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2024年05月24日

【短編小説】『ぬくもりを諦める病』6

【MMD】Novel AichakuSyogai SamuneSmall2.png

【MMD】Novel AichakuSyogai CharacterSmall1.png

【第5話:お母さんと2人きり】からの続き

【登場人物】
深山 愛祈琉(みやま あいる)
 23歳、深山 元香の一人娘

<西田家4姉弟>
 ◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
  西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親

 ◎西田 伸貴(にしだ しんき)
  西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意

 ◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
  西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる

 ◎西田 智里(にしだ ちさと)
  西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第6話:愛情飢餓の連鎖】



<現在>

修児くんはどうして
あんなに寂しさを隠すんだろう?

どうして私のお母さんも西田家の人たちも、
あんなに冷めているんだろう?

それが「幼少期の愛情不足」から
来ていることには気づいたけど、
名前はないのかな?

1人の人生を左右するほど
巨大な敵の名前…。

私がその答えを探して
本屋さんをうろうろしていると、
1冊の本が目に飛び込んできたよ。

特に印象的だった言葉は、

愛祈琉
『”愛着障害”?』


初めて知った言葉だけど、
私は『これだ!』って思ったよ。



 -『愛着障害』-

 幼少期の養育者との
 情緒的な関わりやスキンシップの不足で、
 基本的な信頼感が育たなかった状態

 「不安型」⇒人に過度に依存しがち
 「回避型」⇒親密な関係を拒絶しがち

 どちらも3歳頃までに
 「見捨てられ不安」
 「私は誰にも愛されない」
 と強く感じてしまったことが主な原因



愛祈琉
『愛着障害の…回避型…。』
『これだ!修児くんも、お母さんも。』


私の中で、
修児くんや西田家の人たちの言動が
急速につながっていったよ。

ひいおばあちゃんは
孫を独占したとか言われていたけど、
本当はどうだったかなんてわからない。

当時の家庭事情なんて、
生まれていなかった私には
想像することしかできないよ。

けれど、西田の4姉弟は成長の過程で
こう思う出来事が重なったんじゃないかな。

『誰も”素の自分”を受け入れてくれない』
『自分を作り出した親さえも…』


誰も守ってくれないから、
自分の心は自分で守るしかない。

親にさえ期待できないから、
情緒的なかかわりを『回避』する。


西田のみんなはそうやって
心を閉ざしていったんだろうね…。


ーー


『愛着障害』

ようやく修児くんが
戦ってきた敵の名前がわかった矢先に、
お母さんから1通のメッセージが届いたよ。

元香
『修児が亡くなりました。』
『葬儀は○月○日、時間は…。』


私は覚悟していたよ。
修児くんの命がそろそろ尽きること。

けどさ…こんなのってないよ…。

私には、修児くんが不幸だったなんて
決めつける権利はない。

わかっていても、
修児くんの胸の内を想像したら、
苦しさで息ができなくなりそうになるよ。

私は時々ね、寂しくて悲しくて
破裂しちゃいそうになるの。

私は23歳だから、
まだ23年間しかその気持ちに耐えていない。

けれど、修児くんは私の3倍近い年月を、
その苦しみに耐えてきたんだよ。

姪の世話ばかり焼いている余裕なんて
ないはずなのに…。


修児くん、我慢し過ぎだよ…。


ーー


修児くんの葬儀は、
淡々と進んでいったよ。

葬儀屋さんも、
いつも通りの形式的な業務って感じ。

そういう商売だから仕方ないよ。
わかっていても、やるせない気持ちになったよ。

