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2024年05月27日

【短編小説】『ぬくもりを諦める病』7

【MMD】Novel AichakuSyogai SamuneSmall2.png

【MMD】Novel AichakuSyogai CharacterSmall1.png

【第6話:愛情飢餓の連鎖】からの続き

【登場人物】
深山 愛祈琉(みやま あいる)
 23歳、深山 元香の一人娘

<西田家4姉弟>
 ◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
  西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親

 ◎西田 伸貴(にしだ しんき)
  西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意

 ◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
  西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる

 ◎西田 智里(にしだ ちさと)
  西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第7話:かわいい姪と、叔父と兄】



叔母のちーちゃん(智里さん)は
深夜から早朝6時まで
修児くんの話をしてくれたよ。

智里
『ふあ…つい夢中でしゃべっちゃった…。』
『さすがに仮眠するわ…。』
『朝食は7時30分だっけ?』


愛祈琉
『うん、ちーちゃん、明け方までありがと。』


智里
『また聞きたいことあったら言ってね。』


愛祈琉
『わかった、おやすみ。』




ちーちゃんが仮眠に行くのと入れ替わりで、
伸貴くんが起きてきたよ。

伸貴
『愛祈琉、早起きだな。徹夜か?』


愛祈琉
『少し寝た。』


伸貴
『あんまり無理するなよ?』


愛祈琉
『ありがと。ねぇ伸貴くん?』
『修児くんのこと聞いてもいい?』


伸貴
『おう。』


愛祈琉
『伸貴くん、修児くんと仲良かったんでしょ?』


伸貴
『まぁな。』


愛祈琉
『どんな感じだったの?』


伸貴
『どうって、つるんでただけ。』


愛祈琉
『どんなことを話したの?』


伸貴
『特に何も。』


愛祈琉
『修児くんが村の人から疎まれていたって本当?』


伸貴
『あーいうヤツだからな。』
『誤解され易いんだ。』


愛祈琉
『伸貴くんが庇ったって聞いたよ。』


伸貴
『庇ったってのは大げさだが、まぁそうだな。』


愛祈琉
『修児くん、救われたかな…。』


伸貴
『そうだといいな。』
『村の連中は表面しか見ない。』
『オレや修児が何を考えてるか想像すらしない。』


愛祈琉
『”壊す弟、直す兄”って呼ばれてたのは本当?』


伸貴
『ああ、修児は問題児、オレは優等生だそうだ。』
『本当はそんなことなくて、オレたちは同じ。』
『自分をごまかす方法が…。』



『”壊す”か”直す”か、それだけの違いだ。』




愛祈琉
『やっぱり寂しさの裏返し?』


伸貴
『だろうな。』
『口には出さないが、寂しさはあったよ。』
『父さんも母さんもめったに帰って来ない。』
『ばーちゃんはオレたちの心を見ようとしない。』


愛祈琉
『どうして今、私に話してくれたの?』


伸貴
『愛祈琉が修児の気持ちに気づいてくれたからだ。』
『小さい頃からずっとな。』


愛祈琉
『なんとなく…修児くん寂しそうって思ってた。』


伸貴
『修児を見て、そう解釈できるヤツはまずいない。』
『それに気づける愛祈琉になら話してもいいと思った。』
『ずっとアイツに寄り添ってくれた愛祈琉なら…な。』


愛祈琉
『私、修児くんのかわいい姪でいられたかな…?』


伸貴
『修児に聞いてみるか。』




伸貴くんは立ち上がって、
修児くんの棺へ近づいて行ったよ。

私も後をついて、
修児くんの棺ごしに顔を覗き込んだよ。

伸貴
『なぁ修児、寝心地はどうだ?』
『愛祈琉が心配してるぞ?』
『かわいい姪かどうか、だってよ。』


愛祈琉
『ちょっと伸貴くん!直接言わないでよ!』
『恥ずかしいから…。』


伸貴
『愛祈琉、聞こえたか?』
『修児の言葉。』


愛祈琉
『…え…?』


伸貴
『”当たり前だろ!言わせるなよ!”ってよ。』
『アイツ、やっぱり素直じゃないな。』


愛祈琉
『あ…。』




ポロ、ポロ、



昨夜の通夜では出なかった涙が、
私の目から溢れてきたよ。

愛祈琉
『修児くん…痛かったよね…?』
『寂しかったよね?辛かったよね…?』


ポロ、ポロ、

愛祈琉
『私の人生の3倍近く…寂しさの痛みに耐えて…。』


伸貴
『……。』


愛祈琉
『修児くんは幸せだった?』
『私、修児くんを少しでも救えてた?』


ポロ、ポロ、

愛祈琉
『修児くん…お別れなんてイヤだよ…!』
『早すぎるよ…!』

『また私の髪をくしゃくしゃにしてよ…!』
『また一緒に雪かきしようよ…!』

『修児くん…うわあああああああん!!!』


伸貴くんは何も言わず、
私にハンカチを差し出してくれたよ。

私は涙でぐしゃぐしゃで見えなかったけど、
伸貴くんの目にも涙が浮かんでいたと思う。



【第8話(最終話):私で最後にするからね】へ続く

2024年05月24日

【短編小説】『ぬくもりを諦める病』6

【MMD】Novel AichakuSyogai SamuneSmall2.png

【MMD】Novel AichakuSyogai CharacterSmall1.png

【第5話:お母さんと2人きり】からの続き

【登場人物】
深山 愛祈琉(みやま あいる)
 23歳、深山 元香の一人娘

<西田家4姉弟>
 ◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
  西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親

 ◎西田 伸貴(にしだ しんき)
  西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意

 ◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
  西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる

 ◎西田 智里(にしだ ちさと)
  西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第6話:愛情飢餓の連鎖】



<現在>

修児くんはどうして
あんなに寂しさを隠すんだろう?

どうして私のお母さんも西田家の人たちも、
あんなに冷めているんだろう?

それが「幼少期の愛情不足」から
来ていることには気づいたけど、
名前はないのかな?

