2024年05月12日
【短編小説】『ぬくもりを諦める病』2
⇒【第1話:諦観の4姉弟】からの続き
【登場人物】
◎深山 愛祈琉(みやま あいる)
23歳、深山 元香の一人娘
<西田家4姉弟>
◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親
◎西田 伸貴(にしだ しんき)
西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意
◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる
◎西田 智里(にしだ ちさと)
西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第2話:壊す弟、直す兄】
<数十年前、とある農村>
村民A
『コラ!修児くん!』
『また友達のおもちゃを壊したの?!』
修児
「……。」
村民A
『どうしてこんなことするの?!』
修児
『………。』
村民A
『まったく…。』
『いつも何も言わないんだから…!』
伸貴
『…それくらいにしてあげて。』
村民A
『伸貴くん、いつも修児くんをかばって…。』
『私も言い過ぎたわ。』
伸貴
『…どうも。』
村民A
『伸貴くん、悪いけどまた修理してくれない?』
伸貴
『…わかった。見せて。』
村民A
『どう?直せる?』
伸貴
『…直せる。3日後に返すね。』
村民A
『さすが伸貴くん!』
『”壊す弟、直す兄”だわ!』
伸貴
『…それは止めて…。』
村民A
『あッ…ごめんなさいね伸貴くん…。』
『ありがとね…直してくれて。』
伸貴
『…どういたしまして…。』
修児
「……ふん……!」
ーー
<現在>
「壊す弟、直す兄」
伸貴くんと修児くんが子どもの頃、
村の人たちにそう呼ばれていたんだって。
理由はさっきの会話の通り、
弟の修児くんが壊したモノを
兄の伸貴くんが直してくれたから。
当然、村での2人の評判は正反対。
けれど、伸貴くんがもてはやされて、
修児くんが疎まれていたのは、
モノ云々だけが理由じゃないよ。
当時の農村には、まだ長男を大事にする
家父長的な空気が残っていたんだって。
ひいおばあちゃんは
孫に地主の跡継ぎを強制しなかったけど、
兄弟の扱いに差があったらしいよ。
長男の伸貴くんは手厚く、
次男の修児くんはほったらかし。
伸貴くんはおとなしいというか、
ひいおばあちゃんに従順だったから、
わりと褒められていたみたい。
けれど修児くんが村で悪さをしても、
ひいおばあちゃんは𠮟ることも
説教することもなかったんだって…。
私は一人っ子だから気づかなかったけど、
兄弟姉妹の間には命を賭けた争いがあるよ。
「親から1番の関心と愛情を向けてもらう」
っていう争い。
それぞれ、親の1番を勝ち取るために、
いろんな作戦を遂行するよ。
親の愚痴の聞き役になったり、
親の言うことをよく聞いたり、
親が期待する勉強で結果を出したり。
親にとっての「イイコ」でいようとするよ。
けれど、親にとって「イイコ」になったのに、
親が振り向いてくれなかったらどうする?
今度は「悪い子」になるんだよ。
「悪い子」になったら親から嫌われちゃう?
そうだね、嫌われて𠮟られるね。
じゃあ失敗?ううん、成功だよ。
親から嫌われたら目立つでしょ?
𠮟られたり、説教されたりするでしょ?
その間だけでも、
親は”自分だけを見てくれている”んだから。
当時の修児くんには、
そういう思いもあったんじゃないかな。
修児くんのお父さんもお母さんも、
ほとんど家にいない。
おばあちゃんは
兄の伸貴くんはかわいがるのに、
弟の修児くんには無関心。
修児くんは、
どうして自分が愛されないのか
自問自答を繰り返していたと思う。
「どうして?僕が次男だから?」
『それともイイコになれないから?」って。
いつしか「イイコ作戦」を諦めて、
悪い子になったんじゃないかな。
兄弟でこれだけ扱いが違ったら、
憎み合ってもおかしくないよね。
けれど修児くんと伸貴くんは仲が良くて、
一緒にいることが多かったみたい。
村で修児くんが悪く言われていると、
普段は無口な伸貴くんが弟をかばったり。
修児くんも兄の悪口を決して言わなかったり。
お互い口数は少ないけど、
分かり合っているという感じ。
きっと、伸貴くんも気づいていたんじゃないかな。
「自分も無条件に愛されているわけではない」ことに。
伸貴くんが優遇されるのは、
たまたま親が気に入るイイコだったから、
たまたま長男だから。
たまたま…。
一見、正反対な兄弟だけど、
実は同じ境遇だったんだね…。
⇒【第3話:閉じ込められた悲鳴】へ続く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/12545047
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック