アフィリエイト広告を利用しています

広告

この広告は30日以上更新がないブログに表示されております。
新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
posted by fanblog

2024年10月03日

【短編小説】『無表情の仮面』9

【MMD】Novel Muhyojo SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character1Lior2Small1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character2Clavis2Small2.png

【第8話:同情と罪滅ぼし】からの続き

<登場人物>
リオラ
 ♀主人公、16歳
 西の国の魔法学院・高等科に在籍

エルーシュ
 ♀リオラの母親、32歳

アシェラ
 ♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳

クラヴィス
 ♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍

オルニス
 ♂クラヴィスの父親、32歳
 南の国の国防軍・魔法部隊隊長
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第9話:笑顔を奪ったもの】



私はリオラ。
行方知れずの母親を探して、
南の国まで旅をしてきた。

私は旅立つ前から予感していた。

いくつもの国を脅かす”冷眼の魔女”は
きっと私の母親だろうと。

そんなわけない、
人違いであってほしいと願った。

けれど、
冷眼の魔女を見るアシェラさんの表情は、
私の淡い期待を打ち砕いた。


アシェラ
『…ウソ…でしょ…お姉ちゃん…。』


アシェラさんはショックで放心していた。

彼女にとっては、
母親の顔を覚えていない私より
よっぽどタチの悪い再会だった。



リオラ
(オルニスとの約束!…戦ってはダメ!)
(逃げなきゃ!)


私は全身の震えをこらえながら、
オルニスへ救難信号の魔法を飛ばした。

私たちにできるのは逃げ切ること。
オルニスが精鋭部隊を率いて助けに来るまで。


エルーシュ
『…逃がさないよ。』


お母さん…もとい冷眼の魔女は、
ほぼ無詠唱で追撃の火炎魔法を撃ってきた。

模擬戦闘で対峙した暗黒魔導士とは
比べ物にならないほど速かった。

リオラ
「…アシェラさん!目を覚まして!」


アシェラ
『…ハッ!』


ドン!

間一髪、
アシェラさんは魔法バリアを張ってしのいだ。

エルーシュ
『…アシェラ、やるじゃないの。』
『…少しは楽しめそう。』


アシェラ
『お姉ちゃん…止め…!』


アシェラさんが言い終わるヒマもなく、
炎の連撃が飛んできた。

リオラ
「…対火魔法で逸らして…!」
「…いけない!速すぎる…!」


私とアシェラさん2人がかりで
魔法バリアを張ったが、

【MMD】Novel Muhyojo Episode9 VS Eroush2Small2.png

リオラ
「……バリアが破られ…!」


アシェラ
『…リオラ!こっち!私の法衣の中へ!』


リオラ
「え…!」


ゴォォォォォ!

リオラ
「ああぁぁぁ!」


魔法バリアが破られ、
私たちは炎に飲み込まれた。

リオラ
『アシェラさん…また私をかばって…!』


アシェラ
『大丈夫…魔法の法衣で軽減したから…。』


暗黒魔導士との戦闘で学んだ私たちは、
魔法バリアを込めた法衣を着ていた。

たいていの魔法攻撃に耐えられるが、
冷眼の魔女の力は「たいてい」ではなかった。



アシェラ
『とても逃げ切れない…。』
『リオラ!私が足止めする!』
『先にオルニスのところへ行って!』


リオラ
「アシェラさんだけ残して行けないよ…!」


アシェラ
『私なら大丈夫。』
『お姉ちゃんの魔法は小さい頃から見てきた。』
『弱点だって見逃さないよ!』


アシェラさんはそう言って、
強力な風の魔法を身にまとった。

リオラ
「炎に対して、冷気じゃなくて風…?」


アシェラ
『お姉ちゃんの火炎魔法のクセなの。』
『これで全部逸らしてやるんだから!』


エルーシュ
『…ふん、覚えていたか…。』
『…あれから私が成長していないとでも?』


アシェラ
『風よ…我を守護せよ…!』


【MMD】Novel Muhyojo Episode9 VS Eroush3Small3.png

アシェラ
『…リオラ!早く行っ…?!』


ゴォォォォォォォォォ!

風魔法が吹き飛ばされ、
さらに強力な炎がアシェラさんを襲った。

アシェラ
『うぅ……。』


リオラ
「お母さん…?」
「あなたは私のお母さんなんでしょ?!」


エルーシュ
『……。』


リオラ
「もう止めてよ!」
「この人は妹のアシェラさんだよ?!」
「私は娘のリオラ?!覚えてない?!」


アシェラ
『お姉ちゃん…もう止めて…。』


エルーシュ
『…とどめ。』


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!

アシェラ
『…どうしてこんなことを…?』


エルーシュ
『…復讐。』


アシェラ
『…復…?』


エルーシュ
『こんな世界に価値はない。』
『誰も私を愛さない世界なんて滅ぼしてやる…!』




私には、冷眼の魔女の動機は
あまりに歪んでいるように思えた。

けれど、アシェラさんは納得していた。


冷眼の魔女…もとい、
お母さんは私を育てたのと同じように
スケジュール管理されて育てられた。

親からの愛情を受けられず、
生後3ヶ月で”無表情の仮面”を着けた。

『親は私より魔封じの秘術の研究が大事なの?』
なんて言えないまま、憎しみを募らせていった。

まさかそれが
将来の自分を封印する切り札なんて思わないまま。

【MMD】Novel Muhyojo Episode9AsherahChild2Small2.png

アシェラ
『…お父さんもお母さんもね…。』
『お姉ちゃんを愛していなかったわけじゃないの!』


エルーシュ
『…娘を冷たいスケジュールに当てはめておいて?』
『…魔法の研究を優先しておいて?』


アシェラ
『きっと…守りたい人のための研究だったんだよ…!』


エルーシュ
『…何を今さら。』


アシェラ
『2人でお父さんたちに逢いに行こうよ!』
『理由を直接聞いてみようよ?』


エルーシュ
『…それは…もうできない。』


アシェラ
『どうして?』


エルーシュ
『数年前から行方知れずなんでしょ?』
『魔封じの秘術を完成させた者は。』


アシェラ
『そうだけど、きっとどこかで生きて…。』


エルーシュ
『私、いくつの国を負かしてきたと思う?』


アシェラ
『それは…。』


エルーシュ
『どれだけの魔術師を討ち取ったと思う?』


アシェラ
『まさか…お父さんとお母さんも…?!』


エルーシュ
『さぁね…その中にいたかもね。』


アシェラ
『…え…。』


エルーシュ
『…復讐と言ったでしょう?』


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!

冷眼の魔女の全身に、
巨大な魔力が溜まっていくのがわかった。

人間の身体に留めておくには
大き過ぎる魔力。

もし暴発したら、
この一帯の景色が変わってしまうだろう。

アシェラ
『お姉ちゃん…それ以上はダメだよ!』
『身体が壊れてしまう!』


エルーシュ
(…ごめんね…私の巻き添えにして…。)
『…悪いけど消えてちょうだい…。』
『この世界ごと…!』


リオラ
「お母さん、やめてーーーー!!!」




パキィィン…!



リオラ
(……何…?今の音…。)


暴走した魔力が
いよいよ爆発すると思われた瞬間、
ふいに何かが割れる音がした。

エルーシュ
『う…うぅ……!』


冷眼の魔女の顔から、
何かのカケラがポロポロと落ちていった。

それは彼女が生後3ヶ月で
外せなくなった”無表情の仮面”だった。


【MMD】Novel Muhyojo Episode9EroushChild3Small3.png

アシェラ
『…初めて見た…お姉ちゃんの泣き顔…。』


無表情の仮面が割れ、
あらわになった彼女の顔は
涙でぐしゃぐしゃだった。

それは私が魔法学院を休学する前に、
雨の帰り道で泣いた時の顔。

16歳の孤独な少女の顔だった。

暴発寸前だった彼女の魔力は
どんどんしぼんでいった。



オルニス
『やっと見つけた!』
『2人とも無事ですか?!』


その時、
私たちの救難信号を受けた
オルニスが駆けつけた。

リオラ
「オルニス…!」
「アシェラさんの手当てをお願い!」


オルニス
『わかりました!アシェラさん、こっちへ!』


アシェラ
『うぅ…。』


オルニス
『冷眼の魔女…ようやく逢えたな…!』
『今度こそ”仇”を討たせてもらう…!』




【第10話:守りたい人がいる】へ続く

2024年09月30日

【短編小説】『無表情の仮面』8

【MMD】Novel Muhyojo SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character1Lior2Small1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character2Clavis2Small2.png

