2024年03月09日
【短編小説】『雪の音色に包まれて』2
⇒【第1話:大嫌いで待ち遠しい冬】からの続き
<登場人物>
◎加賀美 氷月(かがみ ひづき)
主人公、20歳の大学生(♂)
◎雪音(ゆきね)
氷月の近所のお姉さん
◎白石 愛冬(しらいし まふゆ)
氷月の高校と大学の同級生、20歳(♀)
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【第2話:あなたの瞳の片隅に】
雪音さんと過ごす冬が
3回、4回、5回と過ぎていった。
気づいたら僕は20歳の大学生になっていた。
中学校までは、
クラスメイトの「あいつ暗いよな」
という陰口を聞きながら過ごした。
それでも僕は雪音さんと過ごすうちに、
少しずつ明るくなったらしい。
高校2年生の後半あたりに、
クラスメイトの何人かと友達になれた。
愛冬
『ねぇ氷月、次の講義同じでしょ?』
『一緒に教室行こ?』
僕が通う大学のキャンパスで、
高校の同級生・白石 愛冬が声をかけてきた。
愛冬は僕の数少ない友人だ。
まさか同じ大学に進むとは思っていなかった。
愛冬と話すようになったきっかけは、
高校時代に街で知らない男に絡まれていた彼女を
僕が連れ出したことだった。
僕は「助けよう」だなんて
大それたことをしたつもりはなかった。
「自分なんか、あの男たちに殴られたっていい」
「人生が終わる前に人の役に立っておこう」
そんな投げやりな気持ちで動いただけ。
けれど、愛冬にとっては
大きな出来事だったらしい。
愛冬
『あいつ…いつも1人でいるけど…。』
『意外といい奴じゃん。』
周囲から孤立していた僕のことを、
彼女が見直すきっかけになったそうだ。
愛冬
『氷月って放課後は急いで帰るよね。』
氷月
「うん。」
愛冬
『何か大事な用があるの?』
氷月
「大事な用…そうだね、何よりも大事。」
愛冬
『どんな用事か聞いてもいい?』
氷月
「…人に逢いに行ってたんだ。」
愛冬
『人?』
氷月
「施設の近所にさ…。」
「冬の間だけこっちに来てるお姉さんがいて。」
「その人に逢うために急いで帰ってたんだ。」
愛冬
『お、女の人?!』
氷月
「そうだよ。」
愛冬
『むぅー…。』
愛冬は露骨に不服そうな顔をした。
氷月
「なんでそんな不服そうな顔するのさ。」
愛冬
『不服だから不服そうな顔するの!』
氷月
「急に何…?」
愛冬
『いいでしょ!こっちの事情!』
『で?!その人の名前は?』
氷月
「雪音さん。」
愛冬
『雪音さんね。どれくらい年上?!』
氷月
「どれくらい…?」
そういえば不思議だった。
僕は8歳から20歳になった。
身長が伸びたし、見た目も変わった。
なのに雪音さんは12年間、
まったく歳を取っていないように見えた。
氷月
「僕が小学生の頃は20歳くらいに見えた。」
愛冬
『20歳かぁ…子どもから見たら大人だね。』
氷月
「それがさ…雪音さんは去年逢ったときも…。」
「僕が子どもの頃と変わってなかったんだ。」
愛冬
『雪音さんは歳を取っていないってこと?』
氷月
「かもしれない。」
愛冬
『雪音さんに逢えるのって、本当に冬の間だけ?』
氷月
「うん、それも初雪から雪解けの間だけ。」
愛冬
『ふーん…もしかしてその人…。』
『”雪の妖精”だったりして。』
氷月
「はは、まさかね。」
「確かに初めて逢ったときはそう思ったけど。」
愛冬
(何よあんた……。)
(そんなにキラキラした眼ができるんじゃないの…。)
(雪音さんが羨ましいなぁ。)
(氷月のキラキラした眼を独り占めできて。)
(ちょっとは私に向けてほしいのに…。)
愛冬は頬をぷくーっと膨らませた。
愛冬
『氷月さ。』
氷月
「何?」
愛冬
『雪音さんのこと好きなの?』
氷月
「す、好き?!(汗)」
愛冬
『素直に吐きなさい。』
氷月
「…好きだけど、わからない…。」
愛冬
『わからないって何よ?』
氷月
「恩人への憧れとして好きなのか、恋愛感情なのか。」
愛冬
『…釈然としないけど…まぁいいか、合格。』
氷月
「合格って何の審査?」
愛冬
『別にー。』
(そりゃ、年上のお姉さんには敵わないけどさ…。)
(もうちょっと私のことも見てよね…。)
氷月
「何か言った?」
愛冬
『何でもない。』
『ホラ!次の講義始まるよ!』
僕は愛冬の
コロコロ変わる表情に振り回されながらも、
少しずつ心が癒されていくのを感じた。
⇒【第3話:役目を託して】へ続く
⇒この小説のPV
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