2024年03月13日
【短編小説】『雪の音色に包まれて』4 -最終話-
⇒【第3話:役目を託して】からの続き
<登場人物>
◎加賀美 氷月(かがみ ひづき)
主人公、20歳の大学生(♂)
◎雪音(ゆきね)
氷月の近所のお姉さん
◎白石 愛冬(しらいし まふゆ)
氷月の高校と大学の同級生、20歳(♀)
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【第4話:愛しき冬が氷を解かす】
長くて短い冬は進み、雪解けが始まった。
この日、名残惜しむように最後の雪が降った。
雪音
『明日、遠い国へ発つことになったの…。』
氷月
「…そんな気がしてた。」
「今日で雪音さんとお別れだってことも。」
雪音
『どうして?』
氷月
「もうすぐ…雪が降らなくなるから。」
雪音
『…そう…気づいたのね。』
氷月
「うん、ずっと不思議だった。」
「僕は12年間で大人になった。」
「なのに雪音さんは出逢った頃のまま。」
雪音
『…。』
氷月
「いつか愛冬が言ってた。」
「雪音さんは”雪の妖精”じゃないかって。」
「僕も冗談だと思ったけど、本当なんでしょう?」
雪音
『…ええ…。』
氷月
「雪音さんは0歳でも100歳以上でもあるって言った。」
「それは水が雪になってから0歳。」
「雪が水になってこの星を巡るから100歳以上。」
「…ってことだよね?」
雪音
『…氷月くん、成長したね。』
『その通りよ。』
氷月
「どうして遠くへ行っちゃうの?」
雪音
『あなたがもう孤独じゃないからよ。』
『私の役目は終わったの。』
氷月
「ちがうよ!」
「僕は親に見捨てられて、ずっと孤独だよ?」
「”こんな人生早く終わればいいのに”って思ってた。」
「雪音さんがいたから生きてこれたんだよ!」
雪音
『…覚えてる?』
『”あなたを想う人は身近にいるかもしれない”』
『って伝えたこと。』
氷月
「覚えてない…ショックで…。」
雪音
『そうよね…。』
氷月
「僕のことを想う人が身近に?」
「そんなはずないよ。」
雪音
『どうしてそう思うの?』
氷月
「僕はずっと人を避けてきた。」
「人に好かれる要素なんて…。」
雪音
『自分を卑下しないで?』
『ホラ、あなたの後ろ。』
氷月
「…?」
僕が振り返ると、
愛冬が焦った表情で走ってきていた。
氷月
「愛冬?!」
愛冬
『ハァ…ハァ…ダメだよ早まっちゃ…。』
氷月
「早まる?というか、どうして愛冬がここに…?」
愛冬
『氷月、ずっと元気なかったでしょ?』
『雪音さんに逢えなくなるから。』
氷月
「…うん。」
愛冬
『あんた、相当思い詰めた顔してたよ?』
氷月
「大丈夫だって。」
愛冬
『そんな強がりはお見通しだから!』
『今日なんて、ほっといたら川に飛び込みそうだった!』
『だから…あんたを止めに来たの。』
氷月
「そこまで見てくれていたの…?」
「僕がいなくなったって…。」
愛冬
『バカ!いなくならないでよ!』
『そんなこと二度と言うな!!!』
氷月
「?!」
愛冬
『氷月がいなくなったらさ…。』
『誰が私をナンパから守るのよ…?!』
氷月
「愛冬…それって…。」
愛冬
『いいから!ちゃんと私の隣にいてよ!』
雪音
『…氷月くん、気づいた?』
『あなたはもう孤独じゃないって。』
氷月
「…うん。」
雪音
『あなたを想ってくれる人はいるのよ?』
氷月
「…ようやくわかった…。」
雪音
『(ニコリ)…それじゃあね。』
『氷月くんとお話できて楽しかった。』
『どうか幸せに…。』
氷月
「僕も雪音さんに逢えてよかった。」
「12年間、本当にありがとう。」
(次に逢うときは、僕の大切な人を紹介するよ…。)
淡雪が止むのに合わせ、
雪音さんは消えてしまった。
ーー
雲間から夕陽が差し込んだ。
”天使のはしご”だ。
きっと雪音さんは、あのはしごに乗って
遠い国へ「還って」行ったんだろう。
彼女はときに雪として、
ときに水としてこの星を巡り、
誰かの孤独に寄り添うんだろう。
愛冬
『さて!氷月、覚悟はできてる?』
氷月
「覚悟?」
愛冬
『私に落とされる覚悟!』
氷月
「落とされるって…。」
愛冬
『氷月が雪音さんに向けていたキラキラした眼。』
『私に向けさせてやるんだから!』
氷月
「僕、そんな眼してた?」
愛冬
『してたよ。』
『年上のお姉さんに恋しちゃってる眼!』
氷月
「恋じゃないって!恩人への憧れだよ。」
愛冬
『どーだか。』
『でもまぁ、これだけは思い知ってよね!』
氷月
「思い知るって?」
愛冬
『氷月はもう孤独じゃない。』
『あんたのことが大好きな変わり者は…。』
『もう隣にいるんだからね!』
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』全6話
『無表情の仮面』全11話
『500年後の邂逅』全4話
⇒この小説のPV
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