2024年03月07日
【短編小説】『雪の音色に包まれて』1
<登場人物>
◎加賀美 氷月(かがみ ひづき)
主人公、20歳の大学生(♂)
◎雪音(ゆきね)
氷月の近所のお姉さん
◎白石 愛冬(しらいし まふゆ)
氷月の高校と大学の同級生、20歳(♀)
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【第1話:大嫌いで待ち遠しい冬】
僕、加賀美 氷月は冬が大嫌いだ。
長い夜、冷たい風、枯れた木々が
虚しさを募らせるから。
けれど、僕は冬が待ち遠しかった。
理由は、冬にだけ孤独でなくなるから。
冬にだけ逢える「近所のお姉さん」が、
僕の心を救ってくれたから。
僕は8歳のときに
近所のお姉さん・雪音さんと出逢った。
彼女の透き通る白い肌、
木枯らしになびく銀髪、
儚げな笑顔に僕の心は惹かれた。
幼い僕には、
雪音さんが”雪の妖精”に見えた。
雪音
『どうしたの?1人?』
氷月
「…うん。」
雪音
『外は寒いよ?家に帰らないの?』
氷月
「帰りたくない。」
雪音
『どうして?』
氷月
「…家なんて、寂しいだけだから。」
雪音
『じゃあ、もう少しお姉さんとお話しよっか?』
氷月
「…うん。」
雪音
『私は雪音。あなたは?』
氷月
「加賀美 氷月。」
雪音
『素敵な名前ね。氷月くん、よろしくね。』
氷月
「…よろしく…お願いします…///(照)」
こうして、
僕は10歳以上も年上のお姉さんと仲良くなった。
僕は8歳にして、すでに冷め切っていた。
自分にも未来にも希望が持てず、
空虚な目をした子どもだった。
僕は学校でも浮いた存在で、
友達は1人もいなかった。
雪音さんは、
そんな可愛げのカケラもない僕に
笑顔で接してくれた。
僕は「あたたかさ」というものを
初めて人に対して感じた。
ーー
雪音さんは冬の間だけ
地元へ戻って来ているそうだ。
氷月
「雪音さん、冬が終わったら帰っちゃうの?」
雪音
『うん。』
氷月
「夏の間はどこに住んでるの?」
雪音
『そうね…お空かな?海かな?』
氷月
「なにそれ?教えてくれないの?」
雪音
『うふふ、考えてみて?』
僕は上手くはぐらかされてしまった。
僕は冬の間、
放課後になると急いで家路についた。
早く家に帰りたいから?とんでもない。
早く雪音さんに逢いたいから。
僕と雪音さんは、
毎日暗くなるまで語り合った。
けれど毎年、雪解けの季節になると、
雪音
『私、明日帰るの。』
氷月
「そっか…寂しいな…。」
雪音
『私も。』
氷月
「また逢える?」
雪音
『ええ、次の冬になったらね。』
『またこっちへ戻ってくるから。』
氷月
「本当?ウソつかない?」
雪音
『もちろんよ。』
『だから氷月くん、それまで元気でいてね?』
氷月
「わかった。」
「僕、来年の冬まで元気にしてるよ。」
ーー
僕は春が嫌いだった。
雪音さんに逢えなくなるから。
雪音さんがこっちへ戻って来るまで、
3つも季節を越えないといけないから。
僕は幼い頃から養護施設で暮らしていた。
僕の両親は、ある日
僕を置いてどこかへ行ってしまった。
周りの大人たちが
「シャッキン」とか「ヨニゲ」とか
難しい言葉を口にしていたが、
僕には意味がわからなかった。
ただ1つ、僕には
「親に見捨てられた」という絶望感が残った。
それでも、
僕は雪音さんとの約束通り元気にしていた。
春、夏、秋、
長い季節を越え、次の冬がやってきた。
雪音さんは、
まるで初雪に合わせるように
僕を迎えてくれた。
僕は9歳になり、少し大人に近づいた。
けれど、雪音さんは
去年の冬と変わっていなかった。
氷月
「ねぇ、雪音さんはいくつなの?」
幼い僕は、女性に年齢を尋ねるという
デリカシーのないことをしてしまった。
それでも雪音さんは
「子どもの言うことだから」と、
寛大に答えてくれた。
雪音
『私?私はねー、0歳1ヶ月!』
『いいえ100歳かな?』
僕は20〜22歳と予想していたので、
肩すかしをくらった。
9歳の子どもから見れば、
20歳は大人のお姉さんだ。
氷月
「なにそれ?0歳って僕より年下?」
雪音
『うふふ、そうね。』
氷月
「100歳って何?」
雪音
『大人でしょ?』
氷月
「僕も100歳になったら…。」
「雪音さんみたいな大人になれる?」
雪音
『ええ、きっと。』
僕はまたも
はぐらかされてしまった。
雪音さんがふざけていたとは思わないが、
その場は軽い冗談で終わった。
本当は、
雪音さんは0歳でも100歳以上でもあった。
僕がそのことに気づくのは、
ずいぶん後になってからだった。
⇒【第2話:あなたの瞳の片隅に】へ続く
⇒この小説のPV
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