【第7話:人間に近づいて】からの続き

<登場人物>
リオラ
 ♀主人公、16歳
 西の国の魔法学院・高等科に在籍

エルーシュ
 ♀リオラの母親、32歳

アシェラ
 ♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳

クラヴィス
 ♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍

オルニス
 ♂クラヴィスの父親、32歳
 南の国の国防軍・魔法部隊隊長
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第8話:同情と罪滅ぼし】



<17年前、西の国:王都>

私はアシェラ、5歳。
10歳上にエルーシュお姉ちゃんがいます。

お姉ちゃんは王都の魔法学院・中等科で
「天才」と言われています。

私はお姉ちゃんと同じ学院に入りたくて、
魔法をたくさん勉強しています。

お姉ちゃんはとても優しいけれど、
私の前でも笑ってくれないんです。

お姉ちゃんの笑顔が見たいです…。



お姉ちゃんは無表情だけど、
お父さんとお母さんといる時は
顔がこわばっているのがわかります。

私もお父さんとお母さんが怖いです。
生活やお勉強のスケジュールを破ると
怒られるから。

特にお姉ちゃんには厳しいです。

お姉ちゃんが笑わなくなった理由は、
お父さんとお母さんの接し方に
あるんじゃないかと思います…。

お父さんとお母さんは
とても急いでいるように見えます。

研究室にこもって、
「魔封じの秘術」とか「封印」とか、
難しい言葉を口にしています。


魔法の研究より
お姉ちゃんに優しくしてほしいけれど、
焦る2人を見ると何も言えなくなります…。

1度だけ理由を尋ねたことがあります。
そしたらお父さんは



『罪滅ぼし』



と答えたんです。

お父さんとお母さんは、
世界を危うくするような強い者を
生み出したかもしれなくて、

それを止める術を後世に残すのが
自分たちの使命だと言ったんです。

【MMD】Novel Muhyojo Episode8EroushChild3Small3.png

そのための研究が
お姉ちゃんの笑顔より大切なのか、
私には理解できません…。


そんなに強い者とは誰?
お姉ちゃんの笑顔は見られないの?

わからないことだらけの毎日は、
スケジュール通りに過ぎていきます。


ーー


<現在、南の国:国境付近の山地>

私はエルーシュ
これまで多くの国防軍に勝利してきた。

どうしてこんなことを繰り返すのか、
私にもわからない。

国の支配に興味はないし、
多くの人を傷つける罪悪感に
押しつぶされそうになる。

けれど、憎しみの衝動が襲ってきたら
自制できなくなる。

我に返ると、目の前の相手は倒れている。

戦いのさなかに『滅ぼしてやる!』
口にした記憶だけが鮮明に残って…。

この前、娘の夢を見た。
私が、16歳になったリオラに襲いかかる夢。


その時も私は
『滅ぼしてやる!』と口にしていた…。

【MMD】Novel Muhyojo Episode8Eroush2Small2.png

私は数年前、
ある国の魔法部隊の幹部たちを討ち取った。

彼らは強力な”魔封じの秘術”を使ってきた。

魔封じの秘術は
ずっと未完成とされてきたけど、
彼らの術はたぶん完成していた。

私はそこで負けるはずだった。
『やっと楽になれる』と思ってしまった。

なのに、私は封印されなかった。

見覚えのある幹部が
私にとどめの一撃を放った瞬間、
わずかに手加減された気がした。


そこで私の記憶は途絶え、
気づいたら幹部は一網打尽。
軍は撤退していた。

憎しみに支配された私が
返り討ちにしてしまったんだろう。

…バカな奴らだ…。

せっかくの私を倒せるチャンスで
手を抜くなんて。

理由?知りたくもない。

もしそれが「娘への同情」だったら、
私の自我は完全に壊れてしまう…。




過去を悔やむのはここまでにして、
この辺りに張った結界の様子を
見てみましょう。

侵入者2人を確認。
南の国の奴らじゃないってことは、
いよいよ来たか…。

妹と、成長した娘に
こんな形で再会するなんてね。

ゴゴゴゴゴゴゴ……!!

いけない、憎しみの衝動が戻って来た。

アシェラ、こんな姉でごめんね。
リオラ、こんな母でごめんね。

行きましょう、”最期の”戦いに。

エルーシュ
『憎しみの炎よ、私を包みなさい。』
『すべて滅ぼしてやる!』



ーー


<現在、南の国:国境付近の山地・中腹>

私はリオラ
アシェラさんと2人で
南の国の山道を歩いてきた。

もう少しで、
冷眼の魔女の動向を監視している
前線部隊と合流できそうだ。

アシェラ
『ねぇリオラ…お母さんの顔、覚えてる?』


リオラ
「覚えてない。」
「夢に出てきた知らない女の人がそうなのかな。」


アシェラ
『旅立つ前に見た悪夢の?』


リオラ
「うん。」


アシェラ
『その人に懐かしさを感じたんでしょ?』


リオラ
「そうなの、面識がないはずなのに。」


アシェラ
『もし冷眼の魔女が本当に母親だったら…。』
『もし目の前で封印されてしまったら…。』
『リオラは耐えられる?』


リオラ
「?突然どうしたの…?』


アシェラ
『もし封印じゃなく命まで取られたら…。』
『リオラは黙って見ていられる?』


リオラ
「…止めに入ってしまうかも…。」
「”話し合いで”なんて言い出しちゃうのかな。」


アシェラ
『私もきっと見てられない…。』
『たとえ説得なんて通用しなくても…。』


リオラ
「封印を止めるなんて…ダメだよね。」
「オルニスが守りたい人を守れなくなっちゃう。」
「クラヴィスも、南の国の人たちも。」


アシェラ
『…そ…そうだよね!私情は禁物!』
『ごめんね!迷わせるようなことを言って。』




アシェラさんは
不安を吐露したことを後悔したけど、
私は嬉しかった。


ずっと気丈だったアシェラさんが、
初めて弱さを見せてくれたから。

リオラ
「アシェラさん、ありがと。」


アシェラ
『え?』


リオラ
「なでなでしてもいい?」


アシェラ
『今?』


リオラ
「今。」


アシェラ
『なんで?(汗)』


リオラ
「ずっと支えてくれた感謝。」


【MMD】Novel Muhyojo Episode8Lior2Small.png

アシェラ
『今はいいよ///(照)』


リオラ
「じゃあ帰ってから。」


アシェラ
『…断ったら?』


リオラ
「やる。」


アシェラ
『じゃあ…リオラがお母さんに逢えたら。』


リオラ
「約束だよ?」


アシェラ
『むぅー…わかった。』
『その笑顔、お母さんに見せてあげて?』


リオラ
「もちろん!」
「私、”無表情の仮面”を外せるようになってきたから。」


アシェラ
『ふふ、楽しみ。』




たわいない話をしながら
前線部隊の基地へ近づいた時、
私は小さな違和感を覚えた。

リオラ
(……?何だろう…?)
(空気が重く湿っていく…。)
(気のせい?ただの雨の前兆?)


私がそれに気づけたのは、
先日の暗黒魔導士との実戦経験のおかげ。

アシェラさんは、私が足を止める頃には
すでに警戒態勢に入っていた。

やっぱり、彼女の魔術師としての実力はすごい。

アシェラ
『リオラ、空気が変わったのを感じる?』


リオラ
「…うん、これ湿気じゃなくて魔力だよね。」
「結界?哨戒用の探索魔法?」


アシェラ
『たぶん侵入者を検知する結界。』
『微細だけど、この一帯に張り巡らせてある。』


リオラ
「誰かの接近を警戒してるの?」
「じゃあ前線の魔法部隊が張ったのかな?」


アシェラ
『そうだといいけど。』
『もし冷眼の魔女が張ったものだとしたら…。』




ゾクッ



ふいに、私の背中に寒気が走った。

辺りの空気を押しつぶすほどの、
強い憎しみの波動を感じた。

【MMD】Novel Muhyojo Episode8 VS Eroush1.2Small.png

リオラ
(…あの女性が近くにいる…!)
(一体どこに?)


辺りに人影は見当たらなかった。
それでも憎しみの出所は何となくわかった。

リオラ
(…何か飛んでくる…後ろ?!)
「アシェラさん!こっち!」


グイッ

アシェラ
『?!』


キュイン
ドーン!