1人の人生を左右するほど
巨大な敵の名前…。

私がその答えを探して
本屋さんをうろうろしていると、
1冊の本が目に飛び込んできたよ。

特に印象的だった言葉は、

愛祈琉
『”愛着障害”?』


初めて知った言葉だけど、
私は『これだ!』って思ったよ。



 -『愛着障害』-

 幼少期の養育者との
 情緒的な関わりやスキンシップの不足で、
 基本的な信頼感が育たなかった状態

 「不安型」⇒人に過度に依存しがち
 「回避型」⇒親密な関係を拒絶しがち

 どちらも3歳頃までに
 「見捨てられ不安」
 「私は誰にも愛されない」
 と強く感じてしまったことが主な原因



愛祈琉
『愛着障害の…回避型…。』
『これだ!修児くんも、お母さんも。』


私の中で、
修児くんや西田家の人たちの言動が
急速につながっていったよ。

ひいおばあちゃんは
孫を独占したとか言われていたけど、
本当はどうだったかなんてわからない。

当時の家庭事情なんて、
生まれていなかった私には
想像することしかできないよ。

けれど、西田の4姉弟は成長の過程で
こう思う出来事が重なったんじゃないかな。

『誰も”素の自分”を受け入れてくれない』
『自分を作り出した親さえも…』


誰も守ってくれないから、
自分の心は自分で守るしかない。

親にさえ期待できないから、
情緒的なかかわりを『回避』する。


西田のみんなはそうやって
心を閉ざしていったんだろうね…。


ーー


『愛着障害』

ようやく修児くんが
戦ってきた敵の名前がわかった矢先に、
お母さんから1通のメッセージが届いたよ。

元香
『修児が亡くなりました。』
『葬儀は○月○日、時間は…。』


私は覚悟していたよ。
修児くんの命がそろそろ尽きること。

けどさ…こんなのってないよ…。

私には、修児くんが不幸だったなんて
決めつける権利はない。

わかっていても、
修児くんの胸の内を想像したら、
苦しさで息ができなくなりそうになるよ。

私は時々ね、寂しくて悲しくて
破裂しちゃいそうになるの。

私は23歳だから、
まだ23年間しかその気持ちに耐えていない。

けれど、修児くんは私の3倍近い年月を、
その苦しみに耐えてきたんだよ。

姪の世話ばかり焼いている余裕なんて
ないはずなのに…。


修児くん、我慢し過ぎだよ…。


ーー


修児くんの葬儀は、
淡々と進んでいったよ。

葬儀屋さんも、
いつも通りの形式的な業務って感じ。

そういう商売だから仕方ないよ。
わかっていても、やるせない気持ちになったよ。

この世界では、
『人の臨終さえ流れ作業の1つ』なんだから…。




葬儀屋さんが退出して、
通夜が始まったよ。

今は誰かが夜通し
ろうそくの番をする必要はないけど、
棺の部屋には誰かしら残っていたよ。

親戚のみんなは疲れて寝ちゃったけど、
末っ子のちーちゃん(智里さん)だけは
ずっと残っていたよ。

ちーちゃんは親族で唯一、
病院で修児くんを看取った人。



愛祈琉
『ねぇ、ちーちゃん。』


智里
『愛祈琉、起きてたの?』


愛祈琉
『うん。』


智里
『私がいるから寝ていいよ?』


愛祈琉
『修児くんの話が聞きたいの。』


智里
『いいよ、いつの話?』


愛祈琉
『…修児くんの最期。』
『どうだったか聞いてもいい?』


智里
『…アイツさ、入院してから毎日…。』


愛祈琉
『毎日?』


智里
『私や姉貴、愛祈琉の心配ばかりしてさ…。』


愛祈琉
『やっぱり…。』


智里
『去年、愛祈琉が里帰りしてくれたじゃない?』
『あのときの修児の様子、覚えてる?』


愛祈琉
『うん、無理して雪かきしてた。』
『痛みを隠して私やおばあちゃんと話してた。』


智里
『病室の修児も、そのときとおんなじだったよ。』


愛祈琉
(…修児くんのバカ……。)
『修児くん、苦しそうだった?』


智里
『…いいえ、私には…。』
『修児がとっても幸せそうに見えたよ。』


愛祈琉
『幸せ?』


智里
『お母ちゃんの耳が遠くなって困ったとか。』
『愛祈琉が雪かきを手伝ったくれたとか。』
『すごく嬉しそうに話していたよ。』


愛祈琉
『よかった…。』
『修児くん、やっと”自分の話”をしたんだね。』


智里
『そうね、やっとね。』


愛祈琉
『最期の日のこと、聞いてもいい?』


智里
『最期の日…。』
『私が病室に着いた時にはもう意識がなかったの。』


愛祈琉
『…。』


智里
『いよいよって時にね。』
『私は思いきり手を握ったら…。』



『意識がないはずの修児が涙を流したの…。』



『少し笑ったようにも見えた。』
『その瞬間…心電図が…。』




ピッ、ピッ、ピッ、

ピーーーーーーーーーーーーーー



愛祈琉
『子どもの頃の修児くんってさ。』
『本当に嫌われていたの?』


智里
『どうだろうね。』
『悪ガキだったのは間違いないね(苦笑)』


愛祈琉
『修児くんが壊して、伸貴くんが直してたんでしょ?』


智里
『そうそう(笑)』
『ただ、ひいおばあちゃんがね。』
『亡くなる前にこんなことを漏らしていたの。』

『”私は修児に申し訳ないことをした”』
『”修児にとって良い祖母でいられなかった”』
『”修児から親を奪った私は恨まれて当然だ”って。』


愛祈琉
『…ひいおばあちゃんも寂しかったのかな…。』


智里
『だろうね。聞いたことあるでしょ?』
『昔の嫁は姑にイビられるのが当たり前だったって。』


愛祈琉
『うん。』


智里
『たぶん、ひいばあちゃんもそう。』
『そんな人生への復讐というか、反動というか。』
『もう支配されたくないあまりの独占欲…かもね。』



ーー


”愛着障害”は世代を超えて連鎖するらしいよ。

親からの愛情不足で育った子が親になって、
人に与えられるだけの愛情を持っていなくて。


子どもへの愛情の注ぎ方がわからなくて、
子どもが愛情不足のまま育って。

またその子が親になって、
というふうに。

始まりはおばあちゃんの、
そのまたおばあちゃんの…って、
一体いつまでさかのぼるのかわからない。

誰かが気づいて断ち切らない限り、
子々孫々と続いていくんだよ。

どうしようもなく寂しくて悲しくて、
胸が破裂しそうになる、この病。

インチキな自己肯定感でごまかしても、
心の底で『自分は誰にも抱きしめられない』と
泣き続ける。


それが『愛着障害』という病。



【第7話:かわいい姪と、叔父と兄】へ続く

2024年05月21日

【短編小説】『ぬくもりを諦める病』5

【MMD】Novel AichakuSyogai SamuneSmall2.png

【MMD】Novel AichakuSyogai CharacterSmall1.png

【第4話:誰にも見せないと決めた】からの続き

【登場人物】
深山 愛祈琉(みやま あいる)
 23歳、深山 元香の一人娘

<西田家4姉弟>
 ◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
  西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親

 ◎西田 伸貴(にしだ しんき)
  西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意

 ◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
  西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる

 ◎西田 智里(にしだ ちさと)
  西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第5話:お母さんと2人きり】




