2024年05月30日
【短編小説】『ぬくもりを諦める病』8 -最終話-
⇒【第7話:かわいい姪と、叔父と兄】からの続き
【登場人物】
◎深山 愛祈琉(みやま あいる)
23歳、深山 元香の一人娘
<西田家4姉弟>
◎深山 元香(みやま もとか※旧姓・西田)
西田家の長女(第1子)、愛祈琉の母親
◎西田 伸貴(にしだ しんき)
西田家の長男(第2子)、モノづくりが得意
◎西田 修児(にしだ しゅうじ)
西田家の次男(第3子)、問題児として疎まれる
◎西田 智里(にしだ ちさと)
西田家の次女(第4子)、唯一明るい性格
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第8話:私で最後にするからね】
修児くんのお見送りは滞りなく終わったよ。
修児くんの出棺のとき、
私は初めてお母さんが涙する姿を見たよ。
お母さんは無表情で、私に無関心だけど、
きっと修児くんや伸貴くんと一緒。
親からのぬくもりを諦めて、
心を閉ざしてしまっただけ…。
愛祈琉
『ねぇお母さん?』
元香
『…何?』
愛祈琉
『修児くんの部屋、片付けに行ってたんでしょ?』
『”私は仕事で行けない”って言いながら。』
元香
『…見てたの?』
愛祈琉
『見てないけど、きっとそうかなって。』
『邪魔しちゃ悪いなって思ったの。』
元香
『…アイツが散らかすから、仕方なくよ…。』
愛祈琉
『お母さん、修児くんの部屋で”相変わらずね”って言ってた。』
元香
『…よく覚えてるね。』
愛祈琉
『覚えてるよ。』
『あれは修児くんがズボラって意味じゃなくて…。』
『相変わらず”ヤセ我慢して”って意味でしょ?』
元香
『…どうしてわかったの…?』
愛祈琉
『寂しそうだもん。』
『修児くんも、お母さんも…。』
元香
『…私は修児に付き合ってただけよ。』
『…愛祈琉も知ってるでしょ?』
『…あーいうヤツなの。』
愛祈琉
『知ってる。』
『お母さんが”あーいうヤツの姉”ってことも。』
元香
『…詮索はそこまでよ。』
愛祈琉
『えー?私、お母さんともっと話したい。』
元香
『…いーから…。』
愛祈琉
『あと5分だけ!』
元香
『…あと5分だけよ?』
この時、お母さんの口元が
少しだけ緩んだように見えたよ。
ーー
私、これからは
お母さんにウザがられても絡んでいくよ。
ずっとずっと寂しかったけど、
たった1人のお母さんだもん。
そうやって、
傷ついたままの”子どもの私”を癒して、
傷ついたままの”子どものお母さん”も癒すよ。
いつの日か、お母さんが
少しでも心を開いてくれたら嬉しいな。
それとね、
私、愛着障害の連鎖を断ち切りたいんだ。
きっとお母さんも、おばあちゃんも、
親からの愛情、ぬくもり、スキンシップを
渇望して諦めてきたんだよ。
それは親のせいでもあるけど、
当の親だって十分もらえずに成長したんだよ。
親自身の喉が渇いているのに、
強制的に”与える立場”になるのはキツイよ。
きっと先祖代々、
あまりの寂しさで破裂しそうになっても、
ひたすら我慢するしか知らない人たちだよ。
こんな思いをするのは、私で最後にするよ。
私が末代になるか、私の子孫に託すか、
どういう形になるかわからないけど、
私は最後まで闘うよ。
修児くん、今ごろ天国で
お母さんにいっぱい抱っこされているかな?
いっぱい甘えられているかな?
”ぬくもりを諦める病”は治っているかな?
私は忘れないよ。
修児くんと、愛着障害との闘いを。
修児くん、私を見ていてね?
私が、西田家が苦しんできた
”親の愛情不足”という呪いを解く姿を。
修児くん、私のことを
かわいい姪って言ってくれてありがと。
おつかれさまでした。
天国ではぬくもりに包まれて、
幸せに過ごしてね。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
『モノクローム保育園』全5話
『スマホさん、ママをよろしくね。』全4話
『ママ、桜咲いたよ。』1話完結
⇒参考書籍
リンク
リンク
リンク
リンク
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/12559569
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック