2024年10月06日
【短編小説】『無表情の仮面』10
⇒【第9話:笑顔を奪ったもの】からの続き
<登場人物>
◎リオラ
♀主人公、16歳
西の国の魔法学院・高等科に在籍
◎エルーシュ
♀リオラの母親、32歳
◎アシェラ
♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳
◎クラヴィス
♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍
◎オルニス
♂クラヴィスの父親、32歳
南の国の国防軍・魔法部隊隊長
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【第10話:守りたい人がいる】
オルニス
『2人とも生きていてよかった…。』
リオラ
「オルニス、助けてくれてありがとう。」
「ごめんなさい、逃げ切れなくて。」
オルニス
『いえいえ、よく持ち堪えてくれました。』
リオラ
「オルニス1人で来たの?」
オルニス
『先行は私1人です。』
『後ろに精鋭部隊を待機させています。』
『私が倒れても彼らがいるのでご安心を。』
リオラ
「なぜ1人で?」
オルニス
『どうしても”妻の仇”を討ちたくてね。』
『部隊の連中にわがままを言って来たんです。』
リオラ
「奥さまってことは…クラヴィスのお母さん?」
オルニスは一瞬、悲しそうな顔をしてから
冷眼の魔女を睨みつけた。
オルニス
『冷眼の魔女よ。』
『あなたは覚えてすらいないでしょう。』
『過去に討ち取った魔術師たちの名前など。』
エルーシュ
『…そんな奴ら、いちいち覚えていない…!』
オルニス
『でしょうね。たとえ彼らが…。』
『あなたを封印する寸前まで追い詰めたとしても。』
エルーシュ
『…?!…まさかお前は…!』
オルニス
『さすがに魔封じの秘術の恐怖は覚えていましたか。』
『私は、数年前にあなたが討ち取った魔術師の生き残りです。』
エルーシュ
『…!!』
オルニス
『今度こそあなたを封印します。』
『もう二度と娘を…クラヴィスを悲しませないために!』
ーー
<5年前、とある国の病院>
クラヴィス
『パパ!やっと起きた!』
オルニス
『…ここは…?クラヴィス?どうしてここに?』
クラヴィス
『パパどうしたの?ここは病院だよ?』
オルニス
『…私は…生き残ったのか…?』
クラヴィス
『ねぇ、パパはどうして包帯だらけなの?』
オルニス
『パパはは強い敵と戦ってね。』
『負けてしまったんだよ。』
クラヴィス
『敵?パパより強いの?』
オルニス
『ああ…強いよ。』
クラヴィス
『よかった…!パパが帰ってこれて!』
オルニス
(そうか…私の他に生き残りはもう…。)
クラヴィス
『ねぇパパ?』
『ママも帰ってきたのに、ずっと寝てるの…。』
オルニス
(ズキッ!…)
クラヴィス
『ママのお顔、何だか白っぽくて元気なさそう…。』
『パパ、どうしてママは起きないの?』
オルニス
『…。』
クラヴィス
『ママも敵と戦ったの?』
オルニス
『…そうだよ。』
クラヴィス
『やっぱりママも強いんだね!』
『じゃあ、ママは疲れて寝てるの?』
オルニス
『クラヴィス…ママはもう起きないんだよ…。』
『ママはクラヴィスを守るためにね…。』
……………。
………。
クラヴィス
『…そんなのイヤだよ…。』
『私、ママと一緒がいいよ…!』
『ママと一緒に笑いたいよ…!』
オルニス
『…すまない…ママを守れなくて…。』
クラヴィス
『ママ…起きてよ…ぎゅってしてよ…!』
『ううぅぅぅ……わあぁぁぁぁ!!!!!!!』
ーー
<現在、南の国:国境付近の山地>
オルニス
『クラヴィスはまっすぐ成長してくれました。』
『あんなことがあったのに、誰も憎まずに。』
アシェラ
『クラヴィスの笑顔の裏に、そんな悲しみが…。』
オルニス
『私は妻を守れなかった。』
『だがクラヴィスだけは守る!』
オルニスはそう言って、
魔封じの秘術の詠唱を始めた。
リオラ
「待って!」
私は反射的に
オルニスと冷眼の魔女の間に
立ちふさがってしまった。
リオラ
「わかってる…。」
「彼女はオルニスにとって奥さまの仇。」
「けれど、私にとってはやっと逢えたお母さんなの!」
アシェラ
『リオラ!ダメよ!』
『ここでお姉ちゃんを止めないといけない…!』
『弱っている今が封印のチャンスなの!』
オルニス
『2人の心中お察しします…。』
『ですがアシェラさんの言う通りです。』
『私にも、南の国にも、守りたい人がいるんです。』
アシェラ
(私だって本当は止めたいよ…!)
(たった1人のお姉ちゃんだもん…。)
リオラ
「…うぅぅ……!」
私はなんて弱いんだろう。
たとえ冷眼の魔女が母親でも、
目の前で封印されても耐えると約束したのに…。
こんな私じゃ、母親を亡くしても
前を向いて笑っているクラヴィスに
顔向けできないよ。
けれど、
お母さんの”無表情の仮面”が割れたんだ。
お母さんの笑顔が見たいよ。
一緒に過ごしたいよ。
私が里帰りする時に、
学院の寮に迎えに来てほしいよ…。
叶わないの…?
どうして私は
お母さんとの幸せな経験ができないの…?!
リオラ
「……私の魔力も足しにしてください。」
オルニス
『?!』
リオラ
「母から受け継いだ魔力をすべて出し切る。」
「母を…冷眼の魔女を…封印しましょう…!」
アシェラ
『リオラ…。』
オルニス
『…いいんですね?』
リオラ
「うん…憎しみの連鎖を止めよう。」
オルニスは
魔封じの秘術の詠唱を続けた。
私とアシェラさんは、
残った魔力のすべてを注ぎ込んだ。
魔封じの秘術が発動すると、
辺りがまばゆい光に包まれた。
冷眼の魔女の身体は
光に包まれて見えなくなっていった。
最後の瞬間、
涙でぐしゃぐしゃだった彼女が、
少しだけ微笑んだように見えた。
⇒【第11話(最終話):お母さんの笑顔】へ続く
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