私はアシェラさんの手を引っ張り、
背後から飛んできた火球を間一髪で避けた。


リオラ
「アシェラさん、大丈夫?」


アシェラ
『うん、ありがと。』
『よく気づいたね。』


リオラ
「強い憎しみを感じたの。」
「あの日の夢と同じ憎しみ。」




ゴゴゴゴゴゴゴ……!!



火球が飛んできた方角の上空に、
強力な魔法陣が浮いていた。

魔法陣の主は見知らぬ女性。
無表情で、氷のように冷たい眼をしていた。


リオラ
「あの人は…私の夢に出てきた…!」
「まさか冷眼の魔女…?」


アシェラ
『……”お姉ちゃん”……?!』


リオラ
「…え…?!」




【第9話:笑顔を奪ったもの】へ続く

2024年09月27日

【短編小説】『無表情の仮面』7

【MMD】Novel Muhyojo SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character1Lior2Small1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character2Clavis2Small2.png

【第6話:魔界との模擬戦闘】からの続き

<登場人物>
リオラ
 ♀主人公、16歳
 西の国の魔法学院・高等科に在籍

エルーシュ
 ♀リオラの母親、32歳

アシェラ
 ♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳

クラヴィス
 ♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍

オルニス
 ♂クラヴィスの父親、32歳
 南の国の国防軍・魔法部隊隊長
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第7話:人間に近づいて】



暗黒魔導士の猛烈な吹雪攻撃が続いた。

リオラ
「アシェラさん!こっち!」


私は手負いのアシェラさんを引っ張り、
吹雪の直撃を避けた。

リオラ
「ハァ…ハァ…。」


アシェラ
『リオラ、ありがと。』
『ごめんね、お荷物になっちゃって…。』


リオラ
「ううん、私が深追いしたせい…。」


今は何とか避けていても、
魔法を無効化されている以上、
こちらには攻撃手段がなかった。

そうこうしているうちに
寒さで眠くなってきた。

リオラ
(どうしよう…眠ったら最後…!)
(……”眠ったら”…?)




そういえば私たち…。

猛烈なブレス攻撃を浴び続けて、
心配はそっち?

なぜ凍傷で力尽きるでもなく、
この程度のダメージで済んでいるの?


  ------
  アシェラ
  『服に込めた魔法バリアは生きて…。』

  ------

リオラ
「それだ!道具に込めた魔法なら…!」
「アシェラさん!ロッド借りてもいい?」
「炎のロッド!」


アシェラ
『…いいよ…魔力は充填してあるから…。』


リオラ
「ありがと!」


”ロッド”は
特殊な魔石をはめ込んだ杖の一種。


魔石にあらかじめ魔力を込めておけば、
間接的に魔法を放出できる。

昔の魔石は数回使うと砕けてしまったが、
今は改良されて何度でも魔力を充填できた。



再び、暗黒魔導士の吹雪攻撃。

リオラ
「やッ!」


私が炎のロッドを振りかざすと、
火炎がほとばしり、吹雪とぶつかって消えた。


【MMD】Novel Muhyojo Episode7 VS Blackmage3Small3.png

リオラ
「防げた…!」
「これを繰り返して上昇気流を起こせば…!」


激しい温度差で小さな竜巻が発生。
魔法遮断の霧が徐々に散っていった。

リオラ
(相手は吹雪で攻めてくるだけ。)
(接近してこないってことは…。)
(それほど光魔法を恐れているってこと!)


紫の霧が薄れ、
私の手に魔力が戻ってきた。

私は相手に気づかれないよう、
光属性の攻撃魔法を準備した。

ビュオォォォォ!

ひときわ大きな竜巻が
私と暗黒魔導士の間に吹き荒れた瞬間、

リオラ
「今だ!光の槍!」


ビュン

ドッ!

私が竜巻の陰から撃った光の槍の1本が
暗黒魔導士を直撃。

今度こそ倒した。

リオラ
「ハァ…ハァ…勝った…!」


オルニス
『お見事。』


オルニスが幻影魔法を解除すると、
景色が荒野から訓練場に戻った。

リオラ
「あれ?傷がない?」


オルニス
『お2人とも、素晴らしい戦いでした。』


リオラ
「あの…アシェラさんの傷は?」


オルニス
『魔法を解けば消えますよ。』
『幻影ですから。』


リオラ
「…よかった…。」


安堵感とともに
私の全身から力が一気に抜け、
その場にへたり込んだ。

【MMD】Novel Muhyojo Episode7Lior2.2Small2.2.png



オルニス
『アシェラさん、さすがです。』
『魔法遮断の霧を見抜くとは。』


アシェラ
『わ、私はリオラのお荷物になってしまって…(汗)』


オルニス
『リオラさんの魔法も素晴らしい。』
『その若さで高威力の光魔法を使いこなすとは。』


リオラ
「私、アシェラさんを手負いに…。」


オルニス
『ははは、戦闘については良い経験になったでしょう。』


リオラ
「なりました…。」
「魔法そのものを無効化する相手がいるなんて。」
「教科書で読んだことがあるだけでした。」


アシェラ
『私も実際に見たのは初めてです。』


オルニス
『高位の魔族は、魔法以外の多くの切り札を持っているそうです。』


リオラ
「あの時、接近されたらやられていました…。」


オルニス
『危ないところでしたね。』
『とはいえ魔族との戦争は過去の話。』
『現代であんな状況に遭遇することはまずないでしょう。』


アシェラ
『私も精進します…!』
『この子を守るために付いてきたので!』


リオラ
「アシェラさん…。」


オルニス
『実に頼もしい。』
『お2人とも、前線部隊へ合流してください。』


アシェラ
『あ、ありがとうございます!』


オルニス
『1つ約束してください。』


リオラ
「約束?」


オルニス
『もし冷眼の魔女に遭ってしまったら逃げること。』
『決して交戦せず、助けを呼んでください。』


アシェラ
『わかりました!』




コンコン、ガチャ、



クラヴィス
『パパ!お弁当届けに来たよ!』


オルニス
『クラヴィス、ありがとう。』


クラヴィス
『今日はお客様が来てるの?』
『って、先週のお姉ちゃん!』


【MMD】Novel Muhyojo Episode7Clavis2Small2.png

リオラ
「クラヴィス、先週ぶり。」


アシェラ
『あの後、大丈夫だった?』
『魔封じの秘術の試験。』


クラヴィス
『うん、先生もクラスのみんなもびっくりしてた!』
『”いつの間にこんなに上達したの?”って。』
『教えてくれてありがと!』


アシェラ
『そっか、よかったね!』


クラヴィス
『私もう大丈夫。』
『クラスのみんなに何を言われても言い返してやるんだ!』


オルニス
『お2人には感謝しかありません。』
『娘にこんなに良くしてもらって。』


クラヴィス
『リオラちゃん…どうしたの…?』
『悲しそう…。』


私の”浮かない表情”に気づいたオルニスは、
アシェラさんへ視線を移した。

アシェラさんは一瞬、視線を落とし、
苦笑いで返した。

オルニス
(そういうことですか…。)
(リオラさんの心の傷が…。)


クラヴィス
『私、リオラちゃんの笑顔が見たい!』


リオラ
「え?」


クラヴィス
『リオラちゃん、こんなに優しいから。』
『悲しそうな顔じゃなくて笑顔を見たいよ。』




…そっか…私、

オルニスやクラヴィスの前でも、
「浮かない顔」ができるようになったんだ…。


アシェラ
(……リオラ、よかったね…。)
(”無表情の仮面”を外せるようになってきて。)


私は「母親を探す旅」という方便を立てて、
学院から逃げるように休学した。

こう言うと変だけど、
この旅で少しだけ人間に近づけた。

人のあたたかさに触れるたびに、
私の”無表情の仮面”が剝がれていったから。



【第8話:同情と罪滅ぼし】へ続く


2024年09月24日

【短編小説】『無表情の仮面』6

【MMD】Novel Muhyojo SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character1Lior2Small1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character2Clavis2Small2.png

【第5話:雨中の魔法特訓】からの続き

<登場人物>
リオラ
 ♀主人公、16歳
 西の国の魔法学院・高等科に在籍

エルーシュ
 ♀リオラの母親、32歳

アシェラ
 ♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳

クラヴィス
 ♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍

オルニス
 ♂クラヴィスの父親、32歳
 南の国の国防軍・魔法部隊隊長
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第6話:魔界との模擬戦闘】



<1週間後、南の国の王都:魔法研究機関>

オルニス
『ようこそ南の国へ。』
『魔法部隊長のオルニスと申します。』


アシェラ
『お迎えありがとうございます。』
『アシェラです。』


リオラ
「リオラと申します。」


オルニス
『こちらこそ。』
『先週、娘に逢ったと聞きました。』
『魔封じの秘術の基礎を教えてくれたとか。』


アシェラ
『はい、リオラが偶然逢ったんです。』


リオラ
「わ、私は放っておけなくて…。」


オルニス
『本当にありがとう。』
『娘がとても感謝していました。』
『私は軍の任務でなかなか構ってやれなくて。』
『あの時に借りた傘、お返しします。』


リオラ
「ど、どうも…あり…!」


オルニス
『ははは、緊張しなくても大丈夫ですよ。』
『きっと自然に笑えるようになりますから。』


リオラ
「は、はいッ…!」


オルニス
『要件は西の機関長から聞いています。』
『冷眼の魔女の、次のターゲットはおそらくこの国。』
『偵察部隊を配置して警戒しているところです。』


アシェラ
『決定的な対策はあるんでしょうか?』


オルニス
『決定打はありません…。』
『頼みは魔封じの秘術でしょう。』


アシェラ
『他国もすでに使ったと聞いています。』
『封印に至らなかったことも…。』


オルニス
『ええ、完成度の問題だったようです。』
『ですが我が国の粋を集めて研究を進めています。』
『今や完成に限りなく近づいたでしょう。』
『それをぶつけるしかありません。』


アシェラ
『国境付近の山地で目撃されたそうですね。』


オルニス
『ええ、すでに張り込んでいます。』


リオラ
「私たち、確かめたいんです。」
「冷眼の魔女が母親かどうかを。」


アシェラ
『どうか現場へ行かせてください…!』


オルニス
『…我々にも”守りたい人”がいます。』
『もし戦闘になったら必要とあらば封印します。』
『たとえ魔女があなた方の家族でも。』


リオラ
「……!!」


オルニス
『場合によっては”命のやり取り”になります。』
『……構いませんか?』


私の頭にクラヴィスの顔が浮かんだ。

オルニスにも魔法部隊の人たちにも、
大切な人がいる。


その人たちを脅かす者がいれば、
最悪、命のやり取りになる。

そんなわかり切ったことを
突き付けられただけなのに、
私は怖気づいてしまった。

【MMD】Novel Muhyojo Episode6Olnis1Small1.png

アシェラ
『…もちろんです。』


オルニス
『リオラさんは…。』


リオラ
「………。」


オルニス
『まぁ…簡単には割り切れないでしょう。』
『少し落ち着いてから、また…。』


リオラ
「…い、いいえ…!」
「…覚悟はできています…!」


オルニス
『…わかりました、では念のため…。』
『お2人の実力を確かめさせてもらっても?』


アシェラ
『模擬戦闘ですね。』


オルニス
『話が早い、付いてきてください。』



ーー


<魔法訓練場>

オルニス
『私の幻影魔法で疑似的な相手を映します。』
『倒すか封印するかしてください。』
『2人で戦って構いません。』


リオラ
「…訓練場の壁は…。」


オルニス
『対魔法装甲は万全です。』
『安心して強い魔法を連発してください。』


リオラ
「…わかりました…!」


オルニス
『では。』


オルニスが幻影魔法を唱えると、
辺り一帯が薄暗い荒野へ変わった。

アシェラ
『あれは…暗黒魔導士!』


リオラ
「暗黒…魔導…?!」


かつての魔界との戦争時に
人間を苦しめた上級魔導士。

歴史の教科書でしか
見たことがないような強敵だ。


アシェラ
『さすが南の国…。』
『こんな戦闘経験も受け継がれているなんてね。』
『リオラ!いくよ!』


リオラ
「うん!」




戦闘開始。

アシェラ
『相手の方が速い…!』
「リオラ!速度倍加魔法をかけるよ!』
『回避の準備して!』


暗黒魔導士は爆発魔法を唱えた。

リオラ
「危ない!」


ドーン!

私はアシェラさんの速度倍加魔法のおかげで、
間一髪で回避した。

アシェラ
『いきなりこんな高位の魔法を…!』
『リオラ、大丈夫?』


リオラ
「大丈夫、今度はこっちから!」


暗黒魔導士に有効なのは光属性の魔法。

私は両手に魔力を集中させ、
光の槍を作り出した。

リオラ
「乱れ撃ち!」


【MMD】Novel Muhyojo Episode6 VS Blackmage1Small1.png

暗黒魔導士に数発ヒット。

リオラ
「手応えあり!」


私は追撃のため両手を構えたが、
アシェラさんは身構えたまま。



ふわり



アシェラ
『?!…(空気が変わった…?)』


リオラ
「一気にいくよ!」


アシェラ
(まさか…魔法遮断の霧?)
(全員の魔法を無効化する気?)
(そんなことをしたら自分だって不利に…。)


暗黒魔導士は
光の槍が直撃した傷を押さえていた。

リオラ
「アシェラさんどうしたの?チャンスだよ!」


アシェラ
(相手は十中八九…!)
(魔法以外の切り札を持ってる!)

『リオラ!深追いしないで!』


リオラ
「…え…?!」


暗黒魔導士は弱った素振りから一転、
身体から紫色の霧を出してきた。

霧に包まれた瞬間、
私の手に集中させた光の槍が消えた。

リオラ
「…力が入らない…。」
「まさか魔法がかき消されて…?」


アシェラ
『…やられた…!』


暗黒魔導士は
すかさず強力な吹雪を吐き出してきた。

【MMD】Novel Muhyojo Episode6 VS Blackmage2Small2.png

リオラ
「そうだ…速度倍加も無効に…!」


アシェラ
『リオラ!危ない!』


ビュオォォォォ!

吹雪が目の前に迫った瞬間、
アシェラさんが私に覆いかぶさった。

アシェラ
『うぅ…!』


リオラ
「アシェラさん!」
「ごめんなさい…!足を引っ張って…!」


アシェラ
『…大丈夫。』
『服に込めた魔法バリアは生きてるみたい。』
『こんなの機関長の冷気魔法より涼しいわ!』


アシェラさんは強がっているけど、
明らかに深手を負っていた。



私の戦闘経験の未熟さが招いたピンチだ。

攻撃にばかり気を取られて、
魔力の流れの変化を見落とした。

今は互いに魔法は無効。
相手にだけブレス攻撃という切り札がある。

どうするの…?
何とか接近して殴るしかないの…?

魔法が使えない私に…何ができるの…?!



【第7話:人間に近づいて】へ続く

2024年09月21日

【短編小説】『無表情の仮面』5

【MMD】Novel Muhyojo SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character1Lior2Small1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character2Clavis2Small2.png

【第4話:スケジュールと秘術】からの続き

<登場人物>
リオラ
 ♀主人公、16歳
 西の国の魔法学院・高等科に在籍

エルーシュ
 ♀リオラの母親、32歳

アシェラ
 ♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳

クラヴィス
 ♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍

オルニス
 ♂クラヴィスの父親、32歳
 南の国の国防軍・魔法部隊隊長
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第5話:雨中の魔法特訓】



