アフィリエイト広告を利用しています

広告

posted by fanblog

2024年05月15日

【短編小説】『ぬくもりを諦める病』3

【MMD】Novel AichakuSyogai SamuneSmall2.png

【MMD】Novel AichakuSyogai CharacterSmall1.png

【第2話:壊す弟、直す兄】からの続き

【登場人物】
深山 愛祈琉(みやま あいる)
 23歳、深山 元香の一人娘

<西田家4姉弟>
 ◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
  西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親

 ◎西田 伸貴(にしだ しんき)
  西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意

 ◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
  西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる

 ◎西田 智里(にしだ ちさと)
  西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第3話:閉じ込められた悲鳴】



<10年前、愛祈琉の実家>

元香
『…愛祈琉、外出するから準備して。』


愛祈琉
『…どこへ行くの?』


元香
『…修児のアパート。』


愛祈琉
『遊びに行くの?』


元香
『…修児、入院したから着替えを取りに行くの。』


愛祈琉
『入院?!何で?!!』


元香
『…屋根から落ちてケガしたの。』


私が中学生のとき、
お母さんが突然そんなことを言ってきたの。

あまりに急だったからびっくりした…。

当時の修児くんは、私たちと同じ都市で
一人暮らししながら大工として働いていたよ。

それで修児くん、家を建てる仕事中に
屋根から転落しちゃったんだって…。



私が修児くんのアパートへ行くのは初めて。
お母さんは何度か行ったらしいけど、
家では何も話さない…。

アパートは2階建てで、寂れた雰囲気だったよ。
昭和の下宿先という感じ。

サビついた階段を登って、
預かっていた修児くんの部屋のカギを開けると、

元香
『……相変わらずね……。』


いつも無表情のお母さんが、しかめっ面をしたよ。

次いで私が部屋に入ると、
そこには無造作に置かれたゲーム機に、
散乱するゲームソフト。

そこらじゅうに転がる缶ビールの空き缶と、
空き缶でいっぱいの大きなゴミ袋。

床に散らばるいくつもの灰皿と、
その灰皿から溢れるタバコの吸い殻。

部屋に充満するアルコールとタバコのにおい…。



愛祈琉
『修児くん……寂しいのかな……?』




100人がこの部屋に入ったら、
99人の第一印象は「散らかってる」だろうね。

なのに私はなぜか、
『寂しいのかな?』って思ったの。


お母さんは無表情に戻って、
掃除を始めたよ。

お母さんの『相変わらず』には、
どんな意味が含まれているのかな?
私の感性がおかしいのかな?

自信をなくしかけたけど、
とりあえず私は部屋の掃除を手伝ったよ。


ーー


掃除が一段落して、
修児くんの着替えを探し出してから、
私たちは修児くんが入院している病院へ。

修児くん、
数日前にやっと意識が戻ったんだって。
お母さん…それも先に言ってよ…。

そんなこんなで病室へ入ると、

修児
「よう姉貴!」


元香
『…はい、着替え。』


修児
「おッ!サンキュー!」


元香
『…元気そうね。』


修児
「元気だよ!」
「あれくらいのケガには慣れてるからな!」


元香
『…そう…。』


修児
「その子は?姉貴の知り合いか?」


愛祈琉
(……えッ……し、知り合い…?!)


修児
「初めましてだな!」
「オレは姉貴の弟の修児!」


元香
『…娘の愛祈琉よ。』


修児
「おお、そりゃ失礼!」
「そしたら、オレの姪か?」
「愛祈琉、来てくれてありがとな!」


愛祈琉
(……修児くん…?)
(私のこと覚えてないの…?)




修児くんは、事故のショックで
部分的な記憶喪失になっていたよ…。


お母さんのことは覚えていたから、
お医者さんは「そのうち思い出しますよ」って。

姪の私を忘れられていたのはショックだけど、
命に別状がなくて良かった…。

けれど、私が気になったのは
修児くんの「ケガに慣れている」という言葉。

どうやらお母さんが私に伝えないだけで、
修児くんは何度もケガしているみたい。


いくら危険な仕事でも、
そんなに何度も転落事故に遭う?



愛祈琉
『お母さん…修児くんはどうして事故に?』


元香
『…二日酔い。』


愛祈琉
『お酒?』


元香
『…前日のお酒が抜けてなくて。』


愛祈琉
『修児くんはどうしてあんなにお酒飲んだの?』


元香
『…婚約破棄。』


愛祈琉
『婚約破棄?!なんで?!』


元香
『…修児の収入が低いから。』


愛祈琉
『そんな…お互い好きだったんでしょ?!』


元香
『…そうね。』




修児くんに彼女さんがいたことも、
その彼女さんに振られていたことも初耳…。

その上、当時の私はまだ
「結婚に幻想を抱いたまま」の中学生。

…キツイ話だったよ。


もちろん、
彼女さんも苦渋の決断だったと思う。

修児くんのことが好きな気持ちよりも、
将来の不安が勝ってしまったことは
責められないよ。

それでも、
修児くんの心をえぐるには十分だよね。

修児くんはお酒で悲しみを紛らわせて、
そんな日が続いて、二日酔いのまま出勤して。

ある日、ついに足を滑らせて…。


ーー


愛祈琉
『…お母さん。』


元香
『…何?』


愛祈琉
『…彼女さんと別れた後の修児くん…。』
『どんな顔してたの?』


元香
『…さっき愛祈琉が見た顔。』


愛祈琉
『さっき?お見舞い中?』


元香
『…そう。』


愛祈琉
『…笑ってたよ…?』


元香
『…あーいうヤツなの。』


愛祈琉
『私を心配させないため…?』


元香
『…かもね。』


愛祈琉
『修児くん…お母さんにも弱音を吐かないの?』


元香
『…ええ。』


愛祈琉
『…苦しくないのかな…。』


元香
『…もういい?』


愛祈琉
『えッ?』


元香
『この話、もういいでしょ?』


愛祈琉
『待って!まだ…。』


元香
『…帰るよ。』


愛祈琉
『…うん…。』




お酒に酔っぱらった状態は、
お母さんに抱っこされているときの
安心感に似ているんだって。

私、それを知ってようやく
修児くんの散らかった部屋の意味がわかったの。

あの部屋は、
修児くんにとっての「ゆりかご」なんだ。


修児くんはきっと、
誰にも抱っこしてもらえなかった心と身体を、
必死であたためようとしていたの。

溢れる悲鳴も涙も、すべてを心に閉じ込めて。



【第4話:誰にも見せないと決めた】へ続く

この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/12547452

※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
検索
プロフィール
理琉(ワタル)さんの画像
理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
プロフィール
最新記事
カテゴリーアーカイブ
×

この広告は30日以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。