<1年前、愛祈琉のアパート>

プルルルル、ピッ

愛祈琉
『お母さん?どうしたの?』


元香
『…修児、退院したから。』


愛祈琉
『ほんと?修児くん、今はどこにいるの?』


元香
『…西田の実家。』


愛祈琉
『…私も帰省して大丈夫?』


元香
『…たぶん。』


愛祈琉
『お母さんも行こうよ。』


元香
『…連休取れてから。』


愛祈琉
『わかった…今回は私1人で行くよ。』


このとき、私は大学4年生の冬休み。

私は急いで列車を手配して、
お母さんや修児くんの実家がある
農村へ向かったよ。


西田の実家は
おじいちゃんが亡くなって、
今はおばあちゃん1人。

村内に伸貴くんと、
末っ子の智里さんが住んでいて、
たまに実家の手伝いに行っていたよ。




村は豪雪地帯の山の中だから、
冬はすごく冷えるし、雪は何メートルも積もるよ。

放っておくと道路も庭も埋まっちゃう。
雪かきは毎日しないと外へ出られなくなるよ。

私、実家に帰った修児くんを見て驚いたの。

修児くんが毎日、
何度も雪かきをしていたから。


前より痩せていたし、
薬物の痛みが強いはずなのに、
平気なフリをしてね…。

で、私も雪かきを手伝うんだけど、

修児
「愛祈琉、そろそろ上がっていいぞ。」


愛祈琉
『もういいの?』


修児
「ああ、手伝ってくれてありがとな。」


愛祈琉
『どういたしまして。』


修児
「ちょっと行ってくるわ。」


愛祈琉
『どこに?』


修児
「智里の家に届け物。」


愛祈琉
『ちーちゃんの家?』
『私も付いて行っていい?』


修児
「おう、長靴に履き替えて来いよ。」
「雪に埋まっちまうぞ。」


愛祈琉
『わかった。』




修児くんは午後の雪かきの後、
散歩がてら智里さんの家に行くのが
日課なんだって。

智里さんは私の叔母だけど、
まわりが「ちーちゃん」って呼んでいたから、
私もそう呼んでいるよ。

智里
『今日もありがとね、修児。』


修児
「おう。」


智里
『愛祈琉も来てたんだ。』


愛祈琉
『うん、大学は冬休み中。』


智里
『楽しんで行きなよ。』
『めったに来られないんでしょ?』


愛祈琉
『うん、まぁ…。』


智里
『お母ちゃんに届けものあるわ。』
『ちょっと待ってて。』


修児
「わかった。」




一旦、智里さんの玄関を閉めた修児くんは、
そのまま智里さんの家の雪かきを始めたよ。


私も手伝おうとしたけど、

修児
「愛祈琉は休んでていいぞ。」
「さっきの雪かきで疲れただろ?」


愛祈琉
『修児くんだって…。』


修児
「オレは慣れてるから大丈夫。」


ガチャ

智里
『修児、ウチの分の雪かきまでしなくていいって。』


修児
『そうか?』


智里
『まったく…無理ばっかりして…。』
『これ、お母ちゃんに届けてね。』


修児
「おう。」


智里
『愛祈琉、修児をよろしくね。』


愛祈琉
『うん。』


修児くんは実家に帰ってきても変わらない。
やっぱり自分のことはそっちのけ。

人の心配ばっかりして、
人の役に立とうとしていたよ。



私のおばあちゃん、
修児くんにとってのお母ちゃんは、
耳がけっこう遠くなっていたよ。

認知症も始まっていたから、
修児くんとの会話が嚙み合ってなかったよ。

修児くんが何度も伝えようとして、
おばあちゃんが聞き返して、
ようやく伝わって、ぐったりして…。

これ、一見すごく苦労しているようで、
2人にとって幸せな時間だったと思う。

修児くんが幼い頃から欲しくて仕方なかった
「お母さんと2人きりの時間」だもん。


おばあちゃんも修児くんも、
きっともう長くないよ。

それでも、

母親は記憶が霞むようになって、
息子は胸に点滴を刺すようになって、

やっと手に入れた幸せだったんだ…。



【第6話:愛情飢餓の連鎖】へ続く

2024年05月18日

【短編小説】『ぬくもりを諦める病』4

【MMD】Novel AichakuSyogai SamuneSmall2.png

【MMD】Novel AichakuSyogai CharacterSmall1.png

【第3話:閉じ込められた悲鳴】からの続き

【登場人物】
深山 愛祈琉(みやま あいる)
 23歳、深山 元香の一人娘

<西田家4姉弟>
 ◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
  西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親

 ◎西田 伸貴(にしだ しんき)
  西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意

 ◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
  西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる

 ◎西田 智里(にしだ ちさと)
  西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
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【第4話:誰にも見せないと決めた】



<4年前、愛祈琉のアパート>

プルルルル、

愛祈琉
『通話…お母さんから?』


ピッ

愛祈琉
『…もしもし、お母さん?どうしたの?』


元香
『…愛祈琉、修児のお見舞い、行ってあげて。』


愛祈琉
『お見舞い?修児くんどうしたの?』
『まさか、また転落事故でケガ…?』


元香
『…修児、ガンで入院したの。』


愛祈琉
『えぇ?!』


元香
『…私は今日、仕事で行けないから。』


愛祈琉
『待って!何で修児くんがガンに…?!』


元香
『…じゃあ。』


プツン

私が大学生のとき、
お母さんが突然そんな連絡をしてきたの。

あまりに急だったからびっくりした…。

このとき私は一人暮らしをしていて、
お母さんと疎遠になっていたよ。

西田家の実家に帰省することも減って、
修児くんともほとんど会ってなかったの。



私は慌てて
修児くんが入院している病院へ行ったよ。

受付で「修児くんの親戚です」って伝えたら、
病室に案内してくれたよ。

面会謝絶になってなくてよかった…。

私は病院の階段を上って、
2階の修児くんの病室へ入ったら、

修児
「よう愛祈琉!久しぶりだな!」
「来てくれてありがとな!」


愛祈琉
『…修児くん久しぶり。』
(あれ?…意外と元気そう…?)


