2024年02月11日
【短編小説】『国教「頑張れ教」』1
<登場人物>
◎皆川 泉恵織(みながわ いえり)
主人公、23歳
◎新道 友暖(しんどう ゆの)
泉恵織の会社の先輩、25歳
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【第1話:”頑張れ教”信者たち】
ユーラシア大陸の東の果てに、
とても不思議な国があります。
この国の人たちはクリスマスを祝い、
神社へ初詣に行き、お寺へ墓参りに行きます。
一見、とても宗教に自由なこの国の人たちは、
「自分は無宗教」と思っているそうです。
が、実はそうではありません。
多くの人たちは”ある宗教”の敬虔な信者です。
それは、この国の実質的な国教。
「自分も他者も追い詰めること」を美徳とする、
『頑張れ教』
ーーーーー
<12年前、とある小学校>
泉恵織(11歳)
「あぁ…やばいよ…。」
「今回のテスト70点、75点、60点…。」
「成績下がっちゃったよぉ…(涙)」
友人
『今回は仕方ないよ、難しかったから。』
『私なんて45点だよ?泉恵織は十分すごいって!』
泉恵織
「そんなこと言ったって…。」
「お父さんとお母さんに𠮟られちゃう…。」
今回の定期テストは、
全体的にかなり点数が下がったようです。
その中で、泉恵織の成績は十分すごいように見えますが…?
担任
『えー、今回のテストの結果だが…。』
『我がクラスは学年平均で最下位だ。』
『みんな、もっと”がんばって”勉強するように。』
泉恵織
(そうなんだ…学年で1番下…。)
(私のせいかな?私が勉強をがんばらなかったから?)
(先生の言う通り、もっと”がんばらなきゃ”…。)
ーー
<泉恵織の自宅>
泉恵織の父
『まぁ、学年の平均点よりは上だが…。』
『もっとがんばれないのか?90点は取れるだろう?』
『父さんがお前くらいの頃、100点以外は怒られていたぞ?』
泉恵織
「…ごめんなさい…。」
泉恵織の父
『遊びすぎじゃないのか?もっと勉強をがんばりなさい。』
『お前の将来のためを思って言ってるんだぞ?』
泉恵織
「…がんばります…。」
深夜0時過ぎ。
泉恵織の母
『まだ勉強してるの?』
泉恵織
「うん、もっとがんばらなきゃ。」
泉恵織の母
『そう…がんばりなさい。』
『キリのいいところで寝なさいよ。』
泉恵織
「はぁい。」
深夜1時…2時…夜はどんどん更けていきました。
連日、勉強をがんばっていた泉恵織の頭に、
誰かが語りかけるようになりました。
?
『がんばれ、がんばれ。』
『みんながんばっているからお前もがんばれ。』
『がんばらないと人生詰むぞー?』
『がんばらないと置いてけぼりになるぞー?』
泉恵織
「うぅ…誰の声…?」
「わからないけど、がんばらなきゃ…。」
「みんな勉強がんばってるから…もっとがんばらないと…。」
ーー
そして次の定期テストが終わり、職員室では…。
担任
『どうした皆川?』
『お前だけだぞ?前回から成績を落としたのは。』
泉恵織
「……。」
担任
『前回は難しすぎたから、今回は易しめの問題にしたんだ。』
『これじゃあ、お前だけがんばっていないように見えるぞ?』
泉恵織
(悔しい…どうして良い点数を取れないの…?)
(私、あんなに勉強をがんばったのに…。)
担任
『そういえば皆川、最近目のクマがひどいぞ?』
『勉強をがんばってると思いたいが、夜更かしは程々にな。』
泉恵織
「…はい…。」
ーー
<その夜、泉恵織の自宅>
泉恵織の父
『確かにがんばって勉強していたようだが…。』
『今からつまづいていたら上位の学校を目指せないだろう?』
泉恵織
「……。」
泉恵織の父
『とりあえず今日は休みなさい。』
『明日からもっとがんばるように。』
泉恵織
「…うん、もっとがんばる…。」
深夜0時過ぎ。
泉恵織
(もっとがんばらなきゃ…!)
(がんばって良い成績を取ったら…。)
(お父さん、褒めてくれるかな…。)
(お母さん、もっと話を聞いてくれるかな?)
泉恵織の母
『泉恵織、もう寝なさい。明日も学校でしょ?』
泉恵織
「はぁい。」
?
『がんばれ、がんばれ。』
『もっとがんばらないと人生詰むぞー?』
『みんながんばってるのに甘えてるのかー?』
泉恵織
「あぁもう!誰よ?!」
「私、がんばってるんだから黙ってよ!」
泉恵織の母
『泉恵織!何を1人で騒いでるの?!』
『夜は静かにして!』
泉恵織
「ごめんなさい…!」
ーー
さらに次回の定期テストが終わり、
泉恵織は学年で上位の成績を取りました。
担任
『確かに学年では良いが、全国で見たら中位だ。』
『皆川ならもっとがんばれば、もっと上を目指せるだろう?』
泉恵織
「…はい…。」
担任
『それに、この手の問題は苦手なのか?』
『以前からケアレスミスが多いぞ?』
泉恵織
「…あ…。」
担任
『明らかな苦手があると不利になる。』
『次回はがんばって苦手をなくしておくように。』
泉恵織
「…はい先生…。」
(私、勉強がんばったのに…。)
(先生も、お父さんもお母さんも褒めてくれない。)
(それどころか次、次、次はもっとがんばれって…。)
ポロ、ポロ、
(私のがんばりが足りないのかな?)
(もっとがんばれば褒めてもらえるかな?)
(もっと……。)
泉恵織は周りの目がないかを気にしながら、
袖口で涙を拭いました…。
⇒【第2話:理由のない涙】へ続く
⇒この小説のPV
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