私は雨の中を歩く少女に追いつき、
私が持っていた傘の下に入れた。

少女
『…?』


リオラ
「悲しいの?もう大丈夫だよ。」


少女
『あ、ありがと…。』
『…(ビクッ)?!』


少女は私を怖がった。
私が”無表情”だったから。


アシェラ
『大丈夫、怖くないよ。』


そこへアシェラさんが
笑顔で駆け寄ってきた。

リオラ
「怖がらせてごめんね。」
「私、笑うのが苦手なの。」
「泣いていたから心配になって。」


アシェラ
『はい傘、濡れちゃうよ?』


少女
『あ…ありがとう…ございます。』
『あの…お姉ちゃんの傘は…?』


アシェラ
『予備があるから大丈夫!使って?』


ニコリ

少女はアシェラさんの笑顔を見て、
やっと少し安心してくれた。

【MMD】Novel Muhyojo Episode5Clavis2Small2.png

近くに公園と、
屋根付きのベンチがあった。

私たちはひとまずそこへ避難し、
魔法で少女の濡れた服を乾かした。

少女
『さっきはありがとう。』
『私の名前はクラヴィス。』
『魔法学院の初等科に通ってるの。』


アシェラ
『私はアシェラ、よろしくね。』


リオラ
「私はリオラ。怖がらせてごめんね。」
「さっきはどうして泣いてたの?」


クラヴィス
『私、魔法の成績が良くないの。』
『それでクラスのみんなに色々言われて…。』
『今日は傘を持ってきたのに、ロッカーになくて…。』


リオラ
「…(ズキッ)!」


クラヴィス
『玄関で困っていたら、みんなに笑われて…。』


アシェラ
『それで、悲しくなって飛び出してきたの?』


クラヴィス
『うん…。』




それは私が休学前に
クラスメイトからされたことと同じだった。


クラヴィスの涙に、
学院での私の姿が映った気がした。

リオラ
「……(ゴゴゴゴゴ…)!」


クラヴィス
『お姉ちゃん、どうしたの…?怖いよ…。』


リオラ
「ご、ごめん!」


私は全身から漏れ出した怒りの魔力を
慌てて引っ込めた。

リオラ
「どんな魔法が上手くできないの?」


アシェラ
『私たち、少し魔法の心得があるの。』
『力になれるかも。』


クラヴィス
『本当?』
『お姉ちゃん、もしかして西の国から来たの?』


リオラ
「そうだけど、どうして知ってるの?」


クラヴィス
『パパが言ってた。』
『近々、魔法が上手なお姉ちゃんが来るって。』
『パパは任務でなかなか会えないから…。』
『その人たちに聞いたらいいよって。』


アシェラ
『任務?』


クラヴィス
『うん、パパは王都で魔法部隊の隊長をやってるの。』
『すごく強くて、魔法も上手いんだ。』


アシェラ
『もしかしてパパの名前は…。』


クラヴィス
『オルニス。』




オルニスは、
機関長が紹介してくれた
南の国の魔法部隊・隊長の名前だった。

リオラ
「実は私たち、西の国の機関長の紹介で…。」


クラヴィス
『お姉ちゃんたちがそうなの?』
『パパより強い?』


リオラ
「それは自信ない(汗)」


クラヴィス
『じゃあ「魔封じの秘術」に詳しい?』


アシェラ
『?!!…魔封じ…。』


「魔封じの秘術」は魔法学院の必修科目で、
私も初等科の時に習った。

世界を危機に陥れる存在が現れた時に備え、
各国で研究が進められている秘術。

どんなに魔力が強い者でも、
宝石の中へ封じ込めてしまうという。


ただし未完成で、
どれくらいの相手に通じるかわからない。

とある魔術師夫婦が
完成させたという噂もあるけど、
2人とも数年前から消息を絶っていた。

アシェラ
(お父さまとお母さまが研究していた魔法…。)
(そして、エルーシュお姉ちゃんから表情を奪った…!)


リオラ
「アシェラさん?どうしたの?」
「そんなに震えて…。」


アシェラ
『な、何でもないよ!』
『私たちも基礎ならわかるから!』


クラヴィス
『ほんと?じゃあ教えてくれる?』


アシェラ
『もちろん!』
『それじゃ、つまづいてるところを教えて?』



ーー


それから数時間、私たちは
クラヴィスとの魔法特訓に熱中した。

気づけば雨は上がり、
辺りが暗くなり始めていた。

【MMD】Novel Muhyojo Episode5Mahou1Small1.png

クラヴィス
『お姉ちゃん、ありがとう!』


リオラ
「よかったね、できるようになって。」


クラヴィス
『私、もう大丈夫!』


アシェラ
『そろそろ学院の長期休み?』


クラヴィス
『うん、明後日から。』
『パパが寮まで迎えに来てくれるの。』


リオラ
「うっ…。」


私はクラヴィスの嬉しそうな顔を見て、
胸が締めつけられた。

長期休みの前、
学院の寮生の親が迎えに来るたびに

「どうして私はああいう経験ができないの?」

という”声にならない悲鳴”を
押さえつけて過ごしてきた。

リオラ
「…よかったねッ…!パパが来てくれて…!」


私は精一杯、
嬉しそうな声色を作ってみせた。




夜になり、
クラヴィスと別れた私たちは
雨上がりの繫華街へ向かった。

宿に着き、荷物を降ろしてホッと一息。

リオラ
「アシェラさん、ご飯食べに行こ?」
「南の国の名物料理!」


アシェラ
『その前に…止むまで待ってから。』


リオラ
「止むまで?雨ならもう上がって…。」


ぎゅっ

リオラ
「…?!」


アシェラ
『…ヤセ我慢してる子が”泣き止むまで”ね?』
『悲しかったよね、寮に誰も迎えに来なくて…。』


ポロ、ポロ、

リオラ
「…どうして…いつもバレちゃうの…?」


ニコリ

アシェラ
『…理由なんて要らないでしょ?』


私、この人に頼りっぱなしだ…。

アシェラさんだって辛いはず。
蛮行を繰り返す魔女が姉かもしれないんだから。

なのに、彼女はずっと
私のお母さんとお姉さんの代わりでいてくれる。

アシェラさん、この恩は必ず返すよ。
今は、もう少し泣かせてね…?



【第6話:魔界との模擬戦闘】へ続く

2024年09月18日

【短編小説】『無表情の仮面』4

【MMD】Novel Muhyojo SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character1Lior2Small1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character2Clavis2Small2.png

【第3話:泣いて支えて】からの続き

<登場人物>
リオラ
 ♀主人公、16歳
 西の国の魔法学院・高等科に在籍

エルーシュ
 ♀リオラの母親、32歳

アシェラ
 ♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳

クラヴィス
 ♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍

オルニス
 ♂クラヴィスの父親、32歳
 南の国の国防軍・魔法部隊隊長
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第4話:スケジュールと秘術】



<22年前、西の国:王都>

(エルーシュ10歳、アシェラ0歳)


『……ル…シュ…。』
『……エルーシュよ…。』


エルーシュ
『…んん…誰…?』



『エルーシュよ、起きなさい。』


エルーシュ
『…ハッ!』


父親
『魔法の勉強中に居眠りとは何ごとかね?』
『帰省中だからといってダラケてはいけない。』


エルーシュ
『お…父さま…。』


父親
『寝ていた時間分、スケジュールが遅れた。』


エルーシュ
『ごめんなさい…。』


父親
『16時から実戦訓練だ。』
『準備しなさい、私は研究に戻る。』


エルーシュ
『はい…。』


母親
『今15時30分?』
『アシェラのオムツ交換の時間ね。』
『エルーシュ、訓練場へ行っていなさい。』


エルーシュ
『お母さま、さっき…。』


母親
『何?』


エルーシュ
『アシェラが”お腹が空いた”と。』


母親
『あの子が言ったの?』


エルーシュ
『いえ、そういう泣き方をしていました。』


母親
『アシェラの夕食は17時。』
『まだスケジュールの時間じゃないから。』


エルーシュ
『ですが、アシェラが泣いて…。』


母親
『予定をきっちり守れる子になるためよ。』


エルーシュ
『……。』


母親
『今日の訓練は火炎魔法。』
『教則本16ページの応用から。』
『早く行って、魔力を練っておきなさい。』


エルーシュ
『…はい…(アシェラ…すまない…。)』



ーー


<その日の夜>

母親
『エルーシュ、あなた…。』
『訓練場に行く前にアシェラにご飯あげたでしょ?』


エルーシュ
『はい、アシェラがお腹を空かせた顔を…。』


母親
『間食になるから困るの。』
『おかげであの子、夕飯を残したんだから。』


エルーシュ
『アシェラは泣いて訴えていましたよ?』


母親
『あの子の将来のためだから仕方ないの。』
『栄養バランスのスケジュールも立ててるんだから。』


エルーシュ
『…そこまでスケジュール通りにしなくても…。』


父親
『エルーシュ、もうすぐ20時だ。』
『今日の復習を始める、書斎へ行きなさい。』


エルーシュ
『お父さま、アシェラの話はまだ…!』


父親
『我々を困らせないでくれ。』
『今、重要な”封印魔法”の研究を進めている。』
『知らないわけじゃないだろう?』


エルーシュ
『心得ています…。』


父親
『時間をムダにできないんだ。』
『2人のためでも、世界のためでもある。』


エルーシュ
『…わかり…ました…。』


…………。

【MMD】Novel Muhyojo Episode4EroushChild3Small3.png

ーー


<現在、南の国:国境付近の山地>

スヤスヤ…パチッ

エルーシュ
『…また…昔の夢か…。』
『お父さまも、お母さまも…。』
『”スケジュール”とか”まだ時間じゃないから”とか。』

『いや、私には憎む資格なんてない。』
『私はリオラに同じことをしてしまった。』
『挙句あの子を見捨てて、世界を恐怖に陥れて…。』


スッ

エルーシュ
『私の表情…。』
『こんなに色々考えても変わらないのか。』
『もう外せないのかな…?”無表情の仮面”。』


ゴゴゴゴゴゴゴ……!!

