2024年10月09日
【短編小説】『無表情の仮面』11 -最終話-
⇒【第10話:守りたい人がいる】からの続き
<登場人物>
◎リオラ
♀主人公、16歳
西の国の魔法学院・高等科に在籍
◎エルーシュ
♀リオラの母親、32歳
◎アシェラ
♀エルーシュの妹/リオラの叔母、22歳
◎クラヴィス
♀10歳、南の国の魔法学院・初等科に在籍
◎オルニス
♂クラヴィスの父親、32歳
南の国の国防軍・魔法部隊隊長
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【第11話:お母さんの笑顔】
<数日後、南の国:王都>
私とアシェラさんは、
冷眼の魔女を封印した祝勝会に招かれた。
国防軍・魔法部隊とともに
国を救った英雄の1人にされてしまった。
私は何もできなかった。
あれは私を守ってくれたアシェラさんと、
救援に来てくれたオルニスのおかげ。
ともあれ、クラヴィスが
父親を失わずに済んでよかった。
クラヴィス
『ねぇ、リオラちゃん。』
リオラ
「なぁに?」
クラヴィス
『…ありがとね、ママの仇を討ってくれて。』
リオラ
「…あれはパパとアシェラさんの力だよ。」
「クラヴィスのパパはやっぱり強いよ。」
クラヴィス
『リオラちゃんもパパの術に協力したんでしょ?』
『だったら一緒!』
リオラ
「うん…ありがと。」
「ねぇクラヴィス、変なこと聞いちゃうけど…。」
クラヴィス
『なぁに?』
リオラ
「やっぱり、冷眼の魔女が憎い?」
クラヴィス
『もちろん憎いよ、ママの仇だもん。』
リオラ
「だよね。なのに…。」
クラヴィス
『?』
リオラ
「どうしてクラヴィスはまっすぐな笑顔でいられるの?」
クラヴィス
『笑顔かぁ…私ってそんなに笑ってる?』
リオラ
「羨ましいくらいに。」
クラヴィス
『そっかぁ…うーん…。』
『誰かがいなくならないように、かな?』
リオラ
「いなくならないように?」
クラヴィス
『ママがいなくなって、私は魔女を憎んで…。』
『もし私が魔女を倒したら、誰かが私を憎んで…。』
『っていうのを止めたかったの。』
リオラ
「そっか…憎しみの連鎖を止めようと…。」
クラヴィス
『だから私、誰かを憎む以上に笑うことにしたの。』
『ママは命がけで守ってくれたんだもん。』
『笑ってる私の方がママ喜ぶと思う。』
ぎゅっ
クラヴィス
『わわ!リオラちゃん何…?!』
リオラ
「クラヴィスは優しいね…。」
「ママもきっと喜んでるよ…。」
クラヴィス
『…ママ、喜んでる…?』
『そうだと…いい…なぁ…(涙)』
ーー
<その夜、リオラとアシェラの宿泊先>
リオラ
「こんな立派な部屋を用意してもらっていいのかな…?」
アシェラ
『ね…すごいよね。』
『普段は王都の要人が泊まる部屋なんだって。』
リオラ
「わ、私は戦闘では力になれなくて…(汗)」
アシェラ
『まぁまぁ、結果オーライでいいんじゃない?』
『とりあえず平和になったんだし。』
リオラ
「そうだよね…それじゃ、アシェラさん。」
アシェラ
『なぁに?』
リオラ
「今から約束を果たすから。」
アシェラ
『約束?』
ぎゅっ
アシェラ
『…?!リオラ、急にどうし…。』
なでなで
アシェラ
『…ちょっ…恥ずかしいよ…///(照)』
リオラ
「山道で約束したでしょ?」
「私がお母さんに逢えたらなでなでするって。」
「ずっと支えてくれた感謝の印に!」
アシェラ
『あ…。』
リオラ
「アシェラさん、ありがと。」
「私が生まれてから、ずっと支えてくれて。」
アシェラ
『…(涙)』
リオラ
「あの時、弱音を聞かせてくれて嬉しかったよ?」
ポロ、ポロ、
リオラ
「辛かったよね、悲しかったよね…。」
「お姉ちゃんがあんなことをするようになって…。」
「せっかく再会できたのに、封印することになって…。」
アシェラ
