2024年04月25日
【短編小説】『首輪の神』(1話完結)
【本当にお客様は神様ですか?】
<夜22時頃、とあるバー>
神
「すみませーん、お酒まだー?」
スタッフ
『申し訳ございません!』
『ただいまお持ちします!』
神
「急いでねー。」
「まったく…ここはお酒の提供が遅い。」
「スタッフの愛想も良くない。」
「会社の近くだからよく来るが。」
店内は満席に近づいていました。
神
「肴でも頼むか。」
「ん?お気に入りのメニューが品切れ?」
スタッフ
『大変お待たせしました!』
神
「このメニュー、今日はないの?」
スタッフ
『はい、先週から食材の仕入れが難しくなって…。』
『原産国の治安が悪くなったとかで。』
神
「ああ、ニュースでやってたアレね。」
「それでも客のニーズには応えてほしい。」
「あなた方はプロなんだから。」
スタッフ
『申し訳ございません…。』
こうして、このバーでは
割高な食材でも買わざるを得なくなりました。
お酒や料理の値段が上がると、
今度は神様から「値段が高い」との
お𠮟りを受けました…。
ーー
<とあるスーパー>
店長
『今までの営業時間は9時から22時でしたが…。』
『来月から24時間営業になります。』
スタッフ
『どうしてですか?!』
店長
『お客様のライフスタイルの多様化です。』
『早朝や深夜にもニーズが出てきました。』
『他の店にお客様を取られてしまうので。』
スタッフ
『それなら…仕方ないですね…。』
店長
『お客様は神様ですから…。』
こうして、このスーパーに
夜勤や早朝シフトが導入されました。
これにより、
生活が昼夜逆転する人や、
人手不足で休日出勤する人が続出しました。
スタッフの勤務時間もサービス残業も
増える一方でした…。
ーー
<とある配送センター>
センター長
『来月から土日も配達します。』
『365日、休まず稼働します。』
スタッフ
『どうしてですか?!』
センター長
『お客様からの要望です。』
『即日配達と細かい時間指定に応えるためです。』
『そうしないと我が社は切られてしまいます…。』
『安くて良いサービスはいくらでもあるので。』
スタッフ
『それなら…仕方ないですね…。』
センター長
『お客様は神様ですから…。』
こうして、この配送センターは
365日、休まず配達するようになりました。
スタッフは連休が取りにくくなり、
趣味や家族サービスの時間がなくなりました。
神様は配達時間が少しでもズレると、
ネットに低評価のレビューを書き込みました。
配送スタッフたちは、
幾度ものサービスの品質の点検に
仕事の時間を取られるようになりました…。
ーー
神様たちのこうした労働のおかげで、
世の中はとても便利になりました。
安くて高品質のモノが
いつでも手に入るようになりました。
神様たちは、いつしか
「それが当たり前」だと
思い込むようになりました。
神様からお店へのサービスの要求レベルは
上がり続けました。
お店にはやらなくてもいい仕事が増え、
サービス残業が増えました。
スタッフのワークライフバランスは
どんどん崩れていきました。
政府は懸命に「働き方改革」を叫びました。
けれど、神様たちの過剰なサービス要求は、
改革を許してくれませんでした…。
ーー
<とある会社>
神
「22時…ようやく仕事が一段落ついた…。」
「今日は4時間の残業か…ま、早い方だ。」
神様は連日の残業でくたくたでした。
神
「どうしてウチの会社はこんなに仕事が多いんだ?」
「定時に終わるわけないだろう?」
「取引先からの要求が細かすぎる。」
「納期も時間指定もサービスの品質も。」
「だが、あちらの都合に合わせないと取引を切られる…。」
神様は疲れた身体を引きずり、
繫華街へ向かいました。
神
「どいつもこいつも…。」
「どうして完璧なサービスを求めるんだよ!」
「ハァ…一杯飲んで帰るか…。」
神様はため息をつきながら、
とあるバーへ入りました。
神
「すみませーん、お酒まだー?」
スタッフ
『申し訳ございません!』
『ただいまお持ちします!』
神
「急いでねー。」
「まったく…ここはお酒の提供が遅い。」
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ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
『国教「頑張れ教」』全4話
『銀の静寂都市』1話完結
『将来という虚構』1話完結
⇒参考書籍
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