エルーシュ
『いけない、また憎しみが戻って来た。』
『もう少し感傷に浸らせてほしかったのに。』

『憎しみの炎よ、私を包みなさい。』
『次の相手はどこの国防軍?』
『どこのエリート魔法部隊?』

『すべて滅ぼしてやる。』
『忌々しいあの男も、冷たい両親も。』
『私の穢れた血を分けた…あの子も!』



ーー


<現在、南の国:国境沿いの街>

リオラ
「着いた、ここが国境沿いの街かぁ。」


アシェラ
『遠かったね。』
『もう十分、旅行した感じ。』


リオラ
「王都は近いの?」


アシェラ
『ここから数日かな。』


リオラ
「うへぇ…さらに数日…。」


アシェラ
『今日は休みましょう、雨が強くなる前に。』


リオラ
「うん。」




小雨が降る中、
私たちは宿屋のある繫華街へ向かった。

リオラ
「そういえば、この街にあるんだよね?」
「魔法学院の系列校。」


アシェラ
『………。』


リオラ
「…?アシェラさん?」


アシェラ
『えっ?あ、ごめんね!』
『ちょっとボーっとしちゃった!』


リオラ
「…大丈夫…?」


アシェラ
『あ、あはは!大丈夫!』


魔法学院の系列校の話になった途端、
アシェラさんの表情が曇った。


そういえば、アシェラさんの両親は
どこかの魔法学院の教師って聞いたような…?
だとしたら話題を間違えたかもしれない。



私が悶々としながら歩いていると、

アシェラ
『あれがそうじゃない?』


見慣れた作りの建物が見えてきた。
門には「南の国・魔法学院」の文字。

アシェラ
『西の国の学院と同じ造りだね。』


リオラ
「一瞬、帰ってきたって錯覚しちゃった。」
「…あれ…?」


アシェラ
『どうしたの?』


広い校庭の先、
玄関口から1人の少女が出てきた。

傘もささず、表情を崩さず、
それでもよく見ると泣いていた。


【MMD】Novel Muhyojo Episode4Clavis2Small2.png

アシェラ
『あの子…どうしたのかな?』


私には、あの少女が
魔法学院での自分と重なって見えた。

ダダッ

アシェラ
『…リオラ?』


私は傘を握りしめ、少女へ駆け寄っていった。



【第5話:雨中の魔法特訓】へ続く

2024年09月15日

【短編小説】『無表情の仮面』3

【MMD】Novel Muhyojo SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character1Lior2Small1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character2Clavis2Small2.png

【第2話:冷眼の魔女】からの続き

<登場人物>
リオラ
 ♀主人公、16歳
 西の国の魔法学院・高等科に在籍

エルーシュ
 ♀リオラの母親、32歳

アシェラ
 ♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳

クラヴィス
 ♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍

オルニス
 ♂クラヴィスの父親、32歳
 南の国の国防軍・魔法部隊隊長
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第3話:泣いて支えて】



<翌朝、西の国:魔法研究機関>

アシェラ
『おはよう、よく眠れた?』


リオラ
「うん…。」


アシェラ
『…よかった…朝食は?』


リオラ
「食べたよ。この国の名物料理。」


アシェラ
『美味しかった?』


リオラ
「とっても。」


アシェラ
『今夜、楽しみにしといてね!』
『私の行きつけのお店に連れて行くから!』


アシェラさんは、私を元気づけようと
明るい話題を選んでくれた。

私は昨夜の悪夢でひきつった顔を
整えてきたつもりなのに、
彼女にはお見通しだ。



リオラ
「それで、冷眼の魔女のことだけど…。」


アシェラ
『少し遠いけど南の国。』
『国境付近の山地で目撃されてる。』
『次のターゲットにされるかも。』


リオラ
「南の国かぁ…休学期間、延ばさなきゃ。」


アシェラ
『どうして冷眼の魔女のことを知りたいの?』


リオラ
「根拠は何もないんだけど…。」
「私のお母さんかもしれない予感がするの。」


アシェラさんは驚かなかった。

彼女だって、
各国を攻撃して回る魔女が
実の姉だなんて信じたくないはずなのに。

リオラ
「あとね…昨夜…。」


私はアシェラさんに
昨夜の悪夢のことを話した。

【MMD】Novel Muhyojo Episode3Asherah1Small1.png

リオラ
「夢に出てきた女の人が冷眼の魔女で…。」
「私のお母さんじゃないかって思ったの。」


アシェラ
『…その人に…どんな気持ちになった?』


リオラ
「…”懐かしい”って思った。」


アシェラ
『そっか…。』


リオラ
「あ、あはは!」
「夢が根拠なんておかしいよね!」
「今の話は気にしないで?(汗)」


アシェラ
『確かめてみる?』


リオラ
「え?」


アシェラ
『冷眼の魔女がリオラのお母さんかどうか。』
『逢って確かめましょう。』


リオラ
「逢って?!」


アシェラ
『その方が早いでしょ?』


リオラ
「早いけど…。」
「軍隊を負かしちゃうくらい強いんだよ?」


アシェラ
『私が護衛するから、一緒に行きましょう。』
『リオラはお母さんの顔、覚えてる?』


リオラ
「覚えてない。」


アシェラ
『なら私が付いて行かなきゃ!』


リオラ
「あ…ありがたいけど…。」


アシェラ
『なーに?私じゃ頼りない?』
『これでもここの研究機関のエースだよ?』


リオラ
「そ、そんなことないよ!頼もしいけど…。」
「アシェラさんは研究機関にとって大事な人でしょ?」
「私の個人的な活動に付き合わせるなんて…。」




機関長
『その点は大丈夫。』


リオラ
「機関長?」


機関長
『リオラ、久しぶり。』
『こちらはとっくに根負けしている(苦笑)』
『安心してアシェラを連れて行きなさい。』


リオラ
「アシェラさん…機関長と何があったの(汗)」


アシェラ
『ちょっとしたバトルかな。』


リオラ
「バトル…(…止めても聞かなかったのね)…。」


アシェラ
『”ヤダ!お姉ちゃんに会いに行く!”』
『って言ってみただけ☆』


リオラ
「まだ冷眼の魔女がそうと決まったわけじゃ(汗)」


機関長
『何度言っても聞かなくてな…(泣)』


アシェラ
『もし冷眼の魔女が姉だとしたら、知りたいの。』
『お姉ちゃんの悲しみも、苦しみも…。』


リオラ
「……。」


アシェラ
『人違いならまた探せばいいでしょ?』


機関長
『そう、戻って来てもらわないと困る。』
『ウチは人手不足でな。』


アシェラ
『機関長!』
『それって業務的にってことですよね?(笑)』
『そこは”悲しい”って言ってほしかったです!』


機関長
『すまない(苦笑)』
『もちろん無事を祈ってるよ。』


アシェラ
『むぅー…何だか付け足し感がありますね…。』


リオラ
「あ、あははは!」


アシェラ
『…リオラ…笑えるようになったね。』
『私以外の人の前でも。』


リオラ
「…あ…!」


機関長
『…苦節16年か…。』
『やっと私にも笑顔を見せてくれて嬉しいよ。』


リオラ
「もしかして…そのために?」


アシェラ
『えー?わりと真剣だったよ?』


リオラ
「…とぼけるのがヘタだよ、お姉ちゃん…。」


アシェラ
『…おいで。』


私はまた、アシェラさんにしがみついて泣いた。

【MMD】Novel Muhyojo Episode3Lior2Small2.png

ーー


<数日後>

機関長
『南の国の魔法部隊に話を通しておいた。』
『きっと力になってくれるだろう。』


リオラ
「ありがとうございます、何から何まで。」


アシェラ
『私…必ずこの子を守ります。』


機関長
『2人なら問題ないと思うが、危険もある。』
『実力を見るための模擬戦闘があるかもしれない。』
『準備だけはしっかり整えてくれ。』


アシェラ
『わかりました、余裕で勝ってやります!』


リオラ
「わ…私も!大丈夫です!」


機関長
『無茶だけはしないように。』
『…アシェラ、お姉さんに会えるといいな。』


アシェラ
『……機関長!行ってきます!』


私はアシェラさんと機関長のおかげで、
少しだけ”無表情の仮面”の外し方を覚えた。



【第4話:スケジュールと秘術】へ続く


2024年09月12日

【短編小説】『無表情の仮面』2

【MMD】Novel Muhyojo SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character1Lior2Small1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character2Clavis2Small2.png

