希望来
「?!」
冷泉家当主
『人間からアンドロイドへの改造。』
『これができるなら”戻に戻せるはず”とは思わないか?』
希望来
「まさか…?」
ニヤリ
冷泉家当主
『あと5分も5年も関係ないんだ。』
『お前が生きてさえいればいい。』
希望来
「そんな…。」
「私は子孫を残す運命から逃げられないの…?」
冷泉家当主
『私にはかわいい姪のお前が必要なんだ。』
『この親心がなぜわからない?』
希望来
「どうしてよ…?!」
「どうしてそこまで家系の存続なんかにこだわるの?!」
「これまで散々、不幸な人を生み出してきて!!」
「未来まで続ける気?!」
冷泉家当主
『何を後ろ向きなことを。』
『生まれさえすれば幸せになれる可能性がある。』
『その芽を摘んでしまう方が不幸だと思わないか?』
希望来
「じゃあ叔父さんは幸せなの…?!」
冷泉家当主
『もちろんだ。』
『名声、力、金…愚民どもを思い通りに動かせる。』
『冷泉家が続くからこその幸せじゃないか。』
希望来
「…権力に取り憑かれたモンスターめ…!!」
冷泉家当主
『お前こそ”反出生主義”にかぶれ過ぎだ。』
『まずはそこから再教育せねば。』
ガシッ!
希望来
「離して!!離してよ!!」
私が叔父の側近2人に腕を掴まれた、
その時、
ドクン
希望来
(…何…?急に心臓が…。)
残り0分。
私の傷口からにじみ出る血が、
完全に青色になった。
私の身体のアンドロイド化が完了したのだ。
私は、叔父の側近たちに
掴まれていた両腕を軽く動かした。
ドサッ
ドサッ
2人の大男が、私の後ろへ吹き飛んだ。
冷泉家当主
『…?!…お前のどこにそんな力が…!』
ドクン
ドクン
叔父のうろたえる声が、
私の耳に入ってきた。
私の心には、
心臓の鼓動だけが聞こえてきた。
カツン
カツン
私は静かに叔父へ歩み寄った。
その時、
今まで鳴りを潜めていた雨が、
ドザァァァァァァァ!!!
………。
ーー
翌朝。
夜半まで降り続いた雨が止み、
雨上がりに特有の空気が漂っていた。
照りつける朝日が、
まだ残る湿気でぼやけて見えた。
アスファルトの地面は
乾き始めていた。
雨はきれいで残酷だ。
何もかも洗い流してしまうんだから。
昨夜、
この場所に傷だらけの少女が
うずくまっていたことも。
「あと5分」を心待ちにしながら、
希望と絶望に翻弄されたことも。
彼女の傷口から滴り落ちた
エメラルドグリーンの血も、青い血も。
その中に、
彼女のものではない”赤い血”が
混じっていたかもしれないことも。
「子孫を残すことは幸せなの?」
「不幸の再生産なの?」
「家系断絶は悪なの?」
「それとも不幸の連鎖の終焉なの?」
雨の残り香は、何も答えてはくれなかった。
ーーーーーENDーーーーー
※本作は過去作品『反出生の青き幸』の後日譚です
⇒参考書籍
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