『うぅ…お姉ちゃん…(涙)』
リオラ
「今だけは…私がアシェラさんの姉代わりで、親代わり。」
アシェラ
『…リオラ…あなたこそ…。』
『無表情の仮面、外せたじゃないの…。』
リオラ
「…それも含めてのお礼。」
ポロ、ポロ、
アシェラ
『…もう少し、このままでもいい…?』
リオラ
「…うん。思いっきり泣いて?」
アシェラさんは私にしがみついて泣いた。
ずっと張りつめていた”心の糸”が切れたように。
アシェラさんは6歳の時、
私がスケジュール管理されて育てられるのを見て、
こう決意してくれた。
『自分だけでもリオラちゃんの味方でいよう』
以来、彼女はずっと私の姉であり、
母であり続けてくれた。
私が実母の愛情を諦めて
無表情の仮面を着けてしまってからも、
私を見捨てずにいてくれた。
今度は、私が恩返しする番。
どうか今だけは、
アシェラさんの心の支えになれますように…。
ーー
<1年後、南の国:国境付近の山地>
リオラ
「…お母さん、久しぶり。」
私の目の前にあるのは、
1年前の魔封じの秘術で形成された巨大な宝石。
中に封印されているのは、
かつて”冷眼の魔女”と恐れられた
私の実母・エルーシュ。
彼女の顔は無表情ではなく、
涙でぐしゃぐしゃだった。
リオラ
「お墓参り?違うよ。」
「学院の長期休みに入ったから逢いに来たの。」
長年、未完成とされてきた魔封じの秘術は、
彼女の封印という功績をもって一旦完成。
世界各地の魔法学院の教科書が
書き換えられた。
ただ、魔封じの秘術は
今も世界中で改良のための研究が続いている。
お母さん…もとい、
冷眼の魔女のような恐怖が
いつ現れてもいいように。
リオラ
「来年、高等科を卒業するの。」
「アシェラさんと同じ、西の国の魔法研究機関に入るよ。」
私の魔法の研究テーマは2つ。
魔封じの秘術の解除魔法と、
お母さんが背負った憎しみの浄化魔法。
もしお母さんを解放できた時に、
また憎しみで暴走しないように。
リオラ
「アシェラさんも機関長も、南の国も協力してくれるよ。」
「オルニスは”暴走しないならいいですよ”って。」
「辛いはずなのに、器の大きい人だよね。」
「クラヴィスは来年、初等科を卒業するよ。」
「今は成績トップなんだって!すごいよね!」
「私とアシェラさんに基礎を教わってコツが掴めたんだってさ。」
「あの子の役に立てて嬉しいよ。」
私はこの1年間で、
色々な国の魔法研究機関へ実習へ行き、
すごい魔導士たちから指導を受けた。
そんな彼らでも、人間の力だけで
魔封じの秘術を破るのは難しいと言った。
可能性があるとすれば、
今は人間との交流が途絶えた魔界。
私は1年前の模擬戦闘で
暗黒魔導士に歯が立たなかった。
もし魔界へ足を踏み入れるなら、
あのレベルの魔導士と渡り合う実力が必要。
リオラ
「望むところ。」
「私、何年かかっても見つけてみせるよ。」
「お母さんを封印から助け出す魔法を。」
私は1年前に
”無表情の仮面”を外すことができた。
アシェラさんがずっとそばにいてくれたおかげ。
私を産むまでのお母さんには、
誰も寄り添ってくれなかったんだろう。
『泣いてもムダ、笑ってもムダ』
『誰も私を愛していない』
そうやって親からの愛情を諦めた時、
子どもは”無表情の仮面”を着けるんだろう。
リオラ
「憎しみの連鎖はここで断ち切るよ。」
「いつか、お母さんの笑顔が見たいから。」
魔封じの宝石に映った私の顔は、
涙と笑顔でくしゃくしゃだった。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
『訣別の雪辱戦(グラジマッチ)』全6話
『転生の決闘場(デュエルアリーナ)』全5話
⇒参考書籍
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