【第1話:無表情の”イイコ”】からの続き

<登場人物>
リオラ
 ♀主人公、16歳
 西の国の魔法学院・高等科に在籍

エルーシュ
 ♀リオラの母親、32歳

アシェラ
 ♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳

クラヴィス
 ♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍

オルニス
 ♂クラヴィスの父親、32歳
 南の国の国防軍・魔法部隊隊長
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第2話:冷眼の魔女】



魔法学院の休学手続きを終えた私は、
隣街にある魔法研究機関へ向かった。

そこには叔母のアシェラさんが
研究員として在籍していた。

アシェラさんなら
『冷眼の魔女』について
何か知っているかもしれない。

冷眼の魔女は数年前に突如現れ、
各国を攻撃して回っていた。

特徴は類まれな美しさと、
氷のように冷たい眼。

彼女は圧倒的な魔法の力で、
国防軍を次々に打ち負かしていった。


ただ、彼女は戦いに勝利すると、
国を支配するでもなく去ってしまうので、
目的がわからなかった。

なぜ私はそんな危険人物のことを
知りたいのかって?

彼女の噂を聞いた時から
「冷眼の魔女は母親かもしれない」
という予感がしているから。


ーー


<西の国:魔法研究機関>

西日が少しずつ下がり、
空には橙と紺色が混ざり始めた。

アシェラ
『リオラ、久しぶり。』


リオラ
「アシェラさん、久しぶり。」


アシェラ
『中等科の卒業式以来?』


リオラ
「うん、1年くらい。」


アシェラ
『早いね、もう1年かぁ…。』


私はアシェラさんの顔を見た瞬間、
自然と”無表情の仮面”を外していた。


【MMD】Novel Muhyojo Episode2Asherah1Small1.png

アシェラ
『手紙読んだよ。』
『学院を休学したんでしょ?』


リオラ
「うん。」


アシェラ
『いよいよ行くんだね。』


リオラ
「まぁ…。」


ぎゅっ

アシェラ
『…辛いよね…”氷姫”なんて呼ばれて…。』


リオラ
「…どうしてわかるの?」
「…まだ何も言ってないのに。」


アシェラ
『ずっと見てきたからね。』
『赤ちゃんのあなたから。』


リオラ
「…もう少し…このままでもいい?」


アシェラ
『…いいよ。』


私はそのまま静かに泣いた。

涙を流せるのは雨の帰り道だけ?
訂正、雨の帰り道と、アシェラさんの前。



ーー


リオラ
「コホン…。」
「先ほどはお世話になりました///(照)」


アシェラ
『どういたしまして。』
『冷眼の魔女のことはウチでも調べてるんだ。』
『他人事じゃないからね。』


リオラ
「目的もわからないし、怖いよね。」


アシェラ
『今日は長旅で疲れたでしょ?』
『時間も遅いし、詳しいことは明日話すね。』


リオラ
「お願いします。」


アシェラ
『今夜はどうするの?』


リオラ
「宿を取ってる。」


アシェラ
『そっか、明日すぐ出発?』


リオラ
「何日か滞在するよ。」
「せっかく来たから観光したいな。」


アシェラ
『なら出発までの間、私の家に来ない?』
『宿代も節約できるよ。』


リオラ
「いいの?」


アシェラ
『もちろん。』
『積もる話もあるだろうしね。』


リオラ
「ありがと!」



ーー


<その夜、リオラの宿泊先>

私は不思議な夢を見た。

異空間に佇む私に向かって
見知らぬ女性が迫ってくる夢。


彼女は見惚れる美しさと、
氷のように冷たい眼をしていた。

彼女の全身から憎しみが伝わってくるのに、
まったくの無表情だった。

まるで私と同じく
”無表情の仮面”を外せなくなったみたい。

リオラ
「…?…あなたは誰…?」



『許せない…。』


リオラ
「え?」



『…許せない、許せない、許せない!!』


リオラ
「?!!」


ゴォォォォ!!

彼女の背後から、
憎しみの炎が燃え上がった。

【MMD】Novel Muhyojo Episode2.2Eroush2.2Small2.2.png

リオラ
「ねぇ、聞かせてよ?」
「何がそんなに悲しいの?!」
「誰に怒ってるの?!」



『…狂わせた…!』
『…何が…秘術…!』
『…何が世界のため…!!』


リオラ
「…狂わせた…?…秘術…?」



『勝手に生み出しておいて…!』
『何が”罪滅ぼし”よ…!!』


リオラ
「生み出した…?!
「誰のこと?!秘術って何?!」



『私の人生を狂わせた全員…!』
『滅ぼしてやる!!!』


リオラ
「待って!わからないよ…。」
「あなたに一体何が…?!」



『忌々しいあの男も…!』
『あなたもね!!!』


リオラ
「やめてーーーーー!!!!」


ガバッ!

リオラ
「…ハァ…ハァ…夢…?」


時刻は深夜2時すぎ。
窓の外は穏やかな月夜だった。



リオラ
「怖かった…。」


私は汗に濡れた服を替えながら、
彼女の言葉の意味を考えた。

「私の人生を狂わせた」
「勝手に生み出した」


何のことか、誰のことか、
さっぱりわからなかった。

過去にどこかで逢って、
深く傷つけてしまった人?
いいえ、思い当たる節もなかった。

なのに、どうして私は
面識がないはずの彼女に
こんなに懐かしい気持ちになるの?


リオラ
「夢のこと、アシェラさんに相談してみよう。」
「冷眼の魔女はやっぱり私の…。」


ある”根拠のない確信”を得た私は、
再び眠りについた。



【第3話:泣いて支えて】へ続く

2024年09月09日

【短編小説】『無表情の仮面』1

【MMD】Novel Muhyojo SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character1Lior2Small1.png
【MMD】Novel Muhyojo Character2Clavis2Small2.png

<登場人物>
リオラ
 ♀主人公、16歳
 西の国の魔法学院・高等科に在籍

エルーシュ
 ♀リオラの母親、32歳

アシェラ
 ♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳

クラヴィス
 ♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍

オルニス
 ♂クラヴィスの父親、32歳
 南の国の国防軍・魔法部隊隊長
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【第1話:無表情の”イイコ”】



