2024年06月29日
【短編小説】『哀別の贈り物(パートギフト)』3 -最終話-
⇒【第2話:黒緋の魔法戦】からの続き
<登場人物>
・メイレ
主人公
類まれな美貌と戦闘センスを持って生まれた
・イーラ
メイレの母親
・ゼレシア
魔族軍の幹部
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【第3話:憎しみの克服】
ゼレシア
『メイレ!止めろ!!』
ガシッ!
メイレの炎がイーラに届く寸前で、
軍服の男がメイレの腕を掴みました。
メイレ
『……お兄さん…?どうしてここに?』
ゼレシア
『こうなる予感がしていた。』
『母親への贈り物の話を聞いた時からな。』
メイレ
『お兄さん、手を離してよ!』
『コイツは私の人生を狂わせたの!』
『私の手で…!』
ゼレシア
『早まった行動は抑えると言っただろう?』
メイレ
『言ったけど…!』
ゼレシア
『…母親の赤黒い炎は怖かったか?』
メイレ
『怖かった…。』
ゼレシア
『今、自分がまとっている炎は何色だ?』
メイレ
『何色って、私が操れるのは青白い炎だけ…。』
『?!!…あ…赤黒い……。』
ゼレシア
『…母親の炎から伝わった感情は?』
メイレ
『怒り、憎しみ、嫉妬…。』
ゼレシア
『ああなりたいか?』
メイレ
『なりたくない…。』
ゼレシア
『憎しみに任せて母親を討ち取ったら…。』
『メイレも母親と同じになるぞ?』
メイレ
『私も…お母さまと…同じ…?』
ガクッ
メイレは膝から崩れ落ちました。
ゼレシアはメイレを支えながら、
イーラにこう言いました。
ゼレシア
『母上どの。』
『あなたに娘の幸せを願う気持ちが少しでもあるなら…。』
『どうかこの子に関わらないでやってほしい。』
イーラはメイレに討たれる恐怖で
腰が抜けていました。
イーラ
『(ガクガク…)…わかり…ました…。』
ゼレシア
『ここで拾った命を大切に、今後を生きてくれ。』
『では失礼する。』
ゼレシアは、
茫然自失となったメイレを連れて立ち去りました。
戦場には、まだ少し煙が残っていました。
1人残されたイーラは、
激しい自責の念に襲われました。
醜い嫉妬心、安いプライド。
他人と比べることでしか
自分の価値を確認できないほどの
自己肯定感の低さ。
心の過剰防衛の果てに娘を捨て、
娘に見捨てられ、独りぼっちに…。
イーラ
『あ…あぁぁ…ああああああぁぁ!!』
怒りとも悲しみとも似つかない悲鳴が、
まだ残る煙を切り裂きました。
ーー
<数年後、魔族軍本部>
メイレ
『ゼレシア様、また1人で敵情視察ですか?』
『前線部隊へ一報も入れずに。』
ゼレシア
『敵の偵察部隊の動きを察知したのでな。』
『全員へ伝達していては遅いと踏んだ。』
メイレ
『それはありがたいですが…。』
ゼレシア
『何だ?煮え切らないな。』
メイレ
『毎度、私の仕事を増やさないでください。』
『前線部隊から苦情が来てるんです。』
ゼレシア
『苦情?』
メイレ
『”側近の管理はどうなってるんだ?”』
『”しっかりあの人の手綱を引いてくれ”って。』
ゼレシア
『ははは、すまない。』
『それにしてもスピード出世だな。』
『入隊から数年で側近まで昇進するとは。』
メイレ
『ゼレシア様こそ、幹部からトップになったでしょう?』
ゼレシア
『私はただのお飾りだ。』
『メイレこそ実力だろう?』
メイレ
『…私がここにいられるのは…。』
『あの時拾われた”運の良さ”ですね。』
ゼレシア
『それは嬉しいな(笑)』
『優秀で助かっているが、内勤は性に合わないか?』
『元の部隊へ戻すよう、人事部へ掛け合うぞ?』
メイレ
『いえ、私は戦いが好きではないので。』
『”胃痛”と戦う方がまだ楽ですわ。』
ゼレシア
『耳が痛いな(苦笑)』
『今後のスケジュールは?』
メイレ
『3日後に人間族の国との会合です。』
『うまくいけば和平締結できるでしょう。』
ゼレシア
『これで残すは例の軍事大国だけか。』
『皆で手を取り合って仲良く、とは難しいものだな…。』
人間族の世界で
有数の力を持つ軍事大国がありました。
その国は唯一、
魔族の国との和平締結を拒否し、
同国への侵攻を繰り返していました…。
メイレ
『ねぇ、”お兄さん”?』
ゼレシア
『ん?』
メイレ
『もし人間族のすべての国と和平を結んでも…。』
『親子のいさかいはなくならないのかな…?』
ゼレシア
『…そうだな…。』
『それは魔族も人間族も関係なく起きるだろう…。』
メイレ
『じゃあ…意味があるのかな?』
『私たちが目指していることに。』
『私みたいな思いをする子はいなくならないの?』
ゼレシア
『悲しいが、そうだろうな。』
『だが平和に暮らせれば心に余裕が生まれる。』
『そうすれば他者に愛情を持って接する者が増えるだろう。』
メイレ
『…私、1人でも減らしたい。』
『お母さまに捨てられる子も。』
『人生を嫉妬に支配される子も。』
ゼレシア
『私もあんな争いの仲裁はこりごりだ。』
メイレ
『お兄さん…その、ありがとね。』
『あの時も、今も。』
ゼレシア
『私がおせっかいなだけだ。』
『気にしなくていい。』
メイレ
『せっかく救ってもらったんだもん。』
『私にできることをするよ。』
『もう…見たくないんだ。』
『母親に「お別れの品(パートギフト)」を贈る子の涙なんてね。』
⇒他作品『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』へ続く
ーーーーーENDーーーーー
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