ベッドで読書をしていた修児くんは、
私を笑顔で迎えてくれたよ。

身体には移動式の点滴のチューブを付けて、
以前より少し痩せていたよ。

修児
「ロビー行くか。」
「飲み物でも買ってやるよ。」


愛祈琉
『動いて大丈夫なの?』


修児
「大丈夫。」


修児くんは
移動式の点滴を手で押しながら、
私をロビーへ連れて行ったよ。



修児
「大学はどうだ?楽しいか?」


愛祈琉
『うん、楽しい。』


修児
「どんなサークルに入ったんだ?」


愛祈琉
『まだ迷ってて…。』


修児
「そうか、楽しければ何でもいいよな。」
「大学ではどんな研究をしているんだ?」


愛祈琉
『えっとね、この分野を専攻していて…。』


修児
「そうか、一人暮らしには慣れたか?」


愛祈琉
『何とか。』


修児
「カゼひいたりしてないか?」


愛祈琉
『大丈夫だよ。』


修児くんはね、
自分のことはそっちのけで
人の心配ばっかりするんだ。

私には修児くんの病状を
聞けるはずなかったけど、
もし聞いても「大丈夫」って言うだろうね。

婚約破棄されて、
転落事故で記憶喪失になったときでさえ、
今と同じ笑顔を作ろうとする人だもん。




愛祈琉
『そろそろ帰るね。』
『修児くん、お大事に。』


修児
「おう!愛祈琉もちゃんとメシ食えよ?」


愛祈琉
『ありがと。』


修児
「そうだ、コレ持ってけ。」


愛祈琉
『これ、修児くんのドリンクじゃん。』


修児
「オレはたくさんもらったからな。」
「こんなに飲み切れないのに姉貴のヤツが…。」


愛祈琉
『お母さんが差し入れてるの?』


修児
「姉貴と…智里も大量に持って来たな。」
「おかげで冷蔵庫がパンパンだ。」


愛祈琉
『お見舞いに来た私がもらってどうするの(苦笑)』


修児
「そんなお見舞いもいいだろ?」
「在庫整理だ、持ってけ。」


こうして、
私は修児くんのお見舞いに行くたびに
大量のドリンクをもらって帰ることになったよ…。


ーー


プルルルル、ピッ

元香
『…愛祈琉、何?』


愛祈琉
『…修児くんのお見舞いに行ってきた。』


元香
『…そう。』


愛祈琉
『修児くん、大丈夫だよね?治るよね…?』


元香
『…ステージ4。』


愛祈琉
『…ステージ……4…?』


つまり、修児くんはもう長くは…。

愛祈琉
『もっと早く見つけられなかったの?』


元香
『…アイツ、何も言わなかったから。』


愛祈琉
『平然としてたの…?』


元香
『…ええ、ヤセ我慢。』
『この前、職場で倒れて、ようやく見つかったの。』


愛祈琉
『修児くん…どうしてガンになっちゃったの?』


元香
『…たぶん、長年の不摂生。』


愛祈琉
『あ…。』


私が中学生のときに訪れた、
修児くんの散らかった部屋。

缶ビールの空き缶や、
灰皿からはみ出たタバコの吸い殻…。

修児くんは収入が不安定で、婚約破棄されて、
二日酔いで出勤してケガを繰り返して…。

そうやって自分を痛めつけて、
ついに身体が悲鳴をあげた…ってことだよね。




愛祈琉
『手術で取り除くとかできないの…?』


元香
『…手術はしないそうよ。』


愛祈琉
『どうして?』


元香
『…耐えられないから。』


愛祈琉
『じゃあ…どうするの…?』


元香
『…薬物療法。』


愛祈琉
『…それって…痛いんだよね…?』


元香
『…ええ。』


愛祈琉
『修児くん、笑ってたよ…?』


元香
『…あーいうヤツなの。』


愛祈琉
『私を心配させないため…?』


元香
『…かもね。』


愛祈琉
『…修児くん…。』


元香
『…通話切ってもいい?』


愛祈琉
『え?』


元香
『私、明日も仕事だから。』


愛祈琉
『……うん。』


元香
『…それじゃ。』




修児くん…隠し切れていないよ。

余ったドリンクを私にくれたのは、
「もう自分では飲めないから」なんでしょ?


私の優しい叔父さんはね、
最後の”最期”まで

苦しさを誰にも見せない決断をしたんだ…。



【第5話:お母さんと2人きり】へ続く

2024年05月15日

【短編小説】『ぬくもりを諦める病』3

【MMD】Novel AichakuSyogai SamuneSmall2.png

【MMD】Novel AichakuSyogai CharacterSmall1.png

【第2話:壊す弟、直す兄】からの続き

【登場人物】
深山 愛祈琉(みやま あいる)
 23歳、深山 元香の一人娘

<西田家4姉弟>
 ◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
  西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親

 ◎西田 伸貴(にしだ しんき)
  西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意

 ◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
  西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる

 ◎西田 智里(にしだ ちさと)
  西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第3話:閉じ込められた悲鳴】



<10年前、愛祈琉の実家>

元香
『…愛祈琉、外出するから準備して。』


愛祈琉
『…どこへ行くの?』


元香
『…修児のアパート。』


愛祈琉
『遊びに行くの?』


元香
『…修児、入院したから着替えを取りに行くの。』


愛祈琉
『入院?!何で?!!』


元香
『…屋根から落ちてケガしたの。』


私が中学生のとき、
お母さんが突然そんなことを言ってきたの。

あまりに急だったからびっくりした…。

当時の修児くんは、私たちと同じ都市で
一人暮らししながら大工として働いていたよ。

それで修児くん、家を建てる仕事中に
屋根から転落しちゃったんだって…。



私が修児くんのアパートへ行くのは初めて。
お母さんは何度か行ったらしいけど、
家では何も話さない…。

アパートは2階建てで、寂れた雰囲気だったよ。
昭和の下宿先という感じ。

サビついた階段を登って、
預かっていた修児くんの部屋のカギを開けると、

元香
『……相変わらずね……。』


いつも無表情のお母さんが、しかめっ面をしたよ。

次いで私が部屋に入ると、
そこには無造作に置かれたゲーム機に、
散乱するゲームソフト。

そこらじゅうに転がる缶ビールの空き缶と、
空き缶でいっぱいの大きなゴミ袋。

床に散らばるいくつもの灰皿と、
その灰皿から溢れるタバコの吸い殻。

部屋に充満するアルコールとタバコのにおい…。



愛祈琉
『修児くん……寂しいのかな……?』




100人がこの部屋に入ったら、
99人の第一印象は「散らかってる」だろうね。

なのに私はなぜか、
『寂しいのかな?』って思ったの。


お母さんは無表情に戻って、
掃除を始めたよ。

お母さんの『相変わらず』には、
どんな意味が含まれているのかな?
私の感性がおかしいのかな?

自信をなくしかけたけど、
とりあえず私は部屋の掃除を手伝ったよ。


ーー


掃除が一段落して、
修児くんの着替えを探し出してから、
私たちは修児くんが入院している病院へ。

修児くん、
数日前にやっと意識が戻ったんだって。
お母さん…それも先に言ってよ…。

そんなこんなで病室へ入ると、

修児
「よう姉貴!」


元香
『…はい、着替え。』


修児
「おッ!サンキュー!」


元香
『…元気そうね。』


修児
「元気だよ!」
「あれくらいのケガには慣れてるからな!」


元香
『…そう…。』


修児
「その子は?姉貴の知り合いか?」


愛祈琉
(……えッ……し、知り合い…?!)


修児
「初めましてだな!」
「オレは姉貴の弟の修児!」


元香
『…娘の愛祈琉よ。』


修児
「おお、そりゃ失礼!」
「そしたら、オレの姪か?」
「愛祈琉、来てくれてありがとな!」


愛祈琉
(……修児くん…?)
(私のこと覚えてないの…?)




修児くんは、事故のショックで
部分的な記憶喪失になっていたよ…。


お母さんのことは覚えていたから、
お医者さんは「そのうち思い出しますよ」って。

姪の私を忘れられていたのはショックだけど、
命に別状がなくて良かった…。

けれど、私が気になったのは
修児くんの「ケガに慣れている」という言葉。

どうやらお母さんが私に伝えないだけで、
修児くんは何度もケガしているみたい。


いくら危険な仕事でも、
そんなに何度も転落事故に遭う?



