2024年04月23日
【短編小説】『ママ、桜咲いたよ。』(1話完結)
⇒過去作品『スマホさん、ママをよろしくね。』からの続き
<登場人物>
・影山 慈玖(かげやま いつく)
主人公、8歳の少女
・影山 夕理(かげやま ゆり)
慈玖の母親
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【ママと歩いた桜道】
わたし、影山 慈玖。
今はお空に住んでいるの。
天使さんたちは、
わたしにとっても優しくしてくれるよ。
わたし、8歳のときに
せかいから消えたの。
どうしてって?
わたしのママは
スマホばかり抱っこしていて、
わたしは「いない子」だったから。
ママがわたしを見てくれなくて
「悲しい」って思うたびに、
からだが透明になっていったの。
わたし、ママのイイコになれなかったから、
スマホさんにママのことをお願いしたの。
「スマホさん、ママをよろしくね。」って。
わたし、
まだお空の下のせかいにいたとき、
ママと桜を見たかったの。
ママは1回だけ、わたしを
桜の並木道に連れて行ってくれたの。
慈玖
「ママ!見て見て!」
「桜、咲いたよ!」
わたしは嬉しくて
ママにそう言ったけど、
ママはやっぱり
歩きながらスマホを見ていたの。
慈玖
「ママ、桜咲いたよ。」
「きれいだね!」
夕理
『ええ、きれいね。』
わたし、1度でいいから
ママとそんなお話がしたかったの…。
せっかく
きれいな桜の下を歩けたのに、
わたしは何も言えなくなっちゃった。
わたし、泣きそうになったけど、
ママが『泣かないでよ』って言うから
ガマンしたの…。
それが、わたしが消える前の心残り。
ーー
わたし、お空にいるから歳をとらないの。
わたしの中身は8歳だけど、
天使さんにたのんで
背を伸ばしてもらったの。
いまのわたし、見た目は18歳だよ。
大人でしょ?
わたし、大人になれば
ママのイイコに近づけるかなって思ったの。
そしたら、ママは今度こそ
あの桜の道を一緒に歩いてくれるかな?
わたし、消える前は子どもだったから、
ママがかまってくれなかったのかな?
わたしが大人になれば、
ママはわたしを見てくれるかな?
ママのことは
スマホさんにまかせたはずなのにね。
やっぱり、あきらめ切れないの。
たった1人のママだもん。
わたし、
せかいから消えたときに
みんなから忘れられちゃったの。
むかし駅でぶつかっちゃったお兄さんは、
今でもわたしを思い出してくれるの。
お兄さんは
わたしとぶつかったことがきっかけで、
歩きスマホをやめたんだって。
わたし、消えるときに
お兄さんの夢の中に遊びに行ったの。
「誰かを困らせたり悲しませたりしないでね?」
って伝えたかったから。
お兄さんは夢の中でわたしに
『ありがとう』って言ってくれたの。
けれど、お兄さんは
わたしの名前を忘れていたの。
ママがわたしより
スマホさんを大事にしていたから、
他の人がわたしを忘れるのも無理ないよね。
ーー
わたし、
大人の姿になったから
ママに気づいてもらえるかな?
そう思って
お空の下のせかいへ行ったの。
ママはおしごとに行くときに
あの桜の道を歩いていたの。
だからわたし、
ママがおしごとに行くときに
並んで歩いてみることにしたの。
春風がふわっとしていて、
優しい気持ちになれたよ。
慈玖
「ねぇママ、見て見て。」
「桜、咲いたよ。」
夕理
『…。』
スタスタ
慈玖
「ママ、わたしが見える?」
「わたしのこと覚えてる?」
「わたし、慈玖。」
「ママの子どもだよ?」
夕理
『…。』
慈玖
「ママ、手…にぎってもいい?」
ぎゅ
夕理
『…?何かが手に触れて…。』
クルッ
夕理
『誰もいない。気のせいか…。』
慈玖
「ママ?気のせいじゃないよ?」
「思い出して?慈玖だよ?」
夕理
『…春になると変な夢を見るのよね。』
『私に娘がいて、この道を一緒に歩く夢。』
『それも10年間ずっと。』
慈玖
「ママ…夢じゃないよ?」
「ママにはちゃんと…。」
夕理
『私には子どもがいないのにね。』
スタスタ
…やっぱりそうだよね。
ママに忘れられたわたしは、
もうこのせかいの存在じゃないから。
天使さんにムリを言って
大人の姿にしてもらったけど、
やっぱりスマホさんには敵わなかったよ。
ポロ、ポロ
ママ、もう行っちゃったし、
泣いてもいいよね。
泣いたら
ママのイイコじゃなくなるけど、
少しくらい、いいよね。
ぎゅ
ママの手、あったかかったなぁ。
たとえママが
わたしだって気づかなくてもいいの。
あのときママの手をにぎったのは、
たしかにわたしだから。
ポロ、ポロ
いけない、お洋服が濡れちゃった。
ママ…じゃなくて
天使さんに𠮟られるかな?
わたし、
お空に帰ったらお洗濯するよ…。
だから、
いまはもう少しこのまま
泣かせてほしいの…。
ーー
わたし、春がくるたびに、
お空の下のせかいに遊びにいくよ。
18歳のわたしの姿で、
ママと歩きたかった桜の道を歩くよ。
いつかママが
わたしを思い出してくれる?
そんなはずないけど、
せめてママと一緒に歩きたいの。
それでね、わたし、
ママに届かなくても言うよ。
ママがこたえてくれなくても、
何度も、何度も言うよ。
「ママ、桜咲いたよ。」って。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
『スマホさん、ママをよろしくね。』全4話
『モノクローム保育園』全5話
『雪の音色に包まれて』全4話
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