2024年03月11日
【短編小説】『雪の音色に包まれて』3
⇒【第2話:あなたの瞳の片隅に】からの続き
<登場人物>
◎加賀美 氷月(かがみ ひづき)
主人公、20歳の大学生(♂)
◎雪音(ゆきね)
氷月の近所のお姉さん
◎白石 愛冬(しらいし まふゆ)
氷月の高校と大学の同級生、20歳(♀)
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【第3話:役目を託して】
僕の人生で20回目の冬がやって来た。
雪音さんは今年も
初雪に合わせて僕を迎えてくれた。
僕は雪音さんに
大学での愛冬とのやり取りを話した。
初めて雪音さんのことを話したとき、
愛冬が不服そうな顔をしたことも。
雪音さんは”雪の妖精”じゃないかと
冗談を言い合ったことも。
氷月
「…ということがあって。」
「愛冬の態度に困惑したんだ。」
雪音
『あらあら、それは大変だったね。』
雪音さんは笑顔で僕の話を聞きながら、
ふと、今まで僕が見たことのない表情を見せた。
まるで何かに安心したような、
何かの役目を終えたような、
ほっとした表情だった。
雪音
『実はね…私…。』
『こっちへ来るのは今年で最後なの…。』
氷月
「え?!どうして?!」
雪音
『…家の都合でね。』
『遠い国へ引っ越すことになったの。』
氷月
「そんな…お別れなんて嫌だよ!」
雪音
『私だって寂しいよ…。』
『大丈夫、あなたはもう孤独じゃないから。』
氷月
「大丈夫じゃないよ!」
「僕はずっと雪音さんに救われてきた!」
「雪音さんがいなくなったら…。」
雪音
『ありがとう…それは嬉しいけど…。』
『成長したあなたなら見えるはずよ。』
氷月
「…僕に…何が見えるの…?」
雪音
『周りに目を向けてみて?』
『あなたを想う人は身近にいるかもしれないよ?』
氷月
「……?!」
このときの僕は、あまりのショックで
彼女の言葉が耳に入ってこなかった。
人にはそれぞれの人生があるし、
いつかお別れが来る。
僕は冬を重ねるにつれて、
それを受け入れてきたつもりだった。
それでも、いざそのときが来ると、
平静でいられるはずがなかった。
僕は大学には何とか通ったが、
雪音さんとの約束「元気でいて」を守れず、
落ち込んで過ごしていた。
愛冬
『氷月、どうしたの?』
『最近、元気ないよ?』
氷月
「雪音さんが…遠い国へ引っ越すって。」
愛冬
『そっか…。』
いつもの愛冬なら、
雪音さんの話になると頬を膨らませたり、
不服そうな顔をするところ。
そんな彼女が、
今回ばかりはとても悲しそうな顔をした。
氷月
「大丈夫だよ。」
「いつまでも雪音さんに甘えてられないし。」
僕は愛冬を心配させまいと、強がって見せた。
愛冬
『無理してない?』
氷月
「してないよ、雪音さんと約束したんだ。」
「”元気でいる”って。」
愛冬
(本当に大丈夫…?)
(目を離したら”やらかして”しまいそう。)
(ショックで冬の川へ飛び込んだり…?)
愛冬
『…私になら…。』
氷月
「?」
愛冬
『弱音吐いたっていいんだよ?』
氷月
「…ありがとう。大丈夫だから。」
愛冬
『…そう…辛くなったら言ってよ?』
氷月
「…うん。」
愛冬
(あぁもう……私じゃ…。)
(どうやっても雪音さんの代わりになれない…。)
(私じゃ…氷月の心の支えになれないの…?)
このときの僕には、
愛冬のそんな苦悩に気づけるはずもなかった。
⇒【第4話(最終話):愛しき冬が氷を解かす】へ続く
⇒この小説のPV
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