愛祈琉
『お母さん…修児くんはどうして事故に?』


元香
『…二日酔い。』


愛祈琉
『お酒?』


元香
『…前日のお酒が抜けてなくて。』


愛祈琉
『修児くんはどうしてあんなにお酒飲んだの?』


元香
『…婚約破棄。』


愛祈琉
『婚約破棄?!なんで?!』


元香
『…修児の収入が低いから。』


愛祈琉
『そんな…お互い好きだったんでしょ?!』


元香
『…そうね。』




修児くんに彼女さんがいたことも、
その彼女さんに振られていたことも初耳…。

その上、当時の私はまだ
「結婚に幻想を抱いたまま」の中学生。

…キツイ話だったよ。


もちろん、
彼女さんも苦渋の決断だったと思う。

修児くんのことが好きな気持ちよりも、
将来の不安が勝ってしまったことは
責められないよ。

それでも、
修児くんの心をえぐるには十分だよね。

修児くんはお酒で悲しみを紛らわせて、
そんな日が続いて、二日酔いのまま出勤して。

ある日、ついに足を滑らせて…。


ーー


愛祈琉
『…お母さん。』


元香
『…何?』


愛祈琉
『…彼女さんと別れた後の修児くん…。』
『どんな顔してたの?』


元香
『…さっき愛祈琉が見た顔。』


愛祈琉
『さっき?お見舞い中?』


元香
『…そう。』


愛祈琉
『…笑ってたよ…?』


元香
『…あーいうヤツなの。』


愛祈琉
『私を心配させないため…?』


元香
『…かもね。』


愛祈琉
『修児くん…お母さんにも弱音を吐かないの?』


元香
『…ええ。』


愛祈琉
『…苦しくないのかな…。』


元香
『…もういい?』


愛祈琉
『えッ?』


元香
『この話、もういいでしょ?』


愛祈琉
『待って!まだ…。』


元香
『…帰るよ。』


愛祈琉
『…うん…。』




お酒に酔っぱらった状態は、
お母さんに抱っこされているときの
安心感に似ているんだって。

私、それを知ってようやく
修児くんの散らかった部屋の意味がわかったの。

あの部屋は、
修児くんにとっての「ゆりかご」なんだ。


修児くんはきっと、
誰にも抱っこしてもらえなかった心と身体を、
必死であたためようとしていたの。

溢れる悲鳴も涙も、すべてを心に閉じ込めて。



【第4話:誰にも見せないと決めた】へ続く

2024年05月12日

【短編小説】『ぬくもりを諦める病』2

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【第1話:諦観の4姉弟】からの続き

【登場人物】
深山 愛祈琉(みやま あいる)
 23歳、深山 元香の一人娘

<西田家4姉弟>
 ◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
  西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親

 ◎西田 伸貴(にしだ しんき)
  西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意

 ◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
  西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる

 ◎西田 智里(にしだ ちさと)
  西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第2話:壊す弟、直す兄】



<数十年前、とある農村>

村民A
『コラ!修児くん!』
『また友達のおもちゃを壊したの?!』


修児
「……。」


村民A
『どうしてこんなことするの?!』


修児
『………。』


村民A
『まったく…。』
『いつも何も言わないんだから…!』


伸貴
『…それくらいにしてあげて。』


村民A
『伸貴くん、いつも修児くんをかばって…。』
『私も言い過ぎたわ。』


伸貴
『…どうも。』


村民A
『伸貴くん、悪いけどまた修理してくれない?』


伸貴
『…わかった。見せて。』


村民A
『どう?直せる?』


伸貴
『…直せる。3日後に返すね。』


村民A
『さすが伸貴くん!』
『”壊す弟、直す兄”だわ!』


伸貴
『…それは止めて…。』


村民A
『あッ…ごめんなさいね伸貴くん…。』
『ありがとね…直してくれて。』


伸貴
『…どういたしまして…。』


修児
「……ふん……!」



ーー


<現在>

「壊す弟、直す兄」

伸貴くんと修児くんが子どもの頃、
村の人たちにそう呼ばれていたんだって。

理由はさっきの会話の通り、
弟の修児くんが壊したモノを
兄の伸貴くんが直してくれたから。

当然、村での2人の評判は正反対。

けれど、伸貴くんがもてはやされて、
修児くんが疎まれていたのは、
モノ云々だけが理由じゃないよ。



当時の農村には、まだ長男を大事にする
家父長的な空気が残っていたんだって。

ひいおばあちゃんは
孫に地主の跡継ぎを強制しなかったけど、
兄弟の扱いに差があったらしいよ。

長男の伸貴くんは手厚く、
次男の修児くんはほったらかし。


伸貴くんはおとなしいというか、
ひいおばあちゃんに従順だったから、
わりと褒められていたみたい。

けれど修児くんが村で悪さをしても、
ひいおばあちゃんは𠮟ることも
説教することもなかったんだって…。



私は一人っ子だから気づかなかったけど、
兄弟姉妹の間には命を賭けた争いがあるよ。

「親から1番の関心と愛情を向けてもらう」
っていう争い。

それぞれ、親の1番を勝ち取るために、
いろんな作戦を遂行するよ。

親の愚痴の聞き役になったり、
親の言うことをよく聞いたり、
親が期待する勉強で結果を出したり。

親にとっての「イイコ」でいようとするよ。

けれど、親にとって「イイコ」になったのに、
親が振り向いてくれなかったらどうする?

今度は「悪い子」になるんだよ。


「悪い子」になったら親から嫌われちゃう?
そうだね、嫌われて𠮟られるね。

じゃあ失敗?ううん、成功だよ。

親から嫌われたら目立つでしょ?
𠮟られたり、説教されたりするでしょ?

その間だけでも、
親は”自分だけを見てくれている”んだから。



当時の修児くんには、
そういう思いもあったんじゃないかな。

修児くんのお父さんもお母さんも、
ほとんど家にいない。

おばあちゃんは
兄の伸貴くんはかわいがるのに、
弟の修児くんには無関心。

修児くんは、
どうして自分が愛されないのか
自問自答を繰り返していたと思う。


「どうして?僕が次男だから?」
『それともイイコになれないから?」
って。

いつしか「イイコ作戦」を諦めて、
悪い子になったんじゃないかな。



兄弟でこれだけ扱いが違ったら、
憎み合ってもおかしくないよね。

けれど修児くんと伸貴くんは仲が良くて、
一緒にいることが多かったみたい。

村で修児くんが悪く言われていると、
普段は無口な伸貴くんが弟をかばったり。
修児くんも兄の悪口を決して言わなかったり。

お互い口数は少ないけど、
分かり合っているという感じ。

きっと、伸貴くんも気づいていたんじゃないかな。
「自分も無条件に愛されているわけではない」ことに。


伸貴くんが優遇されるのは、
たまたま親が気に入るイイコだったから、
たまたま長男だから。
たまたま…。

一見、正反対な兄弟だけど、
実は同じ境遇だったんだね…。



【第3話:閉じ込められた悲鳴】へ続く

2024年05月09日

【短編小説】『ぬくもりを諦める病』1

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【MMD】Novel AichakuSyogai CharacterSmall1.png