この世界では、
『人の臨終さえ流れ作業の1つ』なんだから…。




葬儀屋さんが退出して、
通夜が始まったよ。

今は誰かが夜通し
ろうそくの番をする必要はないけど、
棺の部屋には誰かしら残っていたよ。

親戚のみんなは疲れて寝ちゃったけど、
末っ子のちーちゃん(智里さん)だけは
ずっと残っていたよ。

ちーちゃんは親族で唯一、
病院で修児くんを看取った人。



愛祈琉
『ねぇ、ちーちゃん。』


智里
『愛祈琉、起きてたの?』


愛祈琉
『うん。』


智里
『私がいるから寝ていいよ?』


愛祈琉
『修児くんの話が聞きたいの。』


智里
『いいよ、いつの話?』


愛祈琉
『…修児くんの最期。』
『どうだったか聞いてもいい?』


智里
『…アイツさ、入院してから毎日…。』


愛祈琉
『毎日?』


智里
『私や姉貴、愛祈琉の心配ばかりしてさ…。』


愛祈琉
『やっぱり…。』


智里
『去年、愛祈琉が里帰りしてくれたじゃない?』
『あのときの修児の様子、覚えてる?』


愛祈琉
『うん、無理して雪かきしてた。』
『痛みを隠して私やおばあちゃんと話してた。』


智里
『病室の修児も、そのときとおんなじだったよ。』


愛祈琉
(…修児くんのバカ……。)
『修児くん、苦しそうだった?』


智里
『…いいえ、私には…。』
『修児がとっても幸せそうに見えたよ。』


愛祈琉
『幸せ?』


智里
『お母ちゃんの耳が遠くなって困ったとか。』
『愛祈琉が雪かきを手伝ったくれたとか。』
『すごく嬉しそうに話していたよ。』


愛祈琉
『よかった…。』
『修児くん、やっと”自分の話”をしたんだね。』


智里
『そうね、やっとね。』


愛祈琉
『最期の日のこと、聞いてもいい?』


智里
『最期の日…。』
『私が病室に着いた時にはもう意識がなかったの。』


愛祈琉
『…。』


智里
『いよいよって時にね。』
『私は思いきり手を握ったら…。』



『意識がないはずの修児が涙を流したの…。』



『少し笑ったようにも見えた。』
『その瞬間…心電図が…。』




ピッ、ピッ、ピッ、

ピーーーーーーーーーーーーーー



愛祈琉
『子どもの頃の修児くんってさ。』
『本当に嫌われていたの?』


智里
『どうだろうね。』
『悪ガキだったのは間違いないね(苦笑)』


愛祈琉
『修児くんが壊して、伸貴くんが直してたんでしょ?』


智里
『そうそう(笑)』
『ただ、ひいおばあちゃんがね。』
『亡くなる前にこんなことを漏らしていたの。』

『”私は修児に申し訳ないことをした”』
『”修児にとって良い祖母でいられなかった”』
『”修児から親を奪った私は恨まれて当然だ”って。』


愛祈琉
『…ひいおばあちゃんも寂しかったのかな…。』


智里
『だろうね。聞いたことあるでしょ?』
『昔の嫁は姑にイビられるのが当たり前だったって。』


愛祈琉
『うん。』


智里
『たぶん、ひいばあちゃんもそう。』
『そんな人生への復讐というか、反動というか。』
『もう支配されたくないあまりの独占欲…かもね。』



ーー


”愛着障害”は世代を超えて連鎖するらしいよ。

親からの愛情不足で育った子が親になって、
人に与えられるだけの愛情を持っていなくて。


子どもへの愛情の注ぎ方がわからなくて、
子どもが愛情不足のまま育って。

またその子が親になって、
というふうに。

始まりはおばあちゃんの、
そのまたおばあちゃんの…って、
一体いつまでさかのぼるのかわからない。

誰かが気づいて断ち切らない限り、
子々孫々と続いていくんだよ。

どうしようもなく寂しくて悲しくて、
胸が破裂しそうになる、この病。

インチキな自己肯定感でごまかしても、
心の底で『自分は誰にも抱きしめられない』と
泣き続ける。


それが『愛着障害』という病。



【第7話:かわいい姪と、叔父と兄】へ続く

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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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