2024年04月28日
【短編小説】『人質のウェディングドレス』(1話完結)
【ウェディングドレスという白装束】
とあるサラリーマンがいました。
彼は結婚し、子宝に恵まれました。
彼はその直後、
会社でのポストが上がりました。
彼は収入が増えたので、
思い切って35年ローンで
マイホームを購入しました。
彼はシアワセの絶頂にいるはずでした。
が、
役員
『悪いが、来月から2年間の単身赴任を頼む。』
『もちろん休暇には戻ってきていい。』
男
「え…?」
彼は出世した直後に、
遠い本社への単身赴任を命じられました。
男
「少し考えさせてもらえませんか?」
役員
『かまわんよ。あぁそうだ、確か…。』
役員は口元に笑みを浮かべて
こう言いました。
役員
『娘さん、今年から保育園に入るんだよな?』
『保育費用の工面、大変だよなぁ。』
男
「……単身赴任…お受けします……。」
役員
『(ニヤリ)…助かるよ。』
『会社はきみに期待しているんだ。』
『ぜひ本社で成長してもらいたい。』
ーー
彼は本社へ単身赴任し、
日々の激務に耐えていました。
知り合いのいない土地で
会社とアパートを往復する毎日でした。
彼は家族にも会えず、
精神を擦り減らすばかりでした。
そんな折、
彼の妻と娘が飛行機に乗って
夫を訪ねてきました。
妻はやつれた夫を見かねて
こう言いました。
妻
『…仕事、辞めてもいいんだよ?』
『このままじゃ身体を壊すよ?』
男
「辞めるわけにはいかない…。」
妻
『どうして…?』
男
『家族を守るため。』
『家のローンも、娘の教育費もかかるから。』
妻
『でも、そんなボロボロじゃ…。』
男
『大丈夫、せっかく出世したんだ。』
『いずれ役員になって、もっと収入を上げるよ。』
彼は妻と娘の心配をよそに、
本社での激務に耐え続けました。
ーー
<1年後>
男
『疲れた…今日も終電まで残業か…。』
男が2年間の単身赴任を終えるまで
あと1年になりました。
男
『労働時間が長すぎる。』
『家族との時間も取れない。』
『この会社で働き続けても先がないな…。』
彼は出世したものの、
今の働き方に限界を感じました。
そこで、彼は思い切って
転職活動することを上司に相談しました。
ところが、
本社役員
『今のポストを捨てての転職か。』
『きみの決断に口出しはしない、が…。』
本社役員は口元に笑みを浮かべて
こう言いました。
本社役員
『家のローンはあと何年残っているんだ?』
『奥さんと娘さん、路頭に迷うかもなぁ…。』
男
『(ギクリ)……!』
本社役員
『きみの能力なら問題ないと思うがね。』
『もし転職に失敗したら家族はどうなる?』
男
『…うぅ…!』
本社役員
『確か35年ローンだったかな?』
『支払いは大丈夫か?』
男
『では…せめて仕事量を調整できませんか?』
『残業時間を減らして、家族との時間を…。』
本社役員
『きみの能力なら効率良く片付けられるはずだ。』
『その辺を見直してみたらどうだ?』
男
『それは…。』
本社役員
『残業代はしっかり出ている。』
『家計の足しになっているだろう?』
男
『確かにそうですが…。』
本社役員
『きみは家族のために頑張っているよ。』
『だから会社は信頼して多くの仕事を任せる。』
『上のポストに就いてもらいたいんだよ。』
『転職でそのチャンスを逃すのか?』
男
『…わかりました…会社に残ります。』
本社役員
『(ニヤリ)…助かるよ。』
『会社はきみに期待しているんだ。』
『ぜひ役員まで上ってきてもらいたい。』
その後、
とある会社の管理職の男が
うつ病に倒れたという噂が、
あったとか、なかったとか。
ーー
住宅メーカー担当
『お疲れさまです。』
『布教活動は順調ですか?』
ブライダル担当
『信者の獲得が難しくなってきました。』
『今後”結婚教”はどんどん崩れていくでしょう…。』
住宅メーカー担当
『イメージ作りはまだ健在ですよね?』
『”きらびやかなウェディングドレス”。』
『”素敵な結婚式”というイメージは。』
ブライダル担当
『それは健在です。』
『結婚ビジネスはもう少し持ちそうです。』
『住宅ローンの調子は?』
住宅メーカー担当
『厳しいです…。』
『世の中が”住宅ローンは首輪”だと気づき始めました。』
ブライダル担当
『”男は家を買ってこそ一人前神話”は?』
住宅メーカー担当
『崩れました…。』
『高額なモノで自己顕示欲を満たす時代は終わりかけています。』
ブライダル担当
『ううむ…どちらも潮時ですか。』
『”結婚はシアワセの象徴神話”も。』
『”男は一家の大黒柱神話”も。』
住宅メーカー担当
『潮時です。このままでは…。』
『”人質の確保ノルマ”の達成が難しい…。』
会社役員
『やぁお二方、布教活動の調子はどうですか?』
住宅メーカー担当
『ぼちぼちです。』
ブライダル担当
『ウェディングドレスへの幻想はまだ健在です。』
会社役員
『そうですか、ぜひお願いしますよ。』
『最近は独身者が増えて困っているんです。』
『独身者はすぐ転職するし、サービス残業させにくい。』
『なにしろ独身者には…。』
『”家族という人質”がいませんからね。』
住宅メーカー担当
『神話だけでは労働へ縛りつけるのが難しいです。』
ブライダル担当
『別の方法で洗脳しましょう。』
住宅メーカー担当
『この国の国教「頑張れ教」はどうですか?』
・みんな頑張って働いている
・サボるヤツは人生の負け組
・お金がないと人生詰むぞ
・稼げないヤツはモテない
『これなら独身者にも効くでしょう。』
会社役員
『「頑張れ教」も最近揺らいでいますよね?』
ブライダル担当
『揺らいでいますが…。』
『結婚教よりは長持ちするでしょう。』
会社役員
『そうですか。』
『では独身者にも仕事を”頑張って”もらいましょう。』
…………。
……。
会社役員
『さて…どうやって”逃げられない労働者”を確保するか。』
『せめてもう少し、国民にバレないでほしいな…。』
『会社にとって、家族とは人質。』
『ウエディングドレスとは…。』
『”囚われの姫君の白装束”だということが。』
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
『国教「頑張れ教」』全4話
『首輪の神』(1話完結)
『銀の静寂都市』(1話完結)
⇒参考書籍
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