【登場人物】
深山 愛祈琉(みやま あいる)
 23歳、深山 元香の一人娘

<西田家4姉弟>
 ◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
  西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親

 ◎西田 伸貴(にしだ しんき)
  西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意

 ◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
  西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる

 ◎西田 智里(にしだ ちさと)
  西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第1話:諦観の4姉弟】



<数十年前、とある農村>

村民A
『ちょっとちょっと!』
『聞いた?西田さんの家の噂。』


村民B
『聞いたわ。』
『おばあさまが家の全権を握ってるんですって?』


村民A
『そうらしいのよ。』


村民B
『地主の旦那さんも形無しねぇ。』


村民A
『お父さんとお母さんは?』
『最近見ないわね。』


村民B
『最近、都市へ出稼ぎに出されたって。』
『おばあさまにね…。』


村民A
『また?お孫さんの面倒は誰が見るの?』
『4人いるんでしょ?』


村民B
『おばあさまが1人で見てるんですって…。』


村民A
『でしょうねぇ…。』
『噂では、親を出稼ぎに出すのは…。』
『おばあさまが孫を独り占めするためらしいわ。』


村民B
『姑の力って怖いわねぇ…。』
『お孫さんたちはあんなにかわいいのに…。』


村民A
『長女の元香ちゃんはおとなしいわね。』
『おばあさまの言うことをよく聞いて。』
『将来、良いお母さんになりそうね。』


村民B
『長男の伸貴くんは工作が得意ね。』
『車の模型を作って、車の雑誌を持ち歩いて。』
『将来は車の整備士になりたいんですって。』


村民A
『末っ子の智里ちゃんは明るくて元気ね。』
『あのおばあさまにも物怖じしないのは智里ちゃんだけよ。』


村民B
『ほんとに”イイコ”たちね。』
『でも、あの子だけはちょっと…ねぇ…?』


村民A
『次男の修児くんはね…。』
『モノを壊すし、不良とつるんでるみたいだし…。』


村民B
『悪いけど、ろくな大人にならないわね…。』


村民A
『ええ、事情を聞いても黙ってばかり。』


村民B
『困ってるなら”助けて”って言えばいいのに…。』



ーー


<現在>

私は深山 愛祈琉

私のお母さんの実家・西田家は
とある農村の地主。

わりと裕福だけど、内情は噂の通り。
私のひいおばあちゃんの独裁だったんだって。


ひいおばあちゃんは、
私のお母さんたちを溺愛したらしいよ。

親であるおじいちゃんとおばあちゃんを
出稼ぎに出してね。

ひいおばあちゃんの目的が
本当に孫の独占だったかどうかはわからない。
本人がもうこの世にいないから。



私のお母さん・深山 元香は、
表向きは静かで家庭的な人。

けどね、冷めた人なんだ。
まるで他人とのふれあいを拒絶しているみたい。

それは娘の私に対しても同じ。
私、お母さんに抱っこしてもらったり、
スキンシップしてもらった記憶がないんだ。

お母さんは
私に話しかけることもほとんどないよ。

お母さんはいつも1人で
読書したり裁縫したりしているの。

娘とどう接したらいいかわからないのかな?
それとも、私が嫌いなのかな…?

そんなお母さんの影響か、
私も冷めた人間になったよ。

人のぬくもりへの憧れは強いけど、
私には縁がないって諦めているよ。


お母さんさえくれなかったのに、
「他人がくれるわけない」ってね…。



こんなふうに冷めているのは
お母さんや私だけじゃないんだ。

お母さんの実家・西田家の親戚には、
諦観の境地に達した人が多いよ。

お母さんの弟、長男の伸貴くんもそう。
モノづくりが好きで、村の人の評判はいいみたい。

けれど本人はお母さんと同じ。
物静かじゃなくて人を拒絶している。

モノづくりに夢中なのか、
モノづくりを愛情の代替にしているのか、
どっちなんだろう。

末っ子の智里さんだけは口達者でよく笑う人。
言いたいことは言うし、一見すごく明るい。

けれど、私には智里さんが
無理して笑っているように見えるんだ。

まるで、ギスギスした家を明るくしようと
ピエロを演じているみたい。



それで、1番の問題児とされているのが
次男の修児くん。

村の人は不良とか散々言っているけど、
私にとっては小さい頃から1番の味方だよ。

修児くんは都市で働いていて、
めったに帰省しないからあまり会えない。

けれど会えた時は、

修児
「よう愛祈琉!」
「ちょっと見ないうちに大きくなったな!」


って、いきなり私を抱っこしてくれたの。

最初はちょっと怖かったけど、
ぶっきらぼうなのは表面だけ。

お母さんも智里さんもどこか無理しているけど、
修児くんは私にストレートに愛情を向けてくれる、
優しい叔父さんだよ。

私、お母さんといても寂しいから、
帰省して修児くんに逢えたらすごく救われたよ。



けれど、私が修児くんを慕う理由は
それだけじゃない気がする。

なんとなく、
修児くんは私と同じにおいがするの。

親からのぬくもりを諦めたところも、
寂しさをひた隠しにしているところも。


修児くんが、問題行動のウラで
「何か巨大な敵と戦っていること」に
私が気づいたことも。

周りの人は修児くんの表面だけを見て
好き勝手に言うよ。

違うよ、修児くんはグレてるんじゃない、
悲鳴を上げているんだよ。

そして西田家も、その血を引く私も、
修児くんと同じ敵と戦っているんだよ。

おじいちゃんおばあちゃんも、
独裁者だったひいおばあちゃんも、
ずっとずっとご先祖さまも。



【第2話:壊す弟、直す兄】へ続く

2024年04月30日

【短編小説】『転入届は2度出される』(リメイク)2 -最終話-

【MMD】Novel Tennyu Todoke SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Tennyu Todoke CharacterSmall1.png

【第1話:転入する女神】からの続き

<登場人物>
折原 清玲亜(おりはら せれあ)
 あまりの美しさから”女神”と噂される
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第2話:依存する女神】



<南区の繫華街>

弟が街中を歩いていると、
また女神の姿を見かけました。

女神は高身長イケメン男子と
歩いていました。


『まさに美男美女カップル…。』
『僕らとは住む世界が違うなぁ…。』


弟は羨望の眼差しで2人を見ていましたが、
2人は穏やかでない空気を醸し出していました。

そして、

清玲亜
「さっき他の女の子を見てたでしょ?!」
「私がいるのにどういうことよ?!」


美男美女カップルは、
ついにケンカを始めました。

清玲亜
「だからこの前、返信に5分以上かかったの?!」
「浮気?私のこと好きじゃないの?!」
「他の子に連絡したんじゃないの?!」


初めは弁解していた彼氏も言葉に詰まり、
言われるがままになりました。

弟は、いつも南区役所で見る女神の
豹変ぶりに衝撃を受けました。


ーー


<翌日、北区役所>

清玲亜
「転入の手続きをお願いします。」



『かしこまりまし………?!!』
(また数週間で引っ越し?)