<16年前、西の国:王都>

私の名前はアシェラ、6歳。

10歳上のエルーシュお姉ちゃんと、
魔法の研究が盛んな”西の国”に住んでいます。

お姉ちゃんは王都の魔法学院・高等科で
「学院始まって以来の天才」と言われています。

私はお姉ちゃんみたいな魔術師になりたくて、
魔法をたくさん勉強しています。

そのおかげで、
私はお姉ちゃんが通う魔法学院の
初等科に合格できました。

数日後に初等科の寮に入ります。
お姉ちゃんと同じ学院で学べるなんて
夢みたいです。



1つだけ心配事があります。
それはエルーシュお姉ちゃんの”無表情”です。

私が物心ついた時から、
お姉ちゃんは笑うことも泣くこともしません。

怒っているわけじゃないし、
優しさは十分伝わってきます。

なのに、お姉ちゃんは嬉しい時も悲しい時も
”無表情の仮面”を着けたままです…。

お姉ちゃんは無愛想に見えるので、
まわりから誤解されやすいです。

学院では「氷姫」
呼ばれているみたいです。

けれど、私はお姉ちゃんに
『少しくらい愛想よくしたら?』
なんて言えません。

私は、お姉ちゃんが
無表情の仮面を外せなくなった理由を
知っているからです。


お父さんとお母さんが、
お姉ちゃんをどう扱ってきたのかも…。


ーー


私は魔法学院に入ってしばらくの間、
慣れない寮生活に戸惑いました。

お姉ちゃんのことも忘れるくらい、
自分のことで精一杯でした。

あっという間に1年あまりが経ちました。

私がようやく寮生活に慣れてきた頃、
お姉ちゃんが1年前から魔法学院を
休学していると知りました。

アシェラ
『お姉ちゃんに何かあったんですか?』


私は高等科の先生に尋ねました。
そして先生の答えに耳を疑いました。



お姉ちゃんは休学中に
女の子を出産していたんです。




私は1年ぶりにお姉ちゃんを訪ねました。

お姉ちゃんは
高等科に進むと同時に学院の寮を出て、
王都の魔法研究機関の宿舎に住んでいました。

お姉ちゃんは優秀すぎて、
学生ながら研究員として在籍していました。

お姉ちゃんの娘は生後3ヶ月で、
名前は「リオラ」ちゃんです。

私は、リオラちゃんをかわいがる
お姉ちゃんの姿を楽しみにしていました。

リオラちゃんとのふれあいで、
お姉ちゃんが”無表情の仮面”を
外せるかもしれないからです。

ところが、



エルーシュ
『アシェラ、久しぶり。』


部屋には魔導書を読みふけるお姉ちゃんと、
ベッドで静かにしているリオラちゃんがいました。

私はリオラちゃんが
あまりにおとなしいことに驚きました。

アシェラ
『赤ちゃんってこんなに静かなの?』


お姉ちゃんは無表情のまま答えました。

エルーシュ
『うん、”イイコ”でしょ?』


リオラちゃんのベッドの壁際に
スケジュールが貼られていました。

食事やオムツ交換や就寝の時間が
細かく書かれていました。

アシェラ
『これは?』


エルーシュ
『リオラのお世話スケジュール。』


アシェラ
『スケジュール?!』
『赤ちゃんは予定通りになんて…。』
『リオラちゃん泣いちゃうよ?!』


エルーシュ
『最初は泣いたよ。』


アシェラ
『やっぱり…。』


エルーシュ
『けど、まだ時間じゃないから。』


アシェラ
『……。』


エルーシュ
『その内”イイコ”になった。』


アシェラ
『時間が来るまで、お姉ちゃんは何してるの?』


エルーシュ
『魔法の研究。』


アシェラ
『リオラちゃんは?』


エルーシュ
『おとなしくしてる。』


私は思いました。

やっぱり、お姉ちゃんは
親に扱われたように娘を扱うんだ、と。



私はリオラちゃんを
抱っこさせてもらいました。

リオラちゃんは、
冷めた目で天井を見つめていました。

彼女には愛くるしさも、
母親を求める必死さもありませんでした。

リオラちゃんは生後3ヶ月で、
お姉ちゃんと同じ”無表情の仮面”を
着けてしまいました。


「お腹空いた」
「オムツを換えてほしい」


まるで、それらを泣いて知らせても
ムダだと学んでしまったようでした。

この時、私は決意しました。
『私だけでもリオラちゃんの味方でいよう』

私の前だけでも、
この子が”無表情の仮面”を外せるように。

私は学院での勉強の合間をぬって、
リオラちゃんのもとへ通いました。

【MMD】Novel Muhyojo Episode1AsherahChild2Small2.png


ーー


<16年後、西の国:王都>

私の名前はリオラ、16歳。
西の国の魔法学院・高等科に在籍中。

だけれど、もうすぐ休学する予定。
母親を探して、少し遠出するために。

私は物心つく頃には
王都の魔法研究機関にいた。

父親の記憶はなく、
母親の記憶はあいまいで、顔は覚えていない。


叔母のアシェラさんが私に会いに来て、
色々お世話してくれた。

叔母といっても、
私とは6歳しか離れていない。
彼女は私にとって姉のような存在。



アシェラさんの話では、
母親は私を産んでから数年間、
私をスケジュール管理するように育てた。


そして私が物事つく頃に、
突然、行方をくらましてしまった。

私の母親は「学院1の天才」と言われ、
16歳で王都の研究機関にも在籍していた。

ちょうどその頃、
何かがあって私を産んだらしい。

その「何か」について、
当時を知る先生たちは口をつぐんだ。

学院の長期休みが近づくと、

寮生の母親
『久しぶり、元気にしてた?』


寮生
『お母さん久しぶり!元気だよ!』


寮生の母親
『よかった…それじゃ帰りましょう。』


寮生
『お母さんのご飯、楽しみ!』


寮生たちの親が迎えに来た。

私は彼らの幸せそうな顔を見るたびに、
胸が締めつけられた。

「どうして私はああいう経験ができないの?」と。

私は顔も覚えていない母親を
憎く思うこともあった。

それでも私にとって世界で1人の母親。
どんな人でもいい、逢ってみたい。

1度だけでも、抱っこしてもらいたい…。


ーー


私が休学する理由はもう1つ。
それは学院での孤立が辛いから。

私の学院でのあだ名は「氷姫」

母親譲りの魔力と容姿、
そして無表情なことからそう呼ばれた。

本当は、アシェラさんの前でしか
”無表情の仮面”を外せないだけなのに。

私は男子たちの目にはミステリアスに映り、
何度も告白された。

けれど、私は断る時も無表情。

本当は申し訳ないのに、
『冷たく切り捨てる』と誤解を招いた。



それを聞いた周りの女子たちは、
私の陰口を言った。

『冷徹人間』とか
『無表情で気味が悪い』とか。

ある雨の日の放課後、
教室のロッカーに入れておいた
私の傘がなくなっていた。

私は学校の玄関に立ち尽くしたまま、
どしゃ降りの雨を眺めていた。

『クスクス…。』

私の後ろの方から、
クラスメイトたちの笑い声が聞こえた。

私は居心地の悪さに耐え切れず、
雨の校庭へ駆け出した。

私は寮までの帰り道を、
びしょ濡れになりながら歩いた。

この時間が私の救いだった。
なぜなら、



ポロ、ポロ、

リオラ
「…もう消えたいよ…。」
「こんな人生、早く終わらせたいよ…。」


私が涙を流せるのは、ここだけだから。



【MMD】Novel Muhyojo Episode1Lior2Small2.png



私は寮に入る前に、
”無表情の仮面”を着け直した。
管理人さんを心配させないために。

私は部屋に戻ると、
すぐに魔法の研究に逃避した。
何もせずにいると涙が溢れてくるから。

私の魔法の実力と成績は上がり続けた。
それが余計に周囲の嫉妬心を煽った。

辛くて魔法の研究に没頭し、
また周囲から孤立するという
悪循環に陥っていた。

「母親を探すための休学」
というのはウソじゃないけれど、
自分自身からの逃げでもあった。

私は自己嫌悪と戦いながら、
学院を休学する日を待ち焦がれた。



【第2話:冷眼の魔女】へ続く

2024年08月24日

【オリジナル歌詞】『生まれるのやめましょう』

【MMD】Novel Umareruno Yame SamuneSmall1.png

大切にされることを
知らない人を増やすなら

こんな血をつなぐなんて
私 お断り

家柄とか 虚栄心(プライド)とか
くだらない理由で 悲しむのは
私で末代(さいご)にさせてもらうの

  生まれるのやめましょう
  ゆるやかに滅びましょう
  生まれなければ苦しまなくていい
  たとえ幸せの放棄だとしても

  何のために生まれたか
  わからず朽ちた人たちの
  涙の上にあぐらをかくなら
  断絶した方がマシ



「生んでくれなんて頼んでない」
コドモのようなタワゴトだとしても
愚かでいさせてよ? 崩れそうなの…

  運命を受け入れて
  置かれた場所で咲きなさい?
  そんな正論で誰が救われるの?
  これ以上 心えぐらないでよ

  何のために生まれたか
  わからず朽ちた人たちを
  見続けて出した結論なんだから
  愚かに酔わせてよ…



「幸せ」「人権」「自由」「血筋」

どれも宗教の1つなのに
なぜ私たちを閉ざしてくるの?

  生まれるのやめましょう
  ゆるやかに滅びましょう
  「被害妄想を押し付けないで」と
  軽蔑してくれて構わないわ

  何のために生まれたか
  わからず朽ちる人たちを
  未来に再生産したくないだけよ
  私で末代(おわ)らせて?


  支離滅裂な暴論を抱きしめて
  私は生きてしまう…




ーーーーーENDーーーーー



⇒本作の関連小説
『反出生の青き幸』全4話

『反出生と翠玉の血』全2話

posted by 理琉(ワタル) at 19:00 | TrackBack(0) | 歌詞
検索
プロフィール
理琉(ワタル)さんの画像
理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
プロフィール
最新記事
カテゴリーアーカイブ
×

この広告は30日以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。