兄は驚きを隠しながら
女神の転入手続きを済ませました。



<その翌日、北区の繫華街>

兄は街中で女神の姿を見かけました。

女神は高身長イケメン男子と
歩いていました。


『まさに美男美女カップル…。』
『僕らとは住む世界が違うなぁ…。』


兄は羨望の眼差しで2人を見ていましたが、

清玲亜
「なんで私の料理より美味しそうに食べるの?!」
「彼女の料理が1番じゃないって言いたいの?!」


美男美女カップルはケンカを始めました。

清玲亜
「昨日は19時に帰るって言ったのに!」
「何で1分過ぎたの?!」

「浮気?他の女の子と会ってたの?!」
「私のこと好きじゃないの?!」


兄は、いつも北区役所で見る女神の
豹変ぶりに衝撃を受けました。

翌日、南区役所に
女神からの転入届が出されました…。




『兄さん、今日ウチに女神から転入届が…。』


兄はそれを聞いて、
自分と弟が認識する女神が
同一人物だと確信しました。


『彼女、どんな仕事をしているんだろうな。』



『昨日、女神が街中で彼氏とケンカを…。』



『俺も見た。別の彼氏かな?』
『別れてすぐ引っ越し?まさかね…。』



ーー


ある朝、弟は
また女神と彼氏のケンカを見かけました。

相手の彼氏は先日、女神が
「返信に5分以上かかった」と
憤慨していたイケメン男子でした。


(復縁?またケンカ…?)


弟は怪訝な顔で南区役所に出勤しました。



<朝10時、北区役所>

清玲亜
「転入の手続きをお願いします。」


兄が勤める北区役所に
女神からの転入届が出されました。


『…かしこまりました…。』


兄は不審に思いながらも、
受け取るしかありませんでした。

お昼休みになり、
兄は外で昼食を取ろうと街中へ出ました。

すると、
また女神と彼氏のケンカを見かけました。

相手の彼氏は先日、女神が
「私の料理が1番じゃないの?」と
憤慨していたイケメン男子でした。


(復縁?またケンカ…?)


兄は怪訝な顔で昼食を済ませ、
北区役所の業務に戻りました。



<14時、南区役所>

清玲亜
「転入の手続きをお願いします。」



『…かしこまりました…。』


弟は不審に思いながらも、
受け取るしかありませんでした。

女神はいつも通りの
穏やかな表情をしていましたが、
弟は気づきました。

女神の笑顔の口元に、
彼氏を責め立てるときの形相
残っていたことに。



<16時、北区役所>

清玲亜
「転入の手続きをお願いします。」


女神から”この日2度目”の
北区への転入届が出されました。

兄はすぐに
女神の”作り笑顔”に気づきました。

それどころか、もはや彼女は
怒りと嫉妬心を隠し切れていませんでした。

兄は女神の転入届を受け取るときに、
思わずこう尋ねました。


「あなたは一体、どんな仕事をしているんですか…?」



ーー


<南区某所>

清玲亜
「あの男、サイテーなの!」
「5分以内に返信してくれないの!」
「他の女の子の連絡先も消してくれないし!」


北区の彼氏
『そんなサイテー男と別れて、戻って来いよ。』
『今はソイツの家に住んでるんだろ?』


清玲亜
「もう出ていく。」
「北区に転入するわ。」


北区の彼氏
『ヨリを戻そうぜ。』


清玲亜
「やっぱり私にはあなたしかいないわ!」




<後日、北区某所>

清玲亜
「あの男、サイテーなの!」
「私の料理を不味そうに食べるの!」
「帰りも遅いし、あれは絶対に浮気よ!」


南区の彼氏
『そんなサイテー男と別れて、戻って来いよ。』
『今はソイツの家に住んでるんだろ?』


清玲亜
「もう出ていく。」
「南区に転入するわ。」


南区の彼氏
『ヨリを戻そうぜ。』


清玲亜
「やっぱり私にはあなたしかいないわ!」




ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
『いま、人格代わるね。』全3話

『人質のウェディングドレス』(1話完結)

『鳥カゴを打ち破って』全4話


⇒参考書籍













2024年04月29日

【短編小説】『転入届は2度出される』(リメイク)1

【MMD】Novel Tennyu Todoke SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Tennyu Todoke CharacterSmall1.png

<登場人物>
折原 清玲亜(おりはら せれあ)
 あまりの美しさから”女神”と噂される
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第1話:転入する女神】



<某市、北区役所>

とある大都市に公務員の兄弟がいました。

兄は北区役所に、
弟は南区役所に勤めていました。

ある日、
兄がいつも通り仕事をしていると、

清玲亜
「転入の手続きをお願いします。」



『かしこまりまし………?!!』


兄は、目の前に現れた女性の
あまりの美しさに言葉を失いました。

彼女は身長170センチ超、
モデル顔負けのスタイルなだけでなく、
全身から気品と清涼感があふれていました。

まるで女神が
地上へ降り立ったかのようでした。


彼女はその後も
たびたび北区役所を訪れました。

職員たちの間では、
女神の噂でもちきりになりました。

『あんなきれいな人、本当にいるんだ…。』
『同性でも見とれてしまうわ…。』




兄は南区役所に勤める弟に
女神の話をしました。


『この前、戸籍住民課に女神が降臨したんだよ!』


普段の兄は、
あまり異性の話をしませんでした。

弟は、
そんな兄がこれだけ熱弁するのだから、
絶世の美女なのだろうと思いました。


ーー


<数ヶ月後、南区役所>

弟がいつも通り仕事をしていると、

清玲亜
「転入の手続きをお願いします。」



『かしこまりまし………?!!』


弟は、目の前に現れた女性の
あまりの美しさに言葉を失いました。

弟は北区役所に勤める兄に
そのことを話しました。


『兄さん!この前…。』
『戸籍住民課に女神が降臨したんだよ!』


兄は、
奥手な弟がこれだけ熱弁するのだから、
絶世の美女なのだろうと思いました。

北区役所も南区役所も、
女神の噂でもちきりになりました。

『彼女は何者?』
『どんな仕事?』
『モデル?アイドル?』
『高貴な家のご令嬢?』



ーー


<1週間後、北区役所>

清玲亜
「転入の手続きをお願いします。」



『かしこまりまし………?!!』


数ヶ月前、
北区への転入届を出した女神が
ふたたび転入届を出してきました。


市内の引っ越しの場合、
転出届は不要でした。

そのため北区役所の職員は
女神の引っ越しに気づきませんでした。


(たった数ヶ月で引っ越して、また戻ってきた?)
(そういう仕事もある…のかな?)



ーー


<翌週、南区役所>

清玲亜
「転入の手続きをお願いします。」



『かしこまりまし………?!!』


先週、
北区役所へ転入届を出した女神が、
今度は南区役所へ転入届を出してきました。

弟は女神の姿を拝めたことを喜びつつ、
疑問に思いました。


(週単位で引っ越して、また戻ってきた?)
(そういう仕事もある…のかな?)




【第2話(最終話):依存する女神】へ続く

2024年04月28日

【短編小説】『人質のウェディングドレス』(1話完結)

【MMD】Novel Hitojichi SamuneSmall1.png

【ウェディングドレスという白装束】



とあるサラリーマンがいました。
彼は結婚し、子宝に恵まれました。

彼はその直後、
会社でのポストが上がりました。

彼は収入が増えたので、
思い切って35年ローンで
マイホームを購入しました。

彼はシアワセの絶頂にいるはずでした。
が、



役員
『悪いが、来月から2年間の単身赴任を頼む。』
『もちろん休暇には戻ってきていい。』



「え…?」


彼は出世した直後に、
遠い本社への単身赴任を命じられました。



「少し考えさせてもらえませんか?」


役員
『かまわんよ。あぁそうだ、確か…。』


役員は口元に笑みを浮かべて
こう言いました。

役員
『娘さん、今年から保育園に入るんだよな?』
『保育費用の工面、大変だよなぁ。』



「……単身赴任…お受けします……。」


役員
『(ニヤリ)…助かるよ。』
『会社はきみに期待しているんだ。』
『ぜひ本社で成長してもらいたい。』



ーー


彼は本社へ単身赴任し、
日々の激務に耐えていました。

知り合いのいない土地で
会社とアパートを往復する毎日でした。

彼は家族にも会えず、
精神を擦り減らすばかりでした。

そんな折、
彼の妻と娘が飛行機に乗って
夫を訪ねてきました。

妻はやつれた夫を見かねて
こう言いました。


『…仕事、辞めてもいいんだよ?』
『このままじゃ身体を壊すよ?』



「辞めるわけにはいかない…。」



『どうして…?』



『家族を守るため。』
『家のローンも、娘の教育費もかかるから。』



『でも、そんなボロボロじゃ…。』



『大丈夫、せっかく出世したんだ。』
『いずれ役員になって、もっと収入を上げるよ。』


彼は妻と娘の心配をよそに、
本社での激務に耐え続けました。


ーー


<1年後>


『疲れた…今日も終電まで残業か…。』


男が2年間の単身赴任を終えるまで
あと1年になりました。


『労働時間が長すぎる。』
『家族との時間も取れない。』
『この会社で働き続けても先がないな…。』


彼は出世したものの、
今の働き方に限界を感じました。

そこで、彼は思い切って
転職活動することを上司に相談しました。
ところが、

本社役員
『今のポストを捨てての転職か。』
『きみの決断に口出しはしない、が…。』


本社役員は口元に笑みを浮かべて
こう言いました。

本社役員
『家のローンはあと何年残っているんだ?』
『奥さんと娘さん、路頭に迷うかもなぁ…。』



『(ギクリ)……!』


本社役員
『きみの能力なら問題ないと思うがね。』
『もし転職に失敗したら家族はどうなる?』



『…うぅ…!』


本社役員
『確か35年ローンだったかな?』
『支払いは大丈夫か?』



『では…せめて仕事量を調整できませんか?』
『残業時間を減らして、家族との時間を…。』


本社役員
『きみの能力なら効率良く片付けられるはずだ。』
『その辺を見直してみたらどうだ?』



『それは…。』


本社役員
『残業代はしっかり出ている。』
『家計の足しになっているだろう?』



『確かにそうですが…。』


本社役員
『きみは家族のために頑張っているよ。』
『だから会社は信頼して多くの仕事を任せる。』
『上のポストに就いてもらいたいんだよ。』
『転職でそのチャンスを逃すのか?』



『…わかりました…会社に残ります。』


本社役員
『(ニヤリ)…助かるよ。』
『会社はきみに期待しているんだ。』
『ぜひ役員まで上ってきてもらいたい。』


その後、
とある会社の管理職の男が
うつ病に倒れたという噂が、

あったとか、なかったとか。



ーー


住宅メーカー担当
『お疲れさまです。』
『布教活動は順調ですか?』


ブライダル担当
『信者の獲得が難しくなってきました。』
『今後”結婚教”はどんどん崩れていくでしょう…。』


住宅メーカー担当
『イメージ作りはまだ健在ですよね?』
『”きらびやかなウェディングドレス”。』
『”素敵な結婚式”というイメージは。』


ブライダル担当
『それは健在です。』
『結婚ビジネスはもう少し持ちそうです。』
『住宅ローンの調子は?』


住宅メーカー担当
『厳しいです…。』
『世の中が”住宅ローンは首輪”だと気づき始めました。』


ブライダル担当
『”男は家を買ってこそ一人前神話”は?』


住宅メーカー担当
『崩れました…。』
『高額なモノで自己顕示欲を満たす時代は終わりかけています。』


ブライダル担当
『ううむ…どちらも潮時ですか。』
『”結婚はシアワセの象徴神話”も。』
『”男は一家の大黒柱神話”も。』


住宅メーカー担当
『潮時です。このままでは…。』



『”人質の確保ノルマ”の達成が難しい…。』




会社役員
『やぁお二方、布教活動の調子はどうですか?』


住宅メーカー担当
『ぼちぼちです。』


ブライダル担当
『ウェディングドレスへの幻想はまだ健在です。』


会社役員
『そうですか、ぜひお願いしますよ。』
『最近は独身者が増えて困っているんです。』
『独身者はすぐ転職するし、サービス残業させにくい。』
『なにしろ独身者には…。』



『”家族という人質”がいませんからね。』




住宅メーカー担当
『神話だけでは労働へ縛りつけるのが難しいです。』


ブライダル担当
『別の方法で洗脳しましょう。』


住宅メーカー担当
『この国の国教「頑張れ教」はどうですか?』

・みんな頑張って働いている
・サボるヤツは人生の負け組
・お金がないと人生詰むぞ
・稼げないヤツはモテない

『これなら独身者にも効くでしょう。』


会社役員
『「頑張れ教」も最近揺らいでいますよね?』


ブライダル担当
『揺らいでいますが…。』
『結婚教よりは長持ちするでしょう。』


会社役員
『そうですか。』
『では独身者にも仕事を”頑張って”もらいましょう。』


…………。

……。



会社役員
『さて…どうやって”逃げられない労働者”を確保するか。』
『せめてもう少し、国民にバレないでほしいな…。』

『会社にとって、家族とは人質。』
『ウエディングドレスとは…。』



『”囚われの姫君の白装束”だということが。』




ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
『国教「頑張れ教」』全4話

『首輪の神』(1話完結)

『銀の静寂都市』(1話完結)


⇒参考書籍














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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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